1999年11月30日

杉田会長記者会見(第一勧業銀行頭取)

菅野副会長・専務理事報告

 会長会見に先立ち、菅野副会長・専務理事から次のとおり報告した。
 本日の理事会では、まず、次期の副会長をお手許の資料のとおり内定した。信託銀行からの副会長については、資料の注記にあるように、来年4月1日合併後の中央三井信託銀行の社長就任予定者が候補者となる予定である。
 なお、副会長の正式な選任は、来年4月の定例総会後の理事会において行われる。
 次に、年末に向けた金融の円滑化について、お手許の資料のとおり申し合わせを行った。
 また、「円の国際化に向けて」と題する報告書を了承した。
 最後に、準会員として、日債銀信託銀行の加入を承認した。これにより、全銀協の会員数は、正会員147行、準会員37行、特別会員72協会となり、合計256会員となる。


会長記者会見の模様


(問)
 先般、大手銀行の中間決算の発表が出そろったが、公的資金注入時の健全化計画との比較において不良債権の処理がかなり増えたり、中小企業向け融資も多少のばらつきが見受けられる。会長は、全体的にどのような印象を持っているか。特に、不良債権の処理額は増えたとはいえ、昨年、一昨年のようなことはもうないと言えるのかなどについて伺いたい。
(答)
 決算発表が行われたばかりなので、まだ詳細な検討は行っていないことをお断りしたうえで、印象を一言でいうと、不良債権を思い切って前倒しで処理したことにより大幅な赤字決算となった前期に比べれば、各行ともおしなべて不良債権処理額も、不良債権残高も減少しており、今後の景気動向や地価の下落率等不確定な要素はあるものの、不良債権の償却・引当については、ようやく一段落したというか一息ついた状況であると思っている。
 今後の課題としては、担保や引当金で保全率は高い状況ではあるが、依然残高として多い不良債権を減らしていくことと、収益性の改善という問題があろうかと思う。
 早期の不良債権処理については、各行とも懸命な努力を払っているところであるが、更に努力を重ねていくことになろうかと思う。
 収益力については、各行ともスプレッドの引き上げを行い、一方で資金原価が低下したため、総資金利鞘の面ではその改善などがみえ、多少改善傾向にある。健全化計画等各行のリストラ計画に則って一層の経営の効率化を図っていくということになろうかと思う。
 次に、不良債権処理額の増加に関しては、大手17行の不良債権処理額は1兆5,900億円であった。これは当初の予想の2倍に膨れあがっているが、実質業務純益の1兆6,300億円の中には収まっている状況であるかと思う。
 他行の不良債権処理額増加の理由については知り得る立場にないので、個別行として申しあげる。当行の当中間期決算における不良債権処理額は、結果として、一般貸倒引当金を入れて930億円であり、当初予想の600億円に対し、330億円の増加となった。この原因は主として当初予想していなかった大口の債権放棄が発生したことによるものである。通期の12年3月期の不良債権処理額については、今後の景気動向や金利・地価動向等不確定要因もあるが、直近の実績を踏まえ、一般貸倒引当金を入れて1,700億円程度とみている。これは、春の予想の1,200億円より500億円の増加である。
 健全化計画との比較についても、個別行として申しあげる。12年3月期の不良債権処理額は当初予想を上回るが、国内資金の利益改善等により業務純益や経常利益等収益面は、健全化計画を上回ると予想している。また、経費削減や経営合理化等についても12年3月末の計画は達成できる見込みである。
 中小企業向けの融資残高については、当行においては、9月末の貸出金残高は、中間期で年度末計画を514億円上回る水準となっている。依然、資金需要が弱い状況の中、資産の健全性、収益性を維持しながら、融資拡大を行っていくことは、言うは易く、難しい課題であるが、今後とも、健全な資金需要への対応については、特に中小企業向けについて、様々な施策を通じて積極的に取り組んでいきたいと考えている。引き続き、当初お示しした健全化計画達成に向けて最大限の努力を払っていく所存である。


(問)
 ペイオフの解禁に絡んで、決済性預金や公金預金の保護について等様々な議論がなされている。改めて、ペイオフの解禁の問題について会長の見解を伺いたい。
(答)
 全銀協では、企画委員会の下に「預金保険制度検討部会」を設置しており、パブリックコメントへの対応についても、この部会で検討してきている。検討の結果、「基本的な考え方」に示された論点が多岐にわたるため業態毎の考え方を尊重すべきではないかということと、これまでの金融審議会等からのヒアリングが業態毎に実施されてきたこと等を踏まえ、都長銀信託のいわゆる大手行、地銀協、第二地銀協の3業態それぞれで対応をすることとした。
 したがって、私からはいわゆる大手行の立場としての意見を申しあげる。
 そもそも、平時におけるわが国の金融システムの在り方を考えた場合、モラルハザードをできるだけ小さくすることが望ましく、また、恒久的制度を考える際には、基本的には「小さな預金保険制度」を目指すべきであると考えている。
 まず、決済性預金については、金融機関の破綻処理を進める際に、一番重要なことは、預金者の流動性を最大限に確保し、資金決済や資金仲介など金融機能の継続性・連続性にできるだけ支障をきたさないようにすることだと思う。先日、金融審議会の場で公表された「基本的考え方」にある「望ましい基本形」により、破綻にかかわる一連の処理が迅速かつ円滑になされれば、決済機能そのものの連続性は実質的には確保されることになるのではないかと考える。
 一方、決済性預金を元来少額預金者の保護を目的とする預金保険制度の中で全額保護することは、「小さな預金保険制度」を目指すという基本理念に反するものであり、モラルハザードの増大や預金保険機構による費用負担の増加、預金者間の不公平感の助長などの観点から問題があると考えている。 したがって、仮に、営業譲渡に時間がかかる場合などに、決済性預金を全額保護することが万やむを得ないとの政策的判断がなされた場合でも、これはあくまでも例外的措置であるべきであり、また、そのコストを誰が、どう負担するのかという議論を更に詰めていく必要がある。特例措置終了後の預金保険制度の枠組みの中で、保護する対象範囲が拡大するということは、金融機関の預金保険料負担の増加につながることになり、この点についての考慮が必要であると考えている。
 こうした議論がある中で、決済性預金について「他の債権に優先して弁済を受けられるいわゆる優先権を付してはどうか」という考え方については、一つの方策として、なお検討する必要があるのではないかと考える。
 ただ、この場合、決済性預金に優先権を付与することにより、決済性以外の預金から決済性預金への資金シフトが加速したり、金融機関の資金調達構造の不安定化を招くことも考えられるほか、一般債権者が自己防衛の動きを一層厳しくすることも予想されるので、これらの点には留意する必要がある。
 また、公金預金・特殊法人預金については、預金者が一般大衆でないうえに、1,000万円まで保護しても実質的な意味は乏しいこと等から、これまで預金保険の対象となってこなかった。しかし、一方で企業との横並びを勘案すれば預金保険の扱いに差を設ける必要性はないということ等から、保護すべきではないかとの意見があることは承知しているが、この場合にも誰がどうそのコストを負担するのかという議論が更に必要になると思う。


(問)
 個別行の問題となるが、3行統合について、議論の進捗状況を伺いたい。
(答)
 9月6日に20におよぶ小委員会を立ち上げ、最低週一回、委員会によっては二度三度ミーティングを行い、早期統合に向けて準備中である。年内の統合契約の締結に向け、精力的な詰めを行っているところである。我々3行の頭取も頻繁に会い、統合に係わる最終的な意思決定を行っている。
 収益計画について申しあげると、ビジネス・ユニット毎に事業戦略、人員、投資などについて検討を進めており、持株会社設立から5年後の2005年までの計画を現在鋭意策定中である。
 持株会社の経営管理体制については、ベスト・プラクティスを実現するために固めているところである。
 統合に当たっての大きな課題は、システムと人事であると認識しているが、人事については、新規採用の一元化を来年の採用から行うということで共同事業組合をつくるということを決定し、先般発表した。専門性と成果を重視した新たな人事制度の構築のため外部コンサルタントを選定中である。
 システム統合については、ベストのシステムを合理的に選定していくという基本方針の下、既に統合手法、スケジュールの検討に着手している。また、先進の米銀の例を研究し、中立的な意見を求めるための外部コンサルタントを選定し、鋭意作業をお願いしているところである。
 以上のように、いくつか申しあげたが、統合の準備に関しては、おおむね全般的に順調に進捗しているものと申しあげておきたい。


(問)
 本日、金融監督庁が商工ローン問題について、今、銀行の融資状況などを記者発表していると聞いている。全銀協の問題なのか、個別行なのかわからないが、この商工ローン問題についての見解なり対応を伺いたい。
(答)
 全銀協としては、組織そのものが個別行の融資のあり方について指導する立場にはないと認識している。したがって、全銀協の会長としてのコメントはできない。一方で、個別行の頭取としては、個別の取引に関しては基本的にはコメントをご容赦いただきたいところだが、私どもとしては、商工ローンの状況については報道等を通じて承知しており、事態の推移について、大変重大な関心とある種の憂慮の念を持って見守ってきている。今後については、更に一層なる慎重さをもって対応していきたいと考えている。


(問)
 ある種の憂慮とは、具体的にもう少し踏み込んで言うとどういうことか。
(答)
 つまり、債権者は債権の取立ての時に何をしても良いというわけではない。法の下に一定のモラルを持ってすべきであるということを基本的に思っており、報道されていることが事実かどうか我々自身が検証すべくもないが、そういう意味で申しあげている。


(問)
 イトーヨーカ堂が決済専門銀行を設立する方針を固め、日銀ネットや全銀システム等に参加する意向を持っているようであるが、異業種による銀行業務への参入についてどのように考えるか。
(答)
 イトーヨーカ堂の銀行業への参入については、新聞報道以上の事実関係について存じあげていない。流通等の異業種による銀行業務への参入については、近年、英国においてもその例がある。金融ビッグバンが進展する中で、こうした動きもあるということを改めて認識しておく必要があるというふうに思っている。
 業務展開構想の全容を知らないので、コメントできないが、新聞等で報道されているように決済業務に特化した銀行、新しい形態、といったことで、大いに注目している。


(問)
 全銀システムへの加入の要請はあったか。
(答)
 そのような話は承知していない。


(問)
 商工ローンの話に戻るが、その取立て方法が問題であるということであったが、一部にはあのような業界に銀行がたくさんお金を貸すこと自体がおかしいのではないか、という批判もあるようだが、数ある商工ローン批判の中で、会長としてはどういった部分に慎重に対応するべきであって、どういう部分が言われなき批判であると考えているのか、詳しくお聞かせいただきたい。
(答)
 報道されていることが事実かどうかについては、私どもとしては確認する手だてがないわけであるが、やはり、先ほども申しあげたとおり、債権の回収については法の下に一定のモラルが必要であり、そういった意味で報道されているような事実があるのであれば非常に憂慮すべき話ではなかろうか、ということを申しあげたわけである。


(問)
 銀行が自ら中小企業に対して融資を行わないで、商工ローン業者に多額の融資をしているということがおかしいのではという批判については、「その通り」なのか、それとも「あたらない」ということか。
(答)
 先ほども申しあげたが、中小企業への融資については、健全な資金需要については、積極的に資金仲介機能を果たし、中小企業が抱えているいろいろな問題について、本部の下にビジネスソリューションという班を設けて、営業店エリア毎にいろいろと相談に乗って、融資の拡大に努めているわけであり、我々は我々なりに中小企業に対する融資についてはいささかも消極的な姿勢があるとは認識していないし、先ほども申しあげたとおり今後とも積極的に融資を拡大していきたいと考えている。


(問)
 繰り返しになるが、銀行が法に触れるようなことをしているところに融資をしているということが批判の対象になっていると思うが、それについてはどのようにお考えか。
(答)
 商工ローン業者から借入れているそれぞれのお客さまはそれなりの資金ニーズがあって借入をしているのであろう。それが私どもが考えているお客さまと一致しているかどうかはここでつぶさに申しあげることはできない。いずれにしても繰り返し申しあげることとなるが、一定のモラルの下に回収がなされなければならないということは普遍的であると考える。


(問)
 質問に対して正確に回答していただきたい。商工ローンという業界が良いか悪いかということについてのお考えは十分理解できる。銀行が商工ローン業者に対して融資しているということについてはどのようにお考えなのか。
(答)
 繰り返すようであるが、私どもとしてはこれまで重大な関心を持って事態の推移を注視しているわけであり、今後の対応については更に慎重を期していきたい。


(問)
 「今後の対応」ということは今一つわからないが、今まで貸してきたということについてはどのようにお考えか。先日の中間決算の発表の際、一部の銀行から3年前から融資の回収方法に問題がある、貸出先が不透明であるという噂を聞いて、融資額の圧縮に努めてきている、と明言する銀行もあったが、このあたりについては全く知らなかったということで、健全な回収を行っている業者なので、安心して貸していたということなのか。 今まで貸してきたということについてはどうなのか。
(答)
 一種の社会問題として報道されているわけであるが、そういった報道がされるに及んで、私どもとしては重大な関心を持って見守り、今後については慎重に対処していきたいと申しあげている。


(問)
 「見守ってきた」ということはどういうことなのか。具体的に問題のある回収をしていることが分かっていながら、何もしませんでした、ということなのか。
(答)
 報道されてから私どもとしては重大な関心を持って見守っているということであり、繰り返すようであるが、「今後については慎重を期して参りたい」ということについては言葉の意味をお汲み取りいただきたい。


(問)
 全銀協として商工ローン問題に対して、何か対応は取るのか。
(答)
 全銀協としては個別の銀行の融資について指導したり、銀行全体の経営について指導したりするような立場にはないので、組織の性格からして何か対応をするという考えはない。


(問)
 商工ローン業者から高利で借りているような中小零細企業の資金ニーズに対して、今の大手行は応えることができるのか。それとも、各銀行は財務の健全性をうたっているので、そういった先に対しての融資については棲み分けをして、別の金融機関なり金融業者に任せるということなのか。
(答)
 当行について申しあげると、審査能力の向上、リスク管理能力の向上、資産構造の改善、それぞれのリスクに応じた適正なリターンということで、収益力を強化していく方針を掲げているが、そういった意味で円滑な資金供給という社会的使命は敢然と果たしていきたいと考えている。
 具体的に申しあげると、中小企業向けの融資については、先ほどもビジネスソリューション班という話を申しあげたが、その他に自動審査システムを導入し、スコアリングにより審査を迅速化し、その対応力を強めていくよう努めている。


(問)
 そういったビジネスソリューション班といったものを活用していけば、信用リスクが高い先に対して大手行も対応していけるということか。
(答)
 ある程度は、我々のリスク管理能力の範囲内であるとか、ビジネスソリューション班の行動が中小企業の問題解決につながるという範囲内であれば、そういったお客さまも対象として取り組んでいくということである。
(問)
 最初から不良債権となるような蓋然性が高い先に対して、融資を行うということは現実的なものとして難しいと考えるが、そういった中で、例えば制度的にそういったことがおこらないような議論がされていると思うが、具体的にどういった制度が良いのかというお考えはお持ちか。
(答)
 各方面でいろいろ議論されているところであるが、私としては、今ここでこういう解決法があるという答を持ち合わせているわけではない。リスク管理能力の範囲で対応していくということが一つの金融機関のあり方であると考えている。