2000年6月20日

西川会長記者会見(住友銀行頭取)

菅野副会長・専務理事報告

 本日の理事会では、お手許の資料のとおり、預金保険事故が発生した場合に、預金者からの申出により、満期日が到来していない場合でも定期預金等と借入金等の債務とを相殺することができるよう、定期預金等期限の定めのある預金の規定ひな型を一部改正し、会員銀行に通知することとした。
 本件は、平成11年12月21日付の金融審議会答申において、「保険事故が発生したときには期限未到来の預金債権と借入金債務との相殺を預金者が行うことを可能とするなど、金融機関が、預金者でもある借り手の立場を考慮した契約関係を築くことが重要である」と記述されたことも踏まえて、検討を行ったものである。
 次に、準会員として、ラボバンク・ネダーランドの8月1日からの加入を承認した。この結果、8月1日現在の会員数は、正会員が145行、準会員が41行となり、72の特別会員とあわせて、合計258会員となる。
 なお、お手許に、郵政省が6月16日に公表した「郵便貯金の事業経営に関する将来ビジョン研究会」の最終報告に対する会長コメントを配布している。
 私からの報告は以上である。


会長記者会見の模様



(問)
 最近、大型の債権放棄要請が目につくが、銀行の立場として、どのような基準で対応しているのか、改めて会長としての見解を伺いたい。
(答)
 全銀協会長としてではなく住友銀行としての考え方を申しあげる。 債権放棄は法的破綻処理を行った場合と比較して経済合理性があるか、つまり、銀行から見れば損失額がどうかという点と、さらに、モラルハザード防止という観点から、(1)放棄した後の残存債権の回収がより確実になると認められること、(2)再建計画が合理的で、実効性があること、(3)会社側の経営責任が明確化されること、という3つの要件を満たす場合に、限定して行うというものである。

(問)
 郵貯問題について伺いたい。郵貯とのオンライン提携が一部大手都市銀行まで広がっていくとの報道がある。全銀協としてはこれまで郵貯の肥大化に反対の立場を取ってきたが、このような大手都市銀行と郵貯とのオンライン提携の広がりが銀行界にも影響を及ぼしてくると考えられるが、改めて郵貯問題に対する全銀協の見解を伺いたい。
(答)
 ご指摘のとおり、民間金融機関と郵便局とのオンライン提携の話が色々と進んでいるようである。また、これまでもそういった提携が行われているケースがいくつかあるが、それ自体は個別金融機関の経営判断によるものであり、全銀協会長としてコメントすることは差し控えさせていただきたい。 このような提携の進展により全銀協としては、郵貯問題に取り組むにあたっての舵取りが徐々に難しくなってきていることは事実である。しかし、国営形態を維持したまま、郵貯が肥大化を続けるということに対する懸念は、各行とも共有しているものであると認識している。 こうした提携がこの郵貯の肥大化をさらに進めることにならないかということについて、私個人として危惧の念を持っている。 わが国の個人預貯金残高は約700兆円あるが、このうち国営事業である郵貯が約260兆円を占める。実に36%の資金が市場原理の埒外にあるということである。いわば民間金融機関はマザーマーケットにおいて個人預貯金の3分の1以上の部分からクラウディングアウトされているということである。こうした事態は先進的な資本主義国においては考えられない事態であり、効率的な金融市場形成の阻害要因となっており、また、2002年4月に予定されているペイオフ凍結解除の支障にもなってくるのではないかと懸念している。もちろん、郵貯とのオンライン提携が国民サイドから見た利用者利便の向上に繋がるということは事実である。しかし、郵貯がこれだけ肥大化していることを国民経済的にはたして容認しうるかどうかは、別の観点から検討が必要な問題であろうと考えている。 民間金融機関はお客さまサービスの向上、経営の効率化に懸命に努力している。しかし、国家信用を背景として、例えば、預金保険料も負担しない-預金量 260兆円とすると預金保険料の負担は、年間約2,000億円となる-また、税金等も免除されている郵貯が、その特典により、金利面・商品面で民間を凌ぐサービスを提供しているという状況下、民間金融機関が十分な金融仲介機能を果たすことにもやはり支障がある。 日本版ビッグバンの本旨は、市場原理の貫徹によって金融市場の効率化を進めようということであり、その中にあって国営形態の郵貯事業がこうした問題点を抱えているということに鑑みると、その根本的な国営という点に注目し、私は早期に民営化を実現するということがどうしても必要だと考えている。

(問)
 訴訟のことであるが、東京都の外形標準課税の条例が施行され3ヵ月ほどたち、一つの目処として株主総会後という話もあるが、現時点での訴訟への準備状況について伺いたい。
(答)
 東京都に対する訴訟提起については、現在、課税対象各行が極力早い時期に訴訟を提起すべく弁護団の編成そして訴状の詳細な検討など、具体的な準備を着実に進めているところである。 住友銀行も課税対象行の一つとして、他の課税対象行とも意見交換を行いながら急いで検討を進めているところである。

(問)
 時期の目処はいつ頃か。
(答)
 極力早い時期としか申しあげられない。その背景は行内の手続きや弁護団の中での意見調整等もあるためで、もう少し時間がかかると認識している。

(問)
 先程の郵貯問題であるが、コメントを出されたこの研究会の件については、具体的に何か郵政省に全銀協として働きかけることがあるのか。 それから、民営化についてであるが、新たに具体的な行動を起こす考えはあるのか。
(答)
 これについては、本日、コメントを出しており、もちろん郵政省の手にも渡ると思うが、別段これによって、新たな行動を起こすというものではない。 今後、郵貯問題については、我々の考える郵貯の将来像に関するレポートであるとか、あるいは各種の意見書の公表、これらを通じて、国民の皆さまに分かりやすいかたちで、私がただいま申しあげたような問題点について主張をしてまいるつもりである。また、例えば、例年の郵政省による予算要求に対しては、その予算についての問題指摘を行い、あるいは反対すべき点、あるいは将来の方向についてこうすべきだという主張を主要な国会議員の先生方にも訴えていくつもりである。

(問)
 債権放棄について、今、そごうが問題になっているが、「長銀の債権に瑕疵が発生して2割減価した場合、国が買い戻す。ただし、債権放棄を行うと2割以上減価しても預金保険機構からの債権譲受の解除ができなくなる」という契約があるために、一般の銀行の経済合理性とは違う事情から、上手くいかないという指摘もある。住友銀行も熊谷組という長銀が準メインバンクとなっている案件を抱えているが、長銀のこの契約には、今後の債権放棄を巡ってどういう影響があるか、どういう問題があるとお考えか。
(答)
 旧長銀がリップルウッドを中心とした投資グループに売却された際の条件が詳細にどうなっているのかは知り得る立場に無いので、正確なことを申しあげることはできない。 しかし、債権放棄ということについては、先ほど申しあげたような考え方で経営判断をしていくべきものだと考えている。しかしながら、旧長銀、現在の新生銀行の場合は譲渡を受けた際の条件に縛られる、あるいはそれが影響するということがあろうかと思う。ご質問にあったように、当該債権について債権放棄をすると、預金保険機構からの債権譲受の解除ができなくなる、そのために債権放棄に応じにくいのだということが言われているのは承知している。新生銀行が債権放棄に応じた場合はそういうことになるというルールがあるわけだが、例えば債権放棄の要請があって、それに応ずれば、債権が2割以上減価するという場合で、預金保険機構がその債権を買い戻す場合には、預金保険機構が新生銀行に代わって、今私が申しあげたような経済合理性に基づいて債権放棄を応諾するということは、制度上可能になっていると聞いている。

(問)
 制度上可能だということなのだが、直接国が一企業のために債権放棄するということについては、制度上可能にしても、それの善し悪しということを考えると、会長ご自身はどう思われるか。
(答)
 これは、もともと国が融資をしていたというものではなく、一時国有化された旧長銀が、国有化の以前から保有していた債権というものである。預金保険機構が国の機関であるが為に、債権放棄ができないということにはならないのではないか。 実際にこういったケースが起きてみないと明確なことは申しあげることはできないが、理屈から言えばそういうことではないかと思う。

(問)
 債権放棄の基準で、会社側の経営責任がきっちり取れればとおっしゃったが、一般的に見て、もちろん要請する会社にも当然原因があるわけで責任をとらなければならないと思うが、一方で融資をしていた銀行側の責任も、かなり問われているわけだが、債権放棄に応じるときの基準の中で、銀行として自らの責任を明確にするというような考え方はお持ちではないのか。
(答)
 今のご質問の趣旨が、債権放棄によって、銀行に損失が生じたことに対する責任ということであれば、まずは、債権放棄を行うこと自体が、法的な破綻処理を行った場合と比較して、銀行にとって損失がより少なくなるという経済合理性に基づいて行われたものかどうかという点が問題になると思う。 その結果、損失が発生したということに関しては、その損失を含む銀行の業績全体について銀行経営者は責任を持っているということであるわけだから、その放棄がどの程度業績に影響を及ぼすものであるか、あるいはその放棄の対象となった債権についてどういう経緯で貸出が行われ、また、その後の債権管理がどう行われてきたのか、それについての経営者の責任はどうなのか、そういった点から総合的に判断されるということであろうと思う。 これはケース・バイ・ケースということであって、なかなか一概に、こういう場合は経営者に責任がある、こういう場合はないということを申しあげるのは大変難しい。

(問)
 銀行側の経済合理性ということでいえば、再建のメドさえ立てば債権放棄をした方がよいというのは分かりやすいことであるが、経済合理性に基づいて債権放棄をしているにもかかわらず、世間から問題にされ、批判されているのは何故だと思うか。
(答)
 それはケース・バイ・ケースだろうと思う。私も、特定の業種において、債権放棄を受けた会社が身軽になって、例えば受注競争の中で有利に立ち回れるというケースもあり、一方で、そんなことでいいのかというような批判があるということも聞いている。しかし、経営難に陥った企業をすべて法的に破綻をさせて、法的な処理をするのがいいのかというと、必ずしもそうではないと思う。法的に破綻処理をすると、その企業の多くの取引先が負担を背負わされ、損失を被るということになるし、また、その会社の経営自体も、法的破綻をした時点から相当期間、正常な経営ができなくなる。また、通常のリストラ以上に従業員が職を失うというような事態もあり得る。これらを総合的に判断すると、私が先ほど申しあげたような条件のもとに、債権放棄によって経営再建が可能ということであれば、そうした方が多くの取引先、あるいは従業員の皆さん等の損失あるいは負担が軽くて済むということもあると考えられる。

(問)
 債権放棄が一番多いのはゼネコン業界であるが、ゼネコン業界は合併や再編が進んでいない。合併や再編はこの業界には合わないと言われているが、この点について、一般論で良いが、考えを伺いたい。
(答)
 全く一般論であるが、ゼネコン業界は再編に適さないというように言われるのは、余り根拠のない話ではないかと思う。やはり、ゼネコンといえども、土木工事にしても、建築工事にしても、全体のパイが、少なくとも国内で見る限りにおいては、大幅にこのところ縮小してきているというのが現状であり、業者の数が多すぎるということは否めない事実である。したがって、その中で再編を進めていくことによって、オーバーキャパシティを適正規模に縮小していく、あるいは業者の数を減らしていくことには効果があるわけであり、その中で均衡を保っていく、均衡を回復していくということも考えなければいけないのではないか、というように個人的に考えている。

(問)
 東海銀行が、トーメンに対して債権放棄をしたが、そのために役員報酬を大幅削減した。こういった銀行側の融資に対する責任の取り方についてどのように考えるか。
(答)
 それは各銀行の経営判断であろうと思うが、やはり債権放棄がその銀行にとって大変大きなインパクトがあるということになると、役員報酬のカットであるとか、あるいはトップの責任という問題は、当然起きてくるであろうと思う。