2018年3月30日

郵政民営化を考える民間金融機関の会

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一般社団法人全国信用組合中央協会
JAバンク・JFマリンバンク

郵政民営化を考える民間金融機関の会 共同声明

 現在、郵政民営化委員会において、郵政民営化法で3年毎に実施することが定められた「郵政民営化の進捗状況についての総合的な検証」に関する意見の取りまとめに向けた審議が行われている。そのなかで、平成27年12月の「今後の郵政民営化の推進の在り方に関する郵政民営化委員会の所見」で示されていたゆうちょ銀行の預入限度額規制についても議論されているが、間もなく予定される郵政民営化委員会の意見の取りまとめを控え、限度額規制に関する民間金融機関の考え方について、改めて以下のとおり、申し述べる。

 これまでゆうちょ銀行と民間金融機関は、ATMの相互利用やゆうちょ銀行による全銀システムへの接続、特例会員としての全銀協加盟、更にはゆうちょ銀行による民間金融商品の販売や投信運用会社の共同設立、地域活性化ファンドへの共同出資等、様々な連携・協働を進めてきた。これらは、まさにゆうちょ銀行の利便性を高め、ゆうちょ銀行と民間金融機関の相互信頼のもと、共存共栄の実現を通して、地域経済の活性化や国民の安定的な資産形成の促進に貢献しようという取組みである。換言すると、全国約24,000の郵便局ネットワークも活用しつつ、民営化を通じてゆうちょ銀行を民間金融システムに融和させていくという大きな構想の下に進められてきたものである。

 また、ゆうちょ銀行の預入限度額は平成28年4月に1,300万円へ引上げられたものの、これを上限として、従来からの限度額規制の枠組み自体は維持され、これを完全民営化への道筋が依然として示されていないゆうちょ銀行と民間金融機関の間の公平性を確保する前提として、上記のような様々な取組みが進んでいる。更には、法人向け貸付け等の認可申請が取り下げられたこともあり、両者の連携が継続的に進展しているところである。このようななか、完全民営化への道筋の提示やその確実な実行の担保がないまま、両者の公平性が軽視され、限度額規制の更なる緩和によってこうした現在のフレームワークが維持できないようなことになれば、これまで着実に醸成されてきた民間金融機関との相互信頼関係が損なわれ、連携・協働の動きを止めることになる。これは地域経済の活性化や国民の安定的な資産形成の促進に大きな影響を与える。

 また、限度額規制の緩和は、既に厳しい経営環境にある地域金融機関への潜在的な影響、すなわち金融機関の収益環境が悪化し経営が不安定となった場合、地域金融機関からゆうちょ銀行に預金がシフトするという意図せざる結果を招きかねない。仮にそうした事態となれば、民間金融機関は経営を維持できず、両者の協業の枠組みが崩れるのはもちろんのこと、地域経済に与える影響は無視できないものとなる。また、通常貯金を限度額規制の対象外とすることについては、現在の金利環境の下では郵便貯金全体の限度額を撤廃することに等しいほか、通常貯金は法人も利用可能であることから資金シフトを増大させる可能性があり、断じて認められない。

 郵政民営化委員会のモニタリングでは、ゆうちょ銀行の預入限度額が1,300万円に引上げられて以降、ゆうちょ銀行への資金シフトは生じていないとされているが、超低金利環境かつ金融システムに著変がない点を踏まえれば、この間の推移のみをもって今後も他の金融機関との競争環境に影響がないと判断すべきではない。ゆうちょ銀行は完全民営化に向けた道筋が依然示されておらず、民間金融機関との間で公正な競争条件が確保されるに至っていないなか、上記の地域金融機関への潜在的影響を十分に考慮すべきである。

 更に、既に家計の保有する預貯金のうち2割のシェアを有するゆうちょ銀行は、外貨資産での運用を進め、また、貯蓄から資産形成への流れに沿った国民の安定的な資産形成に資する投信販売等を推進してきた。しかし、仮に限度額規制を緩和し貯金残高の更なる増加に繋がった場合、現在のマイナス金利環境では収益圧迫要因となる。これを回避するために、外貨資産での運用を拡大させるとなるとリスク管理上の懸念も生じる。更には、今後の金利上昇局面において、国債・外貨資産を問わず金利リスクが増加し、ひいては将来的な国民負担の発生に繋がりかねない。

 ゆうちょ銀行の更なる利便性向上に向けては、ゆうちょ銀行自身の自助努力に加え、既に述べた取組みの一層の拡充や民間金融機関の代理業を行うなどの連携・協働の機会が考えられる。しかしながら、ゆうちょ銀行の完全民営化に向けた具体的な道筋が依然示されておらず、民間金融機関との公正な競争条件が確保されていないなかで限度額規制の緩和となれば、このような連携・協業の動きを止めかねないことを改めて強調しておきたい。以上のように弊害の大きい限度額規制の緩和の議論が進められることは極めて遺憾であり、強く反対する。今後とも郵政民営化が、私どもがかねてより主張してきたその本来の目的や理念、すなわち、国際的に類を見ない規模に肥大化した郵貯事業を段階的に縮小し、将来的な国民負担の発生懸念を減ずるとともに、民間市場への資金還流を通じて、国民経済の健全な発展を促すことにつながるよう、総合的検証が進められることを切に希望する。