2001年4月24日

山本会長記者会見(富士銀行頭取)

菅野専務理事報告

 本日は、全銀協の定例総会を開催し、12年度決算・13年度予算案を諮ったほか、新たな理事および監事を選任した。そして、引き続いて開催した理事会において、平成13年度の会長・副会長を選任した。
 会長には、富士銀行の山本頭取が選任され、平成13年度は山本会長の指揮のもとで、諸課題に対応していくこととなった。
 また、山本会長を補佐する副会長には、三菱信託銀行の内海社長、三井住友銀行の西川頭取、日本興業銀行の西村頭取、三和銀行の室町頭取、大和銀行の海保頭取、横浜銀行の平澤頭取、百五銀行の川喜田頭取、東日本銀行の吉居会長および専務理事の私の9名が選任された。なお、お手元に略歴役員名簿および今年度の記者会見の日程をお配りしている。私からは以上である。

会長記者会見の模様

(問) 会長就任にあたり一言お願いしたい。(答) 西川さんの後を受けて、全銀協会長を務めさせていただくことになりました。これから1年間、皆様のご支援を賜りながら、この大役を果して参りたいと思っております。どうぞ宜しくお願い致します。 振り返って見ると、この1年、特に後半は、景気が足踏みの状況になる中、株価低迷や不良債権問題など、銀行界を取り巻く環境も大変厳しい状況にあった。こうした中、西川前会長は多岐に亘る重要課題に対し真摯に取り組まれ、的確な舵取りをされました。この1年間の西川さんのご苦労とご努力に対し、心から敬意を表したいと思う。 さて、我々銀行を取り巻く環境について考えて見ると、まず第一に、金融機関の不良債権が依然として高水準に留まっているということを避けて通ることはできないと強く感じている。去る4月6日に発表された政府の緊急経済対策の中でも「金融再生と産業再生」として、銀行の不良債権問題と企業の過剰債務問題の迅速かつ一体的な処理に資する多くの対策が盛り込まれているのはご承知のとおりである。 不良債権の処理は基本的には個別行の問題であるが、各行ともこれまで積み重ねてきた処理努力にも増してなおスピードを上げ、可能な限り早期に決着をつけなければならないと考えているところだと思う。 来年4月にはペイオフが凍結解除されるが、こうした状況を考えると、銀行界として不良債権の処理をさらに加速し、金融システムに対する信頼を向上させると同時に、セーフティーネットの具体的仕組み・手続を遺漏無く整えることが、極めて重要な課題であると認識している。 一方、こうした金融システムの安定性という観点で整理される環境認識とは別に、「新しい金融秩序」の確立を目指す大きな流れとでも言うべき視点から、次の3点を指摘しておきたいと思う。 まず、平成8年に発表されたfree、fair、globalな金融市場の実現を目指す金融システムの変革、いわゆる「日本版ビックバン構想」が、当初計画していた5年の期間をこの3月に終了し、成果として規制緩和・インフラ整備が相当進展してきたと評価することができると思う。 次に、この間、国内はもとより国際的にも金融機関の合併・買収・統合等により業界再編の流れが急速に進み、一方、IT技術の進展を背景に新しい金融技術やビジネスモデルが登場したり、異業種から新しいライバルが参入するなど、金融業界の状況も様変わりしている。 こうした中で、銀行監督のあり方も「当局管理型」から「自己管理・市場規律型」に移りつつあり、我々金融機関、サービス利用者ともに、自己責任原則に基づく行動が益々強く求められる状況になってきたと認識している。 さて、協会を取り巻くこうした環境の中、この1年、全銀協会長として取り組むべき課題を、ただ今申しあげた「金融システムの更なる安定と信頼の向上」に資する施策と、新しい金融秩序の確立を目指し「我が国金融市場の活性化」を図る施策の二つの面から整理してみたいと思う。 第一の「金融システムの更なる安定と信頼の向上」についてであるが、まず、はじめに不良債権問題克服への取組みについて申しあげなければならないと思う。 不良債権問題は、これまで各銀行ともに最重要課題として取り組んでおり、かつての様な危機的状況にはないものの、未だ金融システムに対する信頼向上の大きな障害として残っていることも認めざるを得ないと思う。また、今般の政府緊急経済対策の中で取り組むべき課題のひとつとして本問題が取り上げられたことを重く受け止めている。 不良債権の処理はあくまで個別行の問題ではあるが、殊にペイオフ凍結解除が1年後に迫っていることを考えると、本年度は、銀行界としても不良債権の処理を一層加速させ、金融システムに対する信頼を向上させなければならないと認識している。 この点で、協会としても、政府緊急経済対策にある私的整理に関するガイドライン検討の場が立ち上がれば、これに積極的に参加するなど、個別行の不良債権処理促進に資する仕組作り、環境整備を行なっていく所存である。 次に、来年4月のペイオフ凍結解除に向けて諸準備を行っていくことである。協会としても、盤石なセーフティーネットを構築すべく、破綻処理手続の詳細検討や個別行における預金者データの整備・関連システムの構築にあたってのサポートなど多くの課題を遺漏なく進めて参る所存である。 なお、政府の緊急経済対策の中で、銀行の株式保有制限およびこれに付随して株式の買取りにかかるスキームが取り上げられているが、多くの銀行は保有株式の価格変動リスクを削減していくことが健全経営の観点から重要な経営課題であると認識し、従来から持合株式の圧縮に取り組んでいるところである。この点、協会としても、金融審議会における銀行の株式保有制限に関する審議を十分踏まえ、議論を深めて参りたい。 次に「我が国金融市場の活性化」に関する課題である。これについて、以下2点を申しあげる。 まず、金融サービスの供給者、すなわち、我々銀行から見ての「競争環境の整備と改革」を一層押し進めることである。 具体的には「競争参加者間の公平性の確保」という点から、異業種による銀行業参入等に対応した銀行法改正法案並びに関連政省令、平成15年に迫った郵政公社化や特殊法人改革の動きについて十分フォローし、積極的に発言して参りたいと考えている。 また、「競争参加者の健全性の確保」という点からは、本年1月にバ-ゼル銀行監督委員会より提案されたBIS規制の改定案や国際的な議論がなされている「金融商品に関する全面時価会計」導入に対し、全銀協として責任をもって意見発信をしていく所存である。 次に、金融サービスの利用者の立場から整理すると、「利用者の利便性向上および利用者の保護」を図る諸施策を一層推進して参る必要があると考えている。 例えば、大きく進展を遂げているIT技術の成果を「利用者の利便性向上」に繋げていくという点では、ICキャッシュカードやマルチペイメントの実用化に向けての具体的手続の整備、金融EDIのスキーム構築など、多くの有望なテーマがある。 また、利用者の選択や判断をサポートするため、様々な「情報提供や説明」をこれまで以上に積極的に行なっていく所存である。具体的には協会のホームページを積極的に活用し、多くの有益な情報発信を行うとともに、利用者の投資教育を目的とした諸企画、ペイオフ凍結解除に備えた啓蒙活動等についても検討したいと考えている。 また、利用者の保護については、今月より施行された金融商品販売法に関し、傘下銀行による取り組み状況をフォローするとともに、今国会に上程された個人情報保護法への対応を、整斉と進めていく所存である。 なお、東京都による外形標準課税については既に行政訴訟を提起しているが、引き続き問題点を整斉と訴え、司法の判断を仰いで参る所存である。 以上申しあげたとおり、我々全銀協を取り巻く環境は大変厳しい状況にあるが、これを打破すれば、必ずや21世紀に相応しい「新しい金融秩序」が確立されることと確信している。 かかる意味で、本年度は、「新しい金融秩序」確立のため、多くの障害を取り除き、種々の基盤を整備していく1年ではないかと思っている。 9人の副会長をはじめ関係各位のご協力を仰ぎつつ、微力ながら全力で取り組んで参るので、皆様方のご支援、ご指導を宜しくお願い致します。(問) 今の会長の話の中でも言及されていたが、旧政権のもとで緊急経済対策が作成されているわけであるが、その中で、経済に関することで最大のテーマだと思うが、G7でもテーマにとりあげられるやに伝えられているが、不良債権の処理問題について、破綻懸念先債権よりももっと悪い債権については、既存分2年、新規発生分3年で処理するということが示されているが、全銀協としてのこの問題に関する対処はどうなるのか。 それから、実際に行なった場合に企業の破綻などを招くのではないか、景気に対して影響があるのではないか、失業が増えるのではないかといった懸念も世の中にはあるわけだが、この点についてはどうか。(答) 不良債権問題については、先程申しあげたように、銀行界としては経営の最重要課題として取り組んでいるところである。また、破綻懸念先以下について議論があるように、最終処理すなわちオフバランス化について、これは特に最終処理が大事であるということで取り組んでおり、銀行界全体の数字として、既に皆さんご存知の、不良債権処理の金額のうちの80%はオフバランス化によるものであり、私どもとしては引き続きこうした努力を続けるということである。 この問題について、副作用、色々な影響が出るのではないかというご指摘であるが、従来から、今申しあげたように、不良債権処理のうちの80%は最終処理、その最終処理の対象となった取引先の多くは、その企業が市場から退出するという結果を生んでいるわけであり、そうしたものが一層加速するということであれば、様々な影響が片方で随伴するということが予想できるところである。こうした問題については我々も個別に十分な気配りをしながら対応をして参りたいと考えている。(問) 緊急経済対策の中にはもう一つ、銀行界と密接に関係する問題として銀行保有株式取得機構の設立が盛り込まれており、この点については西川前会長も対応に苦慮するということをおっしゃていたと思うが、新会長としての考えを伺いたい。(答) 株式の取得機構が単独で議論されているが、この問題について少し周辺のことを話しながら、位置づけを話しをしたい。 我々銀行界は従来から財務の健全性の観点から、株価変動リスクを軽減すべく個々のお取引先と相談しながら、持合い株の圧縮を進めてきたところである。一方で、今回の緊急経済対策にもあるとおり、こうした持合い株の解消や個人投資家による長期安定的な株式保有促進などのいわば株式市場の構造改革、これが益々重要になっていくということである。 この構造改革のためには、個人投資促進税制や、いわゆる401Kの早期導入、それから金庫株解禁などの株式市場を活性化させる対策をきちんと行っていく必要があるわけだが、こうした施策が実際に効果を出してくるまでには相応の時間を要するということが容易に理解できるところである。 これらの株式市場活性化策が効果をもたらすまでの間のいわば緊急措置として株式取得機構が設立されるということであるのであれば、我が国の構造改革に繋がる施策として理解はできるというのが私の立場である。 すなわち、株式取得機構設立を行うということであれば、先程申しあげたような個人の投資促進税制、401K導入、金庫株解禁等であるが、こうした構造改革のための諸施策とワンセットの政策として同時に進められるときに初めて有意義なものになると考えている。 こうしたことであるので、株式取得機構といわれるものについては、持合い株の解消ということを目的とした構造改革の一環であるということであるならば、全産業を対象とすべきものであると考えている。 また、強制買上げや市場売却禁止等の措置はお取引先企業の資本政策そのものにも影響を与えるわけであり、経営の自由度の面からも問題が多いと考えている。 この株式取得機構はあくまで市場と調和した実効性の高いものにする必要があると考えている。 したがって、この機構の検討にあたっては、取得の段階、保有している段階さらには最終売却、全ての局面において十分な議論を尽くすことが必要であると考えている。 全銀協としては今後とも、こうした動向をフォローし、必要に応じて意見を申しあげるなどの対応を行って参りたいと思っている。(問) 今、話にあった不良債権にせよ、株式はじめ金融資本市場の問題にせよ、実体経済の動きがどうなるかによって大きく方向が違ってくる、対処の仕方が違ってくるという問題があるかと思うが、会長として、日本経済の現状それから今後の見通しについて、金融界の立場としてどう見るかを伺いたい。(答) 銀行の経営者として見ているものであるので、一部説明の足りない部分もあるかと思うが話をさせていただく。 政府、日銀は景気を弱含みとか調整局面というように表現しているわけであるが、事実、銀行の窓口で見てみても年明け以降、急速に冷え込んでいるというのが実感である。 昨年まで好調であったIT関連製造業のかげりが顕著になっており、経営者の認識も急速に厳しさを増しているというのが昨今の状況である。 このような国内景気悪化の主因というものは、極論すれば予想を上回る米国経済の急減速とそれに伴う輸出の減少ということである。 そこで、米国経済の先行きについては、株価に見られるように判断が揺れ動いているというのが率直なところ今の状況であるが、結論的には、U字型の回復がコンセンサスになってきていると見ている。ウォールストリートの多くのエコノミストは年の前半、彼らはカレンダーイヤーで言っているわけであるが、年の前半は停滞1%程度の成長、年の後半に回復をして2~3%の成長ということを見込んでいる、これが一般的なエコノミストの見方である。また、政策のサポートも大きいというのは皆さんご存知のとおりである。連銀は4月18日に緊急利下げを行い、FFレートを4.5%としたわけであり、これは景気減速が和らぐ中で、景気やマインドが再び悪化することを断固として防ぐといった強い意志を示したかったのだろうと見ている。 また、ブッシュ大統領は、財政の面でもいつでも対応するという姿勢を示しているところである。こうして米国経済が持ち直すと、日本の景気停滞の最大の懸念材料が消えるわけである。 また、内需について見ると個人消費などが意外に健闘しているという印象がある。1997~1998年の不況期と比較すると、リストラによって経済や企業の体質も強くなっている。その面からも、景気がこのままどんどん悪くなるとは考えていない。 最近聞いた話であるが、輸出依存度の高いエレクトロニクス関係の会社では、米国向けの輸出の量が減少し、またその影響でアジア向けが減少している、しかし円安で円ベースの売り上げは伸びている、増収・増益であるという話を聞いた。なかなか経済の実態を何で見るかというのは難しいところであるが、こうした輸出のボリュームの伸び悩みあるいは減少ということに目を奪われて、実際の円ベースでの企業に対する影響といったものを、統計が整備されていないので何とも言えないが、そういったものも他方ではあるということを注目しておきたいと思っているところである。 日本の場合、成長率で言うと、上期がゼロ成長ぐらいを覚悟し、下期は年率で2%程度の成長にもどって、年度平均では1%ぐらいということではないかと見ている。したがって、今年の前半は回復の踊り場になると見ている。 また、経済の持続的成長という観点で考えると、構造改革を通じて新陳代謝を促すことが、経済の活性化や景気回復の原動力になることは疑いないことである。先般の緊急経済対策に盛られた株式投資促進策が、活発な起業や成長力ある産業の創出を促進することを期待しているところである。それによって経済成長が高まれば、不良債権の新規発生が縮小し、マクロ経済への悪影響を吸収しつつ、既存不良債権に対応することが、我々サイドにとっては容易になるということである。 以上が、経済全般の私の見方である。(問) 銀行持株会社というのが昨年の秋から始まり、今年の4月にも発足して、ソニー銀行、IYバンクといった異業種参入ということもあるが、協会の今後のあり方について、特にこの4月には、「みずほ」をあわせて3つの巨大銀行持株会社がスタートした時期でもあり、異業種参入との関連で協会のあり方、について何か考えはあるか。(答)一つは持株会社であり、一つは異業種からの参入ということで協会のあり方が変わるのではないかというご質問であるが、全銀協というのは、協会の規約において、「本協会は、我が国における銀行の健全な発展を図り、もって経済の成長と国民生活の繁栄に寄与することを目的とする」ということを目的としている団体である。 全銀協活動は、個々の金融機関が自由で公正な業務展開をしていく上で必要な基盤を構築するための活動ということであって、これについては二つの機能がある。 一つは「業務機能」と我々が言っているものである。「業務機能」とは、例えば、送金のときの決済であるとか、決済システムなど銀行業界全体にとっての共通のインフラ部分に関する運営・企画を行うということであり、全銀協の中核的機能として、その重要性は今後も変わることなくむしろ充実していくという方向にある。 もう一つは「政策機能」と我々が言っているものであり、「政策機能」とは、銀行業務や市場環境整備に関する様々な事項の調査・研究・企画や対外活動、これがもう一つの仕事であり、この仕事も本年について言えば、ペイオフ凍結解除の問題や金融サービスの多様化が規制緩和のもとで急速に進んでおり、そういった点で、今後、この分野の仕事も益々重要となっていくと考えている。 そうした全銀協の活動に対して、金融持株会社や異業種からの銀行業参入等、全銀協の会員が多種多様となったとしても、こうした全銀協の在り方は今後も変わることはないと考えている。 もちろん、活動の内容については、その時々の状況に応じて力点を変えていくことはあると思うが、今申しあげた枠組みの中でやっていくという点は変わらない。色々なビジネスモデルをもった企業が仲間に入ってくるということは協会としても大いに歓迎をして、切磋琢磨して、立派な役割を果たせる銀行界にしたいと考えているところである。(問) 先程、自民党の新総裁が決まったようである。小泉氏は、郵政事業の民営化等に関してかなりユニークかつ主張をしてきた人物であり、この問題については、全銀協も密接な利害を持っていると思うが、新政権に望むこと、意見などを伺いたい。また、もしこれまで山本会長が個人的に小泉氏と接したことがあればそれについてもご紹介願いたい。(答) 選挙結果が確定したという情報を得たので、確定ということでお答えする。 昨今の経済情勢を見ると、一日も早い政治の安定が望まれるわけであり、本日新総裁が決定したということで、今後政局が安定に向かうものと期待している。新総裁におかれては、今後の日本経済の再生を確固たるものにするべく、足元の景気対策はもとより、中長期的な構造改革を粘り強く実行する、力強いリーダーシップを期待したい。 小泉新総裁は、ずいぶん若い頃から郵政事業、特に郵貯問題についていろいろな提言をされ、郵貯の民営化についてかねてから主張をされている。これは、従来からの全銀協の主張と方向を一にするものである。我々は、郵貯の公社化は、民営化の一里塚であり、公社化にとどまることなく、民営化を目指すべきとの従来からの全銀協の考え方を引き続き新総裁にも主張していきたい。 個人的なことになるが、新総裁は、大変に音楽やオペラが好きであるとのことである。私も好きなことから、そのような場でよくお見かけすることがある。そうした音楽や舞台芸術を愛する政治家が総裁となるというのは、また一味違った場面も期待できるのかなと楽しみにしている。(問) 株式取得機構について構造改革の一環として行うのなら、全産業を対象とするべきという発言があったが、銀行業だけでなく、全ての産業からも株を買い上げるべきということか。(答) そういうことである。 緊急経済対策の中に、銀行のバランスシートの健全性を損わないように早い時期に銀行の持っている株式を減らさなければならないという政策目標と、証券市場の活性化、株式保有構造を変えていくという構造対策の二つの政策目標が盛り込まれている。2番目の証券市場の活性化は、株式の保有構造を変える、もっと平たく言えば、持合い構造を変えて、最終投資家である個人に株式の保有を促していくという政策と理解している。そうであるのなら、銀行の保有株式を外すだけでなく、企業との持合いになっている部分や企業同士の持合いとなっている部分についても対応がなされることが、証券市場の活性化や持合い構造を解消していくための政策手段として取られるべきであると考える。(問) 緊急経済対策で盛り込まれたこととは主旨と違うようだが、今後審議会等でそのような方向で全銀協として要請していくつもりか。(答) 取得機構の問題は、審議会で議論されるとは承知していないが、政策当局に対してはそういう意見具申をしていくということである。(問) 郵政事業の公社化については、総務省が単独で法律を作ることとなっているようであるが、それについてどう考えるか。また、小泉氏は、民営化の具体案は公社化の後の問題としているが、全銀協としては、どのような民営化具体策を持っているか。昨年、全銀協の郵貯民営化への具体策が出されたが、業態によって分割の規模等意見が分かれているようである。全銀協の考えを伺いたい。(答) 公社化の具体的法案については、前会長時代より、公社化については広く意見を集約し、議論をして法案を作るべきであり、公社のあり方について広く意見を求めるべきである、と主張してきた。私どもは依然として、この法案については、そのあり方について、多くの意見を集めて法案にしてもらいたいということを申しあげたい。 また、民営化のあり方について、私どもとしては7年間の財投の暫定措置の間に、規模を縮小し、その上で民営化するということを申しあげたい。民営化の具体的な絵は、これからであるが、いずれにせよ分割民営化という路線を1月のレポートで主張した。この具体的な方法については、まだこれから時間をかけて議論をする必要がある。基本は、この世界に例のない大規模な国営銀行というものの存在を民営にするということが一番大事であり、その形態についてはいろいろな工夫があるだろう。(問) 小泉新総裁の政策で、景気回復よりも構造改革を優先し、そのためにはマイナス成長もやむを得ないとのことであった。新規の不良債権の発生を押さえるためには、ある程度景気が良くならないと発生を押さえることは難しい面もあるが、小泉新総裁となることにより不良債権の処理について遅れるのではないか。(答) これは総裁選挙中におっしゃったことをどう解釈するのか、新総裁・新内閣がどういう政策を展開されるのかまったく存じあげないので、非常に抽象的なことしか申しあげられないが、報道によると、ご指摘の点は、「マイナス成長も辞さずという覚悟」で行うということをおっしゃったのだと理解している。他方で財政支出についても相応の配慮をするという発言もあった。基本は構造改革、そのためには当面苦労しても仕方がないという強いメッセージを出されたわけであるが、他方で足元ではそれなりの短期的な面についても配慮が必要ということを言われていると思う。いずれにしても一貫性を持った中期的なビジョンのもとでリーダーシップを発揮していただけると確信している。 先程申しあげたとおり、新総裁・新内閣の新しい政策構想が具体的にお聞きできない段階であり、小泉新総裁については短期的なものにも気配りをしながら、しかし大事なことは構造改革であり、若干の苦労があっても実行するとの決意と受け止めておきたい。(問) 不良債権の最終処理に関連して、債権放棄のガイドラインを金融界でまとめるようにと、政府から話があったという報道があるが、会長として債権放棄のガイドラインをどう作成するのかという基本的な考え方を伺いたい。さらに、ゼネコン等の2度目の債権放棄を許容するか否かをお聞かせいただきたい。(答) 私的整理のガイドラインを研究する会が立ち上がるという一部の報道があるが、民間で立ち上げてはどうかという金融庁からの要請を受けているということはそのとおりである。現在、関係者で立ち上げについて協議をしている状況である。その際には、全銀協が事務局を引受けるということは決定している。 研究会の詳細は、現在関係者と調整中であり、いろいろな関係者がいろいろな立場で、多くの有益な議論がなされることが大事であると考えている。 会長銀行としては、この研究会にメンバーとして参加し、積極的に研究を前に進めて行きたいと考えている。内容については、現時点では申しあげられる段階ではない。 一度債権放棄をした先が、また悪くなった場合であるが、仮定の話であり、何とも申しあげられないが、個別行の頭取としてお答え申しあげるが、2度目の債権放棄はあってはならない、企業とそれに関係した債権者は一生懸命頑張るということだと思う。 2度目の債権放棄が原理的にあってはならないということではなく、具体的にそのようなことがあるわけではなく、仮定の話であるので、これ以上何とも申しあげることはできないということである。(問) 郵便貯金については民営化を主張し、基本的には競争条件が等しくないということであるが、富士銀行としてはオンライン提携をしているわけであるが、そこはどう整理しているのか。(答) 一つの問題として現実に非常に多くの個人を中心とした利用者が使用しており、利便性を享受しているものがあり、それが富士銀行のお客さまに郵便貯金との提携によって新しい利便性が提供できる、そうした実益を追求した結果である。 他方、そもそも大規模な金融活動を国が行うということによる問題、巨大な国営銀行が日本のマーケットに存在していることによる成長阻害要因、そうしたことから民営化を主張しているわけであり、私は引き続き、個別の提携の問題とは別に、郵便貯金の民営化については強く主張して参りたい。(問) 中小企業向け融資について、各行とも目標達成のためかなり無理な融資を行い残高を積み上げ、その結果、銀行の体質強化を遅らせているのではないかという声もあるが、これまでの中小企業向け融資の取組みについてどう評価しているか、また、今年度以降の目標設定についてはどうあるべきと考えるか。(答) 中小企業金融の円滑化は、公的資金注入の際の政策目標の一つとしてあったわけである。これは私ども大変重く受け止めている。ただし、健全な中小企業の資金需要に対してはキチンと応えるべきであるという前提である。こうした前提のもと、中小企業について、そうした社会的責任を自覚し、懸命な努力を続けているわけであるが、率直なところ、こうした景気低迷のもとで、健全な貸出案件はそれほど多くあるという状況ではない。したがって、様々な面で様々な金融機関の間で熾烈な競争が起こっているという状況である。こうしたことが銀行の体質強化を遅らせているかということは各行の個別の対応の仕方であり、内容の悪い貸出先を持ったり、金利の面でもダンピングを行ったりすると、なかなか苦しい商売となる。中小企業向け貸出の残高の増加ペースは実態に合った目標を立てて、それに向かって努力をするということが適当であり、経済の実態とかけ離れた目標を掲げると、目標を達成できないだけではなく、様々な問題が生じることとなる。そこは銀行の経営者として十分注意をして参りたい。(問) 株式取得機構について、最終処理の段階で政府の関与とか公的資金・公的支援ということがテーマになると思われるが、銀行業界としてはこういう点についてどう考えるか。(答) まず銀行自体が持合いの解消ということを行なってきた。本日の一部の新聞で報道されていたが、昨年も3兆円くらい銀行が持合い株を放出しているという数字もある。そうしたように、銀行はマーケットに、着実に、自分の経営の健全性の確保を目指して株式の売却をしているというのが今の状況である。そうした状況のもとで取得機構というものの規模、あるいは買上げの仕方といったいろいろなところに問題点があろうかと思うが、そうしたものを汲み上げていく過程で初めて具体的な議論として公的な資金あるいは公的な保証がいるかどうかが議論になってくるわけで、そうした具体的な構想が固まる前から公的な支援とか資金がいるという議論をしても余り現実味がないと考える。答にはなっていないかもしれないが、現状はそういう状況ではなかろうかと思う。(問) 銀行業界の基本的立場として、公的支援は必要か不要か。必要としたらどういう条件が必要か。(答) 要るか要らないかというのは、機構の中身がわからないとそういう議論にはならないだろうと申しあげているわけで、その後で初めて議論になるわけであるから、今先取りをしてその議論をする段階ではないのではないかということを申しあげている。(問) 緊急経済対策には公的保証について検討すると書いてあるが、それについてどう考えるか。(答) 今申しあげたようなことであり、公的保証が必要かどうかを含めて議論をすべきであって、まず公的保証ありきということでこの問題を考えるということではないのではないか、ということである。ただ政府としては、不退転の決意でやるぞということで公的なサポートもやるよということをおしゃってるということは良く理解をしている。(問) 理解はできるとのことだが、銀行業界としてはどう考えるのか。(答) 銀行業界としては機構そのものの枠組みがわからないうちは何とも申しあげられないということである。民間だけで作るべきである、銀行が負担すべきであるという議論があるし、公的なサポートも要るという議論もあるし、いろいろな議論があるから、そのことについて今議論をする段階にまで来ていないのではないかということである。(問) 銀行業界としての考えはないということか。(答) ないということではなくて、そういう議論をする段階にまで来ていないということである。機構自体をどういうサイズのものを作るかというような議論、まず機構そのものが必要がどうかといった議論が十分に詰まっていない段階で、先取りをして公的な支援・サポート、あるいは公的資金、日銀の資金というような議論をするような段階まで、まだ議論が詰まっていないのではないかということを申しあげている。(問) 金融庁は、銀行持株の総量規制とセットで機構を検討しているが、一般事業会社も対象とすると、その辺はどうなるのか。(答) 持合い株の解消という構造改革をやるのでなければ本当の問題の解決にはならないと考えるので、機構を作るということも構造改革の中の一つの緊急措置としての位置づけであろうから、そうだとすれば全産業を対象としないと、持合いなのだから片方だけをやるということでは、全体の株式保有構造を変えるということにならないのではなかろうか、ということを申しあげている。そういう意味で、全産業ではないか、ということを申しあげている。金融サイドで問題提起がされていて、金融の問題として議論されているということはそのとおりだが、緊急経済対策でいわれていることは証券市場の活性化という中で、株式保有について個人の投資促進税制など具体的にいろいろなことが挙げられていて、これは一体で考えられていると理解している。事実この文章でもそのように続けて書かれている。(問) 金融庁は銀行持株の総量規制とセットで考えているのではないか。(答) 金融庁の問題意識は金融再生と産業再生を一体的に処理すると大臣はよくおっしゃっているし、私もそのとおりだと理解している。(問) 不良債権問題の関連で都銀9行のうち7行が業績見通しの下方修正を行っているが、みずほグループの2行はそれを行っていない。不良債権問題は順調に処理されていると考えて良いのか。(答) 不良債権の処理額および3月期の決算については、現時点まだ取りまとめ中であり、具体的な数字を申しあげられないのが残念であるが、ご容赦願いたい。

 

別添資料:山本会長記者会見(富士銀行頭取)