1999年5月25日

杉田会長記者会見(第一勧業銀行頭取)



(問)
 今日、大手銀行の決算発表が終わったが、これで不良債権処理に決着がついて銀行の経営が前向きに転換する目処がついたと思うか、それともまだまだやるべきことが多くて大変だと思うか。今回の銀行決算についての評価を聞きたい。
(答)
 決算発表が行われたばかりなので、まだ詳細な検討は行っていないが、大手行の今回の決算概要を見た限りでは、全行が経常赤字となったが、各行とも思い切った不良債権の償却・引当処理を実施されたようであり、そうした要因が大きかったのではないかと理解している。 これにより、不良債権の財務上の手当てについては、ほぼ目途がついたものと思われる。 こうして費用処理された引当金残高に、担保・保証によりカバーされている分を加えた残高が、不良債権残高に対してどのくらいあるかを示す保全率も押し並べて高い水準となっている。 一般論として申しあげれば、不良債権の新規発生の状況は、景気動向や地価の推移等外的要因により左右されるものであり、その結果として毎年の不良債権の財務上の処理額は変わり得る。ただし、第1に、早期是正措置制度のもとで自己査定とそれに伴う償却・引当手続が、金融検査マニュアル最終とりまとめの公表等とあいまって整備されたこと、第2にただ今申しあげたように、平成11年3月期には各行とも償却・引当処理により思い切った不良債権処理を行ったとみられること、第3には保全率が押し並べて高い水準にあること等から、通常予測し得ない外的要因の変化等がなければ、今期以降の不良債権処理の負担は大幅に軽減するのではないかと認識している。 今後は、担保不動産等の売却により不良債権の回収を図るなど、不良債権をバランスシートから落としていくという、実質的な処理をさらに進めていくとともに、収益力を一層向上させていくために、個々の金融機関にとって、今後どの分野に自らの比較優位を見出し、資源を集中させていくかという戦略的対応が、重要な経営課題となろう。 

(問)
 最近、国民銀行や幸福銀行が破綻し、他にも経営基盤が脆弱な地銀、第二地銀があり、今後、金融システム不安が高まる可能性があるといわれているが、これについてどう考えるか。また、ペイオフ解禁について全銀協としてどう考えているか。さらに地域金融機関に対する公的資金注入に関して、何らかの基準作りが必要との意見があるが、銀行界としてあるべき姿はどのようなものが望ましいと考えているか。
(答)
 一般論として申しあげれば、昨年秋の臨時国会で制定された金融再生法・金融機能早期健全化法等、金融システム安定化のための仕組みが整えられており、地域金融機関の破綻が金融システムへ与える影響は最小限にとどめられるのではないかと考えている。 現在、株価が比較的安定的に推移しているほか、いわゆるジャパンプレミアムもほぼ解消された状態が続いているなど、わが国金融システムに対する信頼は、回復しつつあるのではないかと考えている。 こうした中、ペイオフ解禁延期の議論については、全銀協として正式に議論はしていないので、以下は個人的な意見であるが、2001年4月からのペイオフ実施は、政府が96年の預金保険法改正の際に公式に示した既定方針であると認識している。 私ども民間金融機関としては、2001年4月からのペイオフ実施に備えて、一層の財務内容の強化に努め、金融ビッグバンを生き残る強い体質を作り上げていくことが重要と考えている。 なお、地域金融機関への公的資金注入基準については、全銀協としてはコメントする立場にはないと思う。当局が、金融機能早期健全化法等の趣旨に基づき、対応すべきものと考えている。 

(問)
 ペイオフ解禁の延期はすべきではないという考えか。
(答)
 個人的見解としては、すでに公式に示された既定方針であると認識しており、我々がやるべきことは自らの体力を増強して、それに備えるべきであると考えている。ペイオフ以降のあり方については金融審議会等の場でいろいろと議論がされると思う。 

(問)
 高額納税者のなかに金融機関の経営者が多かったが、金融機関の経営者の報酬についてどう考えているか。
(答)
 個別行の頭取としては、その件についてご批判があることについては十分承知しているところである。先般提出した経営健全化計画においても、更なる役員報酬のカットを織り込んでおり、既に本年4月より実施している。 今後株主の方々や世間の皆様からそのようなご批判を受けることのないよう、銀行経営に最大限の努力を尽くしてまいりたい。 

(問)
 高すぎるとの批判については、やはり高いと考えているか。
(答)
 高いか低いかについてはいろいろな議論があると思うが、それなりの業績・パフォーマンスが示されて、高額収入を得るという外国の例もある。現在我々が置かれている状況を踏まえて、当行としては報酬カットを実施したところである。 

(問)
 不良債権の額について、旧基準のリスク管理債権と新基準の金融再生法の基準による額との差額が第一勧業銀行の場合で1兆円ある。今までの旧基準の不良債権の開示は適切な情報開示といえるのか。
(答)
 個別行として答える。今回リスク管理債権が増加した主な要因の第一は、未収利息の計上基準の変更によるものである。即ち、従来のリスク管理債権の開示は、税法上の未収利息不計上債権を開示するというルールであったが、昨年12月の銀行法施行規則の改訂により開示が法的に義務づけられるとともに、税法基準に拘束されず各行が未収利息を計上しないと判断した債権を開示するというルールに変更されている。 従来、リスク管理債権の開示基準が税法に依拠していたのは、外形的かつ客観的な基準により、できる限り比較可能なものにしようという考え方を基本として制定された経緯があるからであり、基準が甘かったということではない。 一般に、未収利息を計上する、しないの判断は基本的には会計上の問題であり、各行が公正妥当な会計基準に従い計上か不計上かが決定され、更に監査法人による適正性のチェックが行われているが、今般、当行は自己査定において破綻懸念先以下とした債務者に対する貸出金については、未収利息を全て不計上とすることとした。これは、金融検査マニュアルにおいて、「破綻懸念先以下とした債務者に対する貸出金の未収利息は原則として資産不計上としているか」とされたことがひとつの契機であるが、銀行経理の健全性という観点から慎重かつ十分な検討を行った結果である。 リスク管理債権が増加した主な要因の第二は、保守的な自己査定を実施した結果によるものである。即ち、追加的かつ予備的な引当を思い切って前倒しで行うことにより、不良債権問題に決着を付けるとの方針の下、従来以上に厳格かつ保守的な自己査定を実施し格付を見直した先もあり、結果的にリスク管理債権の増加要因となったものである。 各期の開示内容については、当局あるいは全銀協において十分検討の上、その時々における情報開示に関する社会的要請に、最大限応えるものとして基準が策定されてきたものであり、いずれもその時代に即した適切な開示であったものと認識している。今後とも透明性の高いディスクロージャーを維持してゆく所存である。 

(問)
 今まで、何故、保守的な自己査定が出来なかったのか。
(答)
 基準が変化して比較しづらいと思うが、過去の自己査定が甘かったということを言っているのではない。情報開示に関する社会的要請に対してもその時点その時点で最大限応えてきたと思っている。過去が甘かったとは決して認識していない。 

(問)
 その時代その時代に適した開示を行ってきたとおっしゃっているが、例えば、今の開示基準であっても、要注意先債権については開示が義務づけられていない。今回、唯一、要注意先債権の開示を行った富士銀行のケースを見ていると、要注意先債権の額がかなり大きいが、可能性はともかくとして、将来的に開示基準が変更になった際、その時点で開示する各銀行の不良債権の額が大きくなってしまうと、銀行への信頼度が崩れてしまうのではないか。
(答)
 要注意先は、今後の管理に注意を要する先ということであり、その対象は破綻懸念先に近い先から正常先に限りなく近い先まで、大変幅広いものとなっている。 したがって、これをひとくくりに不良債権と言ってしまうのは、いささか適切さを欠いていると考えている。 仮にこれを不良債権として開示した場合には、取引先への悪影響等も懸念されるところであり、現状、要注意先の開示を行う予定はないし、全銀協として統一開示項目とするつもりもない。 金融再生法に基づく開示基準でも、開示対象は要注意先債権のうち要管理債権であり、それ以外の要注意先債権は正常債権と位置づけられている。 なお、各銀行の個別判断により自主的に開示を行うことは全銀協として妨げるものではない。 

(問)
 個別取引先を一件一件開示するわけではない。それでも要注意先債権を開示することによって取引先に悪影響を及ぼすとはどういうことか。
(答)
 個別の取引先を開示するわけではないので、直接的にそれぞれの顧客がそこに分類されているということが判明するわけではないが、いつのまにか、要注意先に入っているとか、入っていないとかが風評の類で流布することはよくあることであり、そういう意味で悪影響が懸念されるということである。 

(問)
 要注意先債権の範囲が広いということはわかるが、要注意先債権は正常先債権には入れられない理由があるわけであり、いくら範囲が広いといってもそこは不良債権のなかでの幅広さであって、正常先債権に入らないのであれば不良債権であるというのが一般的な認識であると思うが、先程言われた認識は銀行界だけの特殊な認識なのではないか。
(答)
 先程から要注意先は大変幅が広いということを申しあげている訳で、例えて言えば、鼻かぜをひいた方と肺炎に近い方とを同じ範疇にくくるということであり、不良債権としてひとくくりにすることには問題がある。通院または市販の薬を飲んで直る場合と、しかるべく入院をしなくてはならない人を同じ範疇でくくるということは考えられない。 

(問)
 それは、2分類、3分類、4分類という今の分類の仕方がおかしいということか?
(答)
 自己査定と開示についてご説明すると、自己査定というのは適切な償却・引当を行うための準備作業であって、開示を目的としたものではなく、我々はこれを不良債権の開示とすることは適切でないと考えている。開示について申しあげると全銀協としても、98年3月期より、米国基準を参考として、客観性の高いリスク管理債権の開示を拡充しており、またリスク管理債権は銀行法の改正により、99年3月期から開示が義務化されているところである。 

(問)
 不良債権の開示基準が変わったとはいえ、時を経るごとに不良債権の額が大きくなってきており、その結果公的資金の注入にまで至っている。今回また基準が変わったことで、不良債権の額が大きくなったといった経緯について、銀行界として反省はないのか、会長としてどう考えているのか。
(答)
 これまでの開示基準については、その時々の社会的な要請に最大限に応えるという理念に基づいて開示がなされてきたと思っている。近時に至り、銀行法、金融再生法の施行規則の中に開示項目が義務づけられた。ある意味では以前よりも厳しくなっているという評価もあるかもしれないが、必ずしも過去の開示が妥当性を欠いていたとは思っていない。 

(問)
 適切な償却・引当を行うための自己査定が開示に適さないとはどういう理由なのか。
(答)
 自己査定というのは、償却・引当を行うための内部の準備作業であって、それ自体を開示することは適切でないと考えるからである。 なお、償却・引当については、各銀行が公認会計士協会の実務指針にのっとり、それぞれ自己責任で行っているものであり、全銀協で統一していくべきものではないと考えている。適切な償却・引当を行うための準備作業である自己査定についても、自己責任原則に基づくものであり、全銀協の立場から申しあげると、法令等に定められたものなど必要なものは統一されることになると思うが、基本的には、各行が合理的な判断によって、作成していくものだと考えている。 

(問)
 開示基準が変わるたびに不良債権額が大きくなってきているが、今後も大きくなる心配はないか。
(答)
 現在の基準によって99年3月期の数字を開示しているが、今後の基準がどうかということについては今の時点では何とも言えない。 

(問)
 大半の銀行は山を越えたと言っているが、会長としてはまだそのような認識ではないということか。
(答)
 先程も言ったように、今回は思い切って前倒しで処理を行っている銀行も多く、また個別行としてもそうであり、加えて担保や保証を加えた保全率も相当な水準を確保していること等を考慮にいれると、目処がついたと言っても過言ではないと思う。 

(問)
 確定拠出型年金401Kについて、来月大蔵省等4省が制度の骨子を発表するとのことであるが、これについて全銀協として制度面について何らかの要望を出す予定はあるか。
(答)
 わが国の社会の急速な少子化・高齢化や企業の雇用形態の変化に対応するものとして、確定拠出型年金制度の導入は急務であると考えている。こうした制度を導入するにあたり、税制面の優遇措置を設けることにより、制度の普及を促進することは、国民経済の面からも是認されると考える。 この制度は、基本的には自己責任に則った運用が行われるべきであり、従業員等による運用選択は可能な限り自由に行われる必要がある。 なお、具体的な制度設計にあたっては、いわゆるマッチング拠出、すなわち企業拠出型への従業員拠出や個人拠出型への企業拠出を認めること、元本確保型の商品を含めた様々なタイプの商品を認めること、また、給付形態については、加入者の多様なニーズに応えられるよう一時金の受取りも可能とすること等が必要と考えている。 銀行界としては、年金資産の運用に加え、確定拠出型年金に関する受託事務等にも積極的に取り組み、本制度の普及と発展に貢献していきたいと考えている。 全銀協としては今年3月に4省に対して意見書を提出しているが、今後も機会があれば必要に応じて意見を述べていきたい。