2023年1月 4日

一般社団法人全国銀行協会
会長 半沢 淳一

年頭所感

 2023年の新春を迎えるに当たり、所感の一端を申し述べ、新年のご挨拶に代えさせていただきます。
 昨年を振り返りますと、「ウィズコロナ」を前提に経済活動が正常化の方向へ徐々に進んできたことは明るい動きとなりました。一方、長期にわたるコロナ禍や2月に勃発したロシアによるウクライナ侵攻等に起因する供給制約、エネルギーや食料等の価格高騰、労働需給の逼迫などを背景に、世界的にインフレ圧力が高まりました。こうした背景から各国での大幅な金融引締めの実施や、それを受けた日米金利差拡大を背景とした歴史的な円安など、非常に大きな変化が起きた一年となりました。
 こうした環境のもと、全国銀行協会では、2022年度を「サステナブルな環境・社会構築に向けて、新たな価値創造・成長への挑戦を支えていく一年」と位置付け、三つの柱を掲げて活動してきました。
 第一の柱「金融起点の多様なサービス提供を通じたお客さまや社会への貢献」については、政府・関係省庁との脱炭素に向けたファイナンス等の議論への参画や意見発信を行ったほか、お客さまの脱炭素に向けたサポートとして、お客さまとのエンゲージメント向上策を展開してきました。また、スタートアップを含むお客さまに対するご融資における経営者保証のあり方について、多くの関係者と議論を実施してきました。引き続き、「経営者保証に関するガイドライン」をベースにお客さまのご理解を得られるよう適切に対応していくことに加え、スタートアップのお客さまに対しては、柔軟な対応を検討していきたいと考えています。さらに、「貯蓄から投資へ」の加速に向けたNISA制度の拡充をはじめとする税制改正要望や金融リテラシー向上への対応等の検討を官民一体となって進めてきました。今後、新たなNISA制度の円滑な導入に向けたシステム・業務態勢の整備、教育コンテンツの拡充などに加え、金融資本市場の更なる機能発揮を目指し、総合的な金融サービスの提供を可能とする規制緩和への対応などにより、「成長と分配の好循環」の実現に貢献していきたいと思っています。そのほか、各行が業務範囲規制の緩和を活用した金融にとどまらない新たなサービスを提供することなどにより、あらゆる面でお客さまの成長への挑戦を可能とする環境・社会の構築に貢献して参ります。
 第二の柱「デジタル化を踏まえた安定的かつ利便性の高い金融インフラの実現」については、手形・小切手の電子化に向けた取組みと電子交換所の開設のほか、地方税支払いにおけるQRコード導入準備等、デジタル完結・データ駆動社会への転換を進めてきました。また、全銀システムの参加資格の資金移動業者への拡大など、キャッシュレス社会の進展に向けた施策を展開してきました。このほか、各行の取組みとして、新しい個人の多頻度小口決済インフラを構築し、ことら送金サービスを開始しました。本サービスへの参画企業が拡大していくことで、お客さまに一層の利便性を実感いただけると期待しています。今後も、全銀システムにおけるAPIを活用した新たな接続方法の構築、全銀EDIシステムの利活用の促進、さらには、日本銀行が進めるCBDCの検討や、新たな技術を用いた「Web3.0」社会の到来も展望した各種議論に参画し、お客さまの利便性向上に資する金融インフラの構築にも努めていきます。
 第三の柱「健全性・信頼性を確保した強靭な金融システムの維持・向上」については、マネロン対策高度化に向けて、共同機関の設立方針を決定しました。この機関は、参加行にAIを活用したスコアリングサービスを提供する予定であり、金融システムの一層の強靭性確保に貢献するものと考えています。また、TIBORの頑健性を高めるため、ユーロ円TIBOR廃止やフォールバック条項導入に向けた検討を進めています。加えて、国際金融規制への対応として、バーゼルIIIの円滑な導入に向け、関係当局と議論を重ね、銀行界の意見を発信して参りましたが、今後も、その他の規制対応も含め、銀行界の声を集約し、適切な発信をしていきます。
 本年は、高インフレやエネルギー供給不足の影響等による景気下押しも懸念されますが、サービス消費の持ち直し、インバウンドの拡大、政府による経済対策等により、下支え効果が発揮され、全体として緩やかな景気回復となることを期待しています。
 2023年の干支は、「癸卯」(みずのとう)です。これは、「自らのよりどころとする基準や進むべき道をしっかりと見定めたうえで考え行動し、新たな発展へと向かう年」と解釈されます。また、「癸卯」は別の読み方をすれば、「きぼう」です。そこで、本年を「これまで検討を重ねてきた課題に、一定の方向性を定め、『希望』に満ちた明るい社会に向かって踏み出す年」と捉え直したうえで、銀行界としては、お客さまが抱える諸課題に向き合い、お客さまとともに成長し、新たな価値・『希望』に満ちた明るい社会の創造に貢献していきたいと考えています。