令和3年7月15日

一般社団法人全国銀行協会
会長 髙島 誠

会長就任挨拶

 三井住友銀行の髙島です。三毛前会長の後を受け、全国銀行協会の会長を務めることとなった。皆さま方のご支援を賜りながら、この大役をしっかりと果たせるよう、力を尽くしていくので、どうぞよろしくお願いしたい。

 はじめに、新型コロナウイルス感染症によりお亡くなりになった方々に心から哀悼の意を表する。また、7月1日から全国各地で続く大雨による災害等によってお亡くなりになられた方々に対しても、謹んでお悔やみ申しあげるとともに、被災された皆さまに心からお見舞いを申しあげる。

 就任にあたって抱負を申しあげる前に、この場をお借りして、三毛前会長に一言お礼を申しあげたい。

 振り返ると、三毛前会長にバトンを渡した昨年4月は、我が国でも新型コロナウイルス感染症の猛威がまさに広がらんとする状況であった。そして、三毛前会長の就任直後の4月7日には、政府から初の緊急事態宣言が発せられ、以降も感染症がたびたび拡大するなかで政府も複数回にわたり経済活動の制限を決断せざるをえなくなるなど、日本の社会・経済全体が一気に危機モードになっていったわけである。

 こうしたなかで、三毛前会長は、本当にこの対応に心を砕かれ、お客さまの資金繰り支援を最優先に、円滑な金融の確保に全力をあげて取り組んでこられたほか、社会機能の維持に必要不可欠な金融インフラとして、金融機能の継続に力を尽くしてこられた。

 加えて、資金決済サービスや金融インフラを巡る諸課題への対応、気候変動・高齢者対応といった社会的課題への対応、また、金融審議会における銀行グループの業務範囲規制や銀証ファイアーウォール規制の見直しといった多岐に亘る課題に対しても、本当に見事なリーダーシップを発揮され、銀行界を牽引された。そのご尽力に対し心から敬意を表したいと思う。本当にありがとうございました。

 さて、改めてわが国銀行界を取り巻く状況を概括すると、足元の世界経済は、二極化が鮮明となっている。米国は、ワクチンの普及に加え、経済対策の効果も相俟って力強い回復を見せ、中国もV字回復を実現している。一方で、新興国ではワクチン普及の遅れもあり、景気の回復に時間を要している。先行きを展望しても、世界経済は全体としては回復が続く見通しであるが、そのペースは国・地域ごとに分かれる、いわゆるK字型の状況が続く見通しである。

 このようななか、わが国経済は、一進一退の状況が続いている。製造業については、世界経済の回復を背景とした輸出拡大に伴って生産活動が回復する一方、個人消費は、行動制限の長期化を受けて回復が遅れており、それに伴って宿泊・飲食サービス等の対面サービス業種は厳しい業況が続いている。先行きの見通しについても、感染症の帰趨に依存する面が強く、正に今週から東京都において4回目の緊急事態宣言が発令され、東京オリンピックもほとんどの競技が無観客の下で行われることになる等、不確実性が高い状況にある。

 もっとも、足元、ワクチン接種が進捗しつつあり、それに伴って経済活動の正常化に向けた道筋も徐々にではあるが見え始めている。また、巣ごもり需要などを捉えて業績が好調な企業も出てきている事実もある。

 こうした認識の下、私は、本年度を、「我が国における現下の難局の克服と新たな社会・経済の創生を支える年」と位置付け、取り組んで参りたい。

 本年度は、日本の社会・経済全体にとって、重要な転換点になると考えているからであり、例えば、コロナ禍によってダメージを受けたお客さまの事業の再生・再構築は、まさにこれから本格的に取組んでいかなければならない課題である。また、“新たな日常“を見据え、デジタル化やビジネスモデルの変革、気候変動問題・カーボンニュートラルなどへの対応も一段と加速させていかなければならない。このように、ポストコロナにおいて目指されている社会・経済の姿は、多くの面において「非連続的な変化」を伴うものになると考えられる。

 こうした中で、私ども銀行界は、引き続き高い緊張感と使命感をもって、次の局面を見据えた対応を進めていく必要がある。

 そこで、本年度は、全銀協として、次の3つの柱の下で、活動に取り組んで参りたいと考えている。

 第一の柱は、「経済・社会的課題解決への取組み」である。

 コロナ禍は、お客さまの売上減少や資金繰り、事業再生といった直接的な課題を生み出しただけでなく、日本の社会・経済が抱える構造的な課題を改めて浮き彫りにした。例えば、日本社会全体のデジタル化の遅れは、コロナ禍において社会生活や経済活動の大きな制約になったほか、生産年齢人口の減少・少子高齢化に伴って生産性や収益性が低下してきた企業においては、いよいよ抜本的な事業の再構築が迫られることになった。

 他方、コロナ禍は、事業承継や相続準備といった、今までつい先延ばしにしがちであった課題に本格的に向き合う契機となるなど、ポストコロナを見据えて気候変動問題・カーボンニュートラルへの対応が世界的に加速する契機ともなっている。

 このように社会的・経済的課題が顕在化するなかで、銀行界がその課題解決に重要な役割を果たせるよう、各種の制度設計や規制緩和要望に関する意見発信と関係当局との協議、会員各行における課題解決に向けた様々な取組みの支援などに、これまで以上に踏み込んで積極的かつ主体的に取組んでいきたいと考えている。

 第二の柱は、「デジタル時代に相応しい金融インフラの整備」である。

 金融サービスのデジタル化に向けた社会要請への対応や、会員各行のデジタル・トランスフォーメーションを後押しする取組みは、これまでも全銀協として力を入れて取り組んできた分野であるが、従来からの商慣習や大企業から中小企業、そして地方自治体等、ステークホルダーの多さなど様々な制約・課題によってデジタル化が進まなかった領域でも、手形・小切手機能の完全電子化や税・公金収納の効率化、金融EDIの活用推進など、行動様式や意識の変化、そして政府の後押しなどによって、大きく進展する機運が高まっている。

 他方、デジタル化に伴って、不正送金問題やサイバーセキュリティ、サードパーティリスクなど、金融サービスの大前提である「安心・安全」に対する脅威も確実に高まりつつあること、そして高齢者など所謂デジタル弱者への目配りについても、十分意識しなければならない。

 いわば二正面作戦が求められる難しい状況ではあるが、だからこそ、デジタル時代に相応しい金融インフラの実現に向けて尽力する必要がある。会員行ともよく連携しながら、関係省庁や関係業界との協議や働きかけなど、さらに力を入れて取り組んでいきたいと考えている。

 第三の柱は、「健全かつレジリエントな金融システムの構築」である。

 本年度は、金融システムを巡る諸課題への対応について節目を迎える年回りにある。例えば、本年度は、バーゼルIIIの実施に向けた国内告示案が公表される予定であるほか、預金保険制度に関しても、当面の目標とされてきた責任準備金の積立目標5兆円の到達を目前に控え、今後の積立目標の在り方が議論されると聞いている。

 また、本年12月末のLIBOR公表停止に向けた対応がいよいよ大詰めを迎えるとともに、8月には先月採択されたFATF第4次対日審査報告書の公表も見込まれる。

 加えて、気候変動リスクやオペレーショナル・レジリエンスといった新しい概念・枠組みへの対応も重要なテーマとなってきている。

 金融ビジネスを取り巻く環境が大きくかつ急速に変化していく時代において、金融システムには、単に強固・健全であるだけではなく、変化に耐えうるレジリエンスが不可欠となっている。健全かつレジリエントな金融システムの構築に向けて、銀行界は自ら改革や強靭性向上に取り組むことはもちろん、こうした諸課題に対する意見発信や関係者との協議と会員各行の取組みへの支援にも、積極的に取り組んでいきたいと考えている。

 私の抱負は以上であるが、先ほど私は、本年度を「我が国における現下の難局の克服と新たな社会・経済の創生を支える年」にしたいと申しあげた。本年度は、大変多くの、かつ重要な課題があるが、わが国全体が重要な局面を迎えるなかにおいて、銀行界が社会的使命と責務をしっかりと果たし、社会・経済の支えとなれるよう、会員行とともに、私も先頭にたって、力を尽くして参りたい。