2001年1月23日

西川会長記者会見(住友銀行頭取)



(問)
 昨年12月から株安の傾向が続いている。目下、日経平均は14,000円前後に回復しているが、米国経済の減速、国内経済の低迷、株式の持ち合い解消などを背景に先行きの見通しは暗そうである。3月末の決算期が近づく中で株安傾向が銀行経営に与える影響はどうか。また、株価の今後の見通しはどうか。
(答)
 株安の銀行経営に与える影響を考えるにあたっては、この3月末ではなく、来年度からの金融商品の全面時価会計への移行により、株式の含み損益が資本直入という形で反映されることを踏まえる必要がある。 今期に限っては原価法を採用している銀行では株式の含み損益は開示はされるが、自己資本に影響するということはないので、ここでは先を見通した上での話をさせていただく。 昨日、金融庁の森長官以下、幹部の方々と我々大手行との意見交換会が行われ、森長官から株価下落の自己資本比率への影響に関して、今申しあげた前提で、金融庁の見方について詳細な話があった。自己資本比率は銀行の健全性を示す指標として非常に重要なものであり、この比率如何によっては、かつてのようなクレジット・クランチにも繋がっていく。 株式含み損益の資本直入が昨年の9月中間期から導入されたという前提で、昨年12月下旬頃の日経平均13,500円程度の水準が昨年の中間期対比どの程度、自己資本比率に影響があるかについては、0.3~0.4%のマイナスということであり、自己資本比率に対する影響は軽微なものとの見方であった。昨年9月末の大手行の自己資本比率は12%前後であり、引き続き高い水準を維持するということである。したがって、これによって、クレジット・クランチが起きる懸念は全くなく、また、公的資金の資本再注入の必要も全くないという話であった。 金融庁は金融界全体を掌握している監督官庁であり、私としてもその見解の通りであると考える。 一方、株価下落により含み損が発生した場合、税効果を勘案して、その含み損の約60%を剰余金から控除する必要があるが、そうなると、銀行の配当政策に影響を与えることになる。これは、自己資本比率の問題と異なるが、経営に大きな影響を与えるものである。したがって、株価水準や含み損の状況にもよるが、例えば、住友銀行の場合、今年の最安値である1月11日の13,100円程度であっても含み益はあるが、その額はそれほど大きなものではなく、今後の株価如何によっては、剰余金に大きな影響を及ぼすというリスクがある。これに対しては収益力の増強に一段と努力することはもちろんであるが、住友銀行としてのコンティンジェンシー・プランをしっかり持ち、場合によってはそのプランを実行することで、リスクをカバーすることも必要であると考えている。

(問)
 2月、3月にかけて、金融システム不安が再燃するとの議論があるが、どうか。
(答)
 その論拠が何であるのか、詳細を存じ上げないが、金融庁および私どもの見方ではそのような懸念はない。

(問)
 株安に関連する話であるが、年明けから、自民党や与党3党で株価対策について、金庫株の解禁、税制の見直しや日銀による量的金融緩和等、様々なメニューが議論されている。この中で、どのような対策が適当と考えるか。
(答)
 そもそも、足元の株価低迷の背景には、米国景気の減速感が強まってきている中で米国の株価が不安定となり、また、米国景気減速に伴う輸出の減速を受けたわが国景気の不透明感が強まって、大量の外人売りを誘ったことがある。一方、国内要因としては、いわゆるITバブルの崩壊を主因として個人投資家が大きな損失を被った結果、株式市場離れが起き、買い手不在の状況になったことがあると見ている。したがって、個人的には、今、必要なことは目先の需給対策ということではなく、持ち合い株の受け皿づくりを含めた、構造的な市場活性化策やインフラの整備であると考える。 その方策として、第1に、個人株主づくりに改めて取り組む必要がある。そのためには証券税制の抜本的な改正が不可欠である。第2に、年金の問題である。日本版401Kも様々な議論が行われた末、対象範囲や拠出限度が当初の予定よりも小さくなり、今なお、法案は成立していない。同法案は今通常国会で成立を見ることとなろうが、これを早期に成立させた上で、直ちに対象範囲や拠出限度の拡大を考えていただく必要がある。また、ESOP(Employee  Stock Ownership Plan)の導入といったことも退職金給付制度の一環として考えられる。第3に、金庫株制度の導入といったインフラ整備も必要ではないかと考えている。明日、自民党の証券市場等活性化対策特命委員会で全銀協から企画委員長が意見陳述を行う予定である。銀行界として提案をまとめたわけではないが、正副会長会議等で皆さんのご意見等をお聞きした上で、企画委員長が意見を申し述べることとしている。

(問)
 個人株主づくりのための証券税制の抜本的改革のメニューとしてはどんなことを考えているのか。
(答)
 配当にかかる二重課税の完全排除、株式譲渡損益の他の所得との通算や株式譲渡損の次年度以降への繰延べといったことである。

(問)
 先日、バーゼル銀行監督委員会がいわゆるBIS規制第2次市中協議案を公表した。この案は、融資先企業の信用度を反映した形でリスクアセットを見ていくこととしており、これを受けて貸倒れリスクに対して銀行がかなり敏感になると思う。これは借手側にとって、銀行の融資態度が厳しくなる、選別が始まる、または、貸し渋り的なことが起こり得るのではないかという懸念を生じさせるかもしれない。このBISの見直し案について銀行界はどのように評価しているか。
(答)
 今回のBIS規制第2次市中協議案は、ここ10年程の金融技術の急速な発展を受けて、銀行経営上のリスク計測をより精緻化することにより、実際のリスクに対する規制の感応度を高めようとするものである。規制上のリスク管理手法のあり方としては、これまでのように監督当局が指定するのではなく、多様な選択肢が提供される中で、銀行が自ら創意工夫を凝らし、それを監督当局と市場がチェックするという枠組みが示されている。これにより、内部リスク管理と規制上のリスク管理のダブルスタンダードを排除していこうということであり、私どもとしてはこの規制見直しの方向性については基本的に賛同している。 本件については、パブリックコメントに付されているので、内容を詳細に検討した上で、今年の5月末までにコメントを提出する予定である。この中で特に、個人や中小企業向け融資については、小口分散によるリスク削減効果をリスクアセット算出時に勘案することを邦銀として強く主張してきた。まだ最終的に確定してはいないが、この点について前向きに検討していくことが示されている。その方法については具体的にこれから成案を得ていくということになろうが、我々もこの点については、改めて具体的手法を提案していきたいと考えている。 また、不動産担保付融資については、実質的にリスクウェイトを引下げることも条件付きながら可能ということになっている。いろいろ厳しい条件があるが、これも邦銀が主張してきたことであり、我々の考えが取り入れられたものである。これらの点を考慮すると、今回の見直し案は、邦銀の実態を踏まえたものであると評価している。

(問)
 先程、株価低迷の自己資本比率への影響は軽微であろうという理由で、公的資金による資本再注入をする必要はないとの発言だったが、自己資本の問題については、不良債権の処理あるいは予期せぬ損失に対する対応力ということもあると思う。現在の自己資本の状況を見ると、大手行の現在の自己資本の状況では資本不足はあり得ず、したがって公的資金の再注入は必要ないということか。
(答)
 不良債権の処理は、ご承知のように金融検査マニュアルを基準に自己査定を行い、早期健全化法に基づき引当を行うものである。これは、株式の含み益がどうなるかということとは別問題である。「含み」がどうあろうと、不良債権処理は行っていかなければならないものであり、これを前提として、最終損益がどうなるかを考えるべきである。もちろん、先程言及した金融庁のシミュレーションは、不良債権処理やその対応のための株式の売却益の計上といったことを除外して計算したものであるから、個別行の事情によりその辺りの状況は当然変わってくる。 不良債権処理、あるいは予期せざる損失を勘案すればどうなるかは、あくまでも個別行の問題であり、何とも申しあげることはできない。

(問)
 住友銀行個別行として、そういうことを全て勘案して資本の再注入についてはどう考えるか。
(答)
 全く必要ない。

(問)
 先週末、全銀協は郵便貯金事業の民営化に関するレポートを示した。実際にそういったレポートを出すというのも一つの手かもしれないが、具体的に色々な所へ働きかけていかなければ、議論は易きに流れるという形になってしまうのではないか。参議院選挙を控えて、環境は厳しいかと思うが、例えば、会長が橋本行革大臣等然るべき方に働きかけていく考えはあるか。
(答)
 我々としては、2003年に郵政公社がどのような形になるかということが、大変重要と考えている。そのために、今回のレポートを取りまとめたということで、そこには郵政公社に関する広範な議論を喚起するという狙いがある。したがって、今後、郵政公社はいかにあるべきかという検討が総務省を中心に行われると思われるので、そのタイミングを捉えながら、固有名詞を今申しあげる訳にはいかないが、然るべき方々に働きかけていく必要があると考えている。

(問)
 先程の公的資金の議論であるが、今の自己資本増強のための公的資金の枠組みはこの3月で終わるわけだが、4月以降は時価会計が始まり、しかもペイオフまで1年を切るという年度に入る。現時点では公的資金が不要であるという議論はあるが、将来的には、あるいは必要かもしれないという考え方もあるかと思う。公的資金の枠組みを制度的にもう少し残しておいてはどうかという意見についてはどう考えるか。
(答)
 今の法律は3月までということになっている。私は、この段階で敢えて期限を延長する必要は全くないと考えている。各金融機関はこれを前提に、経営の健全性確保という観点から財務体質の強化等に取り組んできているわけであり、既定方針通りターミネートしていくべきものであると考えている。 4月以降については、改正預金保険法が施行され、その中にもシステミック・リスクが発生する懸念がある場合には、これまでと同様、特別危機管理あるいは資本注入といったこともできることとなっている。また、ペイオフコストを上回る資金援助も可能ということになっている。 このように、システミック・リスクが発生する懸念に対するセーフティネットは、制度としては整備されていると私は考えている。

(問)
 日本の景気の話になるが、昨日の日銀のレポートにもあったように、若干減速感が強まってきているのではないかと言われている。資金の貸付を行う銀行から見て、今の景気の現状はどうか。
(答)
 景気の現状認識としては、かねて申しあげていることであるが、昨年9月頃から輸出の減速により景況感が悪化し、若干スローダウンをしてきていると見ている。しかし、回復自体は緩やかながらも続いているという認識である。 確かに、米国景気の減速傾向は顕著になってきているので、輸出企業を中心として、先行きに対する見方はかなり厳しくなってきていると感じている。昨年の後半以降、わが国の輸出の増勢は明らかに鈍化している。 しかし、景気の牽引役を果たしている設備投資については、先行指標である機械受注やソフトウェア受注額を見る限り、少なくとも今年の年央頃までは、拡大基調が持続する見通しである。 また、冬のボーナスが対前年比プラスとなり、あるいは有効求人倍率も改善しているように、所得や雇用環境は、緩やかながらも改善しており、個人消費も当面は落ち込む懸念はないと思う。 以上のように、設備投資、個人消費、この2つの大きな内需項目の動きを踏まえれば、景気は引き続き緩やかながらも回復局面にあると判断できる。

(問)
 いわゆるジャパンプレミアムの兆しが見られてきたようだが、これについての意見を伺いたい。
(答)
 全面的なものでは決してない。一部に数ベーシスポイントのプレミアムがつくケースが見られるということである。こういったことはどんな時期にも起こりうることであり、それほどナーバスになる必要はないと思う。 98年の秋を振り返って見ると、米ドルでは最大70ベーシスポイント程度、円でも最大25ベーシスポイント程度のプレミアムとなっていた。現時点で見られる数ベーシスポイントのものは、ジャパンプレミアムと呼ぶほどのものではないと考えている。

(問)
 額賀大臣が辞任されて後任に麻生氏が就任されたが、経済財政担当大臣がこういう形で辞任することについての感想を伺いたい。
(答)
 経済財政担当の大臣は大変重要なポストであり、額賀大臣が本格的に活動を始められる前に辞任されるという事態になったということは、我々としても誠に残念なことである。 しかし、新大臣である麻生氏は、経済企画庁長官も経験しておられ、経済財政に明るい方であり、額賀大臣と比較して全く遜色ないと、個人的に思っている。

(問)
 銀行間のATMネットワークについてであるが、イトーヨーカ堂のBANCSへの加入は、若干揉めているようだ。今後、異業種による銀行業への参入が相次ぐ中、今の業態別ネットワークのあり方は時代遅れになるのでははないか。日本の金融インフラとしてのATMネットワークのこれからのあり方についてどう考えるか。
(答)
 ご指摘の通り、ATMのネットワークはナショナル・インフラであるので、新しく誕生してくる銀行もスムーズにこのネットワークに参加されることが望ましいのではないかと、個人的に考えている。また、住友銀行としても、同様の考えである。 しかし、BANCSについては、全銀協マターではなく、加盟銀行間で一定のルールを設け、そのルールに則って新規加盟を検討していくということであるので、本件についての直接的なコメントは差し控えさせていただきたい。