2000年11月21日

西川会長記者会見(住友銀行頭取)

菅野専務理事報告

 私からはまず、本日の理事会で、次期副会長および次期正副会長の担当委員会を、お配りした資料のとおり内定したことを報告する。
 なお、次期副会長の正式な選任は、次期会長と同様、来年4月の定例総会後の理事会において行われ、また、担当委員会の正式な指名は、次期正副会長が正式に選任された後の正副会長会議において行われる。
 次に理事会では、年末に向けた金融の円滑化について、お手許の資料のとおり申し合わせを行った。
 私からは以上である。


会長記者会見の模様


(問)
 本日未明に森内閣の不信任決議案が否決されたが、政局が不安定ななか、経済への影響が出てきている。今回の政局の動きとその決着についての感想と経済政策等に対する要望を改めて伺いたい。
(答)
 政局の混迷は、株価の下落等を通じて、企業マインドや消費者マインドに悪影響を及ぼすという懸念があるが、幸い、本日未明、内閣不信任決議案が否決されたことで、政局は安定に向かうものと期待している。今臨時国会においては、補正予算やその他の重要法案の審議が残っており、さらに、平成13年度の税制改正や予算編成が行われる予定である。これらを通じて、一段の景気回復に寄与する施策が打ち出されることを期待する。


(問)
 新しい形態の銀行の一つであるIYバンク銀行が銀行免許の予備申請を提出した。事業会社による本格的な銀行業への参入であり、しかも拠点の数は非常に多く、銀行業界への影響も大きいと思われる。また、本件は、金融システムの安定という意味でも色々議論があったが、これらの観点からIYバンク銀行の参入に関してどのように思われるか。
(答)
 ビッグバン時代の規制は業者サイドではなく、利用者サイドに立ったものであることが必要であり、私ども金融機関は利用者ニーズに的確に応えていくことが使命である。IYバンク銀行さんは、コンビニエンスストア等にATMを設置し、決済を中心とした金融サービスを提供する銀行として免許の予備申請を行われたとのことである。このような新しい形態の銀行の登場により、競争が一層促進されるとともに、銀行のビジネスモデルの多様化を通じて、様々な形で利用者利便の向上がもたらされるものと期待している。
 その一方で、例えば機関銀行化といった事業親会社による実質的な支配力や影響力の不適切な行使を防ぐ措置が講じられることにより、銀行経営の健全性、金融システムの安定性の確保が図られる必要があることは言うまでもない。
 さらに、「利用者の視点」に立つという観点からは、既存銀行についても幅広い業務範囲の見直しが必要である。現在、金融審議会第一部会では、銀行の他業禁止緩和に関する検討が行われているが、既存銀行についても「利用者の視点」に立った金融サービスの提供が行えるように、従来の業態の垣根にとらわれない幅広い業務範囲の見直しが必要である。


(問)
 アメリカで活用されているノーアクション・レター制度の導入に向けた議論が盛んになってきており、このほど、金融イノベーション会議も同制度の導入について提言を公表している。銀行界は円滑で透明な金融行政の実施という観点から、これを望んでいると思われるが、これまでの様々な議論を踏まえてのご意見を伺いたい。
(答)
 ノーアクション・レター制度の導入については、金融イノベーション会議が提言されているが、全銀協としても金融審議会第一部会や総理が主宰する産業新生会議において同様の要望を行っているところである。
 ノーアクション・レター制度は、銀行が法令には規定されていない新たな業務を行う場合のリーガル・リスクを極力排除できる仕組みであり、環境変化に即応した実質的な規制緩和を行ううえで、大変有用な制度である。私どもとしては、これを活用できる体制が早期に整備されることを期待している。


(問)
 銀行による保険の窓口販売に関して、先日、生命保険協会の宇野会長が記者会見で仕入先や取扱商品の範囲の自由化についてかなり慎重な発言をされていた。保険商品の窓口販売についての全銀協の考え方を伺いたい。
(答)
 これまでも申しあげてきたが、来年の4月1日に銀行による保険の窓口販売が解禁されるということは既に決まっている。ただし、取扱商品や商品の仕入先の詳細は今後省令で定められることになっている。97年の保険審議会報告によれば、商品の仕入先は銀行の子会社または兄弟会社に、また取扱商品に関しても、損保関係では住宅ローンに係わる長期火災保険、生保関係では住宅ローンに係わる信用生命保険に限るとされている。私どもは仕入先制限、取扱商品に係わる制限をできるだけ少なくするように要望している。生命保険協会の宇野会長がどういう内容の発言をされたかということについて詳細は存じあげないが、かねてより生保商品に関して慎重な発言をされているということは承知している。生保商品にも色々あるわけであり、宇野会長のご指摘のように銀行による窓口販売に適さないような商品もあるであろうと思う。
 要は、各銀行においてコンプライアンス体制、販売体制を十分に整備したうえで保険商品の窓口販売にあたることが肝要だということである。それでも、専門的な販売体制、つまり生命保険会社の営業職員のような方々を銀行が雇用するということはすぐには難しいと思う。仮に取扱商品がフリーになったとしても、それぞれの銀行の経営判断によって、自分達の能力に見合った商品を選んでいく必要がある。そうでなければ、販売者としての責任を全うすることはできないのではないか。
 その点は、宇野会長のお考えと銀行界の考えに大きな違いはないのではないかと思う。私どもとしては、保険商品の窓販に当たって、利用者に対する責任を全うするということが大前提でなければならないと考えている。


(問)
 生命保険に関して、相沢金融再生委員長が言及している予定利率引き下げの議論に対する会長の見解を伺いたい。
(答)
 生命保険会社において、おしなべていわゆる予定利率と実際の運用利回りとの間に大きな逆鞘が存在するということは承知している。しかし、残念ながら、その実態やその逆鞘解消のためにどういう解決策があるのかは、よくわからないので、これ以上のコメントは遠慮したい。


(問)
 株価が政局やアメリカの状況等の影響により低迷し、一部の銀行では含み損を抱えているところもあると聞く。政界の一部で金融危機が来年早々再燃するのではないかという指摘も出ているが、どのように考えるか。
(答)
 ご質問にあった「一部に金融危機が再燃するのではないかという見方がある」ということについては、具体的にどういうものを指しているのかよくわからない。
 株価について申しあげると、当面の日本経済の見通しや企業業績といった視点から見ると、株価の先行きについてそれほど悲観視する必要はないのではないかとかねて申しあげてきている。これについては今も変わっていない。
 一方、アメリカの大統領選挙の決着が長引いていることや昨日までの日本の政局の動きに加えて、為替相場の動向、特にユーロ安の影響が輸出産業にとっては大きいこと、あるいは原油価格の高止まりといった不透明要因が、このところの株価形成に影響していると感じている。しかし、先に申しあげたとおり、基本的には、企業業績は回復途上にあり、景気についても緩やかながらも回復が続いているという状況にあり、株価動向をそれほど悲観視する必要はないのではないか。


(問)
 本日、自治省が法人事業税について、業種を問わず全国一律に外形標準課税を2002年度から導入するという案を発表した。全銀協としては今まで、東京都や大阪府の案に関しては、銀行だけを狙い撃ちにしたものであると、反対活動を続けてきたが、全業種・一律課税になった場合に、どのようなスタンスをとるつもりか。
(答)
 全銀協としては、平成13年度の税制改正要望において東京都や大阪府の銀行課税に関する条例の根拠となった地方税法第72条の19の見直しを要望している。自治省案の詳細をまだよく見ていないが、同法第72条の19を改正しようというところには合理性があるのではないかと考えている。
 もっとも、外形標準課税の一律的導入ということについては、納税者の理解が最も重要なことであり、この点から見ると、まだ経済界との間の十分な合意形成がなされているとは言いがたい状況であろう。納税者の理解が新税導入の大前提であることを考えれば、十分な議論、そして合意形成が行われたうえで、現実的かつ具体的対応が検討されていくことが重要だと考える。


(問)
 上期に銀行の不良債権の処理額が予想より膨らんだと思うが、現状の株安や景気情勢を踏まえて、業界全体の通期での不良債権処理の見通しを伺いたい。
(答)
 業界全体については、本日から決算発表が行われているところであり、他行の状況については存じあげないが、住友銀行について申しあげれば、上期の不良債権処理額は当初の見通しよりかなり上回っている。そういう事情もあるので、年間を通じて見れば当初の見通しをかなり上回っていくと言えるかと思う。
 私どもの場合は来年4月にさくら銀行と合併をするので、双方において不良債権問題の最終決着を図っていこうという話し合いをしている。その方針に則って、来年度に大きな負担を持ち越すということがないように、あるいは来年度に大きな負担が発生してくることのないように、下期にはさらに思い切った処理を行う必要があると考えている。


(問)
 不良債権処理の見通しであるが、2000年3月期決算発表時点でも充分な予防的引当てをして、2001年3月期以降の不良債権処理を抑えていくと言っていたと思うが、その予想を上回るというのはどういう理由からか。
(答)
 かねて申しあげているとおり、いくつかの業種において、大きな構造改革の流れの中で経営自体を抜本的に見直していかねばならない企業がどうしても出てくる。さらに、地価はまだ下落を続けているという状況にある。これらの要因から現状は、我々の不良債権の見通しをさらに上回る額の処理をしていかなければならないという事態が生じてきている。
 しかし、それは不良債権問題が全くコントロール不可能なものであるとか、逆戻りしている、あるいは再び大きな問題が発生してきているという類のものではない。あくまでも最終処理の中で金額が予想よりも膨らんだという認識である。


(問)
 この期にきてなお、抜本処理が必要だということになるのは何故か。これまで、やりたくても何らかの原因があってできなかったのか、もしくは別の理由があるのか。
(答)
 まずその前提として、各企業の経営判断がある。また、会計制度の変更、すなわち、時価会計、年金会計、減損会計の導入といった要因もあると思う。これらの要因が重なり合って、この時期に処理を要するという事態が生じている。


(問)
 来期以降は予想を上回ることは起きないという認識で良いのか。
(答)
 常にそういう認識を持っている。しかし、全ての企業を白か黒かに分けて考えられるものではない。その間にグレーなゾーンもあるわけで、それがどちらに変わっていくかの見通しを立てることはなかなか難しい。私どもとしては、そういったものについてはできるだけ引当てによって予防的な処理をしていくという方針で臨んでいるが、それでもなお私どもの予想を超える事態が残念ながら起きてくる。したがって、来期以降は予想を上回ることはあり得ないのかと言われると、そう言い切れる類のものではないと申しあげる以外にない。


(問)
 不良債権処理が山を越えたのか越えないのかということは、ここ数年ずっと言われていることである。全体の処理額としては随分抑えられていると思うが、見通しを上回っていくということ自体が、まだまだ不良債権処理は終わっていないという印象を与えるのではないかと思う。この点についてどう考えるか。
(答)
 必ずしもそうは言えないのではないか。程度の問題であろう。しかし、大きな山を越えたということは、間違いない。


(問)
 冒頭の質問に関連して、これで政局が安定に向かうことを期待していると言われたが、マーケットの反応を見ると、むしろ政治の抜本的改革とか変革が見送られたということが売り材料になっているのが現実であろう。庶民の感覚から見ても期待が裏切られたという気持ちである。支持率の低い今の森政権によって打ち出された施策を妥当なものと考えているか。もし改善が必要なら、いかに改善する必要があると考えるか。
(答)
 今回の政局混迷に対するマーケットの見方については、確かに今日の株価はさらなる下落を見たということではある。しかし、株価については、もう少し時間をかけて見ていく必要があるのではないかと思う。現内閣の施策については、私どももいろいろと勉強しているが、日本経済の現状を直視して、そしてそれに対応する適切な施策というものを、よく考えられて打ち出してきておられると思う。欲を言えばきりがないが、考えられることについては、十分対応してきておられると私は理解している。


(問)
 熊谷組の問題について、本日午前中、福井銀行の頭取が決算発表の場で「債権放棄を要請されているが現時点で応じる考えはない」と発言しているが、これについて住友銀行としてどう考えるか。
(答)
 その件はまだよく聞いていない。現在、熊谷組では、住友銀行も応援をして、いくつかの地方銀行さんと最後の詰めを行っているが、その結果については、まだよく聞いていない。しかし、全体の計画としては、近々まとまる方向で進んでいると理解している。