2017年1月 3日

一般社団法人全国銀行協会
会長 國部 毅

年頭所感

 平成29年の新春を迎えるにあたり、所感の一端を申し述べ、新年のご挨拶に代えさせていただきます。

 新年の内外経済を展望しますと、海外では、米国における景気持直しの動きが続くなか、先進国を中心とした緩やかな回復が持続すると見ております。また、わが国においても、雇用・所得環境が改善を続けるもとで、緩やかな回復基調を辿ると見ています。もっとも、Brexitや米国大統領選挙に見られた政治リスクの高まり、欧州金融機関の不良債権問題、中国経済の急減速など、海外を中心とした様々な下振れリスク要因には、今後も注意していく必要があります。
 こうしたなか、わが国銀行界には、デフレからの脱却に向けた動きや、潜在成長力の強化を通じた日本経済の再生と持続的な成長を実現するための取組みを、金融面からしっかりと支えていくことが期待されています。
 私は、昨年4月に全銀協会長に就任して以降、2016年度を「わが国のデフレ脱却と経済再生の実現を支える1年」と位置付け、三つの柱を掲げて活動を進めて参りました。以下では、その具体的な取組みについて、申し述べさせていただきます。

 まず、活動の第一の柱である「質の高い金融仲介機能の発揮」につきましては、会員各行において、事業性評価にもとづく融資に取り組むほか、コンサルティング機能を発揮し、事業承継や事業再生など、お客さまの経営課題を解決するソリューションの提供等を通じて、潜在的な資金需要の発掘に努めております。また、国民の安定的な資産形成をサポートすべく、銀行界として、NISAやジュニアNISAの普及に努めているほか、金融審議会におけるフィデューシャリー・デューティーの議論を踏まえて、お客さま本位の業務運営の確立とその定着に向けた取組みを進めております。また、自然災害の発生により既存のローンの返済が困難となったお客さまに対し、昨年4月から、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の運用を開始しており、熊本地震等への適用について会員行に周知しております。
 引き続き、質の高い金融仲介機能の発揮を通じて、政府の成長戦略の実現に向けて、銀行界として積極的に貢献して参りたいと考えています。

 次に、第二の柱である「安心・安全で、IT技術の革新にも対応した金融基盤の高度化」につきましては、決済高度化に向けた検討に取り組んでおります。
 決済高度化に関しましては、わが国決済インフラの抜本的機能強化を図る取組みとして、XML電文への移行の検討を進めました。「XML電文への移行に関する検討会」には、金融界、産業界のほか、金融庁や経済産業省、日本銀行にも参加いただき、新システム構築の方向性やスケジュール感等を検討して参りました。今後も関係者の様々な意向を踏まえつつ、具体化に向けた取組みを進めて参ります。
 また、FinTechの取込みを通じた革新的な金融サービスの提供や、業務効率の飛躍的な改善にも積極的に取り組んでおります。昨年は、全銀協に「オープンAPIのあり方に関する検討会」と「ブロックチェーン検討会」を設置し、新たな技術の活用に向けた検討を進めて参りました。
 活動の第三の柱である「景気に左右されない、健全な金融システムの構築」については、引き続き、国際的な金融規制の見直しへの対応に注力しております。特に、バーゼル銀行監督委員会において検討されているリスク計測手法の見直しは、邦銀のビジネスモデルに大きな影響を及ぼす可能性があるため、これまでも、各種市中協議文書への意見募集や官民会合等の様々な機会を捉え、全銀協単独での意見発信に加え、海外銀行協会と共同での意見発信等を積極的に行って参りました。
 金融システムの安定と持続的な経済成長のバランスの確保に向け、引き続き、本邦当局とも緊密に連携しつつ、わが国の金融構造やビジネス慣行を踏まえた主張を行っていくとともに、国際合意成立後の国内規制導入を見据えた対応についても、着実に進めて参ります。また、金利指標の透明性・公正性の向上のために、昨年11月にTIBOR改革に関する市中協議を行っており、引き続き改革の実施に向けた取組みを進めて参ります。

 わが国は今、デフレ脱却・経済再生に向けて、まさに正念場を迎えています。銀行界には、今後も適切な金融仲介機能の発揮を通じて、わが国の成長基盤をしっかりと支えていくことはもとより、環境変化を的確に捉えて、自らも成長産業の一つとしてわが国経済の成長の一翼を担うことが期待されています。こうした観点から、5年後、10年後を見据えた盤石な土台作りを進めて参りたいと思っております。
 結びに、本年が皆さまにとって、大きな飛躍の年となることを祈念いたします。