2000年4月25日

西川会長記者会見(住友銀行頭取)

菅野副会長・専務理事報告

 会長会見に先立ち、菅野副会長・専務理事から次のとおり報告した。
 本日は、全銀協の定例総会を開催し、11年度決算・12年度予算案を諮ったほか、新たな理事および監事を選任した。そして、引き続いて開催した理事会において、平成12年度の会長・副会長が選任された。
 会長には、住友銀行の西川頭取が選任され、平成12年度は西川会長の指揮の下で、諸課題に対応していくこととなった。
 また、西川会長を補佐する副会長には、中央三井信託銀行の古沢社長、富士銀行の山本頭取、三和銀行の室町頭取、日本興業銀行の西村頭取、あさひ銀行の伊藤頭取、横浜銀行の平澤頭取、広島銀行の宇田頭取、北洋銀行の武井頭取および専務理事の私の9名が選任された。
 私からの報告は以上である。

会長記者会見の模様



(問)

 会長就任にあたり、本年度の抱負と課題を伺いたい。

(答)

 住友銀行の西川でございます。
 本日午後開催された理事会で、杉田前会長の後を受けて、全銀協会長を務めさせていただくこととなりました。これから1年、どうか宜しくお願い致します。
 先ず、この場を借りて、杉田前会長に一言御礼を申しあげたいと存じます。杉田さんは、銀行界がかつて経験したことのない大きな転換期を迎える中で、Y2K問題、預金保険制度の見直し、BIS規制の見直し等に加えて、東京都による銀行業等に対する外形標準課税導入への反対運動の展開といった、様々な、そして、極めて重要な諸課題の解決に向けて真正面から真摯に取り組まれました。この1年間の杉田さんのご努力とご労苦に、心からの敬意と感謝を表したいと思います。

 さて、この1年間を展望すると、我々の取り組むべき課題は多岐に亘っているわけであるが、私なりに整理すると、大きく分けて2つの課題がある。第1は「金融ビッグバンの総仕上げと新世紀に向けた金融システムの整備」、第2は「銀行に対する信頼の向上」ということである。
 先ず、第1の「金融ビッグバンの総仕上げと新世紀に向けた金融システムの整備」についてであるが、杉田前会長は昨年度を、「金融システム安定から金融再編のうねりが生じた歴史的な1年」と評されたが、今年度は、2001年3月を目標に進められてきた金融ビッグバンの総仕上げを行うとともに、最近起った、金融再編のグローバルな展開、インターネット専業銀行等、新たな形態の銀行設立の動き、さらに異業種からの銀行業参入の動き等の新たな環境変化を踏まえ、新世紀に向けた金融システムの整備を図ることが求められる年と認識している。
 具体的には、第1に、「新世紀に向けた金融インフラの一層の整備」ということである。すなわち、インターネット専業銀行や異業種からの銀行業参入の動き、あるいは、情報通信技術の高度化進展によるネット社会の到来を受けて、本年、「新たな銀行業に対する枠組み作り」が行われていくのではないかと考えている。
 私ども民間金融機関としては、先ず、個別銀行それぞれが独自の経営戦略に基づき、創意工夫をこらし、サービスの向上・発展に努めていくわけであるが、全銀協としても、各銀行が、健全性確保に留意しつつ、一層自由に活躍できるようなビジネス・フィールドの拡充に向けて、関係当局への制度改革の要望を含め、努力していきたいと考えている。
 また、情報通信技術の高度化に関連して付言すれば、キャッシュ・カードのICカード仕様の標準化、また当局において検討が進められているCPペーパーレス化への対応、さらに、個々の案件毎に必要なセキュリティ問題への対応等にも、積極的に取り組んでいきたいと思う。
 このほか、より安全で効率的な決済システムの構築に向けて、本年末に予定されている日銀当座預金のRTGS化への対応、内国為替決済制度の改革や全銀システムの高度化、証券決済制度改革への対応等も、本年の大きな課題である。
 第2に、「公正透明な取引の枠組み・ルールの整備」である。自由化が進展する中にあっては、利用者保護の枠組み、あるいは税制を含めたルールの整備が大変重要である。具体的には、金融商品の販売・勧誘について、金融商品販売法の成立を受けて、全銀協としても、金融商品についてお客さまに正しいご理解を頂けるよう、銀行商品の販売に当たっての具体的な説明内容・方法についてのガイドライン策定に取り組む方針である。
 また、銀行の健全性規制の柱であるBIS規制について、昨年6月に抜本的改定の方向が示されている。本年末には具体的な規制改定案が示される予定とされており、これへの対応も、今年度の大きな課題である。
 第3に、「自由で公平な金融市場の構築」についてである。金融ビッグバンの目標であるFree、Fair、Globalな市場を構築するために残された最大の課題が、公的金融問題の解決である。特に、郵便貯金については、民営化を視野に入れた抜本的改革が早期に実現されるよう主張してまいりたいと考えている。
 このほか、現在、国会で審議中の預金保険法の改正によって、ペイオフ凍結解除後の預金保険制度ならびに金融機関破綻処理制度の枠組みが構築されることになる。今後、実務面について関係当局が検討していくことになると思うが、21世紀の金融システムを支える新たなセーフティ・ネットの機能が万全なものとなるよう、協力してまいりたいと思う。
 なお、東京都による外形標準課税については、東京都を相手取った訴訟を只今検討しているが、これは事柄の性質上、対象個別銀行が対応せざるを得ず、全銀協としては訴訟の当事者にはなり得ないが、他府県への波及や今後の税制改正への要望等も考慮して粘り強く引き続き反対運動を行い、不公平税制の是正等については引き続き努力をしてまいりたい。
 大きく2つに整理した課題の2つ目が「銀行に対する信頼の向上」である。近年、各銀行は、経営の健全化に向けて、不良債権処理や財務基盤の強化を進めるとともに、サービスの向上、さらには、金融再編への対応等、それぞれの経営判断によって努力を続けてきたわけであるが、なお一層の信頼の向上に努めていかなければならないと考えている。お客さま、社会から信頼をいただくということは、銀行業を行うに当たって、最も基本的な重要なファクターと言っても過言ではない。私は、基本的には、市場原理の下、各銀行が自己責任原則に則って競争を行うことによって、金融仲介機能や決済機能、そしてお客さまサービスの向上を図る一方で、財務体質を改善し、その結果として、銀行に対する信頼を向上させる以外にはないと思っている。そういう意味においては、「金融ビッグバンの総仕上げと新世紀に向けた金融システムの整備」にしっかりと取り組むことこそが、銀行に対する信頼の向上につながるわけであるが、各銀行の努力をサポートしていくため、全銀協としてできることがあれば、積極的に取り組んでいきたいと考えている。
 2000年度は、まさに20世紀を締め括り、21世紀に踏み出す重要な年度である。また、昨年、全銀協が組織改革を行い、新生全国銀行協会としてスタートしたが、組織運営の透明性・効率性の向上、政策提言や情報発信機能の強化といった全銀協改革の方向性に沿った運営を今年度は定着させていかなければならない。このような年に全銀協会長をお引き受けしたことについては、私の身に余る大役であり、重責を感じているが、9人の副会長の皆さまのご協力を得て、全銀協一丸となってこれらの課題に取り組んでまいりたい。皆さま方のご支援、ご指導を宜しくお願い申しあげる。




(問)

 初会見であるので、概括的に伺いたい。今、銀行業界が日本経済全体の中で置かれている位置、ポジションをどのように認識しているか会長の考えを伺いたい。

(答)

 銀行というのは言うまでもなく、決済機能ならびに金融仲介機能を担っている。決済機能というのは、国民生活あるいは経済活動のあらゆる面でのナショナル・インフラとして必要なものである。したがって、その安全性の維持というのは何にも増して重要なことである。また、金融仲介機能も、多くの国民の皆さまの預金をお預かりし、そしてそれを企業活動あるいは政府・地方公共団体等の関連事業等に供給していくという、非常に重要な機能である。よって、経済全体が順調に運営されていくというその最も基本的な根幹を占めるのが銀行業であると考える。
 そのような大変重要な機能を担っているわけではあるが、大変遺憾ながら、90年代初頭より不良債権の処理に手を取られ、国民の皆さまにも大変なご心配やご迷惑をかけてきた。しかし、ここへきて、不良債権処理等については大きな山を越え、公的資金の投入も受けた結果、金融システムは安定化に向かっていると考えている。いよいよ病気を癒した銀行が積極的に日本経済発展の中で必要な役割を十分に果たしていけるようになってきたと認識している。




(問)

 先ほどの話の中でも、銀行業に対する異業種の新規参入について触れられていたが、多くの一般消費者にとっては、新しいサービスということで期待感が大きいようだ。こうした新規参入について会長としての基本的考えを伺いたい。

(答)

 異業種の新規参入については、いくつかの形態が考えられている。いまのところ、インターネット専業銀行という形態やコンビニエンスストアにATMを設置し、決済専業銀行という形での設立といった構想が発表されてきている。従来にない営業形態、魅力ある商品、サービスの提供が計画されていると認識している。
 このような新規参入は、お客さまの利便性の向上、わが国経済の活性化につながる可能性がある。また、一方、既存金融機関にとってもそれにより新たな刺激を受けるといった効果がある。基本的には、個人的見解ではあるが、反対すべきものではない、むしろ、私としては歓迎していくべきものであると考える。我々銀行にとっても、例えば新規参入の銀行とのアライアンス如何によっては、我々自身もコスト削減等において大きなメリットを受ける可能性があるとも考えている。
 ただし、銀行にはご承知のように預金者保護、決済システム維持の観点から、一般事業会社とは質の異なる健全性確保の要請がある。したがって、先ず、新銀行の収支計画、人的構成等が銀行法に照らして審査されるということは当然であるが、さらに、銀行の経営に影響を及ぼし得る大口株主についても銀行の健全性の確保のため、例えば当局による適格性の審査、検査監督権限などの問題等は大きな論点になるのではなかろうかと考える。




(問)

 東京都の銀行業等に対する外形標準課税について、全銀協としては「絶対反対」の立場を取ってきたが、実際、都議会で既に可決されている。杉田前会長は、早期の提訴を考えていると述べていたが、新会長就任にあたり、外形標準課税に対する会長自身の考えを改めて伺いたい。また、早期提訴の準備状況についても伺いたい。

(答)

 ご承知のように、東京都の銀行業等に対する外形標準課税の導入については、2月初め以来、全銀協あげて反対活動を展開してきた。我々の反対理由や政府見解において、法に照らして疑問とされた点についても、都議会その他で納得のできる説明もないまま都議会で可決され、公布をされたということは誠に遺憾な結果と考えている。他の地方公共団体への波及の懸念や、今後の税制改正の要望も考慮に入れた上で、全銀協としては今後も本条例の問題点をきちんと指摘し、関係各方面に働きかけるなど、反対活動を継続していく考えである。訴訟については、この条例によって、課税されるのは対象となる銀行であり、全銀協が課税されるわけではないので、全銀協が訴訟の当事者となることはないが、杉田前会長が言われたように、極力早い時期に訴訟を提起するということを前提に現在具体的な検討作業に入っているところである。
 私ども住友銀行も課税対象行の一つとして、訴訟の提起について、顧問弁護士や関係法学者の意見を聞きながら具体的な検討の詰めに入ったところである。他の課税対象行とも専門家を交えた実務的な打ち合せ会を開催して、意見交換を行いながら検討を進めているところである。提訴の時期は、極力早い時期を目指しているがいまのところ具体的に「いつ」と言える段階ではない。




(問)

 先ほどの金融システムの整備に関する話の中で、全銀協として取り組むものがあれば個別行を支援するための取り組みを行うこともあるとあったが、今回の件についても個別行の提訴を助けるために全銀協として何か取り組んでいくことは考えているか。

(答)

 全銀協としても、反対活動、あるいは提訴をしていく上で必要な知識・情報を提供すると同時に関係各方面への働きかけを引き続き行っていく考えである。




(問)

 3点ほど伺いたい。先程の異業種の銀行業参入についてだが、銀行の事業展開に対する制約が他業禁止の問題と独禁法の問題があると思うが、それぞれについて会長としてどうお考えか。
 次に、今日の理事会で役員が決定しているが、今までは確か長銀が理事の一人になっていたかと思うが、今回あるいは今後どういう過程で長銀については扱われたのか。
 最後に、中小企業向貸出について全銀協で出されたぺーパーについて国会でだいぶ疑義が出てまだ決着していないが、この点に関してご見解を伺いたい。

(答)

 最初の質問については、我々も先程も申しあげたように一層の業務範囲の拡大を要望していく考えである。ただし、この点については、まだ全銀協できちんとした議論を行っていないので、これは私の個人的見解だと考えていただきたいが、今後は、従来から要望している事柄に加えて、金融・通信技術の発展等も踏まえて、より一層の業務範囲の拡大を要望していきたいということである。
 要望していく分野であるが、例えば、銀行の業務範囲拡大に関する規制緩和3か年計画というものがあるが、この中にも銀行業務と密接な関係があり、経営効率を高めると思われる業務を銀行本体で行うことについて、利用者保護の観点も含めて検討するということが言われていて、例として資産運用・ファイナンスに関する助言、パソコンソフトの販売、それから銀行が利用している回線のリセールといったものが挙げられている。また、これは子会社でやっている業務であるが、リースについてもファイナンスリースに限られているわけだが、それ以外のリース、例えばオペレーティングリースの解禁といったことも検討をしようということであるし、また、信託銀行さんとの関係があるので、普通銀行として申しあげれば、普通銀行本体による信託業務の取り扱い、あるいは保険の窓販といったものも考えられるわけである。
 次に長銀さんの取り扱いであるが、長銀さんは只今役員を辞退されている状態が続いている。今は全銀協の一会員という立場である。
 最後に中小企業向けの融資については国会においてもいろいろな論議やあるいは疑問を呈されるということがあったが、私も個別銀行の状況については把握できないが、しかしながら、各行ともに公的資金の注入を受けた趣旨を理解して中小企業向け融資の拡大に積極的に取り組んでこられたその結果であると理解している。それは各行における中小企業向け融資に対する組織的な体制整備ということもある。また、取り扱う商品について、新たな貸出商品の開発、設定ということもある。それらの努力の結果があの数字になっているのであろうと理解している。




(問)

 独禁法上の株式保有の5%ルールの緩和についてはどのようにお考えか。それから長銀の話であるが、仮に全銀協の役員になりたいというような場合はどのような扱いになるのか。というのも外資系の企業は、業界団体ではどういう役割をするか各団体いろいろ悩んでいるところだと思うが、そういった観点で伺いたい。特に長銀は民間金融界に復帰したということで伺いたい。

(答)

 その問題については、他の副会長をはじめ会員の皆さんのご意見も伺わなければならないが、特に長銀さんだから、資本構成がこうだからということで特別に扱う必要はないと、私は個人的には思っている。
 それから先程、独禁法関係のご質問を落としてしまったが、株式保有5%規制の見直しということについて議論が起きてきているわけであるが、これについては、今後、公正かつ自由な競争を促進するという観点から更なる議論が深められていくと考えており、今、我々のほうからどうこうしてほしいと言うものではないと思っている。
 もちろん、基本的に規制は緩和されることが望ましいということではあるが、やはり株式保有ということについては金融による産業支配といったような観点からの検討も必要である。この点については特に国民的なコンセンサスも必要な分野だと思うので、我々は基本的には規制緩和を望みながら幅広い議論を見守りたいというところである。




(問)

 総選挙が近くなってきたが、政治献金要請といったものは現在あるのであろうか。また、まだないとしたら要請があった場合は全銀協としてどのように対応するのか。

(答)

 個別銀行の立場で申しあげるが只今献金要請はない。それから、政治献金の取り扱いについて全銀協が介入する、あるいは、お世話、仲介をするということはない。政治献金についてはあくまでも個別銀行の判断である。




(問)

 先程、不良債権問題はここにきて大きな山を越えたという会長の言葉があったが、実はバブル崩壊後その言葉はもう3度、4度と全銀協会長あるいは当局の側から聞かされているが、今、民事再生法等で新たな形の破綻が増えてきていたり、債権放棄の要請というようなものがいろいろ出てきているわけだが、こういった現状について先行き問題も含めてどのようにお考えか。可能であれば、不良債権処理は金融システムの再生の完了を頂点とすれば何合目ぐらいまできていると言えるのか。

(答)

 山を越えた、大きな山を越えた、目処をつけた、いろいろとこれまで表現があったということは事実である。それは、各時点における判断に基づき、そのような状態であると表現してきたということであるが、この問題は、最終的にはバランスシートから不良と見られるもの、あるいは不良化する懸念のあるものが完全に無くなってしまう、あるいは、それらが全体の貸出に占める割合が本当に無視できる、無視できるというと語弊があるが、不良債権問題を抱えているという状態から脱する程度には比率が落ちている、というレベルにならないと完全に解決したとは言えない。私はこれは引当て控除後で1%あるいは1.5%ぐらいのところがそうではないかと個人的には思っているが、そういう状態にならないことには完全決着がついたと言えないと思う。やはり地価が6年、7年と下がり続けて、今もって底だという認識が持てないという状態にあり、企業業績のほうもリストラ等によって全体としては改善傾向にあるとはいえ、まだ業績低迷に苦しんでいるという企業も数多いという状態であるから、不良債権問題の最終決着がついた、あるいは楽観できる状況にある、とは決して言えないのが事実である。
 しかしながら、昨年の春に金融監督庁のほうから、新たな金融検査マニュアルが発出された。それに基づく自己査定が各行においてきちんと行われ、また、監督庁もそれに基づく検査を実施してきている。その事実を考慮に入れると、これまでとは違うということが言えるのではないかと私は思っている。
 したがって、いよいよ収束に向かっているということは間違いないと思っている。




(問)

 日本経済全体のバランスシートの問題あるいは景気の問題等を含めて、ゼロ金利解除の時期についていろいろ議論されているが、どのように考えているか。

(答)

 ゼロ金利政策については、これは、あくまでも日本銀行が経済・金融情勢をみて判断することであり、我々部外者がそれについてコメントをするということは差し控えたい。
 我々がむしろ関心を持つのは、ゼロ金利の解除の時期がいつになるのかということである。これは、銀行のALMポジションのオペレーションにも大変大きな影響を及ぼすことであるので、我々が注意深く、そして慎重に日本銀行の言うことや市場でのオペレーションを見守っているという状態である。
 個人的見解であるが、時期の問題はともかくとして、ALMポジションをオペレーションする我々の立場から言って、警戒水域が近づいてきているなという実感を持っている。これは解除の時期とは関係なく、銀行の立場として申しあげていることである。また、あくまでも住友銀行としての考え方である。




(問)

 誘拐事件で架空名義の口座が使われたことについてどう思うか。

(答)

 架空名義の口座であったかどうかは詳しくは存じあげていないが、架空名義口座の撲滅は、マネーローンダリング防止の観点からも重要であり、そのために預金の受け入れについて本人確認を徹底することになっている。これは1992年から厳格化され、その2年前にも努力規定になっている。したがって、新規の預金口座開設に際しては本人確認のために運転免許証、健康保険証など本人を証明する資料を拝見した上で、受け入れをしているということになっている。




(問)

 銀行における本人確認の方法はそれで十分だとお考えか。

(答)

 本人確認の方法としては、今、申しあげたような方法で、その他パスポートなどもあると思うが、そういった確認資料を呈示していただいてそれによって確認するという以外には方法はないのではないかと思う。




(問)

 新規参入の件であるが、イトーヨーカ堂の計画では融資を行わない決済専門銀行であり、これまでの銀行法の枠の中でこういったことは適当であるとお考えか。

(答)

 これは金融監督当局が適格性を判断するポイントであると思う。私どもはどこどこをチェックしろと申しあげられる立場にない。




(問)

 架空名義口座は今回の誘拐事件でもそうであるが、犯罪に利用されるケースがあるが、1992年以前にできた口座がインターネットなどで売買されている例もあるが、既に開設された口座のチェックについてはどのように考えているか。

(答)

 マネーローンダリングに関して本人確認の努力規定が設けられたのが、1990年である。それまでも税務調査等に際して、仮名口座の問題は常に指摘を受けてきたものであり、それまでも全く仮名口座を何のチェックもなしに受け入れていたというわけではない。しかし、実際問題として、それまでのものは住友銀行においても現在お取り引きをいただいている口座の中に仮名のものがあるいはあるかもしれない。全数チェックは事実上、非常に難しい話である。窓口で異常を関知したものについてはもちろん、本人確認を実際の入出金の際にも行うが、そういったことも含めて厳正にチェックしていく以外ないと考えている。




(問)

 既に架空名義の口座があった場合には、銀行としてチェックすることは不可能ということか。

(答)

 大口の現金の入出金があるということになるとこれは本人かどうかをチェックさせていただくということになるが、ほとんど動いていないような口座で、少額の出入りがある、少額が一体いくらかという定義は難しいが、少額の出入りがあるというようなものについては、なかなかチェックの機会がないというのが現状である。それも窓口で行われればまだしも、ATMを通じて行われるものは非常に難しい、というのが現状である。




(問)

 それを直すとか修正するとかいう動きはないのか。

(答)

 私どもとしても仮名口座を撲滅したいという思いは常にある。しかし、口座数は、住友銀行として申しあげると約1,200万口座ある。様々なことでダイレクトメールを送るが、それにより返送されてきたものを中心にチェックしていくということも考えられるが、返送されてきたものが全て仮名かというとそうではなく、住所変更の届けを受けていなくて転居先が不明というものもあるわけで、一斉に全口座をチェックするのは大変に難しい作業である。




(問)

 郵貯への対応であるが、具体的に今後、何か対応する予定はあるのか。

(答)

 基本的に、郵貯に関しては公社化、自主運用ということが決まっているが、公社化といっても国営公社であり、先ほども申しあげたとおり、機会ある毎に民営化も視野に置いた抜本的な制度改革を要求していくということである。




(問)

 仮に、住友銀行個別行に対して政党などから献金の要請があった場合は、頭取としてはどういう判断をするか。

(答)

 献金の問題については、仮定の話には回答を差し控えさせていただきたいというのが本音である。ただ、一般論として申しあげれば、政治資金は個人献金と政党助成金で賄われるのが基本である。しかし、現実はそうとは言えない状況であるので、銀行ということではなく、一般の企業としてであるが、企業としてやはり社会の一員として政治資金規正法の許される範囲において献金を考えていくこともやむを得ないと個人的に思っている。
 しかし、銀行はどうかと言うことになると、公的資金の投入を受けているわけであり、そういう事実も考慮に入れながら検討していかなくてはならない問題であるという認識である。