2000年12月19日

西川会長記者会見(住友銀行頭取)

菅野専務理事報告

 本日の理事会では、お手許の資料のとおり、預金口座の不正利用防止等への対応として、普通預金規定ひな型、貯蓄預金規定ひな型およびカード規定試案を一部改正し、会員銀行に通知することとした。
 改正内容は、いわゆる架空名義口座等本人名義以外の名義による預金口座であることが明らかになった場合には、預金取引の停止または預金口座の解約ができること、および一定の期間利用のない預金口座については、預金取引またはカードの利用の停止ができること等の規定を追加するというものである。
 なお、今回の改正は、架空名義口座等が誘拐事件その他の犯罪において利用されるなど、社会的にも関心が高まっており、銀行界としてしかるべき対応が求められていること等を踏まえて、検討を行ってきたものである。
 私からの報告は以上である。


会長記者会見の模様


(問)
 保険の窓販についてであるが、来年4月に銀行窓口で保険の販売が解禁され、これに伴い金融庁が最初の取扱商品についての考え方を示している。事実上、生保商品の販売は見送られた形となったが、これについてどう考えるか。
(答)
 ご指摘のとおり、金融庁の発表した方針によると、生保商品については事実上、見送りということになった点は遺憾である。しかし、損保商品については仕入先制限が外れたこと、住宅ローンに関わる長期火災保険に加え債務返済支援保険および海外旅行傷害保険が新たに窓販対象商品に加わったことにより、全体としては97年6月に公表された保険審議会報告の内容から一歩踏み出したものとなっていることは評価できる。
 さらに金融庁からは、生保商品を含む一段の窓販商品の拡大、生保商品の仕入先制限の撤廃についても「来年4月以降の実施状況をみながら、さらに検討を行い、来年度中に改めて結論を得ることとする」という考え方が示されており、来年度中の見直しが担保されたものと理解している。いずれにしても、銀行が出来る限り制限のない形で保険販売を実施できるよう、早急に一段の規制緩和を進めていただきたいと考えている。


(問)
 12月の日銀短観にも示されているように、景気の足踏み感が広がっている。先日の金融経済月報でも、あるいは11月に経済企画庁が公表した月例経済報告でも景気判断がやや下方修正され、先行きについても一時よりも悲観的な見方が広がっている。景気の現状認識と先行きの見通しについてどのように考えるか。
(答)
 わが国景気は、民間の設備投資を牽引役として、基本的には緩やかな回復が持続していると認識している。民間の設備投資については、機械受注を見ても、本年4-6月期、7-9月期と2四半期連続で、前年同期対比20%を超える増加となっている。先行きについても設備投資は力強いものであると認識しており、少なくとも本年度一杯、うまく行けば来年度前半まで景気を牽引するという期待が持てるのではと考えている。しかし、9月頃から企業の景況感が若干悪化してきていることは懸念材料ではある。この原因は米国経済の減速化懸念や株価の低迷ということであろうかと思う。こういったことが背景となり、景気回復ペースは徐々に鈍化してきているのではないかと感じている。
 これからの景気動向を展望すると、結論としては、直ちに腰折れするという可能性は小さいものの、来年度後半にかけて景気はスローダウンしていくのではないかと見ている。当面、腰折れの可能性は小さいとみている背景には、設備投資の強さがある。IT関連産業の投資、あるいはその他の産業におけるIT化の投資が広がりを見せてきており、また、機械受注の状況を見ると、IT関連投資のみならず、工作機械や産業機械などの受注も伸びてきている。さらに、ここ数年来、企業は懸命にリストラに取り組んできており、その効果として企業の収益体質はかなり大幅に改善を見ている。以上のことから、景気腰折れの可能性は小さいと認識している。
 しかし、一方で米国経済の減速化傾向がはっきりしてきており、これによりわが国の対米輸出、さらには対東南アジア輸出、対欧州輸出など輸出全般の景気牽引力が低下していくのではないか、という懸念がある。また、公共投資の減少もはっきりしてきており、これらの要因が顕在化することにより、景気はスローダウンしていくのではないかと考えている。


(問)
 来年1月6日に省庁が再編され、金融行政の関連では金融再生委員会が金融庁に一本化される。先の組閣では柳沢初代金融再生委員長が再任され、引き続き担当大臣となる。新たな金融行政に何を期待するか。
(答)
 来年1月から金融再生委員会が金融庁と合体し、金融行政が一本化する。新たな金融庁に期待することを大きく整理すれば2点ある。
 第一は市場原理と自己責任原則に則った金融市場の構築である。金融行政は従来の事前指導型から、公正透明なルールに基づく事後チェック型へと着実に転換が進展してきていると思う。私どもとしても、今後ともこの方向で金融行政が進められることを期待している。また、自由で公平なわが国金融市場を構築するにあたり、残された最大の課題は、市場原理の埒外にある公的金融問題の解決である。特に、郵便貯金については、民営化を視野に入れた抜本的な改革が早期に実現されるよう、金融庁のリーダーシップの発揮に期待している。
 第二は環境変化に対応した、金融行政の迅速な整備ということである。現在、私ども金融機関は従来の「バンク」という狭い概念から脱皮し、新たな「金融サービス業」へと経営のパラダイムシフトを進めているところである。金融庁には、私どもが、利用者に一層価値あるサービスを提供し、国際競争力を高めていくため、より一層自由に活躍できるプレイング・フィールドの整備を要望している。具体的には、業態別の縦割り規制を金融サービス横断的な規制へ見直す一方、金融サービスの範囲についても環境の変化に合わせて再検討を行うことが必要であると強く訴えているところである。
 柳沢大臣におかれては、一昨年の12月に創設された金融再生委員会の初代委員長を務められ、一部大手金融機関の破綻処理、早期健全化法に基づく資本注入など、金融システムの安定化に向けて非常に大きな成果を挙げられた。そういう意味で再度のご就任を大変心強く思っている。


(問)
 今週後半に東京都外形標準課税訴訟の第1回目の口頭弁論があるが、今回は実際に課税される前の訴えであり、今後の展開について関心も非常に高いと思う。訴訟の行方についてどのように見通しているか。
(答)
 訴訟については、私どもは最善を尽くしていく考えであり、また、それだけの準備を万端整えて臨んでいるところであるが、その行方ということになると、訴える側において「こうなります」とういうふうに申しあげられるようなものではない。もう少し成り行きをみないことには、何とも申しあげられない。ただ、今は最善を尽くすのみということである。


(問)
 東京都との関係がこの訴訟でギクシャクするといった心配はないか。
(答)
 そういった問題も出る可能性はあろうかと思うが、我々も訴えた以上は、訴訟は訴訟として全力で臨むということである。


(問)
 今回、必ずしも課税対象の大手銀行が全て訴訟に参加しているわけではなく、一部参加していない銀行もあるが、そういった足並みの乱れは何が原因なのか。
(答)
 課税対象行のうち一部の銀行は、東京都においてはビジネスのボリュームが小さいため、訴訟に参加しなかったところがあるが、大手銀行においては参加していない銀行はない。


(問)
 先ほど話があった、郵貯の改革についてであるが、改革の必要性について伺いたい。
(答)
 改革の必要性については、今更申しあげるまでもないことであるが、郵貯の業務拡大により、個人預貯金の3分の1強を郵貯が占めているという状態である。とてつもなく大きなボリュームの国営金融機関があるということであり、これが国家信用を背景にどんどん業務拡大を続けているという状況である。郵貯は課税されず、預金保険料の負担もないということで、民間金融機関とは全く競争条件が異なる。このような郵貯が私ども民間金融機関と同じ市場の中で業務拡大を続けるということを果たして国民経済的に容認しうるのか、という問題がある。郵貯の肥大化により、金融市場が歪められているという事実がある以上、私どもとしては郵貯改革をどうしても実現していかなければならないと考えている。


(問)
 米国でブッシュ大統領の就任が決定したが、新政権の経済政策についてどんな点に注目をし、どのようなことを期待するか。
(答)
 短期的な話を申しあげれば、米国経済の減速化傾向が見えてきているが、米国経済が大幅に悪化するということになると、わが国のみならず世界経済全体に及ぼすマイナス影響は大変大きなものとなる。適切な政策運営により、減速するにしても、いわゆるソフトランディングの方向にもっていっていただきたいと期待している。幸い、米国の場合は、金融政策、財政政策の両面において、わが国と異なり相当程度の余裕を持っている状況であるので、ソフトランディングさせるための政策発動の余地は十分にあると考えている。


(問)
 わが国の銀行が企業の株を保有していることの意味について、米国では銀行は基本的には株を持てないことをも踏まえ、将来像をどのように考えているか。
(答)
 銀行の保有株式については、基本的に株価のボラティリティリスクが大きいという点が大きな問題としてある。すなわち来年度から株式の含み損益を資本直入しなければならないことになっており、この含み損益が大きく動くということになると、自己資本比率に影響を与える、あるいは含み損が発生した場合には剰余金の減額を通じて配当原資の問題にもつながっていく、という経営上の大きなリスクがある。これに対する対応策としては、現状の非常に大きい簿価残高を極力圧縮していくことしかない。そういう点から、長期的にはある程度は簿価残高の圧縮に努めていかなければならないが、逆にゼロにしなければならないのかというと必ずしもそうではない。どの程度が適当かということについては、各銀行のエクスポージャーの状況や自己資本の状況などから見た経営判断であり、各行毎に異なると思うが、一般論としては簿価残高の圧縮という方向に向かっていくのではないかと思う。


(問)
 例えば銀行保有株をグループ企業や持株会社傘下企業に譲渡するという考え方もあるかと思うが、その場合に発生する譲渡益に対する課税を非課税とするような特例措置を求めることについて検討しているのか。
(答)
 今のところそういった検討は行っていない。


(問)
 株価が下落傾向を強めている状況下、銀行の自己資本の充実を図り、不良債権の早期処理を進めるという観点から、アナリストの中には再び公的資金注入の必要性を指摘する者も出ているが、その点についてはどのように考えるか。
(答)
 そういったご意見もあるということは聞いているが、住友銀行個別行としては資本の追加注入を受けるという必要性は全くないと考えている。