会長記者会見
2000年7月25日
西川会長記者会見(住友銀行頭取)
鵜飼常務理事報告
本日の理事会では、準会員として、日本マスタートラスト信託銀行の8月1日からの加入を承認した。
この結果、8月1日現在の会員数は、正会員が145行、準会員が41行となり、72の特別会員とあわせて、合計258会員となる。
この他は、金融審議会答申や政府税制調査会中期答申の金融関連の報告などであり、特に報告すべきものはない。
私からの報告は以上である。
会長記者会見の模様
(問)
現状の景気認識について伺いたい。
(答)
結論から申しあげれば、景気の現状については、緩やかな回復局面が持続しており、今後についても、力強さはないものの回復傾向が持続していくのではないかと見ている。
ここにきて企業部門が前向きの動きを次第に広げる展開となってきている。問題の個人消費についても、夏のボーナスが前年並みを維持するなど、所得環境の下げ止まり感が見られる中、徐々に持ち直す傾向が出てきているかと思う。加えて堅調な海外景気を反映して、輸出も引き続き好調に推移している。しかしながら、これまで景気を支えてきた公共投資は、このところ牽引力を喪失し、逆に減少傾向が加速している。総じて見ると、現下の景気局面は、公的需要から民間需要への、いわばディマンド・スイッチングが働き始め、公共投資・輸出を中心とする景気回復の第1段階から、国内民間需要を中心とする景気回復の第2段階に差しかかったところかと見ている。
今後については、堅調な海外経済を反映し、輸出の増勢が続くと見込まれること、また、IT関連投資を中心に設備投資が堅調に推移すると見られることから、景気は引き続き回復傾向を維持すると見ている。しかし、業種別・企業規模別に見た企業業績のバラツキや、企業リストラの継続等、調整圧力が根強く残っているため、回復ペースは従来の景気回復期に比べれば力強さに欠けるものとなると見ている。
(問)
「力強さに欠ける」ということであるが、7月に入ってからのそごうの倒産などが「力強さに欠ける」回復にもたらす影響についてはどう考えるか。
(答)
そごう問題の景気への影響については、足許の景気回復はIT関連業種やその企業群が牽引しているという状況であるため、そごう問題が、この牽引力に直ちに水を差すとは考えにくいかと思う。しかし、そごう問題が株式市場に一定のインパクトを与えたことは否めない、すなわち、市場のセンチメントが弱くなり、株価が下落している状況であり、この株価の下落が企業マインドや消費者マインドに今後、どういう影響を及ぼすのかという点は注視する必要があると思う。
(問)
今の力強さに欠けるという点に関連してもう一点伺いたい。いま、日銀がゼロ金利政策の解除について検討しているが、ゼロ金利政策の解除の是非についてはどのように考えるか。
(答)
ゼロ金利政策についてはそもそも、日本経済がデフレスパイラルに陥っていくことを回避するという観点から、緊急避難的な措置として採られたものと理解している。既に一年半を経過しようとしているが、景気の状況が先ほど申しあげたような状況であるので、遅かれ早かれ、これは解除されるものであろうと市場関係者の一員として見ている。この17日には継続が決定されたわけであるが、これは、先ほど申しあげた個人消費の行方―これが最も重要なことであるが―これについてさらに見極めが必要であること、そして、そごう問題―これが直接景気に影響を及ぼすものではないと考えているが―この問題から市場がどのようなインパクトを受けるのか、また、それがどう実体経済に影響を及ぼしていくのかといった点を考えなくてはならないこと、等が理由としてあると理解している。
(問)
仮にいま、ゼロ金利政策が解除された場合、足許の景気が悪くなるのか、あるいは緊急避難ということであれば、あまり影響はないと考えるのか。
(答)
大変難しい質問である。そごう問題についての市場のセンチメントがどうなるのかということは、一定期間見ていかないと判断できないことである。実は、7月の初めから1週間ほど欧米の投資家回りをしてきたのであるが、その中で多くの投資家から一般的な質問として出てきたことの一つにそごう問題があった。そごうが民事再生法の適用を申請する前の時点であったが、6月30日に金融再生委員会が預金保険機構による債権放棄を了承された後、様々な議論が国内で出てきたということについて、海外の投資家は市場のセンチメントが悪い方向に向かっていると捉えていた。その後、民事再生法の適用申請があり、17日の金融政策決定会合でゼロ金利政策の継続という決定があったわけであるが、個人的には誠に適切な判断であったと感じた次第である。
(問)
興銀や預金保険機構がそごうからの債権放棄の要請を応諾し、そごうは一時私的整理による再建を目指したが、自民党の亀井政調会長が山田社長に働きかけ、民事再生法の道を選ばせた。民間企業に対する政治の介入等、今回の経緯について、どんな感想を持ったか。
(答)
亀井政調会長からそごうサイドにどんな話があったか、それに対してそごうサイドでどんな反応をされたかについて承知していないので、その事自体についてのコメントは差し控えさせていただきたい。そごうが債権放棄を要請し、数多くの金融機関の了承を得て、さらに預金保険機構、金融再生委員会の応諾も得ていたが、敢えてそれを自主的に取り下げられたということは再建計画の実効性等、債権放棄による私的整理の前提条件に大きな変化があったのではないかと個人的には推察している。そうであれば、法的整理への移行は止むを得ず、法的整理に移行しなかった場合は、大きな混乱が生じるということではなかったかと考えている。
(問)
ゼネコン等、銀行による債権放棄を受けて、再建を目指そうという動きがある中で、新生銀行が債権放棄をせず、倒産などの引き金を引く可能性もあるかと思うが、これについてどう考えるか。
(答)
これは新生銀行の判断次第ということであろうと思うが、新生銀行からの借入れのある債務者について債権放棄による私的整理という選択肢が全くなくなったわけではないと考えている。これはケース・バイ・ケースであろう。要は、何を選択するのが経済合理性に叶うのかということであり、関係者が経済合理性に則って行動していくということが重要であると改めて思っている。
(問)
そごうがあのような措置を取ることを、銀行は前もって予想していなかったのではないか。
(答)
少なくとも、かなりの時間をかけて数多くの金融機関から債権放棄の了承を取りつけ、また、新生銀行のそごう向け債権を引き受けた預金保険機構ならびに金融再生委員会にも一定の条件の下に債権放棄の了解を得られていたということであるから、それが一転して民事再生法の適用申請になるということは当初は予測できなかったということかと思う。
(問)
これから法的整理など予期せぬ事態が起こるということになると、各銀行の引当が足らないというおそれはないか。
(答)
ケース・バイ・ケースであろう。引当が十分なケースもあれば、足りないケースもあろう。
(問)
一部報道で、第一勧業銀行が新生銀行の債権を肩代わりするという話が出ているが、今後このようなことは増えると考えるか。
(答)
増えるかどうか、また実際に行われるかどうかもわからない。第一勧業銀行のケースについてというわけではなく、一般論としては、選択肢の一つとしてあり得ることかと考える。
(問)
そごうのケースやゼネコン救済に反対する世論の高まりによって、新生銀行の債権を他の銀行が肩代わりするという動きが出てくるのか。
(答)
経済合理性とモラルハザードの防止、あるいは公平性の観点から考えて出す結論であろうと考える。
(問)
経済合理性に則って、預金保険機構がそごう向け債権放棄の判断をしたにもかかわらず、覆ったことを考えると、今後、預金保険機構によるそういった形の債権放棄は難しいのではないかという見方もあるが、どう考えるか。
(答)
預金保険機構の判断は、経済合理性に則り、同時にモラルハザードの防止という観点も十分検討され、社会的な影響等も考えられたうえでの総合的な判断であったと思う。したがって、どういういきさつがあったのかわからないが、本当に再建計画が実行可能なもので、自信が持てるのであれば、さらに残債を確実に返済していけるものであると確信を持てるのであれば、債権放棄の要請を自ら取り下げる必要はなかったのではないか。私は再建計画の内容について知り得る立場にないので、一般論であるが。
(問)
会長は先ほど、今回の民事再生法に至った手続は適切だったという見解を示されたが、その一方で、債権放棄の要請を自ら取り下げる必要はなかったと言うのは、どういうことか。
(答)
先ほど申しあげたように、どういう内容のものであるか承知していないが、その後の状況変化等を踏まえれば、再建計画の実効性に何か問題が生じた、あるいは充分説得性がなかったということかもしれない。したがって、取り下げるということになったものと思う。
債権放棄の要請を取り下げるということは大変な決断を要することであって、大変数多い取引先、そして自社グループの従業員あるいは取引先の従業員、こういった方々に非常に大きな迷惑をかけることになるわけである。それを敢えてされて、法的整理に移行されたということは、大変な決断を必要とすることであったと思う。
取り下げる以上は、取り下げてそのまま資産を減価させるわけにはいかないわけだから、保全命令を受けられる法的整理に移行せざるを得ないということだろうと思う。
(問)
短期的に見ると銀行は影響を受けるものの、中・長期的に見ると、法的整理のほうが透明性が高く、2次ロスもその場でわかるということもある。法的整理への道がこれで開いたということで、これから法的整理が増えるのではないか。
(答)
皆さんは、法的整理を選択し、手続に則って再建をしていけば、もう2次ロスの心配はないのだ、上手くいくのだというふうにお考えのように、報道等を通じて受け止めている。しかしながら、私は、そういったケースを自ら経験してきたが、その経験に照らして見れば、そんなに上手くいくものではないと考える。法的整理をしても最後は破産に移行するというケースもあるし、また追加的なロスを負担しなければならない事態も生じるわけである。
私は、法的整理が万能だとは考えていない。
(問)
欧米を回られたということであるが、投資家に対して銀行の今期の利益についてはどういうふうに説明されたのか。
(答)
個別行のことであるが、弊行の業績見通しについては、来年4月の合併を控えて不良債権問題については最終的な決着をつける、そのための財源も充分に考えたうえで業績見通しを立てている、と説明している。
(問)
先ほど、そごうの問題が株価の下落に影響しているとおっしゃったが、中身を見ると、そごうの破綻がゼネコンに対する不安を招き、それが銀行株の値下がりに波及してきているということだと思うが、この事態をどう受け止めているか。
(答)
市場のセンチメントがそういうふうにいま動いているということであって、それはそごう問題のみではないということかと思う。
もともと、銀行セクターの株価については昨年の暮れあたりから、TOPIXをアンダーパフォームしてきていたわけである。これには様々な原因がある。例えば、持合い解消の問題はどうしても銀行株に付きまとってくる、不良債権問題についても、5月の決算発表を見ると予想以上の処理量ということであった、さらにまた最近では、いま申しあげたそごう問題の発生、これが、シナリオ通りすんなりいかなかった。こういう状況から株価の低迷が続いているのではないかと思う。
(問)
非常に悲観的なマーケット関係者などによると、また金融不安が再燃しかねないという見方もあるが、それに対してはどうか。
(答)
それは全くない。
98年秋以降の状況とは全く違うと思う。
(問)
マーケットの動向は不良債権処理を早期に行うべきと促しているとも受け止められるが、各行における前倒し処理につながることはないか。
(答)
それは各行の判断であるが、弊行の例で申しあげれば、4月の合併を控えて、両行においてそれぞれ不良債権問題の最終決着を自己責任において行っていくことにしている。住友銀行の場合は、99年度も6,800億円という大変大きな償却引当を実施したわけであるが、今年度についても前倒し、予防的な対応をきちっとやって参りたいと考えている。
(問)
そごう問題が不良債権問題の最終決着に影響を与えると思うか。
(答)
各行の対応にどう影響するかということについては、私の立場でコメントすることはできない。
(問)
住友銀行としてはどうか。
(答)
そごう問題とは関係なしに、不良債権処理を行う。
(問)
選挙前後に各政党に融資を行ったか。
(答)
他行のことは全く知らないが、弊行に関しては、借入れ申込等は全くなかった。
(問)
今国会で野党から瑕疵担保特約見直しの声が出ているが、これについて、どう考えるか。
(答)
新生銀行についていえば、関係者がぎりぎりの交渉をされたうえで、一つは長銀の早期譲渡、そして同時に国民負担の抑制、さらに長銀から大きな借入れのある債務者企業の借入れ継続という観点から、そのような特約条項を設けた譲渡契約になったものだと思う。
(問)
やむを得ないということか。
(答)
来年4月に施行される改正預金保険法にはプロフィットシェアリング、ロスシェアリングの制度が盛り込まれているわけであるが、そういった制度が金融再生法の中になかったわけであるので、瑕疵担保特約という形をとらざるを得なかったということかと思う。