2019年1月 4日

一般社団法人全国銀行協会
会長 藤原 弘治

年頭所感

 2019年を迎えるに当たり、所感の一端を申し述べ、新年のご挨拶に代えさせていただきます。

 昨年の経済を総括すると、「適温経済から変温経済への転換の節目」であったという印象です。世界経済は米国を牽引役として総じて堅調な拡大が続くなか、日本経済も緩やかな回復基調を続けてきました。一方で、米中貿易摩擦、Brexit、欧米各国におけるポピュリズムの台頭など、「グローバリズムの巻き戻し」ともいえる動きが懸念材料として顕在化しています。これは単なる通商問題ではなく、格差や貧困、環境問題、更には将来にわたるデジタルテクノロジーの覇権を巡る争いとも捉えられます。また、わが国においても、少子高齢化や人口減少といった構造的な問題や、デジタル化に伴う社会の非可逆的な変化等、社会的課題が顕在化しています。

 このような環境下、金融に求められる役割はますます拡大・多様化しています。全銀協では、2018年度を「時代の転換期にあたり、社会的課題の解決に貢献する1年」と位置付け、お客さま、お取引先の課題解決を発想の原点に置き、全銀協としての活動に取り組んできました。昨年4月の会長就任から9ヶ月が経ちますが、金融を取り巻くこの流れは変わっていません。銀行も、今や創意工夫と自由な発想で、次世代の社会をデザインする機能が求められています。

 2019年は、銀行界にとって「デジタルイノベーションを本格化する1年」になるでしょう。この波は、銀行経営者にビジネスモデルの変革を問うだけでなく、メンタルモデルの改革、すなわち意識改革を求めるものです。未来の金融はこれまでの延長線上にはありません。3つの側面から、非連続的な発想で、世の中がどう変わり、お客さまのニーズがどう変わるかを、あるべき姿からバックキャスティングで考える必要があります。
 機能面で言えば、「情報仲介機能」が挙げられます。伝統的な金融仲介機能に加え、非伝統的な情報仲介機能の提供が求められています。銀行が、21世紀の石油といわれるデータを活用し、お客さまや社会の課題を如何に解決できるかが問われています。
 戦略面で言えば、「戦略的協働」がひとつのキーワードになると思います。従来、銀行は自己完結的発想にもとづく戦略が多かったという側面は否定できません。しかし、変化の激しいこの時代に新たな価値を生み出すにはパートナーが必要であり、内なるものと外からのもの、その両方を取り入れる必要があります。
 人材面で言えば、「多様な人材の活用と挑戦の風土作り」が重要です。最近問われている「働き方改革」は必要条件であって、十分条件ではありません。十分条件は、業界として魅力ある職場を作ることです。デジタル時代においては、これまで以上に銀行員の挑戦意欲を促し、お客さまや社会への貢献を自らの喜びとする風土作りが大切だと思っています。

 これら3つに共通するのは、銀行が今まで以上に世の中の「結節点」となる必要がある、ということです。銀行は従来金融仲介機能を通して、資金余剰主体と資金不足主体をつなぐ結節点としての役割を担ってきました。新たな時代においては、「デザイン思考」をもち、より多様なプレイヤーをつなぐ結節点として役割を果たしていくことができます。つまり、これからの銀行の可能性は無限に拡がっているといえるでしょう。日本の外を見渡すと、保護主義、自国主義、格差や貧困による分断が頭をもたげるきらいがあります。わたしたち銀行は今こそ、世の中の結節点となってグローバル化を再び推し進める、共存共栄を実現する、旗頭となる気概が大切ではないかと思っています。“誰かのためにがんばる”、これは顧客本位の業務運営に通じるものであり、「銀行の矜持」だと思います。

 急速に変わりゆく時代にあっても、人と人との絆、組織と組織の信頼関係は変わりません。銀行は、お客さま・社会にとっての「課題解決のベストパートナー」になることが求められています。「金融」の前に企業のお取引先には「事業プラン」、個人のお客さまには「ライフプラン」をともに考える存在でありたい。そのために、我々は変化に対応するだけではなく、自ら変化を創り出す強い意志と覚悟を持ち、これからも果敢に挑戦していきたいと思います。

 結びに、本年が皆さまにとって、大きな飛躍の年となることを祈念いたします。