平成28年4月 1日

一般社団法人全国銀行協会
会長 國部 毅

会長就任挨拶

 三井住友銀行の國部でございます。このたびの理事会で佐藤前会長の後を受け、二度目ですが、全国銀行協会の会長を務めることとなりました。これから1年間、皆さまのご協力、ご支援を得て大役に取り組んでいきたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
 就任に当たっての抱負を申しあげる前に、この場を借りて佐藤前会長に一言お礼を申しあげたい。振り返ってみると、昨年度は海外発の多様なリスクファクターにより、世界経済、金融市場のボラティリティーが高まり、経営環境が大きく変化し続けた1年だった。このような難しい状況下、佐藤前会長は国際金融規制や公的金融に対するタイムリーな意見発信や、全銀システムの稼働時間の拡大に向けた検討、震災復興における二重債務問題の取組み、振り込め詐欺等金融犯罪への対応等、多岐にわたる課題に対し、見事なリーダーシップを発揮され、銀行界を牽引していただいた。そのご尽力に心から敬意と感謝の気持ちをあらわしたい。本当にありがとうございました。

 改めて銀行界を取り巻く環境を俯瞰すると、世界経済では先進国を中心に緩やかな成長が続く一方、中国をはじめとする新興国、資源国の景気減速など、下振れリスクを抱えている。また、混迷を深める中東情勢や北朝鮮問題、資源価格の低迷持続など、グローバルな金融市場においてリスクオフを促す要因も引き続き残っている。
 国内では、足元においても経済の好循環の流れは基本的に崩れておらず、緩やかな回復が続く一方、海外経済の減速の影響を受けて、先行きが不透明な状況が続いている。本年1月にはデフレマインドの転換が遅延してきているとし、日本銀行が初めてマイナス金利政策の導入を打ち出し、デフレ脱却に向けた強い決意が示された。このようななか、安倍政権は、アベノミクスの第2ステージとして、「新・三本の矢」を通じた「一億総活躍社会」の実現を目指している。今後、「ニッポン一億総活躍プラン」にて具体的な政策メニューが示されると思うが、政府には、経済の持続的成長を果たすべく、岩盤規制と言われる分野の抜本的な見直し、TPPをはじめとする成長戦略、財政健全化への取組みの一層の推進が期待される。
 以上申しあげた環境認識を踏まえ、私は、本年度を「わが国のデフレ脱却と経済再生の実現を支える1年」にしたいと考えている。本年度は、わが国が長年のデフレからの脱却、持続的な経済成長軌道への回帰を達成できるかの正念場である。世界経済、金融市場における不確実性、不安定性が高まっており、国の政策、企業経営の舵取りが極めて難しい環境ではあるが、経済の好循環を力強く回し、経済再生を実現していくことが重要である。こうしたなか、私ども銀行が果たすべき役割は、環境の変化を敏感にキャッチし、金融仲介機能の発揮等を通じて、お客さまの成長、イノベーションのための取組みをしっかりと支えることにより、わが国のデフレ脱却、経済再生の実現を支えていくことだと考えている。まさに金融の真価が問われる1年となるが、わが国のデフレ脱却と経済再生を銀行界としてもしっかりと支えていきたい。具体的には、次の三つを本年度の活動の柱として取り組んでいく。
 第1の柱は、「経済の好循環に貢献する質の高い金融仲介機能の発揮」である。わが国経済は、デフレ脱却まであと一歩というところまで来ており、この流れを加速させていくため、民間による投資等により経済の好循環を力強く回し、持続的な経済成長へとつなげていくことが重要である。そのためにも、質の高い金融仲介機能を発揮していくことが、私ども金融機関の重要な責務であり、引き続きしっかりと取り組んでいく。
 まずは個別行の動きが中心となるが、政府の成長戦略、具体的には、農業・環境・医療など、成長分野とされる産業へのファイナンス、コンサルティング機能の強化や、PFIやPPPの活用促進への取組みを通じて、地方創生にもしっかりと貢献していく。また、貯蓄から投資の流れを加速し、経済の成長につながる資金供給の拡大を実現するため、全銀協としてNISAやジュニアNISAの利用促進、制度拡充のための働きかけを行っていく。
 次に、震災復興にも引き続きしっかりと取り組んでいく。日本経済の再生には震災復興が不可欠であり、政府と緊密に連携していく。また、二重債務問題については、東日本大震災の被災者の方々の復旧・復興を引き続きしっかりと支援するとともに、この4月から大雨・洪水等の自然災害の被災者にも対応すべく、新たなガイドラインの運用を開始しており、周知徹底、円滑な運営に努めていく。
 第2の柱は、「安心・安全でIT技術の革新にも対応した金融基盤の高度化」である。銀行は、金融仲介機能、決済機能を担うものとして、お客さまからの信頼感を高め、安心・安全を十分に確保していくことが不可欠であり、これが金融取引を行う上での大前提である。加えてIT等の技術革新により、金融界にも大きな変革の波が押し寄せてきており、今後の金融業のあり方、市場の姿を変えていく可能性も高まっている。こうした動きを敏感に察知し、お客さまの利便性の向上、わが国金融業の発展につなげていくことがますます重要になる。そのために取り組むべき課題は多岐にわたる。昨年末に金融審議会で報告書が取りまとめられ、XML電文への移行や国際送金におけるロー・バリュー送金など、わが国決済業務の高度化に向けた多くのメニューが提示された。関係者と協議し、お客さまのニーズに合致したよりよいものとなるよう十分に検討したい。
 全銀システムの24時間365日稼働については、お客さまへの利便性の高い決済サービスの提供を目的とするものであり、当初予定どおり、2018年の実現を目標にシステム開発等、対応をしっかり進めていく。また、金融グループによるIT関連企業等への出資規制の緩和やグループ内の共通・重複業務の集約化等に関する銀行法改正案が国会に提出された。この改正は、銀行界にとってフィンテックへの取組み推進や銀行グループ内の生産性向上の点で、極めて意義の大きいものである。お客さまによりよいサービスが提供できるよう、当局とも引き続き議論を行っていく。
 安心・安全の確保については、引き続き金融犯罪対策への取組みが重要であり、振り込め詐欺等の被害撲滅に注力するほか、インターネット・バンキング等の不正送金の防止に努める。また、サイバー攻撃の脅威に対抗するため、引き続き関係当局等と連携し、サイバーセキュリティ強化に取り組むほか、反社会的勢力との関係遮断についてもしっかりと進めていく。また、お客さまに金融取引、銀行取引を安心して行ってもらえるよう、金融経済教育への取組みを継続して行うとともに、高齢者への対応を含め、利用者保護等の取組みも強化していきたい。
 第3の柱は、「景気に左右されない健全な金融システムの構築」である。日本経済の発展に向けて、私ども金融機関が金融仲介機能を十分に発揮し、企業や個人のお客さまの前向きな取組みを支えていくためには、金融システムが健全であることが求められる。わが国の金融システムは、リーマン・ショック以降も高い健全性を維持してきた。足元で経済・金融市場が再び不確実性、不透明性を増すなか、いかなる環境下でも金融仲介機能を損なうことのないよう、引き続き健全な金融システムの構築に取り組んでいく。
 まず、国際的な金融規制改革への対応について申しあげると、バーゼルIII、G-SIFIs等の国際金融規制強化の検討が進められている。これらは金融システムの安定や銀行の健全性向上に寄与する一方、行き過ぎた規制強化は金融機関のコストの増加や業務の見直し等を通じ、金融仲介機能の制約ともなり得る懸念がある。私どもの目指すべきゴールである金融システムの安定と持続可能な経済成長の両立に向けて、引き続き当局や海外金融機関等ともしっかり連携しながら、適切な意見発信等を行っていく。
 健全な金融システムという観点では、民間金融機関と公的金融機関とのレベル・プレイング・フィールドの確保が重要であり、引き続きゆうちょ銀行を含めた公的金融セクターのあり方等について、必要な意見発信を行っていく所存である。
 以上、日本経済が持続的な成長への第一歩を力強く踏み出すよう金融面からしっかり支えていくことが、私ども銀行界の使命と考えている。今年は、わが国全体として「実行力」が問われる年であり、全銀協としても以上申しあげた活動方針に沿って、全力で取り組む所存である。皆さま方のご協力、ご支援を重ねてお願いしたい。