会長記者会見
1999年7月21日
杉田会長記者会見(第一勧業銀行頭取)
(問)
先般の日銀短観と最近の株価上昇を受け、景気の現状をどのように見ているか、特に、中小企業向け融資の現状や設備投資の先行き等を踏まえた見解を聞かせて欲しい。また、日銀短観の結果が良いことや株価上昇は、日銀のゼロ金利政策が継続されていることが寄与しているとの見方もあるが、これについての見解も聞きたい。
(答)
1999年1~3月期の実質GDP成長率が年率7.9%と大方の予想を上回る高い伸びを示し、製造業の在庫調整もさらに進展するなど、景気は下げ止まりの傾向が一段とはっきりしてきたと言えると思う。また、先般の日銀短観においても、3月調査に続いて企業規模、業種を問わず景況感の改善が見られており、消費者のマインドについても明るい兆しが見られるなど、明るい材料もある。また、株価についても一昨日は1年10ヶ月振りに1万8,500円台となった。今日はやや反落はしたが、1万8,000円台にのったということも、景気回復への強い期待感を反映したものと思われる。 ただし、個々の経済指標を見ると、こうした改善傾向が広がりを見せるなかで、悪化を示している指標もあり、明暗が交錯した状況をまだ脱しきっていないように思われる。特に、企業の設備投資に回復の気配がうかがわれず、今後、雇用・所得環境の悪化も懸念されるなかで、景気の先行きについては楽観を許さない状況にあるのではないかと思っている。 融資の現状については、全銀協にて集計している3業態合計の総貸出金残高の動向および日銀集計の中小企業向け貸出金残高の動向のいずれも同じ傾向を示しており、前年同月を下回っているという状況が続いている。 これは、設備投資や運転資金などの資金需要がまだ低い水準にあることに加え、前年度下期に手許資金を厚くするために借り入れを行った各企業が、4月以降、経営効率化に向けて債務圧縮に動いており、それらが、こうした貸出残高の動向につながっているのではないかと思っている。 実際に当行の審査部門にあがってくる案件の内容や件数を見ても、設備投資や運転資金の資金需要が低いことが見てとれる。ただ、住宅ローンについてはこのところ持ち直しつつある状況にある。 こうした中にあって、本日、雇用対策等を盛り込んだ補正予算が成立し、∋唆罰萠郎得呼段盟蔀嵋^藤およびそれに関連する租税特別措置法の改正案がいずれも閣議決定され、法案提出の運びとなった。今後については、こうした新たな対策の効果と、これまで展開されてきた対策の効果が相まって自律的な経済回復につながっていくことを期待している。 ゼロ金利政策の継続についてであるが、2月12日に日本銀行の金融政策決定会合でその方針が出され、今もその状況が続いている。我々は、金融政策等の運営に関してコメントをする立場にはないが、一つ申しあげたいことは、金利の上昇は企業の利払い負担を増大させることになり、景気回復の阻害要因になりかねないということである。今後の適切な政策運営に期待している。
(問)
市場では2000年問題を理由にジャパンプレミアムの再発の懸念や短期金利の押し上げ要因となるとの見方があるが、2000年問題への対応状況と、今後のマーケットへの対応について、考えを聞かせて欲しい。
(答)
金融監督庁や日本銀行からも発表されているように、2000年問題に対する我が国の金融機関の対応状況については、順調であると認識している。 危機管理計画についても、各行に確認したところ、ほとんどすべての銀行において、6月末までに作成を終わっている。 今後は、各行において、危機管理計画に沿った、具体的な体制の整備を図っていくことになるが、その中には、先程、専務理事からご報告した、預金データの消失防止策や流動性対策もある。 ジャパンプレミアムについては、日本の金融システム不安に起因したものは現在解消したとみている。2000年問題がジャパンプレミアムを再発させるのではないかということについては、以前、ガートナー社が1998年7月~9月の古い時点の調査で日本の対応が遅れているということで、4つのグループの上から3つめに評価していたが、10月~12月時点の調査では2つめのグループに上がっており、評価は持ち直している。また、ムーディーズ社も、日本の銀行界の対応について海外ネットワークを含めて概ね良好と評価している。このため、2000年問題を直接の原因とするジャパンプレミアムはないのではないかと思っている。この問題に関しては、これまでわが国における2000年問題への対応状況や進捗状況についての広報が、十分ではなかったのではないかと反省しているところである。 金融機関の流動性対策については、各行とも危機管理計画を作成しているが、そのなかで流動性対策をどのようにしていくかということについて、個別に経営判断がなされているものと思う。ただ申しあげたいのは、資金の出し手の不安感を抑えるという意味で、個々の銀行が2000年問題に整斉と対応すると共に、その対応状況について、積極的に情報開示を行っていくことが必要であるということである。 なお、日銀ネット、全銀システムなどの各種決済システムについては、昨年12月以来、これまで5回、多数の金融機関が参加して共同接続テストを繰り返しており、今月25日に、最終の接続テストを予定している。加えて、来年初の1月2日、つまり、1月4日の営業開始前にそれらの決済システムにおいて立上げ確認テストを実施することとしている。 全銀協としては、年末年始における状況を把握するための全銀協情報センターの設置や銀行界の対応状況についての広報活動を行うことなどを通じて、今後、2000年問題に取り組んでいきたいと思っている。
(問)
金融審議会において、預金保険制度に関する論点の中間的整理が出されたが、どのように受け止めているか。今後、全銀協としてはこの問題にどのように対応していくのか。 また、一部にペイオフ延期論が出ているが、これについてはどう考えているか。
(答)
本件については、全銀協では検討部会を立ち上げたばかりで、今後議論していくこととなるので、以下は個人的見解として申しあげる。 2001年4月からのペイオフ解禁は、政府が96年の預金保険法改正の際に公式に示した既定方針であり、その背景には、ペイオフ凍結が例外的・臨時的な措置であり、本来金融機関や預金者は自己責任原則に則って市場規律のもとで行動することが、今後のわが国の金融システムを強化するために不可欠であるとの判断があるものと認識している。 金融審議会でも、ペイオフ解禁を前提に検討が進められており、先日公表された中間的論点整理の内容は抽象的なものから具体的なものまで様々だが、ペイオフ解禁に係わる問題点としては十分整理されているといえるのではないかと思う。ただし、それぞれの論点については、両論併記で示されているものも多く、金融審議会においても今後更に検討が深められていくことになると思う。 私どもとしては、先程申しあげたペイオフ解禁の背景を十分踏まえ、それに向けて一層の財務内容の強化に努め、金融ビックバンを生き残る強い体質を作り上げていくことがまず肝要と考えている。 まだ中間的論点整理が出たばかりであり、今後全銀協でも先日企画委員会の下に設置した預金保険制度検討部会等の場で、金融審議会等の動向をフォローしつつ検討を深めてまいりたいと考えているが、ペイオフ解禁後重要なことは、預金者に負担が求められることもありうるという前提のもとで、実務的にワーカブルで、コストの小さい破綻処理スキームを、いかに構築していくのかという点にあると思う。私どもとしては、中間的論点整理に指摘されている課題の解決に向けて、実務者の立場から今後意見を申し述べていく所存である。
(問)
先ほど、菅野専務理事の報告にもあったが、本日の金融監督庁との都長銀信託の頭取・社長級の意見交換会で、皆さん方からは具体的にどんな意見を述べたのか。特に、金融検査マニュアルについて様々な異論があるとか、また、ある銀行の頭取によれば夏休みの取り方についても色々注文がつくようで、それではあまりにもやり過ぎではないか、という意見もあるらしいが、率直なところ、どんな意見を交換されたのか。
(答)
本日の金融監督庁との意見交換会は50分間強にわたった。金融監督庁からも色々な説明があったが、私からは、金融検査マニュアルについては、とりまとめの過程では透明性の高いプロセスを経ていただいたが、今後も引続き同様な対応をお願いしたい、また、その金融検査マニュアルをもって、現実に検査にあたられるわけであるが、その際には現場と率直な意見交換をして欲しいということを要望した。 リスク管理モデルの考え方については、「はじめに規制ありき」ということではなく、バーゼル委員会の議論に主体性を持って提案をしていくというなかで、規制とリスクとの関係に関する考え方については、大変良い方向にいっているのではないかと思うし、我々としても今後のパブリックコメントを通じて、いろいろと意見を申しあげていく、ということをお話した。
(問)
先程、会長が融資について、取引先の設備投資への需要がない等いろいろおっしゃっていたが、むしろ、銀行側の融資態度はどうなのか。特に、顧客指向がおろそかになっているのではないか、リスクについてシビアに考え過ぎて縮小傾向になっているという批判もあるが、その辺についてどうお考えか。
(答)
融資の問題については、先ほども申しあげたが、資金の実需、健全な資金需要が依然として低いという状況があり、また、一方で、中小企業に対しては経営健全化計画の中である程度の目標値というものもある。その中で、大変厳しい運営を迫られるわけであるが、我々としてはリスク管理能力を更に高め、リスクテイク能力もある程度高まったという状況で、健全な資金需要を持った先には金融仲介機能を果たせないということがないように、日々業務を推進している。現実に、資金需要が低いということは認めざるを得ないし、目標達成のために、リスク管理能力を超える融資をするわけにはいかないという難しい状況にあるが、我々としては資金需要に応じていくんだという姿勢を強く出していきたいと思っている。
(問)
中小企業向け貸出について、経営健全化計画のフォローアップの中で7000億円以上の不足が公表されており、今の段階で計画の達成が難しいのではないかといわれているが、計画の下方修正の予定はあるか。
(答)
通常、3月の計画のための作業は12月ごろに行っている。おそらく計画を立てた段階での見込みを、実績が下回ったということであろう。計画を下回った各行の事情は分からないが、個別行としては3月末時点では、ほぼ計画を達成している。 今後は、資金の実需が低い状況で、難しい運営が予想されるが、今の時点で下方修正をすることは考えていない。
(問)
将来的にはどうか。
(答)
動向を見据えた上で、対応を考えることもありうるかもしれないが、今は計画の下方修正などは考えていない。
(問)
長銀の受け皿問題についてであるが、他の大手銀行あるいは地銀においても長銀の取引先と取引があると思うが、長銀の受け皿がどうなるかによって、他の銀行への影響も出てくるのではないかと思う。受け皿について金融界として何らかの期待や希望を持っているのか。
(答)
長銀の受け皿問題に関しては、皆さんの報道以上の知識がないので、現実に今どうなのかという詳細については存じあげていないが、私としては、一刻も早く長銀が然るべく受け皿に譲渡され、再生を果たし、引続き金融仲介機能を果たしていただきたいと思っている。