2020年1月 6日

一般社団法人全国銀行協会
会長 髙島 誠

年頭所感

 2020年の新春を迎えるに当たり、所感の一端を申し述べ、新年のご挨拶に代えさせていただきます。

 昨年を振り返ると、世界経済は緩やかに減速したと言えます。IMFが昨年10月に公表した世界経済見通しでは、2019年の実質GDP成長率は金融危機以降で最も低い3.0%と予想されており、米中を中心とした貿易問題やブレグジットを含む地政学的リスク等が、グローバルサプライチェーンの緊張を高め、製造業の活動を抑制した面があったと思います。こうした不透明感あるいは不確実性が実体経済の重石となる状況は、足元でも大きく変わってはおりません。

 こうしたなか、各国中央銀行は予防的な見地から金融緩和姿勢に転じています。実際に、2018年まで利上げが続いていた米国では、昨年は一転して利下げが行われました。

 わが国経済を振り返ると、このような世界経済の減速を受け、製造業の景況感が悪化した一方で、雇用や消費は好調であったと言えます。消費増税による経済への影響は、キャッシュレス還元等の施策が奏功し、これまでのところ、明確な悪影響は見られておりません。他方、日本銀行がマイナス金利政策を導入してから3年が経過し、金融機関の預貸利鞘の縮小や低金利下での運用難等、金融業界を取り巻く環境は厳しさを増しております。

 このような環境下、私は、昨年4月に全銀協会長に就任して以降、2019年度を「新時代の経済・社会的課題の解決に貢献する一年」と位置付け、三つの柱を掲げて活動を進めて参りました。以下では、その具体的な取組みについて、申し述べさせていただきます。

 まず、活動の第一の柱である「経済・社会的課題解決への取組み」につきましては、昨年4月の改正入管法施行により増加する外国人就労者向けの多言語化サポート等に取り組みました。また、高齢者、特に認知症の方々への対応等も重要な課題です。さらに、わが国における子どもの貧困問題も大きな問題であり、全銀協としてもこれを会員各行に知ってもらうべく、説明会を開催しました。これらをはじめとする経済・社会的課題解決に向けた取組みを今後より一層積極的に行って参ります。

 次に、第二の柱である「デジタル技術を活用した安心安全な金融インフラの構築」につきましては、全銀協として、キャッシュレスやオープンAPI、XML電文への移行等、決済高度化に向けた施策を推進しております。また、さまざまなプレーヤーによる金融ビジネスへの新規参入が相次いでおりますが、機能別・横断的な法制整備に向けた議論は、お客さまの安心・安全を前提としたイノベーションの観点から非常に重要な問題です。同一機能は同一ルールでという視点からも今後も関係者のさまざまな意向を踏まえつつ、具体化に向けた取組みを進めて参ります。

 活動の第三の柱である「金融システムの信頼性・健全性の維持・向上」については、各国独自の規制導入によるマーケットフラグメンテーションが引き続き大きな課題であり、銀行界としても積極的に関与しております。また、AML/CFT対策については、FATF第4次オンサイト審査への対応を行ったわけでありますが、マネーローンダリングへの対応は、恒常的にレベルアップを図っていくため、継続的な取組み課題と言えます。さらに、2021年末にはLIBORの恒久的な公表停止が想定されております。昨年、全銀協では、金利指標改革に特化した検討部会を設立し、LIBORからリスクフリー・レートを中心とする代替金利指標への移行に関する課題について、網羅的な検討を行っております。わが国の金融システムの安定性を維持することに加え、お客さまのニーズをしっかりと踏まえた対応が必須であり、今後も市場参加者の取組みを後押しするような環境整備に取り組んで参ります。

 このように、全銀協として、これまで三つの柱をもとに活動して参りましたが、銀行界が直面する課題はいずれも容易に解決できるものではなく、雨垂れ石を穿つという言葉もあるように、銀行界として地道に取り組むべきものばかりです。

 2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。世界中が選手達の一挙手一投足に注目し、その頑張りに多くの勇気や感動を味わうことになるでしょう。しかしながら、選手達はその晴れ舞台に上るまでに大変な努力を重ねて、さまざまな困難を乗り越えてこられることを忘れてはならないと思います。銀行界としましても、不透明な外部環境にひるむことなく、困難な課題に正面から向き合うことが重要です。そうしたなかで、既存のビジネスモデルに固執し、変革を恐れていてはいけません。新時代における銀行の役割とは何かを常に意識しながら、わが国の経済・社会的課題解決に貢献していくことが重要であると考えております。

 結びに、本年が皆さまにとって、大きな飛躍の年となることを祈念いたします。