2020年4月 1日

一般社団法人全国銀行協会
会長 三毛 兼承

会長就任挨拶

 三菱UFJ銀行の三毛です。このたびの理事会において、髙島前会長からバトンを受け、全国銀行協会の会長を務めることとなった。これから一年間、大変な年になると思うが、皆さま方のご支援を賜りながら、この大役に取り組んで参りたいと考えているので、どうぞよろしくお願いする。
 まず、今般の新型コロナウイルス感染症によりお亡くなりになった方々に謹んで哀悼の意を表するとともに、感染された方々やそのご家族、不安のなかにおられる方々に対して、心からお見舞いを申しあげたいと思う。
 就任に当たっての抱負を申しあげる前に、この場をお借りして、髙島前会長に一言、お礼を申しあげたい。
 振り返ると、昨年度は、世界経済の先行き不透明感が拭えない状況が続くなか、年明けからは、新型コロナウイルス感染症の拡大という難局に直面し、非常に難しいかじ取りを迫られた一年だった。
 このような局面において、髙島前会長は、この感染症への対応はもちろんのこと、銀行界の多岐にわたる課題への対応へ、見事にリーダーシップを発揮された。そのご尽力に対して、心から敬意と感謝の気持ちを表したいと思う。

 現在、わが国を含む世界は、新型コロナウイルス感染症の拡大という難局に直面しており、銀行界としても、まずは、この対応が喫緊の課題と認識している。
 感染拡大の影響が広く実体経済へと波及するなかで、銀行界は、金融サービスを通じて、取引先や社会をしっかりと支え続けていくことが責務であり、社会的使命と考えている。
 先月、全銀協として申し合わせを実施したが、まず、新型コロナウイルスの感染防止・拡大抑制のためにも、お客さま・従業員やその家族の健康・安全の確保を図り、業務継続体制を構築・維持する。そして、影響を受けたお客さまが、資金繰りなどに重大な支障が生じないよう、丁寧、親身に経営相談に乗り、政策金融機関などとも連携を強化しつつ、必要な資金の申込みはもとより、金融面のサポート要請に、迅速、適切、柔軟に対応して参りたい。

 さて、改めて、わが国の銀行界を取り巻く環境を、内外の経済、政治、金融システムの視点から見てみると、今年の世界景気は、製造業の調整一巡と米中通商摩擦の一旦の後退によって、緩やかながら上向きに転じるとみられていたところに、新型コロナウイルス感染症の拡大という、昨年までは誰も予想していなかった事態によって、足元で著しく縮小しており、非常に厳しい状況にある。
 国内についても、手厚い政策対応によって消費増税の影響は薄れていくと見込まれていたところに、新型コロナウイルス感染症の拡大により、経済活動が大きく制限され、私たちが経験したことのない影響が随所にみられている。
 日本の銀行界は、全体として健全性を維持してきていると言えるが、経済面では新型コロナウイルス感染症拡大により、今年度は厳しい先行きを覚悟しなければならない。また、中長期的にみても、金融機関の収益性は国内預貸業務を中心に依然として低下が続いている。低金利環境の長期化に加え、人口減少や期待成長率の低下に伴う、借入需要の趨勢的な減少も背景にある。
 したがって、まずは、この新型コロナウイルスの難局を乗り切ることが最優先であるが、このような状況にあるからこそ、将来の日本経済の姿を見据えた種まきも、同時に重要と捉えている。
 銀行界としては、デジタル化や環境への意識の高まりなど、社会の変化にしっかりと対応しつつ、国の成長戦略への貢献を通じて経済を支えるとともに、社会課題を解決する役割を一層発揮していかなければならないと考えている。

 以上、申しあげた環境認識を踏まえ、私は、本年を、「イノベーションに取り組み、持続的成長と社会課題解決に貢献する一年」と位置付け、活動していきたいと考えている。
 具体的には、これから申しあげる「三つの柱」を掲げ、取り組んで参りたい。

 第一の柱は、「金融サービスの提供を通じた経済・社会課題解決への貢献」である。
 わが国経済の持続的成長と、さまざまな社会課題解決のためには、私たちが金融サービスの提供を通じて、お客さまの課題解決にしっかりと取り組んでいくことが重要である。
 まず、人生100年時代にふさわしい、長期・安定的な資産形成への貢献にしっかりと取り組んでいく。
 国民一人ひとりの資産形成や資産活用について、若年世代・現役世代のうちからしっかりと支えることで、「貯蓄から資産形成へ」の流れを確かなものにしていき、経済成長に繋がる金融仲介機能を一層発揮していく。このために、新NISA制度やiDeCoの周知等、国民の長期的かつ安定的な資産形成を後押しする取組みを、積極的に推進していく。
 また、このような家計の長期・安定的な資産形成と経済成長に資する資金の流れの実現のためには、各金融機関がそれぞれの役割を踏まえた顧客本位の業務運営に努めることが必要不可欠である。フィデューシャリー・デューティーを念頭に置いた各行の努力が求められるが、共通の課題として、高齢者対応の充実や、外貨建て保険問題への誠実な対応に、しっかりと取り組んで参りたい。
 次に、SDGs、ESGへの取組みについては、世界的に高まる環境意識のもと、サステナブルファイナンスや、TCFDへの対応等、課題はさまざまにあるが、アクションプランを定めて、取組みを進めていく。また、金融リテラシー向上のため、金融経済教育に取り組んで参りたい。
 そして、地方創生への貢献として、各行の取組みが中心となるが、技術力や将来性など、事業性評価にもとづく融資を推進していく。また、経営者保証ガイドラインの周知・活用促進を図っていく。本日から始まる新たな特則の考え方を徹底し、円滑な事業承継に貢献して参りたい。

 続いて、第二の柱は、「デジタル時代の「安心」「安全」「便利」な金融・社会インフラの実現」である。
 銀行は金融・社会インフラとして、お客さまの経済活動を支える役割を果たしており、これまでも高い安全性をもってその機能を担ってきた。デジタル技術の進展により、さまざまなプレイヤーの参入が相次いでいるが、「安心」、「安全」で「便利」な取引環境の整備は共通する主要な課題であるとともに、銀行界として強く期待される役割と認識している。
 こうした観点で、金融審議会でも機能別・横断的な法制など、多くの議論が行われてきたが、お客さまにとって利便性の高い取引環境の実現に向け、銀行界としても積極的に議論に貢献して参りたい。
 具体的には、全銀システムについて、資金移動業者との相互運用性等、次世代の決済システムのあり方の検討を進めていく。オープンAPI接続や、手形・小切手機能の電子化、税・公金収納の効率化など、継続課題にもしっかりと対応していく。
 また、マイナンバー制度については、デジタル社会のインフラの一つとして、有効に活用していくことが期待されている。銀行界としては、預金口座への付番などの課題に着実に対応していくとともに、政府・関係省庁と連携し普及をサポートして参りたい。
 このほか、中央銀行デジタル通貨やデジタルマネーによる賃金支払いなど、技術の進展に伴う新たな議論についても、銀行界として積極的に参画して参りたい。

 最後に、第三の柱が、「金融システムの健全性・信頼性の更なる向上」である。
 日本経済の持続的成長に向けて、金融機関が金融仲介機能を十分に発揮し、お客さまの活動を支えるためには、金融システムの安定が必要不可欠である。わが国の金融システムは、これまでも健全性・信頼性を維持してきたが、更なる向上を目指し適切に対応して参りたい。
 まず、年々要求水準の上がっているマネロン等への対応について、今年はFATFの第4次対日相互審査報告の公表が予定されているが、国際水準の態勢構築に向けた官民協働体制の整備を目指して参りたい。また、AML/CFT対策では、NEDOのAI活用実証実験への参画等を通じ、業務の高度化を目指し、業界対応水準の底上げを図っていく。金融犯罪未然防止の啓発活動を通じ、被害拡大の防止にも取り組んで参りたい。
 2021年末に想定されるLIBOR廃止を始めとした金利指標改革への対応も重要な課題である。金融市場や市場参加者への影響も大きいことから、お客さま対応の本格化に向けた重要な一年になると認識しており、万全な準備を進めていく。
 次に、国際金融規制への対応については、バーゼルIIIの本格実施時期は延期となったが、引き続き必要な準備を進めて参りたい。また、グローバルには、各国独自の規制導入による市場分断化や、気候変動への対応等も課題となっている。これらに対して、議論のフォローとともに、適切な意見発信を行っていく。
 このほか、公的金融改革や郵政民営化への対応も引き続き行っていく。政策金融機関とは定期的な意見交換等を進めているが、現下の情勢も踏まえ、一層対話を深めていく。郵政民営化については、三年検証の年度に当たり、適切に意見発信を行っていく。

 最後に、先ほど私は、本年を、「イノベーションに取り組み、持続的成長と社会課題解決に貢献する一年」と申しあげた。
 まずは、最優先の社会課題として、新型コロナウイルス感染症の拡大という難局への対応に万全を期す。
 そして、このような局面でも、銀行界としては、「安心・安全」という普遍的な役割を強く意識しつつ、テクノロジーの活用にも取り組み、利便性の高いサービスをお届けすることで、日本経済の持続的な成長と社会課題解決に対して、最大限の貢献を果たしていくこと、これが、この一年間の最大のテーマだと考えている。
 今般、私は全銀協会長という責を引き受けることとなったが、わが国の金融システムの重要な一端を担う存在として、関係各位の声に耳を傾け、ご支援とご協力を仰ぎつつ、意思を持って取り組んで参りたい。この一年間、どうぞよろしくお願いする。