2011年12月 2日

郵政改革を考える民間金融機関の会
一般社団法人全国銀行協会
一般社団法人全国地方銀行協会
一般社団法人信託協会
社団法人第二地方銀行協会
社団法人全国信用金庫協会
社団法人全国信用組合中央協会
JAバンク・JFマリンバンク

郵政改革を考える民間金融機関の会 共同声明

 われわれは、国民経済の健全な発展を促すという観点から、これまで長年にわたり、かつ現行の郵政民営化法の下にあっても、郵政事業における金融事業の問題点を指摘し、改善を求めてきた。郵政改革の本来の目的は、国際的に類を見ない規模に肥大化した金融事業を段階的に縮小し、将来的な国民負担の発生懸念を減ずるとともに、民間市場への資金還流を通じて、国民経済の健全な発展を促すことに他ならない。

 しかしながら、現在、国会に上程されている郵政改革関連法案においては、郵政事業のユニバーサル・サービスのコストを賄うために、政府出資を常態化したまま、収益事業としての金融事業の規模・業務範囲を拡大するかたちとなっている。

 これらは、将来的な国民負担の縮減や民間市場への資金還流という改革の本来の方向性に逆行するに留まらず、民間金融機関との競争条件の公平性を逸することで、地域における円滑な金融仲介機能を阻害するなど、国民経済の健全な発展を妨げる強い懸念がある。そのため、郵政改革関連法案について具体的な審議が行われるに際しては、大幅な修正を検討すべきである。

 以上の認識の下、われわれ民間金融機関は、左記事項を総意として確認し、その実現に向け一致団結して取り組むことを決議するとともに、日本郵政グループの今後のビジネスモデルも踏まえ、郵政改革関連法案が長期的な国益に適うかどうか、国会における深度ある審議・検討が尽くされることを強く要望する。

 

 

一、政府が、日本郵政株式会社の総株主の議決権の1/3超を常時保有し、経営上の重要 事項に係る拒否権を保持し続けるなど、現在のみならず将来にわたって政府の強い関与が残る日本郵政グループは、官業と見做さざるを得ず、金融事業の規模を縮小の上、民業補完に徹すべきである。

一、暗黙の政府保証が付された官業郵政の肥大化による民間の市場秩序の攪乱を防止するため、ゆうちょ銀行の預入限度額の引き上げは行うべきではない。

一、ゆうちょ銀行の業務範囲を検討する場合には、これまでの郵政民営化法と同様、中立・公正な第三者機関による、十分かつ事前の意見を聴いた上で、内閣総理大臣及び総務大臣の認可制とすべきである。

一、預金者保護等の観点から、ゆうちょ銀行は他の事業から厳格に分離・独立させる等、郵政三事業(郵便・郵便貯金・簡易保険)間の適切なリスク遮断が担保される仕組みを構築すべきである。

郵政改革を考える民間金融機関の会 共同会見

【全国銀行協会 和田副会長・専務理事】

 郵政改革関連法案の臨時国会における審議が昨日から開始されたことを受け、全国銀行協会、全国地方銀行協会、信託協会、第二地方銀行協会、全国信用金庫協会、全国信用組合中央協会、JAバンク・JFマリンバンクの8団体による「郵政改革を考える民間金融機関の会」としての「共同声明」を取りまとめたので、ご報告する。

 「郵政改革を考える民間金融機関の会」としては、昨年の通常国会における郵政改革関連法案の審議開始に備え、昨年5月20日、本日と同様に「共同声明」を公表し、民間金融機関としての郵政改革に対する考え方をお伝えするとともに、国会における深度ある審議・検討が行われることを強く要望した。
 昨年の通常国会では、最終的には法案は廃案になったが、5月18日の衆議院への法案付託後、衆議院の総務委員会では5月28日の法案趣旨説明と同時に採決・可決され、その後、十分な審議が行われないまま5月31日には衆議院本会議で法案は可決されている。
 今臨時国会の会期末は12月9日となっているが、一昨日の11月30日には与野党国会対策委員で確認事項が取り交わされるなど審議に向けた具体的な検討も行われている。
 そもそも、郵政改革、とりわけ郵便貯金事業の改革は、国民経済の健全な発展のために、欠くべからざる条件の一つであると考えている。しかしながら、現在国会に上程されている郵政改革法関連案は、政府出資を恒常的に残したまま、金融事業の規模や業務範囲を拡大するものとなっており、真の意味での改革に逆行する懸念があると考えている。
 したがって、郵政改革について検討を進めるにあたっては、「国民経済の健全な発展のために資するか」、「長期的な国益にかなうのか」という観点から、深度をもった審議が尽くされることが不可欠である。
 このため、昨日、衆議院の郵政改革に関する特別委員会において法案の趣旨説明が行われたことを踏まえ、あらためて郵政改革に関する民間金融機関の総意についてお伝えするとともに、国会における深度ある審議・検討が尽くされることを8団体が一致団結して要望するものである。
 繰り返しになるが、郵政改革関連法案の審議を行うにあたっては、長期的な国益に適うかどうかという観点から、深度ある議論・検討が尽くされることを強く希望している。


(問)
 この声明のなかに、郵政改革法案に対する反対という言葉が入っていないのは、何故か?「是」か「非」か明確にしてほしい。大幅な修正をすれば賛成なのか、そもそもこの法案自体を廃案にしたいのか、廃案すべきだと思うのか、その点が非常に曖昧な部分があるので、そこを明確にしていただきたい。2点目は、形式的なことについての質問で恐縮だが、各団体の現場を知り尽くしたプロフェショナルな方々が会見に臨んでいると思うが、何故、各団体のトップでないのか、教えていただきたい。
(答)(全国銀行協会 和田副会長・専務理事)
 トップでないのかという質問については、ご承知のように急に国会での審議が始まったこともあり、日程的な問題で残念ながらトップが集まりきれなかったという事情がある。もちろん、各団体からの本日の出席者とトップとの認識は同じであり、経緯等も十分承知している。1点目の廃案なのか条件闘争なのかという点については、基本的には民営化法の線で行くものだと考えている。したがって、業務範囲の拡大や預入限度の引上げについては、当然のことながら、それが拡大したり引き上げられることはあり得ないという前提のもとで、今回の共同声明にうたい込んでいる。


(問)
 今のままでは、この法案は反対だということか。それとも、求められる要望点が修正されれば是とするのか、そこを明確にしていただきたい。
(答)(全国銀行協会 小山田企画委員長)
 基本的には、この法案は反対である。私どもとしては、政府関与が残るなかで、業務範囲の拡大、預入限度額の引上げが認められるような枠組みについては、反対をしたいということである。今後の議論のなかで、3党協議を踏まえて国会で審議いただきたいと思うが、私どもとしては民営化に向かうのか、規模を縮小して民の補完に徹するのか、そのどちらかしかないと考えている。したがって、政府出資の関与が残るとすれば、規模を縮小していただきたい、最低限、預入限度額の引上げを行うべきではないし、業務範囲を拡大するのであれば、中立・公正な第三者機関審議を踏まえた認可制にしていただきたい、ということである。


(問)
 ここに書いてあることがすべて実現すれば、法案として通ってもよい、「是」ということなのか。
(答)(全国銀行協会 小山田企画委員長)
 私どもが、国会で議論できる話ではない。気持ちとしては反対であるし抜本的に見直ししていただきたいと思うが、ぎりぎりのところで、こういう要望をまとめさせていただいたものである。


(問)
 TPPの関連で、先日政府が交渉参加意思を表明して、そのなかで米国は金融について、公正な競争条件をという姿勢を示しているが、この動きについて、銀行業界はどう見ているのか。
 もう1点が、政府がTPP参加交渉をしている一方でこういう郵政改革法案を出しているというのが、金融の面では矛盾しているのかなと思うが、この点についてどう考えているのか。
(答)(全国銀行協会 小山田企画委員長)
 今、TPPで金融の分野が具体的にどのような話になっているのか、私どもはつぶさに状況を把握している立場ではない。しかし、やはり官と民の役割分担をはっきりさせて、官の影響力が残るかたちでの業務範囲の拡大についてはかなり神経質になっているのではないか。したがって、それを受け止めていただいて、よく議論していただきたいと思う。また、TPPという大きなフレームの中で、金融分野もひとつのイシューであると思うので、全体感を踏まえて整合的な対応を図っていただければと思う。ただ、個別の議論を知る立場ではないので、それ以上のことは差し控えたい。


(問)
 政府出資が残るかたちでの拡大は駄目だということだが、最初にあげられている条件のうちの政府から郵政の親会社への政府出資が1/3から例えばゼロにするとかの修正が出てくれば、是ということになるのか。
 また、こういう修正すれば良いですよという書き方になっているのは、例えばこのまま凍結法案をやめて、もとの法案に戻るべきではないかという言い方もできると思うが、そう言わないのはどうしてか。
(答)(全国銀行協会 小山田企画委員長)
 後者に関しては、本来あるべき姿としては、私どもの原点は、競争条件を同一にし、政府の関与をなくして、同じフィールドの中で郵貯事業の資金を民間金融市場に統合することで、民間活力が発揮でき、国民経済の発展に資する方向に行くのが筋であると考えている。そういう意味では、やはり民営化法が原点であると思う。そのような議論が進むことを期待したいと思うが、今回の3党協議のなかでも改革法案をベースとしながら、「修正を含めて」、ということでそこに出発点が置かれており、そういうことであれば、官業としての立ち位置でしっかり検討を進めていただいたうえで、私どもの要望は是非聞き入れいただきたい。
 前者に関しては、具体的なスキーム内容がどうなのか、ご指摘のスキームは親会社が完全に民営化することだと思うが、確かに一つの民営化のスタイルであると思うが、それがどこまでフィージブルなのか、なかなかすぐには判断しかねるものである。リスク遮断の問題とか内包する問題もあるかと思うので、よく全体を見てみないとなんとも言えないかと思う。


(問)
 昨日の審議入りのタイミングを受け、今日の共同声明公表により改めて協会として強く打ち出していくということだと思うが、その姿勢をもう一度教えていただいてよいか。共同声明の中で特に打ち出したいところはどこか。
(答)(全国銀行協会 和田副会長・専務理事)
 ここに「記」として4点まとめてあるが、やはり我々としては競争条件という観点からすれば、官というかたちが残るのであれば、もうその時点で競争条件は公平ではないと思っており、そういうなかであれば限度額の問題や業務範囲については、むしろ縮小してもらう必要があるだろうということである。指摘のように完全民営化であればどうかという議論もあるが、今議論されているように1/3は政府の関与が残るということであれば、競争条件は同じではなく、縮小していただきたいというところが一番のポイントである。


(問)
 郵政改革法案とは直接は関係ないかもしれないが、ゆうちょ銀行がつい最近全銀協に加盟したことで、ややこしくならないか。
(答)(全国銀行協会 和田副会長・専務理事)
 10月27日にゆうちょ銀行が加盟したが、その理由は、例えば振り込め詐欺の問題はATMを使ったものであり、これは金融機関としては同じ土俵として、お客さまのため、預金者の保護という観点から共同できる話と判断したからである。そのような情報は、やはり全銀協の方が当局あるいは警察庁との関係が深いことから、その情報をぜひ共有させていただきたいと、またコンプライアンスの観点も同様であり、そういった理由から、ゆうちょ銀行としてはぜひ全銀協に入れていただけないかということであった。そのため、制度的な問題に関しては今までとは全くスタンスを変えるものではないが、制度に関わらない情報提供については提供できるように「特例会員」という資格で加盟を認めたわけである。勿論、官業として業務範囲が拡大していくということに対しては、私どもとしては民間金融機関の立場から反対している、とはっきり申しあげているところである。


(問)
 声明の中で、「将来的な国民負担の発生懸念」という文言があるが、国民にしてみると、こういう経済状況だと、暗黙に政府が最終的に守ってくれるのではないかということで、ゆうちょ銀行にお金を預けたいという気持ちになることは個人的にはあると思う。
 だが、その一方で、銀行界としては、民間の公正の競争が阻まれて、それが経済の活力が失われていくのではないかと懸念していると思うが、国民目線で見て、なぜ、今回の郵政改革法案が将来的な国民負担に転嫁されていくのか、というところを分かりやすく説明していただきたい。
(答)(全国銀行協会 和田副会長・専務理事)
 基本的には、例えば今のゆうちょ銀行の資金の運用を考えると、国債が主体という形になっているが、仮に運用の結果、損失が出てきたときに、官業というかたちのため、それは最終的には誰が負担するのか、ということになる。
 あるいは、郵便事業というものに、郵便貯金事業の収益を入れ、リスク遮断を行わないと、損失が発生したときに最終的に誰が負担するのか、この問題はやはり政府保証というかたちになっていれば、最終的には国民負担に繋がってしまうと考えている。
 これは金融事業が肥大化すればするだけ、リスクも大きくなるし、国民負担も大きくなると考えている。


(問)
 自見大臣が日本郵政グループの現状について今の形態だと弱体化しているとしきりに会見でもおっしゃっているが、現在の日本郵政グループについて、どのように分析しているかを教えて欲しい。
(答)(全国銀行協会 小山田企画委員長)
 持ち株会社の下に4つの会社をぶら下げているということで、そこにかなりの非効率性が発生していて、本来連携とか一体運営ができていれば、色々なサービスをトータルに提供できるのではないか、あるいはそこに効率化の余地があるのではないかという問題意識をおそらく持たれているのであろうと思うし、私どもとしても連携の余地、協働の余地はあろうかと思っている。一方で抱えている業務がそれぞれ郵便、保険、金融、ということであるので、そのリスクはお互い依存しあうというよりは、きちんと遮断しないといけないと思うので、業務としての1つ1つの健全性をどのように高めていくかという意味で大事だと思う。一方で、今回政府の一定の関与を残したうえで肥大化することは、逆に色々なリスクを溜め込むことにも繋がる。そのような観点からも、もう少し連携の余地があるにせよ、しっかり対応すべきこと、つまり、各社の適切なリスク遮断を図り独立性をしっかり担保しながらどのように連携していくのか、次の課題としてあろうかと思うが、そこを混同してしまうと様々なリスクも出てきてしまうのではと思っている。


(問)
 郵政グループの株式を将来的に上場した時に、その売却益を震災の復興資金に当てるという議論があるが、仮にゆうちょ銀行の株式売却益が復興財源になる可能性があることについては全銀協として何か見解はあるか。
(答)(全国銀行協会 小山田企画委員長)
 復興資金は必要であるし、増税負担を少しでも減らすために、売却益を当てていくということは当然ある話だと思う。本来的に言うと郵政民営化により当然売却ということが前提になっていたわけで、民営化を推し進めることによって、売却益を国のために活用するということが本来のあるべき姿であろうと思う。官の関与を残したままで株式を売却しても、株式の評価も一方で厳しいものになっていく部分もあろうかと思うので、筋としては元々の民営化路線の中での売却となろうかと思う。

以上