会長記者会見
2000年10月24日
西川会長記者会見(住友銀行頭取)
(問)
このところ生命保険会社の破綻が相次ぎ、本日もノンバンクの清算が決まったという報道もあった。不良債権問題がなかなかまだ解決していないのではないかということを思わせるようなニュースが相次いでおり、不良債権問題が経済全体に暗い影を落としているという印象を受ける。会長としてわが国における不良債権問題の現状をどのように捉えているか。
(答)
不良債権問題については、大きな山を越えたという認識に変わりはない。もっとも、企業業績は、全体として、景気の回復やこれまで進めてきたリストラ効果の顕在化等により、改善傾向にあるものの、業種間の格差や同業種における企業間の格差が二極化といっていいほど顕著である。一方、地価は依然として下げ止まっておらず、いわゆる資産デフレの状況が続いている。私どもとしては、今後についても決して楽観できる状況にはないと認識している。 以前申しあげたとおり、私どもは不良債権問題の最終決着を急いでいる。一方で客観的な情勢として、産業界の構造改革は否応無しに進んで行くことを考えると、個別行の立場として申しあげれば、不良債権問題に対して、ここ数年は意識的に予防的な対応を行っていく必要があると考えている。
(問)
不良債権問題が金融機関の経営に与える影響、決算に与える影響の大きさ等について伺いたい。
(答)
今、申しあげたような状況であり、いわゆるクレジットコスト、償却・引当額は前年度・前々年度に比較すれば大幅に減少するはずであるが、水準としてはまだまだそう低くないものにならざるを得ないと感じている。12年度上期決算については現在集計中であり、個別行としても具体的な数字についてコメントすることはできないが、私としてはそのような印象を持っている。
(問)
銀行による保険の窓口販売については、現在、金融審議会で審議中であるが、現時点で見えている取扱いについては、かなり限定的な内容となっているようである。銀行の保険窓販についてどのような形が望ましいと考えているか。
(答)
改正保険業法により、銀行による保険商品の窓販は来年4月1日から解禁されるが、取扱商品や商品の仕入先等の詳細は、今後、省令で定められることとなっている。この点に関しては、97年6月の保険審議会報告では、取扱商品、その仕入先の範囲に関して、きわめて厳しい限定条件を付すとの考え方を示している。それは、「銀行等がその子会社または兄弟会社である保険会社の商品を販売する場合に限定したうえで、住宅ローン関連の長期火災保険および信用生命保険を認めることが適当」という内容である。 しかし、保険商品の窓販が解禁される理由として挙げられるのは、利用者利便の向上、競争促進による保険料率の引き下げ効果という国民経済的な意義である。また、主要国においては銀行による保険の窓販は広く認められており、国際的な整合性の確保という意味合いもある。したがって、取扱商品や仕入先に関する制限を付けずに全面的な早期解禁を強く望む。 住宅ローン関連の長期火災保険や信用生命保険に限って考えてみても、仕入先を子会社または兄弟会社に限定すると、事実上、「やらせない」ということに等しくなる。仮に銀行による保険窓販の滑り出しが住宅ローン関連の保険ということになるとしても、仕入先についての制限は付けないでいただきたいというのが私どもの希望である。
(問)
外形標準課税の問題であるが改めて伺いたい。先日、21行が東京都を相手に提訴したが、課税前のこの時期に提訴に踏み切ったその意味合いについて伺いたい。また、かなり困難な裁判になるとの話もあるが、先行きについても伺いたい。
(答)
この条例に対する私どもの対応や政府のご対応については既にご承知のとおりであるので、この場での説明は省略させていただくが、私どもは、裁判を通じ、これまで主張してきた本件条例およびその制定過程の問題を改めて整斉と説明し、司法の判断を仰ぎたいという考えである。課税処分が行われていないこの時期の提訴ということについては、私どもはこの条例が3月30日に可決され、4月1日に公布・施行された結果、繰延税金資産の減少やこれに伴う当期利益の減少をはじめとする大きな損害を既に被っており、また、この損害の発生が今後も確実視されていることから、この段階において訴えを提起した次第である。 私どももこの訴訟がやさしい訴訟であるという甘い考えは持っていない。この訴訟における私どものねらいを実現し、損害を回避していくためには、最大限の努力を行う所存である。
(問)
外形標準課税の議論の過程で、「銀行はもっと負担をしろ」という世論もあったと思うが、このような世論が預金保険料の引き上げという形へ展開する懸念はないか。
(答)
税金の負担の問題と預金保険料の問題というのは、基本的に性質が違うものであると思う。預金保険料についても、金融システム不安や金融機関の破綻処理のため、既に特別保険料を含め7倍の引き上げが行われている。したがって、今の料率でも、金融機関として耐えられる限度一杯であると思う。
(問)
先週、株価が日経平均で15,000円を割り、銀行株もさえない動きをみせる等、昨今の株価の情勢が芳しくない中、宮澤蔵相は、実際には日本の景気にはあまり影響はないという考えを示されたようだ。最近の株価の状況について会長はどう考えるか。
(答)
マーケットのことであり、大変コメントが難しい。個人的な受け止め方を申しあげると、当面の株式市場の地合いの悪さは否定できないが、先行きについて過度に悲観をする必要はないと思う。最近の株価の軟調の背景には様々な要素があると思うが、一つ大きなインパクトになったのは、一時ダウが1万ドルを割るといった、米国株の下落へのツレ安があろうかと思う。また、さきほど不良債権問題の際に触れたように、確かに企業業績は全体としては改善してきているものの、業種間のバラツキや同じ業種においても企業間の格差の拡大があり、これらの先行きについての懸念・不安ということが拭えないことも挙げられる。さらに、原油の値上がりやユーロ安、あるいは米国経済の先行きに対する若干の不安というものが底流にあることから、やはりしばらくは地合いが悪いのではないかとみている。
(問)
日経平均株価は昨年度末に2万円台であったものの、今年度に入って下落基調にあり、金融機関が保有する有価証券の含み益が減少したり、含み損が拡大したりという問題が、生命保険の破綻においてもクローズアップされた。株価が金融機関に与える影響についてどう考えるか。
(答)
各銀行の株式のポートフォリオ如何でかなり違う面があり、一概には申しあげられない。しかし、一般的にみれば、3月末に日経平均で2万円を少し超えた水準であったものが今は15,000円強であり、日経平均で5,000円ほど下がった状況になっている。これにより、含み益を減らし、あるいは、含み損のある銘柄の損失が拡大したという状況が、出てくることは否めない。しかし、それが今すぐ金融機関の経営に影響を与えるとは思えない。もっとも、株価の低迷が長く続くということになれば、影響が出てくる可能性もあろう。
(問)
10年物国債が今日の入札分から増額になったが、その感想を伺いたい。また、国債の引受けシンジケート団についてどんな考えを持っているか、さらに、今後の国債相場の軟調が銀行経営に与える影響を伺いたい。
(答)
10年債の入札が行われ、今回から2,000億円増額され、1兆6,000 億円となったとのことである。これは、当局において国債発行の見通しあるいは、市場環境等を総合的に判断された結果であると思う。シ団としても10年債が 2,000億円増額することになったことについて、現在の市場環境等や国債の流動性を勘案すれば、この程度は受入れ可能と考えている。 シ団制度のあり方については様々な意見があるが、歴史的にみて国債の安定消化に大いに寄与してきたと思う。現状、国債発行高に占めるシ団引受けのシェアは低下傾向にあるものの、シ団が依然として相当の額を引受けているという状況に変わりはない。今後、国債発行の増加が見込まれる中で、安定的な消化を維持していくということは引続き重要な課題であると思う。そういう意味でシ団制度の役割は依然として大きいと考える。 銀行経営に対する影響についてであるが、もともと銀行においても、国債保有に係わるリスクについては、市場の状況を見ながら先物やオプションなどのヘッジ手段を使い価格変動リスクを管理してきている。したがって、十分リスク・コントロールは可能である。非常に大きな変動が起きた時は別であるが、そうでなければ、国債相場の変動によって銀行が大きな打撃を受けるということはないと考える。
(問)
民事再生法とか更生特例法という法的整理をしやすくするための制度が整備された結果、要注意先や正常先など、銀行が予め破綻を想定していない企業から法的整理が出やすくなったという指摘があるが、そういう認識はあるか。
(答)
更生特例法の適用申請をしているのは生命保険会社であり、数が多いのは民事再生法であるが、現状は申立の濫用はまずないのではないかと思う。ただ、民事再生法は債務超過でなくても支払いが困難になったというだけで適用申請ができるということであるので、金融機関としては従来以上に債務者の業況を注視していかなければならない。特に、資金繰りの把握あるいはそれに対する会社側の対応、経営者の仕振りといったものを十分に注視していかなければならないと思う。しかし、民事再生法のために不良債権が増えているということは、まずないのではないかと思う。
(問)
正常先とか要注意先の取引先が民事再生法等の適用申請によって破綻することはあまりないということか。
(答)
どこからどこまでが民事再生法ができたことによるものなのかは、なかなか区別が難しい。民事再生法がなくても、例えば要注意先のなかから予想外の不渡りが出るというようなケースがこれまでも無かったわけではない。そのような先が民事再生法の適用を申請するというケースもあるかもしれないし、なかなかその区別は難しいと思う。
(問)
先日、「個人情報保護基本法制に関する大綱」が発表されたが、個人情報保護のあり方についてどう考えているか。
(答)
個人情報保護の必要性については申すまでもないことであるが、一方において個人情報の有用性も非常に重要なことである。個人情報の保護と利用面の有用性のバランスを確保していかなければならない。そして、法律によって細かく規定するのではなく、個人情報を取り扱う者の自主的な取り組みが尊重されることを、私どもは希望している。銀行界は従来から自主的に個人情報の保護に取り組んできているが、今後は、議論されている基本法の制定等を踏まえて、より厳正に対応していく所存である。
(問)
個人破産が増加しているが、情報システムのあり方について、どう考えるか。
(答)
個人破産の増加と情報システムのあり方については、銀行界としては個人信用情報センターの充実に努めてきており、本年10月からシステムをバージョンアップしている。例えば、従来はカタカナ登録であったものを、漢字登録を行えるようにしてカタカナ登録のもたらす混乱を回避するなど、システムの改善に努めているところである。
(問)
大手の保険会社がいろいろな形でアライアンスを組むようになってきている。昨日も日本生命と三井海上、住友海上の提携が発表されたが、こういう保険会社の提携や統合についての感想を伺いたい。また、銀行界が4大グループといわれるような形で再編成が進むなかで、保険業界では4大グループと違った形での提携関係を模索しているが、この点についてどう考えるか。
(答)
保険分野においても、従来の生命保険、損害保険といった縦割りの規制、あるいはそれに基づいた経営の限界というものがはっきりしてきている。生命保険会社は損害保険分野を強化していかなければならない一方、損害保険会社は生命保険分野を強化していかなければならない。さらに第三分野も重要になってくる。このような中、それぞれが得意分野を伸ばしながら弱い分野を補強することが必要になってきているということだと思う。それを解決するための手段として、統合というやり方もあるし、あるいはアライアンスを組むというやり方もあると思う。昨日、日本生命、三井海上、住友海上、同和火災4社の提携が発表された。同和火災は日生系列ということであるが、それぞれ経営の独立性を保ちながら、それぞれの弱点となる分野をアライアンスによって強化していくとのことである。私はこれが本当の意味での提携ではないかと高く評価をしている。 4つの銀行のグループと保険のグループが必ずしも一致をみないということについては、私はその必要性はまったくないのではないかと思っている。皆さんは、ワンセットになればまとまったということで、それを評価されるのかも知れないが、私は、その必要性はまったくないと思う。保険は保険でそれぞれの経営判断に基づいて自らの経営の強化、生き残りを目指すというのは、至極当然のことだと思っている。それが銀行のグループと合わないということがあっても、何ら不思議はないと思う。
(問)
2,000円札がなかなか出回らないことから、日本銀行や大蔵省が関係先に要望したり、自らの給料を2,000円札で支払うなどいろいろな動きがある。2,000円札が流通しない一因として金融機関の取り組みの遅さを挙げる声があるが、これについてどのような意見があるか。また、どのような改善策を考えているのか。
(答)
先般、大蔵省理財局長と日本銀行発券局長から、2,000円札の流通促進に協力してほしいとのご依頼があった。これを受けて、全銀協としては、傘下の各銀行に対してご依頼の内容について周知徹底を行ったところである。2,000 円札の利用者のニーズがどうなのかといった点や、ATMなどの現金関連機器の対応には、駅等の券売機も同様であると思うが、大変な時間とコストがかかるといった難しい問題もあるが、ご依頼の趣旨を踏まえて私どもとしては出来る限りの協力をしていきたいと考えている。 具体的にどういう対応をするかということについては、各行それぞれの判断があるわけであるが、住友銀行としては、勿論従来から窓口では2,000円札の取扱いをしているが、さらに、一部始まっているが今後半年程度をかけてATMでも2,000円札の入金が可能となるようにする予定である。また、これもお客さまのニーズ次第であるが、大口の現金払出し等の際には2,000円札の使用をお客さまに呼びかけていく等の対応をして参りたいと考えている。