2001年6月19日

山本会長記者会見(富士銀行頭取)

 菅野専務理事報告

 本日は、前回に引き続き、理事会の開催に先立って記者会見を開催させていただくこととした。
 本日の理事会では、来る6月28日に予定されている大和銀行の頭取交代および6月13日に行われた全国地方銀行協会の役員改選に伴い、大和銀行の海保頭取および百五銀行の川喜田頭取から副会長を辞任したいとの申し出があったので、海保頭取の後任として新たに大和銀行の頭取に就任される予定の勝田副頭取を、川喜田頭取の後任として千葉銀行の早川頭取を、それぞれ副会長に選任する予定としている。
 なお、勝田副頭取が実際に副会長に就任されるのは、大和銀行頭取への就任が予定されている6月28日付となる。 私からは以上である。


会長記者会見の模様


(問)
 私的整理に関するガイドライン研究会が立ち上がり具体的な議論に入っていると思うが、今月下旬に中間取りまとめをまとめる予定となっているようであるが、現時点での進捗状況、及び最終的にどのようなものを目指しているかについて、お考えを伺いたい。
(答)
 「私的整理に関するガイドライン研究会」については、今日までの経過やお話できる内容について、回答させていただく。ご承知のとおり、研究会は第一回目の会合を6月7日に開催した。また、実務者レベルのWGを作り、WGで実務的な意見交換を活発に行なっている。
 研究会あるいはWGでは、例えばご参加いただいている弁護士の先生からはご自身のご経験を踏まえたご発言、学者の方からは倒産法制を踏まえたご発言、あるいはインベストメントバンクのアナリストの方からはマーケットの観点からのご発言、また金融界からは債権放棄をする場合の実務的な観点からの基本的な考え方など、活発な意見交換を行なっている。議論の内容の詳細は、ご容赦いただきたいが、研究会あるいはWGにおいては、「ガイドラインの対象となる企業をどうするか」、「経営者責任・株主責任の取扱い」、「債権者間の調整プロセスの公正・透明性の確保、円滑な運営」等について議論を行なっている。
 最終的にどのようなものを目指していくかというご質問に対しては、まだ何分、議論を始めたばかりであり、ご容赦頂きたいが、今申しあげた点について、もう少し細かく言えば、例えば、(1)法的整理との関係において私的整理の意義とは何か、(2)事業価値のないものは私的整理の対象にはならないということであるが、再建に値する事業価値とはいったいどのようなものか、(3)モラルハザードの防止をどのように考えるか、(4)仮に私的整理を行うことになった場合にどのようにすれば関係者間の調整が円滑に進むのか、(5)そのプロセスでどうやって透明性が保たれるのか、などの多くの議論すべき論点があると考えており、これらについてWGで活発な議論を行なっている。
 個人的には、最終的に出来あがるガイドラインが、安易な債権放棄を誘発することのないようにしたいと考えている。


(問)
 先般の決算において、東京三菱銀行の不良債権残高が大幅に増加した。この動きに関連し、他の大手銀行の自己査定が甘いとの見方があるが、会長の見解を伺いたい。また、みずほグループは、今後自己査定の基準を見直すなどの動きはあるのか。
(答)
 全銀協会長としてはでなく、みずほホールディングスのCEOとして回答させていただく。
 東京三菱銀行が、自己査定及び償却・引当基準を見直し、要管理債権を増加させたということが報道されているが、東京三菱銀行の基準を承知していないので正確なコメントをする立場にない。
 ただ、一般論として、銀行は、金融検査マニュアル等を踏まえて各個別銀行で定めた自己査定基準及び償却・引当基準に基づき適切な償却・引当等の処理を行ない、会計士の監査も経たうえで決算を確定しており、どの銀行の決算も信頼性の高いものであると考えている。
 みずほについても、従来より、金融検査マニュアル等を踏まえた、厳格な自己査定及び償却・引当を行っている。
 また、みずほで引当基準を見直すなどの動きがあるかということであるが、従来から金融検査マニュアル等を踏まえた厳格な自己査定及び償却・引当を行なっており、現時点で諸基準を見直す考えはない。


(問)
 昨日、日本銀行より公表された金融経済月報での下方修正、先般の1-3月のGDPもマイナスということで、大変厳しい状況となりつつあるが、銀行からみた景気の現状はどうか。また、財政・金融両面から景気に対してどのような政策対応が必要かということについて伺いたい。
(答)
 景気の現状は、内閣府の月例経済報告でも示されているとおり「景気は悪化しつつある」というのが現状であろう。GDP統計、生産統計の数字をみてもそのとおりであろう。また、銀行の窓口からみても、企業の景況感は日に日に厳しくなっていることが伝わってくる。昨年まで改善していた収益もここへきて頭打ちとなっている状況が一般化しつつあり、企業倒産も引き続き高水準である。
 ただ、大事なことは、業種や企業によって、業況にばらつきがあるということである。全体として製造業が厳しいが、なかでもここへきて悪化が目立つのが素材型製造業や中小企業、建設業といったところで、それらの業況が厳しくなってきている。素材型製造業や中小企業については、輸出関連産業の悪化が波及してきていることや、輸入品との競合、製品価格の下落が強く影響しているようである。一方で、サービス業や小売業の悪化はそれほどでもなく、消費の下落がここのところ止まってきたことが影響しているのではないかと見ている。
 全体として見ると、1997-1998年の我々が経験した深刻な不況期と比べると、景気の悪化が局所化してきた、二極化してきたといえるのが特徴である。
 これに対する政策の問題は、ご存知のとおり、米国の様に財政・金融両面で相当懐の深い状況と異なり、いずれの面でも日本では制約があることは明らかである。小泉内閣の方針から見て、補正予算を組んで従来型の公共事業を増やして景気悪化に対応するということにはならないであろうし、仮にそれを行なったとしても一時的なカンフル剤にしかならないことは今や国民的コンセンサスである。
 しかし一方で、景気が厳しさを増している最中に財政を急に引き締めれば、景気が更に悪化することは既に経験してきたところである。
 現在は製造業に集中的に現れている景気悪化が他の分野に広がって行かないかどうか、米国経済の立ち直りはいつごろになるのかなどを慎重に見極めつつ、目配りの効いた政策運営を期待したい。
 金融は既に十分緩和されており、マネーとGDPの関係をみても、経済活動に必要な資金は十分に供給されていると考えている。銀行窓口からみても資金需要は弱く、短期金融市場の資金がいかに潤沢となっても、それが貸出を増やすということにはならないというのが窓口からみた状況である。
 以上のような意味で、景気浮揚やデフレ解消の責務を金融セクターだけに負わせるのは明らかに無理がある。


(問)
 明日、金融審議会が開催される予定であるが、改めて会長として、株式保有制限・株式取得機構についての考えを伺いたい。
(答)
 大変大きな質問であり、保有規制の問題と取得機構の問題に分けて回答させていただく。
 株式保有規制の問題については、明日開催予定の金融審議会第二部会で議論される予定であり、審議会の内容に立ち入った答えをすることができないのは残念であるが、金融審議会第二部会の下に「金融機能の向上に関するWG」を立ち上げ、保有規制そのものの要否を含め真剣な議論が行われている状況である。討議状況等WGの内容については、非公開とされており、かつ、明日、WGでのこれまでの議論を踏まえ、第二部会が開催される予定となっている。したがって、現段階で、審議会の内容に立ち入ったお答えをすることできないが、折角のご質問であり、従来からご説明している私どもの基本的な考え方を再度整理してお話ししたい。
 先月も申しあげたが、株式の保有リスクをコントロールし、銀行経営として合理的な範囲内に止めていくことは、銀行の健全経営の観点から、極めて重要な課題である。銀行界は、これまでも経営の重要課題の一つとして、それぞれの銀行の自己責任のもとで保有株式の圧縮を進めてきている。
 この点で、保有株式を圧縮し、株式保有に伴うリスクを減少させるという方向性自体は、我々の経営判断と相違していない。
 ただし、「規制」という形をとる場合、その内容如何では、日本経済に大きな影響を与えかねず、どの程度まで株式保有残高を減らすのが適当なのか、そこに達するまでどの程度のスピードでいくことが適当かといった点を含め、十分かつ広範な議論を行なうことが必要である。 更に申しあげれば、現在、バーゼル委員会が新BIS基準を検討しており、トータルな銀行の自己資本比率規制のあり方、その一環としての株式の取扱いについても様々な議論がなされている。新BIS基準そのものは、年末までに最終的な考え方が取りまとめられ、公表される予定となっており、我が国の株式保有規制についても、こうした、新しい国際的な動きとの整合性を採ることも重要な課題と考えている。 次に、株式取得機構については、昨日、金融庁の方が全銀協にお出でになり、「取得機構の仕組みを検討するにあたってのたたき台としての一案」ということで概要のご説明をいただいている。現段階では大まかな骨子に止まっており、具体的な数字等も含め引き続き検討中であると伺っている。金融界としても、本案を「たたき台」とし、「取得機構」に関する考え方や具体的な仕組みについて、当局と議論を進めていきたいと考えているが、折角のご質問でもあり、以下、「株式取得機構」に関する現段階での私の考え方をご説明したい。
 そもそも、株式取得機構は、これは以前にもお話しさせていただいているが、戦後長期にわたって続いてきた株式の持合い構造、この構造を変えていこうというのがそもそもの狙いであり、株式取得機構はそのようなものに繋がっていくものであるべきと考えている。したがって、長期にわたって続いてきた株式保有構造の円滑な転換、銀行と企業あるいは企業同士が株式を持ち合ってきたこれまでの保有構造から、個人あるいは投資信託を中心とした機関投資家に集まっていくといった形でのアメリカにあるような保有構造に変えていくプロセスが今の時期であると考えている。
 したがって、株式保有構造の円滑な転換を図るべく、個人の株式投資促進税制や所謂401k・金庫株解禁などを並行して行なうことにより、株式市場の活性化、株式の保有構造の構造改革を行なっていくことが必要である。
 株式取得機構そのものの検討にあたっては、取得・保有・最終売却の全ての局面について十分な議論を尽くすことが必要であるし、なにより、市場と調和した実効性の高いものであることも重要である。また、実際には持合いという関係であるため、保有株式を機構に売却することについて、取引先の了解を得られないケース等、実態面での問題も想定されることから、この点にも十分配慮して慎重に検討を進めることが必要である。 若干、各論に入って、今般の金融庁案で示された「たたき台」の骨格のうち、いくつかの論点につき、私の個人的な考え方をお話させていただく。
 まず、「たたき台」では、「優先拠出」、「劣後拠出」ということで、民間金融機関が「機構」に売却した株式の株価変動リスクの一部を負担する枠組みとなっている。
 そもそも「機構」の出発点は、現在金融審議会で議論が行われている株式保有規制、すなわち、銀行から「株価変動リスクを切り離す」という政策目的の実現に伴う「ショックアブソーバー」ということであり、したがって、「機構」に売却した株式の株価変動リスクが銀行から切り離されることが大前提になっている筈である。
 この点で、現在の「たたき台」では、「拠出金」の金額規模によっては、「機構」に売却した株式のリスクが「形」を変えてそのまま銀行に帰属するということになりかねない性格のものである。 我々としては、この当りも当局と議論して考え方を詰めていきたいと考えている。
 次に、いま述べたことと関連するが、金融庁の「たたき台」では、取得機構の長期保有を前提とした「買上方法」の場合には、買上資金の調達に対しては政府保証が付されることになっている。
 銀行界より、政府保証を付すことをお願いした訳ではないが、先程述べた「保有規制」の政策目標との関連で、一種のセーフティーネット的な位置づけとして、当局がご判断されたものと認識している。
 個人的には、仮に、「保有規制」が導入された場合でも、十分な「経過期間」が確保されること、個人投資家を中心とする先程申しあげたような株式市場活性化策が早期に実施され成果が現れること、また、銀行界の一層の市場売却努力が行われること等により、「政府保証」が付された「買上方法」については、所謂セーフティーネット的なものとして、限定的に利用されるべきと考えている。
 最後に、技術的な話であるが、持合いの持っている本質的な問題に関わることであるが、金融庁案では、「機構」が買取る銘柄に一定の基準を設けることがうたわれているが、この問題は、買取った株式の議決権行使の問題とも絡み、産業界の資本政策にも重大な影響を及ぼしかねないことから、産業界からも十分に意見を聞いて貰う必要があると考えている。
 もう一つ、これは銀行に関連する話であるが、今回、銀行保有株を対象としたことから、どの程度のインパクトがあるのかは現段階では予測不可能であるが、理論的には、持合解消の当然の帰結として、事業法人保有の銀行株が市場に放出される恐れがあり、そういう意味で市場の株価形成に一部の悪影響があるのではないかと懸念している。
 以上、いくつかの論点につき私見をお話したが、何れにしても、本案は「たたき台」であると伺っており、今後、金融界として当局と真剣に議論していきたいと考えている。


(問)
 株式取得機構に関する私見についてであるが、機構に売却した株式のリスクが形を変えてそのまま銀行に帰属し続けることは政策意図にあっていないから、それは政府が負担すべきだという考えか。
(答)
 政府が負担するということではなくて、いろいろな仕掛けがいるだろうということを言っている。例えば、ある銀行は規制のもとでも売却をしないでやっていけるであろうし、あるいはこうしたクッションに売却しないと規制をクリアーできない銀行もある。いろいろな銀行があると思うが、そのなかで政策目的を達成するために形だけ銀行の株式保有勘定がバランスシートの上で別のものに振り替って同じリスクが残るのであれば問題である。例えばX銀行がA社の株を機構に売りました、それが売却後もX銀行の勘定として別管理されていてそのリスクがずっとその銀行のものとして残る、というような仕掛けでは困るという意味である。したがっていろいろな工夫をする必要があるだろう、そこを遮断する方法をいろいろ考えよう、ということである。だから、リスク遮断の工夫の一つとして、政府の保証というようなものが有効なケースがあろうと思う。


(問)
 機構に売却した株式が値上がりして利益が出た場合も遮断して良いという考えか。また、銀行の持合い対象は銀行の融資先で、銀行が債権を持っている企業が多いと思われるので、たちの悪い企業の株から優先して機構に売却される可能性はないか、その辺のモラル的な担保はどうすれば良いと考えるか。
(答)
 遮断することは理屈のうえではマイナスも遮断されるかわりに益も遮断されるということである。現実にいまたたき台で出てきているものはそうではなくて、マイナスも一定の幅、プラスも一定の幅で抑えるような、そういう考えが提示されている。例えばたくさん儲かったものについては、保証をした政府に益がたくさん残り、機構に出資した銀行はリスクが少ないからそんなにもらう必要はない、リスクは政府がたくさんとるかわりに益も政府がたくさんとるよ、というのがいまのたたき台の精神である。
 機構に売却する銘柄について、どういう企業を対象にするかという議論が詰まっていないので、余り先取りすることはできないが、理屈のうえでは、産業構造の変化とかその企業の財務体質とかは将来を見通して株価に反映しているわけである。いまここで考えられているのは時価を基準に買取るという考え方であるから、成長が期待できない企業あるいは財務体質が悪い企業というのは株価に反映しており、成長が期待できる企業も株価に反映されているから、時価というのがいわゆるフェアマーケットバリューであり、それで取引をすれば、そこから先は儲かっても損をしてもお互いに恨みっこなしよ、という考え方もある。


(問)
 株の保有規制のところで日本経済に大きな影響を与えかねないと会長は言われたが、これは150のリスクウエイトがかかるので、急激にやると銀行がアセットを減らすことを検討せざるを得ないので、貸し渋りにつながりかねないということか。
(答)
 直接的には株式の需給に非常に大きなインパクトになるからである。もともと株式持合の問題は2つの面で株式需給への影響があった。一つは銀行が持合解消のため株式を売ろうとしていること自体が株価の下押し要因になるということである。これが1年位前にあったと思う。またこの4月、5月の数字をみていると、実際に銀行が株式売却をしたことが需給に影響したと考えられる。これが2つめである。通常の需給関係であればその時々の投資家の思惑で需給がまた改善したりというようなことがあるが、株式保有規制の導入は、構造的に株式放出をどんどんやらざるを得ないということとなり、個人投資家の受け皿の方がキチンとまだ準備されていないから、需給関係から株式の価格を下げ、それが経済に悪影響を与えるということになるのではないか。経済に悪影響を与えるということは単純なことではなく、例えば、製造業が増資をしようと思ってたのが増資ができない、つまり資本調達ができない、いろいろなところに悪影響が及ぶという、そういう意味である。


(問)
 銀行がアセットを減らしていくなかで、貸出を抑制せざるを得ない局面がくるということは含まれていないのか。つまり、掛け目が150になっているとリスクアセットが増えるので、それをマネジメントするためには、株も売りたいが、一方で短期的には貸出もある程度マネジメントしなければならないのではないか。
(答)
 BISのリスクウエイトについて、いまのバーゼル委員会で議論されているのは、150%はベンチャービジネスに対する株式などリスクの高い株式についてはリスクウエイトを150にし、その他の株式については従来と同じリスクウエイト100であるというのが大方の議論のようである。150という数字はそういう流れのなかで出てきている数字であろうと理解している。


(問)
 金融審における株の保有制限に関する議論のなかには銀行の貸出姿勢への影響という問題は含まれていないのか。
(答)
 株式の問題であって、いま申し上げたように貸出の方に広げていくとすれば、間にいろいろな前提が入っていってはじめて貸出に影響を与えるということになる。150という数字が具体的に今あるというようには考えていない。バーゼルでいまベンチャー向けの株式の保有について150であるというのは公開された議論のなかにでてきているが、それ以外に一般の株式について150という話は知らない。仮に一般の株式をそうすれば、ご指摘のように、1兆円持っていれば 5,000億円リスクアセットが増えるわけであるから、5,000億円分は貸出を減らさなければいけないという算術はなくはない。


(問)
 中小企業向け貸出が一つの議論になっていると思うが、毎年毎年そうだが、今年はデフレ傾向が激しいという中で、銀行が貸し出しをなかなか増やしにくいというのがあって、政治的な配慮から公的資金注入時に貸出を増加することとなっていると思うが、改めて今の段階でそれについてどうお考えなのか。制度的な見直し・手当ては必要ないのか。選挙も近いこともあり、政治が色々絡んでいる問題とも思うが、どのようにお考えか伺いたい。
(答)
 特に中小企業向けの融資、金融の円滑化ということが、当初の政策目標に入っていたということは、法律にも書かれているとおりである。そうした政策目標の緊急度あるいは重さというものが相対的に緩和されているという実態があると思う。それはどういうことかと言えば、中小企業についても、借り入れの難易度ということについてのアンケートなどを見ていても、一頃に比べて相当借りにくさというものは緩和されており、一定の政策目的を達しつつあると思っている。
 ただ、問題は、中小企業向け貸出の目標というのは常にプラス、しかし他方で、貸出全体は日本全体を見るとマイナスになっている。そこで何が起こるかというと、中小企業向け貸出について競争がより激化しており、残高を達成するために相当に金利面で競争が激しくなっているということが片方にある。我々は、大手の銀行も含めて全部、中小企業というものは日本経済の場合は経済の根幹を支える大事な分野であるので、こことの取引を非常に重視しているところであり、中小企業向け貸出については引き続き力を入れていきたいということであるが、経済の実態と整合した目標という、運営面での対応・工夫をこれからやっていく必要があると考えている。


(問)
 確認であるが、買取機構には政府保証があったほうがいいというお考えか。
(答)
 「たたき台」での機構の仕組みの中には、先程申しあげたように、銀行の色々な自助努力のあとで残ってくるもの、そうした株式の売却についてセーフティーネット的なものとして買い上げの仕組みを作ろうという部分があるので、この部分については、政策目標を容易に達成するために、政府保証をつけて金融の道を開くということのようである。このセーフティーネット的な仕組みの部分については政府保証があるほうが円滑な運営という点ではよいと私は考えている。


(問)
 小泉首相と柳沢大臣は不良債権の処理の状況について満足していないとおっしゃっているし、金融庁も新しい調査チームを設置するということだが、この点についてどうご覧になっているか。
(答)
 私どもは不良債権の処理について最終処理をもっと促進しなければならないということで、例えば富士銀行ということで見ると、ここ3、4年ぐらいは経営課題のトップに不良債権の最終処理の促進という課題を掲げてやってきている。そのための特別なチームを編成するということで大量の人材を投入して最終処理を進めてきたということである。おそらく、他の銀行でも同様の動きであったろうと思うが、前にもお話したとおり、我々の処理に使った費用の8割は最終処理に使われてきたわけであり、我々としては一生懸命やってきたと思っているところであるが、なにぶん、こうした景気の状況であるので、新たな不良債権の発生というのが、なかなか高い水準のままで落ちてこない、若干は落ちてきているが、新規の発生分は依然として高水準であるということであって、残高がなかなか減らない。そういうものが、総理あるいは金融担当大臣が苛々される現状だろうと思う。
 ただし、我々も、不良債権の最終処理の問題というのは、現在のような産業構造が変わりながら不況であるという状態、処理をするには一番厳しい状態であるが、これを抜けなければ我々も健全な財務体質を獲得できないと考えているので、政府のご意向と我々の経営課題としての認識は全く一致しているので引き続き更にアクセルを踏んで、頑張って処理を進めていきたいと考えている。


(問)
 株式買取機構のはなしであるが、株価の変動リスクが今回の「たたき台」では、マイナスもプラスも一定幅に抑えるということについては会長として評価をされているのか、あるいは一定幅といわずに全部遮断して欲しいとお考えか。
(答)
 こうした大きな構造改革をやることについて当事者が自ら全く努力をしない、血を流さないということはないわけであって、企業の資本政策にも重大な影響があるわけであり、色々な人が色々な形で、リスク、負担を分担しながらやっていくことが大事であろうと思う。そういう意味で、我々がそのリスクから完全にフリーになるということも考えていないし、逆に構造改革のリスクを全て負っていくというのは、我々の体力ではちょっと無理であろうということもあるので、このように色々工夫をなされた案となったと思っている。


(問)
 一定幅というのは落とし所として評価しうるのか。
(答)
 幅によるが、幅が非常に大きなものになるとリスクが遮断されていないということになる。しかし、我々自身がこの機構から全くの利便を得ないかといえば、そうともいえない。株式の保有規制というものを進めるうえで、マーケットが非常に困難な状況にあるときに我々はなお売り続けなければならないということもあり得る訳であるから、我々がリスクを負担しながら構造改革を進めていくという意味で、一部負担をするということは、我々も覚悟をしようということである。 これは私個人の考え方であり、金融界として意思統一しているわけではない。


(問)
 私的整理ガイドラインについて、会長は、以前から、法的整理が原則であり、私的整理は商圏が散逸してしまうような場合に限って認めるべきであると発言されていたと思うが、法的整理の対象と私的整理の対象をどこで線引きするのか、非常にあいまいであるとの印象を持っている。どこまで基準を作るべきなのか、また誰が基準に基づいた判断をすべきなのかという点について、どのようにお考えか。
(答)
 まさにご指摘いただいた点について、現在、実務家や弁護士、学者を含めて実務的にどうしていくのか議論しているところであるので、私から断定的な発言はできないが、法的整理が原則であると申しあげているのには、民事再生法が施行されて、初年度で8百数十件処理され、裁判所等でも取扱いに慣れスムーズに処理されている状況にあるということも理由としてはある。公的な場で公正な第三者の目で処理される方が債務者・債権者の両者ともに安心できるのではないかと思う。
 そうした前提に立ったうえで、例えば、商社のように商圏をベースに営業活動をしている業種については、法的整理として民事再生法の申請を行なうと大きな資産である商圏が1~2ヶ月で雲散霧消してしまい、債権者にとっては非常に大きなマイナスになる可能性が高いことから、そうした場合には、企業の事業価値に着目すれば、私的整理を選択した方が好ましいということになる。ただし、その場合にも、出来得る限り法的整理におけるのと同様の透明性・公平性及び円滑な処理といったものの確保を実現する方策について、現在、実務的に掘り下げて、私的整理に関するガイドライン研究会のWGの場で議論を行っているところである。


(問)
 個別の事例で恐縮であるが、そごうの例では結果的に法的整理で処理が行われ債権カットの割合も増大したが、振りかえってみて個人的な見解で結構であるが、法的整理・私的整理のどちらで行われた方が再建のために良かったとお考えか。
(答)
 個別企業の話はあまりに生々しいのでコメントしかねるが、小売業や商社のように日々マネーや商売が動いているような業種では、一旦企業活動を止めると、企業価値が著しく減じるので、法的整理よりも私的整理の方が良いケースもあると個人的には考えていると申しあげているものである。そごうの例については、もう少し時間が経たないと、どちらが良いかといった評価はできないであろう。


(問)
 不良債権処理の負担と株式の持合い解消の流れの中で、銀行株の株価が低迷している。来週は株主総会が開かれる銀行もあるが、銀行経営の先行きについて株価を照らし合わせて投資家から説明を求められた場合、銀行界としてどのように説明されるのか。
(答)
 株価に現れている銀行の評価についてということであるが、ひとつは本質的な問題として、不良債権問題が実はもっと深刻ではないのか、という誤った疑念が市場にはあることは否定できない。これについては、我々の査定について、IR活動等を通じて投資家に理解を求めていく以外に道はないと考えている。
 また、もうひとつ、株式の持合い解消により、先ほども触れたように銀行株の需給関係が特に悪化するようなことになりはしないかという点について、銀行界も懸念は持っている。持合い解消の議論の中で、この問題をどのように消化していったらよいのか、銀行経営者として深刻な問題であると考えている。


(問)
 統合後初の株主総会であるが、将来の経営方針についてどのように説明をするつもりか。
(答)
 協会長の会見で個別銀行の宣伝をすることとなって恐縮であるが、一言で言って日本を代表する総合金融サービスグループを作ろうということである。そのやり方は、合併であるのかホールディングカンパニーの下でいくつかの業態が一緒にいるのかいろいろな形があると思うが、これはこれからの3年~5年の業績の中で評価されるべきものであって、私はみずほのCEOとして、我々の戦略あるいは企業のフォーメーションは正しいと信じている。こればかりは、今後の我々の業績でもって皆様に評価してもらうしかない。最初に決めた方向・方針は現状で変える必要はないと考えている。


(問)
 マーケットの間には要注意債権に対する引当てが不足しているのではないかとの懸念があり、日銀の速見総裁も引当が十分ではないのではないかと言っていたかと思うが、銀行界としては引当を十分に積んでいると考えているか。
 また、今月29日に森金融庁長官と全銀協の主だった銀行との会談が予定されているとのことであるが、その場で追加引当について要請があるとの話も出ている。仮にそういう話になった場合、全銀協としてはどのように対応するつもりか。
(答)
 個別行としてお答えする。
 要注意債権は非常に幅広い概念で、銀行によって注意しながら取引していこうというものであり、要注意に分類したからと言って直ちに追加貸出はしない、ということはない。注意をしながら見ていこうという範疇のものであり、幅広い概念のものである。そういうもののなかで、かなり厳しい状態に近いもの、そうしたものについてもう少し引当をしたほうがよいのではないかということであろうが、そもそも要注意先に対する引当は実績を元に引当てるという考え方で金融検査マニュアルに書かれている。それに基づいて、それぞれの実績率で引当を行っている。この辺の考え方について、もっと積んだほうがよいのではと言う意見もわからないではないが、ただむやみやたらに引当を積むということは制度上、経営者の意思・裁量で増減できるということとなり、安定性あるいは透明性という面で問題がある。この点については、気持はわかるが、もう少し議論を重ねないといけない。例えば要注意について単純に一律1%上乗せして引当てろというのはちょっと乱暴ではないかと考えている。
 いずれにしろ、この不良債権の問題は、どうすれば引当で財務的な予防的措置ができるのか、どうすれば最終処理ができるのか、この2点が今議論になっている。この点については他人事ではなく、我々銀行の問題であり、真剣に議論を重ねている。
 29日の会談においてどのような話が出るかは承知していないが、おそらく財務の健全性と不良債権の最終処理を急げという話があろうかと思う。これは、我々もそういう問題意識の点では同じであるので、大臣のお話をよく伺って、金融界全体としてもバランスシートの健全性と最終処理に更にアクセルを踏んで参りたい。


(問)
 株式買取機構について伺いたい。政府保証でリスクを一部遮断するということは、ある種公的資金の活用だと考える。また銀行経営に公的資金を導入するということになれば、おそらく批判があると思うが、どのように考えるか。
(答)
 私は、この問題は銀行救済であるとは認識していない。我が国において非常に長期にわたって行われてきた持合いによる資本不足への対応という株式の保有構造を変えていこうという、言わば構造改革の問題である。この問題が銀行の財務の健全性の確保だけに焦点をあてて議論されるのは適当ではないのではないか。そういう意味で、私は個人の株式投資の税制面からの促進策というものについて、政府が積極的に前に進められない状況ということについて、構造改革の視点で見ると中途半端ではないかと考えている。株式持合を極小化するということになれば、銀行株だけが持合いの片方で浮いてきてしまうし、他方で持合い株を銀行が放出していくということは、それぞれの企業にとって資本政策の大幅な変更を余儀なくされるわけで、そうした総合的な株式保有構造の改革と言う観点でものを判断すべきではなかろうかと考える。銀行の救済ということになるのではないかというご質問であったが、私はこの問題は銀行の救済のためにやるのではない、と理解している。