2000年5月23日

西川会長記者会見(住友銀行頭取)

菅野副会長・専務理事報告

 本日は、都合により、理事会の開催に先立って記者会見を開催させていただくこととした。
 本日の理事会では、5月18日に行われた第二地方銀行協会の会長交替を踏まえて、北洋銀行の武井頭取から副会長を辞任したいとの申し出があったので、その後任として、新たに第二地方銀行協会の会長に就任された、東日本銀行の吉居頭取を副会長に選任する予定としている。
 なお、お手許に、今年度の全銀協の委員会・検討部会一覧をご参考までにお配りしている。 私からの報告は以上である。


会長記者会見の模様


(問)
 大阪府の外形標準課税導入の問題が山場にさしかかっており、新聞等で30日にも可決・成立の見通しというような報道が相次いでいる。この問題についてどうお考えか。もし成立すれば、東京都の新税と同様に訴訟ということになるのか。
(答)
 大阪府による銀行業等に対する外形標準課税の導入構想については、3月30日に自民党の大阪府議団から議員提案され、丁度会期末であったので継続審議になったものであるが、4月の中旬以降急展開し、我々も大阪銀行協会および全国銀行協会をあげて陳情活動を行ってきたところである。今月25日に総務常任委員会で採決されるとの話は聞いているが、まだ可決が決まったわけではないので、継続審議ということもあり得ると理解している。
 この外形標準課税導入の構想については、東京都の外形標準課税に対して出された政府見解でも指摘されている通り、法的にも疑問点がいくつかある。また、大阪府の場合は地方交付税の交付団体であるので、この税収のうち2割しか手元に残らないという非効率な税である。また、銀行経営への影響が一般に考えられている以上に大きく、ひいては経済への悪影響が懸念されるという問題点があるので、我々は、大阪府議会ならびに関係者には慎重な審議をお願いしているところである。
 昨日は大阪銀行協会会長の室町三和銀行頭取が大阪府議会で参考人として、銀行界の考え方について意見陳述をされた。またその中で、議会において関心が高い府下の中小企業の育成・支援策に関しても、大阪府および大阪府議会と共に考えていきたいという提案もされたところである。
 私どもとしては、納税者の納得が得られないまま、諸般の事情から、事態が急展開しているというように受け止めており、この5月定例議会で性急な結論を出すことなく、慎重かつ十分な審議が行われるよう、引き続き全力で陳情活動を行っていく考えである。
 仮に条例が成立したとしても、それで終わりということでは決してなく、引き続き関係各方面に働きかけて参りたいと考えている。
 訴訟の問題については、条例案が成立していない段階であるので、申しあげにくいわけであるが、訴訟も有力な選択肢の一つだと考えており、場合によっては、誠に不本意ながら訴訟提起ということもありうるかと思っている。なお、この訴訟については、住友銀行個別行としての考え方である。


(問)
 東京都に対する訴訟の準備状況はどうなっているか。
(答)
 現在、課税対象行各行が、早期の訴訟提起を前提にして、具体的な準備に入っているところである。
 私どもも課税対象行の一つとして、他の対象行とも専門家を交えた実務的な打合会を開催し、意見交換を行いながら、鋭意検討を進めているところである。訴訟提起の時期については、極力早い時期を目指しているということである。


(問)
 今、丁度、大手銀行の決算発表が次々と行われているが、不良債権の処理額について、1年前の当初計画より大幅に上積みしている銀行が相次いでいる。不良債権の処理については、1年前の決算で、資本注入とともに大幅な償却を行って、「これで大丈夫」ということになっていた筈だが、1年たって、本当に不良債権処理は大丈夫なのか。その辺についての考え方を聞きたい。
(答)
 前回のこの場でも申しあげたように全体として大きな山を越えている、収束に向かっているということは間違いないと思う。まだ決算発表が出揃っているわけでもなく、また、他行の状況については私自身よく承知していない。
 当行について申しあげると、確かに中間決算期に申しあげた予想よりもかなり大きな数字、約6,800億円の償却引当を実施した。これは、一つには、さくら銀行との合併を控えて、合併までにそれぞれの自己責任において不良債権問題の完全決着を図るというコミットをしていることがある。合併を1年前倒しにしたわけであるが、このコミットメントを果たしていくために、不良債権の最終処理を積極的に進める一方で、予防的引当てを実施したということである。
 加えて、(1)景気が徐々に回復してきたとはいえ、問題を抱えている企業の業績は厳しい状況が続いている上、時価会計の導入もあいまって、取引先の財務内容が更に悪化したこと、また、(2)不動産市況が依然として悪く、地価が下げ止まらない状況が続いており、担保等を含めて資産劣化が進んだということがある。
 しかしながら、私どもとしては、問題を抱えた企業、あるいは債権回収に懸念がある企業については全て把握しており、また、それらに対する引当てが必要か、必要な場合にはどれ位必要かということについても完全に把握している。不良債権に対するマネジメントはしっかりとできていると認識している。


(問)
 異業種からの銀行業参入についてのガイドラインが先日金融再生委員会・金融監督庁から提示された。地銀などでは一部慎重論も聞かれるが、ガイドラインが示されたことを踏まえて、改めて異業種の銀行業参入についての見解をお聞かせ頂きたい。また、パブリック・コメントが求められると思うが、それについての対応も併せてお聞かせ願いたい。
(答)
 一般事業会社の銀行業参入に関するガイドラインが、当局より、自民党の金融問題調査会に提示されたことは承知している。
 新しい形態による銀行業参入に関しては、前回も申しあげたが、個人的見解としては、お客様の利便性の向上に繋がるものと認識している。また、銀行法において明示的に禁止する規定もないので、これは容認していくべきものと基本的に考えている。
 ただし、銀行には、預金者保護、決済システム維持の観点から、健全性確保が求められている。したがって、一般事業会社の子銀行設立時における免許審査や設立後の規制については、一般の銀行と同様に行われることが必要であるが、加えて、親会社である事業会社が存在することから生じる特有のリスクについては、別途何らかの手当てが必要と考える。
 具体的には、例えば、親会社の株主としての適格性の審査や親会社への検査・監督権限、親会社の事業リスクが子銀行に波及することの防止策、そしてこれが最も重要なことだと思うが、いわゆる機関銀行化の防止策、等が論点になると考えられるが、今回示されたガイドラインの骨子では、このような点について概ね対応が図られているものと受け止めている。
 今月末にも正式にガイドラインが公表され、パブリック・コメントが求められると聞いているが、ガイドラインの詳細を見た上で、業界全体として、あるいはそれが難しければ個別銀行として、申しあげることを検討して参りたいと考えている。


(問)
 株価が低迷している。今期の決算を見ても非常に株価に頼った不良債権処理が行われている。会長ご自身の考え方でも構わないが、株価の低迷による銀行経営への影響もしくは景気への影響についてどのように考えているのか。
(答)
 確かに、このまま株価が下落を続けるということになれば、色々な意味で銀行経営に対する影響も大きくなると思う。
 しかし、まだここ1ヵ月程度のことであるので、今のところは、影響を測る段階ではないと思う。
 一般的には、株価下落に伴う含み益の減少による心理的な影響が懸念され、これから回復が期待される個人消費にも、このまま下落が続けば悪影響があるのではないかと思われる。これもまだ短期間のことであるので、個人的には、この程度であれば影響はそれほど大きくはないという感じを持っている。


(問)
 異業種の銀行業への参入に関するガイドラインについてであるが、ガイドラインの中に銀行法改正について検討していくことが盛り込まれている。銀行の買収に関する事前認可制のあたりが大きなポイントとなってくると思うが、銀行法改正の必要性についてどうお考えか。
(答)
 既存銀行の買収についても、新銀行の設立と同様の審査が行われることが望ましいと考えられるわけであるが、現行法では既存銀行の買収に関しては、その旨を金融再生委員会に届出ればよいとなっている。
 一般事業会社による新銀行設立と既存銀行の買収の基本的性格は同じものである以上、やはり銀行の健全性が確保されるという目的を達成していくためには、買収に関しても新設と同様に監督当局の審査が行われ、株主の審査が行われるということが必要ではないかと思う。 したがって、この点に関して銀行法改正が必要であると思う。


(問)
 来月総選挙を控えているが、自民党からの献金要請は、協会の立場、それから個別行の立場であったのか。もしまだなければ、そういう要請があった場合どういう姿勢で対応するのか
(答)
 全銀協は政治献金には関与しないので、あくまでも個別銀行としての対応ということになるわけであるが、ただ今のところ、自民党あるいはその他政党からの献金の要請はない。


(問)
 仮に要請があった場合にはどういう対応をするのか。
(答)
 要請があったわけではないので、お答えしにくいが、前回も申しあげた通り、住友銀行としては公的資金の注入を受けているということを重く考えていく必要があると思っている。そういう事情を考慮すれば、献金要請は慎重に検討すべき問題と考えている。


(問)
 慎重にということは、要請がきても応じないということか。
(答)
 そういう方向である。


(問)
 選挙についてであるが、いろいろ選挙の争点があると思うが、こういう政策を望むというような、銀行界としての要望はあるのか。
(答)
 全銀協として意見の取りまとめをしていないので、会長としての意見は申しあげられないが、個人的に申しあげれば、日本経済の再生を確固たるものにしていく政策、財政再建を含めた構造改革を確実に進められるような政策を望みたいと考えている。


(問)
 中小企業向け貸出についてであるが、当局といろいろと摺り合わせをしている段階であり申しあげられない、という状況は判るが、あえて、愚直な質問をさせてもらいたい。一般的に言って、自分たちがまとめた数字を自分たちの口から出せないというのはどうしてか。確かに、自分たちの公表した数字と当局から公表された数字に差異があれば問題であろう。会長としてどうお考えか。
 また、一般的に駆け込みで数字が期末に増えたと言われているが、駆け込みではないというのであれば、月別の推移を公表するというような考えはあるのか。
(答)
 中小企業向け貸出増加額の実績値については、金融早期健全化法に基づき決算確定計数を金融再生委員会に報告することとなっている。この報告内容については、金融再生委員会における精査を経て公表されるということになっている。そういうことになっていることから、現時点での公表は出来ない。ただし、住友銀行として申しあげれば、4月に国会に提出した見込みの数値、すなわち年間増加額が4,300億円~4,800億円程度となる見込みである。
 月次の計数については、表面ベースでトレースしていくことは可能であるが、中小企業向け貸出の実績値というのは償却や債権流動化による売却というものの影響を除いた計数、すなわち実勢の数値を報告することとなっている。この調整を月次で行うということは事実上不可能であり、半期毎の計数にならざるを得ない。


(問)
 早期健全化法に基づき、金融再生委員会宛に提出した計画は、当初からそもそも不可能なものを提出したという声も聞いている。会長自身として、計画に基づき数値を提出することは、そもそも本当に意味のあることとお考えか。
(答)
 資本注入の大きな目的の一つは、中小企業金融の円滑化ということであり、いやしくも健全な経営を行っている中小企業に対する資金供給に支障をきたさないように、という趣旨から行われているわけであり、精緻な数字はともかくとして、粗い数字のトレースは止むを得ないと思っている。ただし、健全化計画を提出する際には、各銀行区々な思いで計画の数字を作成しており、こういった数字は全体の状況変化やそれに伴う資金需要の変化により大きく変わってくる面もある。しかし、提出した数字には、一定の責任はあると考えている。


(問)
 不良債権の処理に関して、各行とも今回大幅な上乗せをした理由として合併や統合を控えて前倒ししたものだとの説明があったが、そもそも、合併や統合がなくとも、銀行にとって不良債権の処理は行うべきものであると思うが、会長としてどうお考えか。
(答)
 ごもっともな指摘だと思う。合併・統合があるから処理を行うということは、事情としては当然あるとしても、引当てを要するか、要しないかといった不良債権の判断自体は本来合併とは関係のないことである。それを認識した時点において引当て処理を行うというのが筋である。基本は当然そうであるが、そこに若干の程度の差がどうしても起こってくる。本当にそこまでやる必要があるかどうかといったところになれば、若干の程度の差が当然起こってくるので、その点では、合併という区切りがあると、極力前倒しの引当てを行っていこうというモチベーションが働いてくるということも事実かと思う。


(問)
 資本注入の際、不良債権処理はほぼ終わったとのコメントがあったにもかかわらず、今回のように大幅な処理が行われることとなった。今度こそ本当に終わったと言えるのか。
(答)
 現時点において、我々の抱えている問題先を精査した上で、必要と判断される引当て処理は終えているということは言える。ただ、取引先も変わっていくケースがあるわけで、業況が好転することもあれば、悪化するケースもある。今の状況からすれば、むしろ悪くなるケースの方が多くなってくることも考えに入れておかなければならない。
 そういう意味から、住友銀行としての今年度の償却引当の予想は2,500億円という多めの数字を計画している。

別添資料:西川会長記者会見(住友銀行頭取)