2026年4月 1日

一般社団法人全国銀行協会
会長 加藤 勝彦

会長就任挨拶

 みずほ銀行の加藤です。
 このたび、半沢前会長からバトンを引き継ぎ、全国銀行協会の会長を務めることになった。本日お集まりのメディアの皆さまをはじめ、関係各位のご支援を賜りながら、この大役を全うすべく全力を尽くしていく。どうぞよろしくお願い申しあげる。
 就任に当たり、まずこの場を借りて、半沢前会長に心より御礼を申しあげる。昨年度は、海外の政策動向への対応や、地政学リスクの高まりなど、グローバルな環境変化が続き、先行きの見通しが一段と難しい1年であった。そのような環境のもと、前会長には、喫緊の課題への対応に加えて、「中長期的な金融仲介の在り方検討WG」を立ち上げ、日本経済の持続的成長に向けて金融仲介機能に期待される役割を多くの関係者とともに議論いただいた。さらに「資金決済システムの将来像に関するスタディグループ」では、わが国の決済基盤を支える全銀システムについて、将来のイノベーション創出や国際競争力にも資する基盤を目指した構想を取りまとめていただいた。いずれも、経済・社会構造の変化を見据え、銀行界として中長期的に正面から取り組むべき骨太なテーマであり、銀行界、金融界の発展に向けて力強く牽引いただいたことに、改めて深い敬意と感謝を申しあげる。
 さて、ここからは、わが国の銀行界を取り巻く環境について申しあげる。世界を取り巻く環境は、ご案内のとおり極めて不透明である。特に、足元の中東情勢をはじめとする地政学リスクに加え、インフレ動向、金融政策の変化、サプライチェーンの再編など、複数の不確実性が同時に存在している状況である。特に中東情勢については、長期化するリスクも相応にあり、世界経済に大きな影響を及ぼすことが懸念されている。こうした中で、企業、家計ともに意思決定が難しい局面が続いている。
 一方で、こうしたなかにおいても、日本経済は、着実に力強さを取り戻しつつあると私は実感している。例えば、企業の稼ぐ力は過去最高水準に達し、売上高経常利益率は8%台を記録している。また、2025年のM&A件数は5,000件を超え、企業経営者の皆さまのマインドも確実に前向きへと転じている。さらに、2025年第4四半期での家計の金融資産は2,350兆円に達し、資産運用立国の実現に向けて、預貯金から投資へと、資金の流れも大きく変化しつつある。家計資産の半分以上が預貯金であったところが、足元ではその割合が半分を下回っている。NISAの拡充や賃上げの進展も相まって、投資マインドが高まり、日本経済全体が順回転を始めていると考えている。
 しかしながら、失われた30年でわが国が失ったものは決して小さくない。名目GDPは世界第5位に後退したとも言われており、グローバル競争力の面では依然として課題が残っている。人口減少下での生産性向上、地域経済の持続性、気候変動対応等を含む社会課題、国際情勢の急変に備えた経済安全保障など、挑戦すべきテーマは多岐にわたる。だから今こそ、わが国が有する潜在力を最大限に発揮し、世界のなかで存在感を高めていくことが求められている。その実現に向け、私たち金融界が果たすことができる役割は極めて大きいと考える。
 そこで、今年度の全国銀行協会の活動方針は、「日本経済の潜在力開放に向け、変革への挑戦を力強く後押しする1年」と定めた。まだまだ表に出てきていない日本の力を、しっかりと金融の力で成長軌道に乗せていきたい、後押しをしていきたいと考えている。
 今年度は、今申しあげた方針のもと、三つの柱を掲げ、取組みを進めて参る。第1の柱は、「未来につながる成長エコシステムの構築」である。産業の活力と家計の豊かさを両輪とした好循環を、より確かなものにしていく。具体的には、政府が進める産業政策や成長戦略とも連携し、銀行自身の目利き力、リスクテイク力を高めるとともに、多様な金融仲介プレイヤーとの協働を通じ、あるいは分野によっては官民が連携したハイブリッドで対応していきながら、成長投資やスタートアップへの長期的なリスクマネーを供給できる体制を強化していく。
 また、事業者の皆さまとの対話を一層深め、事業承継、事業再生、サプライチェーンの強靭化など、地域に根差した企業の変革を伴走支援していく。今年5月には、事業性融資推進法、いわゆる企業価値担保権制度が施行となる。こうした制度等の活用もしながら、担保・保証に過度に依存するのではなく、技術力、知的財産、人的資本、販路といった無形資産も含めた事業性評価を磨き、企業価値向上につながる金融仲介の質を高めていく。
 さらに人生100年時代を見据え、2世代、3世代にわたる資産形成を支援する商品・サービスの拡充や、金融経済教育の推進にも積極的に取り組む。年齢や経験、デジタル環境への慣れなどが多様であることを前提に、分かりやすい情報提供と丁寧なサポートを重ね、安心して資産形成に取り組める環境整備を後押しする。家計の豊かさが産業の成長に還元される好循環を生み出し、日本経済の新たな成長ステージへの移行を後押ししていく。
 第2の柱は、「信頼性と利便性を両立する金融インフラの革新と実装」である。デジタライゼーションの進展やAIの社会実装、ステーブルコインやトークン化預金など、金融の新たな潮流が世界的に進展している。現行の全銀システムは、これまでずっと堅牢な決済基盤を守ってきたという自負はある。だが、将来のイノベーションの創出、国際競争力の強化、またステーブルコインなど、決済手段の多様化等を踏まえると、しっかりとお客さまのお役に立てる基盤であり続けるためには、自らが変わっていく、進化していくことも重要であると考えている。
 今年度は、その次世代の決済システム将来像について、具体的な検討を進めて参りたいと考えている。決済は社会の血流であり、その高度化は企業活動の効率と国民生活の利便性を大きく左右する。銀行界として、信頼性を大前提に、よりオープンで、拡張性のある基盤の実現に向けて議論を進めていく。
 また、2027年3月には、手形・小切手の電子交換が廃止となる。5年前には年間で約4,000万枚が流通していたが、足元2025年では1,400万枚まで、およそ65%減少が進んでいる。とはいえ、地域・業種・業態などに偏りがあることも確認をしている。紙の決済手段から電子的手段への移行は、事務負担やコスト、紛失等のリスクを低減し、企業の資金繰り改善と生産性向上にも資する重要な改革である。お客さまの実務に影響が及ぶ点を十分に踏まえ、利用者への丁寧な周知と支援を行い、代替手段へのスムーズな移行が行われることが重要なテーマであると考えている。金融機関自身はもとより、商工団体、官公庁などの関係者とも連携しながら着実に進めていく。併せて、税・公金収納を含む社会全体の手続のデジタル化にも関係者と連携して取り組み、国民生活の利便性向上と社会の生産性向上に貢献していく。
 第3の柱は、「金融界の社会的責務を果たす健全かつ強靭な金融システムの共創」である。変化の時代であっても、揺るぎない信頼性と安心感を提供することこそ、銀行に求められる根幹の部分である。デジタル化の進展の裏で、特殊詐欺をはじめとする金融犯罪は巧妙化し、被害額は過去最悪を更新し続けている。また、ランサムウェア、標的型攻撃など、サイバー攻撃によりサプライチェーンに波及するなど、近年サイバーセキュリティのリスクも拡大している。こうした脅威は、個々の金融機関だけでなく、金融界一体となり、さらには官民の連携を深めながら、未然防止と迅速な対応に努めていく。またAML/CFTをはじめ、国際的に求められる対応を着実に進め、わが国金融システムへの信認を一層高めていく。これらは競争領域ではなく、非競争領域として共に創る共創を通じて、社会的責任を果たし、お客さま、社会からの信頼に応え続ける金融界を目指す。
 以上、三つの柱について申しあげたが、これらはそれぞれが独立しているのではなく、相互に深く関連している。強靭な金融システムという土台があってこそ、金融インフラの革新が可能となり、革新的なインフラの上でこそ、成長エコシステムは力強く回転する。その循環の中心にあるのが、常に信頼である。お客さま、社会からの信頼に応え続けることを最優先に、変革への挑戦を着実に前に進めていく。
 最後に、改めて基本方針に込めた思いを申しあげる。今年度は、日本経済が新たな成長ステージへと踏み出す、極めて重要な転換点であると考えている。日本には、企業の成長意欲、家計の資産、地域に眠る知恵と技術、そして次の世代の可能性といった、数多くの潜在力がある。その潜在力を開放するため、銀行界が変化をおそれず、しかし、信頼の土台を決して揺るがせることなく、挑戦する皆さまに寄り添い続けることが、今まさに求められていると確信している。
 こうした取組みを通じて、金融が果たすべき役割を全うし、日本の経済を押し上げていきたい。私自身、全銀協会長として銀行界の先頭に立ち、その責務を全うしていくので、どうかご支援、ご協力のほど心よりお願い申しあげる。