ニュース&トピックス
2024年3月12日
一般社団法人全国銀行協会
会長 加藤 勝彦
「郵政民営化の進捗状況についての総合的な検証に関する郵政民営化委員会の意見」について
3月7日、郵政民営化委員会から「郵政民営化の進捗状況についての総合的な検証に関する郵政民営化委員会の意見」(以下「意見書」という。)が公表されました。
私どもはかねてより、郵政民営化の本来の目的は、国際的に類を見ない規模に肥大化した郵貯事業を段階的に縮小し、将来的な国民負担の発生懸念を減ずるとともに、民間市場への資金還流を通じて、国民経済の健全な発展を促すことに他ならないと主張して参りました。また、その過程においては、改正郵政民営化法の基本理念に掲げられているとおり、郵政民営化が地域社会の健全な発展および市場に与える影響に配慮しつつ、同種の業務を営む事業者との対等な競争条件を確保するための措置を講じることが不可欠であると主張してきました。
しかしながら、改正郵政民営化法の附帯決議(以下「附帯決議」という。)では日本郵政が保有する金融二社の株式のできる限り早期の全株式処分に向けて、日本郵政に具体的な説明責任を果たすよう努めることが求められているにもかかわらず、民間金融機関との間での公正な競争条件の確保の方法を含め、その道筋は依然として示されておりません。
そうした中で示された今回の「意見書」では、金融二社の株式について、日本郵政による保有割合が、ゆうちょ銀行については61.5%となったことをもって「一定の進展をしているものと評価できる」とされています。他方、前回(2021年4月)の「意見書」で求められた、「中計の期間において金融二社の株式を50%処分した段階で、全株式処分に向けた方針やロードマップを明らかにする取組」についての言及がされておらず、全株式処分および移行期間の完了までの道のりは、依然として不透明のままです。ゆうちょ銀行株式の全株式処分に向けた、具体的な実行計画が示されることで、日本郵政が附帯決議で求められた説明責任を果たすことが必要であると考えます。
同時に今回の「意見書」では、「日本郵政は、株式の全部処分後の連携強化策の今後の検討例として、日本郵政及び日本郵便と金融二社の間でシステムや商品の提供子会社を通じた資本関係を構築することで受委託関係を支える連携強化策について金融二社と今後検討する考えを示した。」とされています。
私どもとしては、日本郵政が示した「株式の全部処分後の連携強化策」の検討にあたっては、株式による資本関係が解消した後も政府からの間接の関与が残置されているとの懸念が生じないよう、日本郵政グループ内における取引関係の透明性が確保される必要があると考えています。
ゆうちょ銀行のビジネスモデルについて、地域への資金循環・地域金融機関等との連携強化として掲げる「Σビジネス」は、事業再生やベンチャー、ESG投資といった領域で民間金融機関と連携し、地域社会や経済の活性化と発展に資するものとされており、民間金融機関との公正な競争条件が確保される限りにおいて、その趣旨に賛同できる取り組みです。一方、今回の「意見書」において、「投資に際しての適切なリスク管理、人材の育成や確保など、必要な体制づくりを進めた上で、着実に実績を積み重ねることを期待する」とされており、業務遂行に向けた体制整備が求められます。同時に、連携の機運を高めていくためにも、今回の「意見書」で指摘された事項に加え、民間金融機関との適正な競争環境の確保に配慮されているかを検証するためのモニタリング、およびその結果を踏まえた必要な是正措置の実施が不可欠であると考えています。
ゆうちょ銀行の預入限度額見直しに関しては、ゆうちょ銀行から、「日本郵政によるゆうちょ銀行株式の保有割合が2分の1を下回り、新規業務が届出制になるなど、経営の自由度が向上する一環として、通常貯金の限度額について何らかの検討を行う方向としたい」との考えが示されています。
預入限度額を見直すことは、意図せざる資金シフト等が生じた場合に地域の金融システムへ多大な悪影響が生じることへのおそれ、預入限度額の引上げがゆうちょ銀行の更なる規模拡大に繋がった場合の将来的な国民負担の発生懸念等といった、これまで私どもが述べてきた懸念を増加させるものです。前々回(2018年12月)の「意見書」から継続して指摘されている、「日本郵政グループのバランスシートの抑制と戦略的活用を含めた日本郵政のビジネスモデルの再構築」と合わせて、十分な検証が行われるべきと考えます。
ゆうちょ銀行と民間金融機関は、これまでも地域経済の活性化やお客さまの利便性向上のため、それぞれの機能や郵便局ネットワーク等の経営基盤を活かしつつ、連携・協働を深めて参りました。
デジタル化の推進や、脱炭素への取り組み、人口減少に伴う人手不足への対応など、わが国の社会的課題は多岐に渡ります。こうした課題解決に向けて、ゆうちょ銀行と民間金融機関の連携・協働を推進していくためには、お互いの強みを生かした相互補完関係を一層強化することが重要と考えております。
私どもとしては、今回の「意見書」の内容も踏まえて、ゆうちょ銀行の完全民営化への道筋が具体的に示され、その確実な実行により、民間金融機関との間で公正な競争条件が確保された下、お互いに切磋琢磨し金融サービスの向上に努めることが、地方の創生・再生や国民経済の健全な発展に繋がると確信しております。