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2025年1月 6日
一般社団法人全国銀行協会
会長 福留 朗裕
年頭所感
2025年の新春を迎えるに当たり、所感の一端を申し述べ、新年のご挨拶に代えさせていただきます。
昨年を振り返りますと、世界経済は、インフレ圧力が徐々に和らぐもとで、国や地域によってばらつきはありながらも、米国経済をはじめ底堅い成長を見せ、全体としては安定的に推移しました。
国内経済については、24年1月に発生した能登半島地震の影響が残る北陸地方など、一部に弱さが見られるものの、堅調な設備投資や個人消費の持ち直しを背景に、緩やかな回復が続きました。とりわけ、企業収益が過去最高水準で推移し、春闘賃上げ率が33年ぶりに5%台を記録するなど、コロナ禍を乗り越えて回り始めた経済の好循環が、定着に向けて着実な進展をみせた一年でした。
加えて、日本銀行が17年ぶりの利上げに踏み切り、「金利ある世界」が再来するなど、銀行界にとっても大きな節目となりました。
こうした環境のもと、全国銀行協会では、2024年度を「パラダイムシフトが進展する中、わが国経済の好循環の定着に貢献していく一年」と位置づけ、政府と緊密に連携しつつ、以下、三つの柱を中心に活動して参りました。
第1の柱である「日本の再成長に向けたパラダイムシフトの後押し」については、資産運用立国の実現に向けた政府の強力な推進もあり「貯蓄から投資へ」の機運がかつてなく高まるなか、銀行界として、24年1月に導入された新NISAの普及を図るとともに、同年4月に設立した金融経済教育推進機構との連携による本質的な金融リテラシー向上の支援、および顧客本位の業務運営の徹底を通じ、お客さまの安定した資産形成を後押ししてきました。
事業者支援に関しては、日本の再成長に向け、事業再生や再構築、新事業の創出の重要性がこれまで以上に増しています。24年6月には企業価値担保権の創設が決まり、スタートアップの支援等に活用されることが期待されています。スタートアップ支援については、全銀協としても、地域金融機関向けの融資実務ハンドブックを取りまとめ、底上げを図っていきます。
そのほか、政府が重要な成長戦略として位置付けるGXについては、24年7月に業務を開始した脱炭素成長型経済構造移行推進機構(GX推進機構)との連携を通じたブレンデッド・ファイナンスの推進や、アジアにおけるトランジション・ファイナンスの普及を通じて、銀行界として貢献して参ります。
第2の柱「安心・安全かつ利便性の高い未来志向の金融インフラの追求」では、まずもって、23年10月に発生した全銀システムの障害を踏まえ、システムベンダーに対するマネジメント強化、システム人材の育成とガバナンス強化など、改善・再発防止策の着実な実行に取り組んでいます。同時に、次期全銀システムの開発を再開したほか、手形・小切手の電子化や地方税のQRコード納付を推進するなど、未来志向の金融インフラ構築に向けた土台作りにも注力しています。
また、昨今深刻化する金融犯罪への対応も喫緊の課題として取り組んでいます。この分野に関しては、引き続き利便性への配慮は重要であるものの、お客さまの大切な資産を確実に守るために、より安心・安全に軸足を置いた対応も必要と考えており、関係省庁や地方自治体とも連携し、万全を期して参ります。
第3の柱「グローバルに通用する健全かつ強靭な金融システムの整備」に関しては、これまで、23年1月に設立したマネー・ローンダリング対策共同機構を中心に、会員各行におけるマネロン対策の取組みをサポートしてきました。昨年来、取組みの重点が、第5次FATF審査を見据えた実効性の向上へとシフトするなか、そうした局面の変化も踏まえつつ会員行への支援を行うことで、引き続き、銀行界全体としてレベルアップを図っていきます。
加えて、金融機関においてクラウドサービスをはじめとする外部委託・サードパーティの活用が増え、サイバー攻撃が一段と高度化・複雑化する昨今の状況を踏まえれば、サイバーセキュリティを巡る管理態勢の強化も急務であり、高い緊張感をもって対応を進めて参ります。
本年の海外経済は、これまでの金融引き締めによる効果がタイムラグを経て顕在化する一方、多数の国・地域において利下げによる景気下支えが期待され、全体としては緩やかな成長が続くと見ています。もっとも、深刻な内需不振が続く中国経済や、停滞感が強まる欧州経済、依然として先行き不透明な地政学動向など、リスク要因も散見され、十分な警戒が必要です。
国内経済に関しては、内需主導の回復が続くものの、緩やかなペースにとどまるとみられ、引き続き「失われた30年」からの脱却に向けたティッピング・ポイント(転換点)にあると考えています。銀行界としては、「金利ある世界」への移行が更に進むなか、アップサイドとダウンサイド両面のリスクに対して慎重に目配りしつつ、三つの柱への取組みを一段と進め、経済の好循環の定着に貢献して参ります。