平成29年3月31日

一般社団法人全国銀行協会
会長 小山田 隆

会長就任挨拶

 このたびの理事会において、國部前会長からバトンを受け、全国銀行協会の会長を務めさせていただくことになった小山田です。これから1年、皆さま方のご支援を賜りながらしっかり取り組んでいきたいと思うので、どうぞよろしくお願いする。
 就任に当たり抱負を申しあげる前に、この場を借りてまず一言、國部前会長にお礼を申しあげたい。振り返ると、昨年度は世界において既存の体制、枠組みを大きく変える動きが相次いで起こった。このような激動の1年において、國部前会長は、銀行界の多岐にわたる課題への対応、例えば、決済高度化に向けた検討、震災復興に向けた継続的な取組みなど、日本経済が持続的な成長に向けて力強く踏み出すため、見事にリーダーシップを発揮された。まさに昨年度は、当初掲げられたわが国のデフレ脱却と経済再生の実現を支える1年として銀行界を牽引いただいたと思う。そのご尽力に対して心から敬意と感謝の気持ちをあらわしたいと思う。
 さて、改めて、わが国の銀行界を取り巻く環境を、内外の経済、政治、金融システムの視点から見てみると、世界経済は緩やかなペースで成長を続けている一方、更なる成長の重しとなってきた新興国経済の減速、あるいは世界的な貿易停滞からの脱却は途上の状況にある。Brexitや米国トランプ政権の動向ならびに今後大統領選挙などが続く欧州の政治情勢、経済政策や景気減速の傾向が続く中国の状況によっては、グローバルなベースで大きなマネーフローの変化が生じる可能性がある。
 国内では、実質GDP成長率が4四半期連続のプラス成長を実現するなど、日本経済は緩やかな成長の軌道をたどっている一方で、財政に目を転じると、プライマリー・バランスは赤字が続いており、政府には今後、歳出改革等、財政健全化に向けた取組みが期待されるとともに、新たな政策や規制緩和を含めた成長戦略の確実な実行が望まれるという状況があろうかと思う。
 銀行界としては、そうした国の成長戦略への貢献や、さまざまな構造変化への対応などにより、経済の成長を支える役割を一層発揮していかなければならないと考えている。
 足元、内外において不確実性、不透明な要因があるが、我々日本の銀行界は、グローバルな金融危機後も、国際的に見れば、健全性を相対的に維持してきた。このような強さ、適応力は我々の強みと言えるが、この強みを活かし、実体経済を支えるべく、経済のまさに血流としての役割を積極的に果たしていかなければならないと考えている。
 以上申しあげた環境認識を踏まえ、私は本年を、「さまざまな環境変化への対応を着実に実行し、日本の持続的成長の実現に貢献する一年」と位置付け、活動していきたいと考えている。具体的には、これからお話しする三つの柱を掲げ、最大限の貢献を果たしていく。
 第一の柱は、「日本の経済成長戦略への一層の貢献」である。わが国経済はデフレ脱却に向け着実に前進しているが、この流れをより確実なものとし、経済の好循環の発現とその持続的な成長につなげていくことが重要である。そのためには、まず、安定的な資産形成の実現にしっかりと取り組む。すなわち、「貯蓄から資産形成へ」の流れを加速するため、経済成長につながる資金供給拡大に資する取組みを行っていく。例えば、平成30年1月に制度がスタートする積立NISAや既存のNISA等の利用促進に向けた取組みおよび確定拠出年金(iDeCo)の普及に向けた対応等、国民の長期的かつ安定的な資産形成を後押しする取組みを積極的に推進していく。
 また、このような家計の長期安定的な資産形成と経済の持続的成長に資する資金の流れの実現のため、各金融機関は顧客本位の業務運営の確立と定着に努めることが、これまで以上に求められている。銀行界としても、会員各行の取組みが中心となるが、いわゆるフィデューシャリー・デューティー向上のための取組みを急ぐ。加えて、金融仲介機能の向上を通じたお客さまの成長への貢献を果たしていく。質の高い金融仲介機能の発揮は、金融機関の重要な責務である。会員各行が切磋琢磨し、担保・保証に過度に依存することなく、お客さまの事業力、成長性などに着目した融資を推進し、資金供給をしっかり行っていくことが引き続き肝要である。
 私ども金融界は、目利き力の養成・強化を図りつつ、技術力や将来性など、事業性評価にもとづく融資を推進するとともに、外部の支援機関などと適切に連携しながら、お客さまのパートナーとしての価値を共有し、課題解決に向けたコンサルティング機能を更に発揮できるよう、その取組みを推進していく。そして、こうした取組みは、地方創生、地域経済活性化にも資するものと考えている。
 また、企業統治改革に関しては、すでに、私ども金融機関はコーポレートガバナンスの強化に取り組んでいるが、更なる向上を目指してスチュワードシップ・コードの議論等も踏まえながら、ガバナンス態勢・運営を継続的に見直していく。
 また、震災や自然災害からの復興にも引き続き取り組んでいく。日本経済の持続的成長には、震災復興は不可欠であり、東日本大震災の被災者の方々の復旧・復興を引き続き支援するとともに、熊本地震その他の自然災害の被災者の方々の支援にも取り組んでいく。本日、「自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関」を設立したが、引き続きガイドラインの適切な運営を図っていく。
 続いて、第二の柱は、「IT技術の革新も踏まえた、利便性が高く、安心・安全な金融インフラの整備・構築」である。銀行の金融インフラはお客さまの経済活動を支える重要な役割があり、これまでも高い安全性を持ってその機能を担ってきた。最近では、金融とITを融合したFinTechの登場等、IT技術が急速に進展するなか、銀行業、市場を取り巻く環境も大きく変化が続いている。特にこの1年は、お客さまの利便性の向上に向けた制度面での手当てが金融審議会等において議論され、我々金融機関も参画をしてきた。今年度はそうした利便性向上、お客さま目線の業務運営の実現に向けた具体的な取組みを更に進める1年になる。
 例えば、決済高度化に向けた取組みでは、30年度中のXML電文移行のための新システムの開発、またその普及のための関係省庁、産業界の協力を含めたオールジャパンでの取組みを促進するとともに、オープンAPIへの対応、あるいはブロックチェーンを含めた先進的な技術の活用検討など、金融のイノベーションに資する取組みを一つひとつ、着実に実行していく。
 次に、「全銀システム」や「でんさいネット」等の金融インフラの高度化に向けた取組みを進めていく。まず、全銀システムの24時間・365日稼働について、平成30年後半のサービス提供開始に向けた準備を進める。また、でんさいネットの活用促進に向け、記録機関間の接続等、利用者利便等の向上に向けた検討も継続していく。
 同時に、金融インフラの安心・安全確保のため、振り込め詐欺などの被害撲滅、反社会的勢力との関係遮断等、金融犯罪対策への取組みにも引き続き注力していく。そして、長期安定的な資産形成の実現のため、金融経済教育の推進等を通じた金融リテラシーの向上支援、あるいは高齢化への対応を含め、利用者保護の取組みも継続していく。更には、マイナンバーの預金口座への付番対応準備、休眠預金活用に係る周知など、社会インフラとしての機能発揮のための諸課題への対応もしっかりと行っていく。
 最後に、第三の柱が「公正・健全な金融システムの維持・進化」である。金融機関が金融仲介機能を十分に発揮し、お客さまの活動を支えるためには、金融システムの安定が必要不可欠である。わが国の金融システムはこれまでも高い安定性を維持してきたが、更なる進化に向けて適切に対応していく。
 まず、国際金融規制への対応である。最終化段階を迎えたバーゼルIIIの見直しに関しては、国際政治情勢の影響等もあり、今後のスケジュールに不確実性が増す状況にあるが、公正・透明な競争環境と成長実現のため、関係当局と適切に連携し、意見発信を継続していく。
 次に、TIBORについて、一層透明性の高い指標実現のための改革をしっかりと実現し、内外の信認に応える金融システムの枠組み構築を図っていく。
 最後に、先ほど私は、本年を「さまざまな環境変化への対応を着実に実行し、日本の持続的成長の実現に貢献する1年」と申しあげた。銀行はまさに経済の血流を支えることがその役割である。個人、企業にかかわらず、お客さまのライフステージ、成長ステージに常に寄り添い、真摯に向き合い、支える役割を担っている。将来への飛躍、成長が試されるこの重要な局面で、銀行界は日本経済、世界経済への貢献を強く意識し、その成長に向けて最大限の責務を果たしていかなければならない。資金面の仲介に加えて、経済成長の根幹を支える日本の事業力、技術力について世代を超えて、つなぎ、更には拡大を支える役割を果たさねばならないと考えている。不透明で、目まぐるしく状況が変化する時代だからこそ、銀行界は次の成長を育むチャンスと捉え、自らの使命をしっかりと心に刻み、変化の先頭に立って愚直に進んでいくことが必要だと考えている。
 今般、私は全銀協会長という責を引き受けることとなったが、わが国の持続的成長を実現する1年を目指して、関係各位の声に耳を傾け、ご支援とご協力を仰ぎつつ、意思を持って取り組んでいきたいと考えている。この1年どうぞよろしくお願いする。