2019年4月 1日

一般社団法人全国銀行協会
会長 髙島 誠

会長就任挨拶

 三井住友銀行の髙島です。このたび、藤原前会長の後を受け、全国銀行協会の会長を務めることとなった。
 平成という時代から、まさに先ほど発表された令和という新時代に移行する節目に、全銀協の会長という大役を務める機会を頂戴したことは、本当に身の引き締まる思いである。これから1年間、皆さまのご協力、ご支援を得て職責を果たしていきたいと考えているので、よろしくお願いしたい。
 まず、就任に当たっての抱負を申しあげる前に、この場を借りて藤原前会長に一言お礼を申しあげたい。
 昨年度は大規模な自然災害が相次ぎ、甚大な被害が生じるとともに、インフラ面の脆弱性が浮き彫りになった年だった。また、海外では米中貿易摩擦の深刻化やBrexitの交渉難航、中国経済の減速など、世界経済をめぐる不確実性が一段と高まった。
 このような厳しい局面において、藤原前会長は、災害対策をはじめとしてSDGsへの取組みやFATFの第4次対日審査に向けた準備、また金融犯罪への対応など多岐にわたる社会的課題に対し、見事なリーダーシップを発揮され、銀行界を牽引いただいた。そのご尽力に、ここに心から敬意と感謝の気持ちを表したい。本当にありがとうございました。

 さて、本年度におけるわが国銀行界を取り巻く環境を俯瞰すると、まずもって世界経済は引き続き緩やかな成長を続けると見込まれる。もっとも、米中貿易問題は一旦何らかの合意に至るとしても、両国の覇権争いは今後長期にわたりくすぶり続けることが予想される。欧州では、英国のEU離脱時期が延期されたものの、交渉の先行きは依然極めて不透明だ。また、過剰債務問題を抱えた中国経済全般の行方、急減速のリスクにも警戒が必要だと考えている。
 このような外部環境の下、わが国経済は、これまで企業収益の拡大や雇用・所得環境の改善、投資マインドの回復などを背景として、緩やかな回復傾向を維持してきた。しかし、足元では、海外経済の減速を背景に輸出や生産が減少しており、景気は足踏み状態に入っている。1月の景気動向指数も、基調判断が前月の「足踏み」から「下方への局面変化」に引き下げられたし、今朝発表された3月の日銀短観でも、全体的に企業マインドが悪化していることを示している。このように不透明な外部環境を含め、今後も引き続き十分な注意が必要だと考えている。
 また、日本銀行がマイナス金利政策を導入してから3年が経過した。この間、預貸利鞘の縮小、低金利下での運用難が一層深刻化し、一部金融機関において業績面での影響が顕在化しつつある状況である。

 以上、申しあげた環境認識も踏まえたうえで、私は、本年度を「新時代の経済・社会的課題の解決に貢献する一年」にしたいと考えている。
 本日、令和という新元号が発表され、まさに新時代の幕開けを迎えようとしている。さらに、今年度を見通すと、新天皇のご即位、改元、それに伴う祝賀の10連休、日本が議長国となるG20大阪サミット、秋には消費増税、FATFの第4次対日審査など、さまざまなイベントが予定されている。
 また、金融審議会においては、機能別・横断的な金融規制体系の構築に向けた検討も進められている。全銀協としても、これらを一つ一つしっかりとクリアしていくことが重要だと考える。そのうえで、これから申しあげる三つを本年度の活動の柱として取り組んでいきたいと考えている。

 第1の柱は、「経済・社会的課題解決への取組み」である。
 具体的には、まさに本日施行された改正入管法に伴う、外国人就労者へのサポート体制の見直し強化である。外国人の方々が日本に来て生活しやすい環境を整備するため、私ども銀行界としてもしっかりと対応する必要があると考える。
 次に、令和への改元・10連休への対応である。私どもが運営している全銀システムの運行には万全を期しているし、ATMや夜間金庫などの運用にも十分な対策を講じるよう、会員銀行に周知している。
 また、中小企業のお客さまの資金繰りにもしっかりと相談に乗っていく所存である。
 そして、本年10月には消費増税が予定されている。景気へのマイナス影響を緩和するため、さまざまな対策が講じられる見込みだが、銀行界としても、キャッシュレス決済におけるポイント還元などの分野で役割をしっかりと果たすことが重要だと考える。
 このほかにも、わが国が直面する最も深刻な構造問題の一つが高齢化であることは今さら言うまでもない。すでに金融審議会等において、高齢社会における金融サービスのあり方が議論されてきた。今年のG20財務大臣・中央銀行総裁会議のテーマの一つにも挙げられている。銀行界としても、若年世代・現役世代のうちから安定的な資産形成、そして中小企業の円滑な事業承継、高齢者とその家族が安心して資産の有効活用を行える環境の整備、また認知症対応等に取り組んで参りたい。
 また、震災復興、自然災害などの有事への対応、世代を超えて金融リテラシーのさらなる向上のための金融経済教育の積極的な取組みなど、引き続きしっかりと行いたい。こうした取組みを通じ、わが国の持続的な経済成長に貢献していきたいと考えている。

 第2の柱は、「デジタル技術を活用した安心・安全な金融インフラの構築」である。
 金融インフラは社会・経済の基盤をなすものであると同時に、皆さまの信頼のうえに成り立っているものである。そして、信頼の源泉は、当然ながら「安心・安全」にあると考えている。
 私ども銀行の使命は、これまで培ってきた信頼の基礎となるこの「安心・安全」を引き続きしっかりと確保したうえで、利便性の向上に向けてさまざまな取組みを加速させていくことにあると考える。
 こうした観点から、会員各行が推進しているFintechの取組みに加え、全銀協としてもキャッシュレスやオープンAPI、XML電文への移行など、決済高度化の取組みをさらに進めていく必要があると考える。
 また、デジタル技術を梃に、さまざまなプレーヤーによる金融サービスへの新規参入が相次いでいるが、安心・安全な取引環境の整備はいかなるプレーヤーであっても共通する主要な課題だ。現在、金融審議会「金融制度スタディ・グループ」において機能別・横断的な法制の整備に向けた議論が行われているが、銀行界としても引き続き主体的、積極的に議論に貢献したい。
 また、マイナンバー制度については、デジタル社会のインフラの一つとして今後さらなる浸透が期待される。銀行界としても、政府・関係省庁と連携しつつ、その普及をサポートしたいと考えている。

 第3の柱は、「金融システムの信頼性・健全性の維持・向上」である。
 足元、グローバル化の停滞、巻戻しが懸念されているが、金融サービスのグローバル化はもはや後戻りできない大きなトレンドだと考える。したがって、わが国金融システムも世界レベルの信頼性・健全性を確保する必要があり、そのために不断の努力が求められると考えている。
 まず、国際的な金融規制改革に関しては、バーゼルIIIの最終化が完了したが、各国での施行状況やその複合的な影響の検証はこれからである。また、各国独自の規制導入による市場の分断化、マーケットフラグメンテーションをどうしていくかも大きな課題となっている。これらは、今年のG20のテーマの一つでもあり、私ども銀行界としても議論の進展に大きな期待を持ってフォローしていきたいと考えている。
 次に、世界的に要求水準が年々上がっているAML/CFT対策、いわゆるマネロン対策については、FATFによる第4次オンサイト審査が本年秋ごろ実施される予定になっている。当然ながら、FATF審査を乗り切れば終わりではなく、国際社会の責任あるメンバーとして恒常的にレベルアップを図る必要があるテーマである。お客さまのご理解を得られるよう、広報・啓発活動にも積極的に取り組んでいく。
 また、振り込め詐欺などの特殊詐欺は、件数・金額とも高水準で推移している。これら金融犯罪については、手口や防止策の周知活動・啓発活動を通じ、銀行界を挙げてその未然防止、被害拡大の防止に取り組んでいく。
 2021年末に想定されるLIBORの廃止への対応も非常に重要な課題である。金融市場や市場参加者への潜在的な影響も大きいことから、可能な限り各国、各通貨間で平仄を取った慎重な検討が必要であり、積極的に議論に参画していきたいと考えている。
 このほかにも、サイバーセキュリティ強化、コーポレートガバナンス強化、全銀システムの利便性向上、公的金融改革への積極的な取組みなど、引き続き推進していきたいと思う。

 以上いろいろと申しあげたが、わが国が抱える経済・社会的課題は枚挙に暇がない。いずれも避けて通ることのできない課題である。
 そもそも全銀協は、銀行の業界団体であると同時に、全銀システム等の金融インフラの重要な一端を担う存在である。近年、金融のアンバンドリングが進み、異業種からの参入も相次ぐなど、金融のフロンティアが拡大している。全銀協は、そういうなかにあっても、わが国の金融システムの根幹を担う存在として、広く金融界の「協調」をリードし、社会課題に対して金融界と一体感を持って対応する責任を負っていると考えている。平成から令和に踏み出す初めの年に当たり、全銀協としても広く経済的・社会的課題の解決に貢献すべく、全力で取り組んでいきたいと考えている。