1999年4月20日

杉田会長記者会見(第一勧業銀行頭取)

(会長就任の抱負)
 本日午後開催されました、全国銀行協会定例総会ならびに理事会におきまして、岸前会長の後を受け、平成11年度の会長に就任いたしました杉田です。
 これからの一年間、どうかよろしくお願い申しあげます。
 就任にあたりまして、抱負を申し述べさせていただきたいと存じますが、その前に、まず、この場をお借りして、岸前会長に一言お礼の言葉を申し述べたいと思います。
 振り返りますと、昨年度は、4月に改正外為法、12月に金融システム改革法が施行されるなど、日本版ビッグバンに向けた動きが本格化いたしました。一方、秋の臨時国会で金融機能再生法、金融機能早期健全化法を柱とする金融システム安定化の枠組みが整備され、資本注入をはじめとする具体的な運用も行われるなど、銀行界にとってまさに激動の1年でありました。その中で、前会長は多岐にわたる重要課題に意欲的に取り組まれ、まことに立派に舵取り役を果たされました。そのご苦労とご努力に対し、心からの敬意を表するとともに厚く御礼を申しあげます。
 本日、私どもは、全国各地の銀行協会の連合体である「全国銀行協会連合会」を改組し、個別銀行を直接の会員とする「全国銀行協会」として、新たなスタートを切りました。
 銀行界がかつて経験したことのない大きな転換期を迎えている中で、昨年4月より、全銀協の担うべき役割、組織形態、運営方法等について様々な観点から幅広く検討を行い、その結果、組織運営全般の透明性・効率性向上を図る観点から、集団運営体制の導入、委員会のスリム化、会長選任時の輪番制の廃止、事務局の改革等を行ったものであります。
 この中で、私どもは、21世紀を展望して、わが国の銀行界を代表する組織として、その担うべき役割を改めて明らかにいたしました。その役割とは、決済システム等銀行業界にとって共通の業務インフラの企画・運営、銀行業務に係わる様々な事項の調査・研究・企画及び政策提言などであります。これら役割を果たすべく、銀行界の総力を結集して取り組んで参りたいと考えております。
 この1年間に取り組むべき課題を私なりに整理いたしますと、大きく分けて2つあると思います。第1に「金融システムに対する信頼の回復」、第2に「21世紀に相応しい金融システムの構築」であります。
 まず、「金融システムに対する信頼の回復」ですが、「信用」は、金融システム全体にとっても、また個々の金融機関にとっても、その存立の基盤であることは申すまでもありません。
 金融システムに対する信頼回復を図るには、何よりも銀行自身の経営の健全性回復に向けた取り組みが不可欠であります。私どもは不良債権問題の早期解決に向け努力を続けておりますほか、ディスクロージャーの拡充とコンプライアンスの強化にも努めております。今後は、不良債権の実質的な処理をさらに進めるとともに、戦略的な業務再構築や経営合理化に全力を傾注することが、活力に富む銀行界へ一刻も早く復活する王道であると考えております。
 また、安全性の高い効率的な決済システムの構築も金融システムに対する信頼を高める上で重要であります。私どもは昨年12月に、グローバル・スタンダードに適合した新しい外国為替円決済制度をスタートさせましたが、引き続き、日銀当座預金決済の即時グロス決済化に平仄を合わせた全銀システムの見直しなど、決済システムの高度化に取り組んで参りたいと思います。
 コンピュータの西暦2000年問題については、全銀協内に「西暦2000年問題検討部会」を設置し、個々の銀行における準備は勿論のこと、各金融機関を結んでいる全銀システムの金融ネットワークについても、引き続き接続テストを実施し万全の態勢を整えてまいります。また、私どものこうした活動について十分なご理解をいただくために、正確な情報を社会に提供することにより、安心して銀行をご利用いただけるよう努めて参りたいと考えております。 第二の課題は「21世紀に相応しい金融システムの構築」であります。
 新世紀に向けてわが国経済が活力を高めていくためには、経済の実態に合わなくなった金融システムの改革を果断に進め、新たなシステムを構築していくことが求められております。
 今後、銀行・証券・保険など業界の垣根の低下がグローバルなスコープで一段と進む中で、各金融機関は創意工夫をこらしつつ、競い合って、より利便性・効率性の高い金融サービスを提供していくことが重要であります。
 そのためには、金融に関わる諸制度がグローバル・スタンダードに則ったものに整備されていくことが求められます。その際、郵便貯金や政府系金融機関などの公的金融はどうあるべきなのか、公的金融システムの今後のあり方につきましても真剣な議論が必要と考えております。
 また、新たな金融システムを築いていく上では、利用者保護の枠組み、すなわち、一般のお客様が多様化・高度化する金融サービスを安心して受けられるような体制を整備することも重要であります。銀行界としては、こうした観点から、ディスクロージャーの充実、コンプライアンスの徹底、各種約款の見直しなどに取り組んで参りたいと考えております。
 わが国の金融・経済は、一時の危機的状況は脱したものの、依然として厳しい局面にあります。このような時期に会長の大役をお引き受けすることとなり、身の引き締まる思いであります。9人の副会長のご協力を得て、全力を尽くして参りますので、皆様方のご支援、ご指導をよろしくお願い申しあげます。 

(問)
 昨日の日銀支店長会議で景気の「下げ止まり感」が論じられたが、全銀協会長として現状の景気動向についてどのように感じているか。
(答)
 個人的見解であるが、先日発表された日銀短観で企業の景況感がやや上向いたのは、3月に入っての株価の上昇や、住宅投資の持ち直しの兆し、在庫調整の進展など、実体経済の一部に好転を窺わせる動きが出てきたことを反映したものではないかと考えている。 この背景には、積極的な財政出動に加え、金融システムの安定化や企業の資金調達円滑化に向けた諸施策、日銀による一段の金融緩和など、各種政策対応による効果が浸透しつつあることも大きく影響していると思う。 今後の景気の見通しについては、必ずしも楽観できる状況ではないが、現在の変化の兆しをどのように着実な回復軌道までつなげていくかが大事だと考える。私ども金融界にとって、今後発生してくる健全な資金需要に対し積極的に対応し円滑に資金供給機能を果たすことで、経済の回復に寄与・貢献していくことが使命だと考えている。 

(問)
 公的金融問題は継続的な問題であると思うが、今後どういった基本姿勢でその問題に取り組んでいくのか。
(答)
 公的金融は、あくまでも民間の補完に徹するべきものであると考えている。しかしながら現在、郵便貯金という巨大な公的金融機関が存在しており、民間金融機関とのイコールフッティングが確保されていないという状況にあることから、これまでも全銀協として申しあげてきたとおり、その確保を訴えていきたい。 中央省庁改革基本法において、郵便貯金事業は公社化されることとなったが、「郵貯の公社化は民営化への一里塚」との考えのもとで、全銀協としては引き続き主張・提言を続けていくつもりである。 

(問)
 過剰設備、過剰債務といった問題に全銀協としてはどういった対応をしていくのか。
(答)
 私見として申しあげる。 過剰設備の額を正確に捉えるのは難しいが、過剰設備が相当額に上っており、設備稼働率の低下を通じて企業収益を圧迫するとともに、新規設備投資の阻害要因となって景気を更に下押ししているということでは一致をみているようである。 過剰設備問題が発生した原因には、二つの側面があると考えられる。一つは、供給サイドで、(1)バブル期に期待成長率が一時的に高まり過大な投資が行われたこと、(2)90年代に入ってからは、アジアの高成長に対応して内外で設備投資を活発に行ったことにより、供給力が著しく増大したにもかかわらず、バブル崩壊後の日本の低成長や、97年以来のアジア経済の崩壊で、増大した供給力が過剰設備化したこと、である。もう一つは、需要面で、景気悪化による需要不足という循環的要因がある。 この問題は我が国の構造的な問題の一つとして、難しくまた悩ましい問題である。既に一部の業界で企業再編や工場閉鎖等の形で過剰設備の整理が始まっているが、このように過剰設備の解消は基本的には個別企業の自助努力により進められるべきものであろう。ただし、景気低迷の長期化により企業の体力もかなり弱体化しているので、企業に設備廃棄を促すために、会計・税制面での負担軽減策や遊休不動産の流動化・活性化対策、雇用面での支援等、政策面での配慮も必要であろう。金融界としては、産業界がサプライサイドの改革を進めるにあたっては、個々の案件の円滑な処理のため、具体的な案件に係わる各個別金融機関において可能な協力を行っていくことになるが、債権放棄や債務の株式化などの再建支援は、あくまで個社別に経済合理性や社会的影響、再建可能性、経営責任、株主責任の問題等の観点から慎重に検討していくものと考えている。 なお、私どもとしては、健全な企業の健全な資金需要に対しては積極的に対応し、金融の円滑化に努めることを通じて公共的使命を果たしていきたいと考えている。 

(問)
 業界団体の地位の低下が叫ばれるなかで、全銀協としてさらなる改革の必要性についてどのように考えるか。
(答)
 全銀協の組織改革の経緯を振り返って説明することで今後の協会活動をより理解していただけると思う。 平成9年の秋以降、大型金融機関の破綻が相次ぎ、金融システムの安定化が我が国政治・経済の最重要課題となった。年が明け、銀行界と監督官庁との間で、社会から非難を浴びる問題が発生した。金融行政は早期是正措置の導入に見られるように、事前規制から事後監視へ、つまり自己責任方式へ監督体制が移行した。 このような中で全銀協では、組織運営のあり方について様々な角度から検討を行うこととなった。平成10年4月に臨時機構等調査委員会が開催され、5月から10月にかけて集中的に検討を行い、「組織運営に関する答申」がまとめられた。 ここでは4つのポイントが挙げられている。1つ目は組織運営全般の透明性・効率性の向上、2つ目は激しい環境変化に対応できるような迅速かつ機動的な意思決定プロセスの確立、3つ目は将来の変化に耐えられる柔軟な制度・ルール作り、そして4つ目は共通の問題意識に関する政策提言や情報発信機能の強化である。 これらを具体化するためには6つのポイントがある。1つ目は我が国の銀行界を代表するに相応しい組織を作り、役割を果たすことである。決済システムの運営・企画あるいは、経済・金融の調査活動強化により、政策提言・情報発信機能を強化する。2つ目は集団運営体制の導入である。今後は正副会長会議によって実質的審議を行い、会長行の負担を軽減していく。3つ目は輪番制の廃止である。4つ目は委員会・部会のスリム化を行う。90以上あった委員会・部会を必要最小限にするべく7つの委員会を設置し、それぞれ副会長が責任をもって担当する。5つ目は事務局改革である。6つ目は行政当局とのあり方について、銀行界共通の意見については、全銀協という透明性の高いチャネルを通じて金融当局に対し意見を述べていく。また、金融当局から全銀協加盟各行への連絡にあたっては事務局がその窓口となる。 以上のように抜本的に組織運営の方法を改めたほか、これからは各行が直接全銀協に加盟することになり、現に外国銀行2行が正会員、20行が準会員として加盟をすることとなった。直接加盟により、間接的な加盟と異なり、各行に「自らの全銀協である」との認識を持って協会の活動に携わっていただけるので、全銀協の改革の趣旨も活かされていくだろうと考えている。 

(問)
 ペイオフ解禁について、その時期や保護対象のあり方などに関する考えを伺いたい。
(答)
 全銀協として議論していないので個人的な見解として申しあげる。 ペイオフについては、96年の預金保険法改正により2001年4月からの実施が決定されている。私ども民間金融機関としては、その実施に備えて、一層の財務体力の強化に努めるなど経営努力に努めているところである。 預金保険の対象商品の拡大や実施にあたっての様々な問題については、今後金融審議会等の場で議論されていくものと考えている。 

(問)
 先程景気の現状について話されたが、地域経済の動向についてはどのように認識されているか。
(答)
 手許に地域毎に分析した資料を持ちあわせておらず、コメントは差し控えたい。 

(問)
 中央省庁再編により大蔵省が財務省となり、また、金融危機管理と破綻処理の企画・立案機能が共管になるというような方向で決着する見込みとなったが、このような方向性についてどのように考えているか。
(答)
 そのような方向性については報道を通じて承知しているが、行政に関わる問題であり、コメントすべき立場にない。いずれにしても、十分な議論を通じて最終的に確定することとなると思うので、然るべく行政が遂行されていくことを期待し、また、それを確信している。 

(問)
 外国銀行が加盟することによって、全銀協の役割が具体的に変化することはあるか。
(答)
 外国銀行については、2行から正会員として、また、20行から準会員としての申請があり、実際に加盟を承認されている。 各加盟銀行の全銀協に対する期待は、個別行のニーズによって様々であろうが、組織運営に関する透明性・効率性の向上、政策提言や情報発信機能強化といった今回の見直しの精神に則り、外国銀行のみならず、既存会員銀行の期待にも応えるような舵取りを行っていきたいと考えている。 なお、外国銀行だけでなく、業態別信託子会社についても、正会員として1社が、準会員として9社が加盟している。 

(問)
 「金融システムは一時の危機的状況から脱した」との発言があったが、どのような意味で金融システムは安定したと考えるか。また、どのような部分が安定しなければいけない部分として残っているか。
(答)
 昨年秋の臨時国会で金融再生法、金融機能健全化法が成立し、いわゆるセーフティーネットが用意されたことにより、現実に当行を含め大手銀行に3月に公的資金が導入され、金融システムに安定感が出てきたと考えている。 

(問)
 銀行の財務基盤が強化されたという意味で、安定化したということであって、金融仲介機能を健全に果たすという部分ではまだ課題が残されているということか。
(答)
 金融システムが安定化していく中で、各金融機関がそれぞれの金融仲介機能を高め、経済の再生・活性化につなげていくことが重要である。 

(問)
 全銀協としては政治との関わりについてどのようなスタンスで臨んでいくのか。
(答)
 政治献金については個別銀行が判断すべき問題であり、全銀協として取り扱う考えはない。 私見であるが、政治献金のあり方としては公的助成と個人献金により賄われることが望ましいと考えられ、このような考え方に沿って政治資金規正法、政党助成法も制定され、全体として企業献金は抑制の方向にあると思う。しかしながら、現状では公的助成と個人献金ですべて賄える環境が整っていないことから、環境が整うまでの間、政治資金規正法により定められた範囲内で企業が相応の支援を行うことはやむを得ないものと考えている。 国会議員との関係では、金融界の現場にいる者として、その実情を踏まえた意見を必要に応じて申しあげていきたいと考えている。 

(問)
 会長は先ほど、新しい全銀協の役割として政策提言とおっしゃられたが、一方で、ペイオフの解禁については金融審議会で議論される、あるいは、債権放棄の問題については、個別行の問題であるとおっしゃられた。例えば、デット・エクイティ・スワップのような新しい手法に関する環境整備とか、ペイオフに関し、金融債をどう扱うか、といった問題については、全銀協として政策提言の対象に含める考えはないのか。
(答)
 今後議論することもあろうとは思うが、いまのところ私どもとしては、預金保険制度の話であれば金融審議会等で議論されていくものであり、また、デット・エクイティ・スワップの問題は債権放棄等と同様に再建可能性や経済合理性、関係者間の負担のバランス、債務者のモラルハザード・経営責任、株主責任、社会的影響といった問題があり、個別に慎重に検討していくものと理解して申しあげているわけである。ご指摘の点については、機会があれば、全銀協として意見を申しあげることも当然あろうと考えている。 

(問)
 今後、全銀協としての政策提言を検討するうえでの大きなテーマは公的金融問題となるのか。
(答)
 今後1年間の取組み課題としては、先ほども申しあげたとおり、信頼の回復と21世紀に相応しい金融システムの構築について、具体的な検討を進めていくということである。 パブリックコメントを求められる機会も増えつつあることから、全銀協が意見集約機能を発揮していくことになると考えている。 

(問)
 先ほどから集団運営体制といわれているが、具体的に組織運営はどのように変わるのか。
(答)
 従来、3名以内とされていた副会長を9名まで増員したうえ、各副会長が7つの委員会それぞれを担当することで協会運営に積極的に参加することとし、組織運営の透明性をこれまで以上に図るとともに、これまで会長行に集中していた負担の分担を図ることとした。 したがって、従来はなかったことであるが、ケースバイケースで、副会長に、全銀協を代表して前面に立ってもらうことも考えている。 また、実質的な意見交換・審議を行う場として正副会長会議を設置することとした。 

(問)
 会長は、個別行頭取として反社会的勢力との決別の指揮を執ってこられたが、全銀協会長としてはどのように取り組んでいく考えか。
(答)
 これまで個別行として最大限の努力を払ってきた経験を活かしていきたい。 金融というものは非常に高い公共性を有しており、各行には、それぞれが高い自己規律を発揮し、コンプライアンスに一層取り組んでいくことが求められている。このような認識から、全銀協としても、97年7月に「銀行の社会的責任とコンプライアンスについて」を申し合わせ、その9月には「倫理憲章」を制定した。また、昨年は公務員に対する接待・贈答の問題に関し「コンプライアンス・ハンドブックI」を作成するなど、銀行のコンプライアンス推進のための活動を盛んに行ってきている。 新たな体制における7つの委員会の中にも「公共委員会」を設けており、今後ともコンプライアンスに真剣・真摯に取り組んでいく。全銀協会長としてこのような活動を通じて、社会からの揺るぎない信頼確保のために力を尽くしたい。 なお、コンプライアンスの確保・推進においては、経営トップが果たす役割が非常に大きいので、このような立場にある者は自ら率先垂範して行動すべきであると考えている。