2013年1月 3日

一般社団法人全国銀行協会
会長 佐藤 康博

年頭所感

 平成25年の新年を迎えるに当たり、所感の一端を申し述べ、新年のご挨拶に代えさせていただきます。

 新年の内外経済について申しあげると、欧米経済の確かな回復には、なお時間がかかるものと思われ、中国は、景気対策により緩やかに持ち直すとの見方もありますが、過剰設備問題の解決に至っておらず、注意深く見ていく必要があると考えております。新興国経済についても、引き続き中長期的に大きな発展の可能性を有する重要なマーケットでありますが、欧米経済低迷の影響等から一時の勢いは完全に失われており、今後も注意が必要であると思われます。
 わが国経済も、海外経済の減速と長引く円高を背景とする輸出の低迷、エコカー補助金の終了などの政策効果の剥落から、景気後退局面に入っているとの見方も出ており、政・官・民が、成長戦略を着実に実行し、中長期的に成長力を底上げすることに引き続き注力していくことが必要と考えております。
 こうしたグローバルレベルでの経済・金融市場の構造変化の中で、わが国銀行界は、国内での伝統的な資金仲介機能の発揮にとどまらず、日本企業の海外進出やアジア経済の成長に積極的に関与していくことが、強く求められています。

 私は、昨年4月に全銀協会長に就任した際、こうした認識のもと、今年度を「大震災からの復旧・復興を確かなものとし、新しい日本の礎を築く1年」にするため、(1)「金融界内の『ヨコの連携』の一層の強化による、震災復興への貢献と、日本経済の力強い復活に向けたフレームワーク創り」、(2)「金融当局との『タテの連携』の一層の推進による、より健全な金融制度の枠組みを目指した取り組み」、(3)「より安心・安全で親しみやすい銀行を目指した取り組み」を3本柱として、次のステージに向けた基礎固めを行うと申しあげました。今年も引き続き、この3本柱を中心に据えて、活動を進めて参りたいと考えております。

 まず、第1の柱の「金融界内の『ヨコの連携』の一層の強化による、震災復興への貢献と、日本経済の力強い復活に向けたフレームワーク創り」について申しあげれば、新年も引き続き「震災復興への貢献」を最優先課題として、特に二重ローン問題の解決に向け、個人版私的整理ガイドラインや産業復興機構、東日本大震災事業者再生支援機構の活用促進に取り組んで参ります。
 3月には震災から丸2年を迎えますが、震災復興を「今そこにある課題」として捉え、被災地の実態を十分に踏まえたうえで、関係当局ともご相談しながら、引き続き真摯に取り組んで参りたいと存じます。
 また、中小企業金融円滑化法も3月末に期限を迎えます。円滑化法の終了を不安視する声も一部に聞かれますが、中小企業の金融円滑化は金融機関が恒常的に果たすべき最も重要な社会的役割であり、コンサルティング機能をしっかりと発揮することで、お客さまの真の経営改善が図られるよう、引き続き真摯に丁寧に対応させていただきたいと考えております。

 次に第2の柱の「金融当局との『タテの連携』の一層の推進による、より健全な金融制度の枠組みを目指した取り組み」については、昨年は、バーゼルIIIやG-SIFIsなどの国際金融規制の枠組みが具体化したほか、FATCA、ボルカー・ルール等の諸外国固有の規制についても動きがありました。
 新年においても、グローバルな金融規制を巡る議論は引き続き活発に行われると思われますが、実態経済への負の影響や規制導入コスト、リテール顧客や中小企業への影響に加え、レベル・プレイング・フィールドの確保や各金融機関のビジネスモデルも十分に考慮しながら、官民の議論に積極的に参画して参りたいと考えております。
 国内でも、世界的な金融危機の教訓や金融監督規制をめぐる国際的潮流を踏まえ、外国銀行支店に対する規制や大口信用供与等規制の在り方が検討されているほか、議決権保有制限(5%ルール)の見直し等のわが国金融業のさらなる機能強化の方策についても議論が進展しています。
 こうした規制・制度が、わが国の金融資本市場にとって健全な発展に資するものとなるよう、引き続き関係当局との「タテの連携」を強化し、銀行界として、しっかりと意見発信をして参りたいと思います。

 最後に第3の柱の「より安心・安全で親しみやすい銀行を目指した取り組み」について申しあげます。
 お客さまの安心・安全な利用環境をさらに拡充するため、「振り込め詐欺撲滅強化推進期間」を設け、振り込め詐欺防止イベントの開催など、警察当局とも連携して金融犯罪等の被害抑制を図るよう、さまざまな対応を行っております。
 しかし、近時は、インターネットバンキングの偽画面を利用して不正送金を行う新手の金融犯罪も発生しており、銀行界として、システムのセキュリティ対策向上に不断の取り組みを行うとともに、関係当局とも連携し、適時適切に対応して参りたいと存じます。
 わが国経済は、長年のデフレ経済の継続によって、また、円高やエネルギー政策の要因によるさらなる空洞化の進展によって、国内の成長基盤の再構築と雇用の確保はますます難しくなっており、我々金融界が国内産業の育成と雇用の確保に向け、金融システムの安定的運営を維持しながら、円滑な資金供給を図るとともにコンサルティング機能を発揮していく努力が従来にも増して求められていると考えております。

 こうした考えのもと、全銀協といたしましても、これまで申し述べました諸課題を一つひとつ着実に前進させることで、新しい日本の礎を築いていくためにその役割を果たして参りたいと考えております。

 最後になりますが、本年が皆さまにとって、大きな飛躍の年となることを祈念しております。