2001年10月23日

山本会長記者会見(富士銀行頭取)

 菅野専務理事報告

 本日の理事会では、準会員として、韓国外換銀行の本日からの加入と、ビー・エヌ・ピー・パリバ銀行の11月1日からの加入を承認した。この結果、日現在の会員数は、正会員が141行、準会員が47行となり、72の特別会員とあわせて、合計260会員となる。
 また、「改革先行プログラム(中間とりまとめ)」において、銀行の健全性確保のための迅速かつ厳格な対処の具体策の一つとして、四半期毎に経営情報を開示する体制をできる限り早期に整備することが要請されたことから、具体的な開示項目等について検討を行うために、「四半期情報開示検討部会」を企画委員会の下に設置したこと、および、先月11日の米国同時多発テロ事件を受けて、先進国を中心にテロ資金対策が重要な課題となっていることを踏まえて、全銀協としても、国際連合「テロリズムのための資金供与防止に関する条約」および安全保障理事会決議に基づく、わが国の国内法整備や金融面の具体的な措置について、銀行界の対応を検討するために、「テロ資金供与防止問題検討部会」を業務委員会の下に設置したことを報告した。
 私からは以上である。


会長記者会見の模様


(問)
 テロ事件、空爆などを背景に、国内景気低迷が長期化するとの見方が強まっているが、銀行界としてどう見ているか。また、景気回復に向けて、政府にどういった対策を期待するか。
(答)
 米国では、テロ直後に急落した株価や消費がその後持ち直しており、懸念されたパニックはこれまでのところ回避されているようだ。連銀による潤沢な流動性供給や連続利下げ、緊急財政支援など、政府対応が素早かった上に、消費を喚起しようとする企業努力も奏効しているとみられる。
 しかし米国経済の先行きについては、かなり慎重に見る必要があると考えている。IT分野の生産調整・設備調整が引き続き行われている上に、最後の砦であった消費も、炭疽菌騒ぎの影響もあり、マインド悪化による停滞が避けられないのではないかと思っている。さらに金融市場では、銀行や投資家がリスクを嫌う動きが強まり、クレジット・クランチが懸念される状況となっている。例えば、米国国債とAAAの社債のイールドスプレッドを見てみると、LTCM危機時を上回って大きく上昇しており、また、銀行はサブ・プライム・レンディングから相次いで撤退しているという状況である、7-9月期および足下の10-12 月期がマイナス成長となったことはエコノミストの間で確実視されており、その後もしばらくはせいぜい1%程度の成長率にとどまるのではないか。
 国内景気は、もっと厳しいと見ている。昨年来の米国経済急減速に伴う輸出減少がなお続いており、生産や設備投資の低迷が目立つ。失業率が5%となり、賃金が減少するなど雇用・所得環境も悪化し、これまで健闘していたサービス業や個人消費も、足踏みが顕著となってきた。これまで米国経済が底入れすれば日本経済にもプラスになるとみてきたが、その可能性は足下でかなり小さくなったと見ている。むしろ、米国の不況がアジアや欧州に及んで世界同時不況的様相を呈しており、日本経済を取り巻く環境は一段と悪化している。銀行の窓口にも、グローバル競争や技術革新を背景に厳しさを増してきていた企業の経営環境がここへ来てさらに不透明さを増してきたという声が伝わって来る。
 銀行界としては、不良債権処理を進め適正な利鞘を確保することによって、自らの体質改善を図るとともに、企業や経済の再生に向けて、銀行としてできる限りの努力をして参りたいと考えている。日本経済の高度成長は、産業・企業による技術革新や市場開拓努力を、銀行が資金面から支えたことによって実現したと理解している。今後も、日本の銀行が競争力を持ちかつ効率的な金融サービスを提供しうるか否かが、日本経済再生・産業再生の必要条件のひとつになると認識している。
 政府には、マクロ経済の急激な落ち込みをくい止めるとともに、不確実性をミニマイズする改革を、できるだけ早く実現してほしいと考えている。その意味でテロ事件後の景気の一段の悪化に対処するための補正予算に関する議論が具体化してきたことを歓迎したい。また、バブル崩壊後の長期にわたる景気低迷の主因のひとつが、不確実性の高まりによる需要の萎縮にあるとの指摘を踏まえれば、規制緩和や科学技術振興によって経済の成長余地を拡げ、労働市場や年金・医療保険制度の改革によってセーフティ・ネットを充実させることが喫緊の課題であると考える。


(問)
 先般公表された改革先行プログラムにおいて予定されている特別検査について、金融庁は10月にも検査を開始する意向を示しているが、銀行界としてこれをどの様に考えるか。また、その結果として大口取引先に対する引当増に繋がる可能性が高いと考えられるが、それは現状の体力でカバーし得るのか。さらに、公的資金の再々注入に至ることはないのか。会長のお考えを伺いたい。
(答)
 市場の評価に著しい変化が生じている等の債務者に着目した特別検査の実施は、大口取引先等の急速な業績悪化にスピーディーに対処するとの観点から、自己査定・引当の信頼度を高める上で意義のあることと認識している。
 ただし、場合によっては、市場の投機的な動きにより、自力再建可能な企業が破綻に追い込まれることも懸念されることから、検査情報の取扱いにあたっては、従来以上に厳格な管理が不可欠だと考えている。
 「特別検査」の結果、破綻懸念先と認定され、債務者区分が悪化した場合は、引当増となる。また、結果として債務者区分の悪化に至らなければ、引当は変わらないということである。
 即ち、市場の評価自体が、引当の増減に直結するものではなく、本制度の導入により、与信関係費用が大幅に増加し、その結果銀行の自己資本が著しく毀損することにはならないと考えている。また、公的資金の注入については、従来から柳沢大臣や森長官もおっしゃっている通り、現状必要ないと認識している。


(問)
 RCCの機能拡充に関する法案が国会に上程される見込みであるが、今後、銀行界としてRCCをどのように使っていきたいと考えるか。
(答)
 改革先行プログラムに示されているRCCの機能拡充については、不良債権処理手法の多様化という観点から、歓迎している。
 これまで全銀協としてはRCC・預金保険機構の要請に基づき、現行の金融再生法第53条に基づく買取りに関する改善要望について銀行界の意見を取り纏めたり、RCCの信託業務に関する人材の派遣を決定するなど、RCCの機能拡充に関し協力をしてきたところである。
 今後も、現在RCC・預金保険機構で検討中である企業再生等にかかる機能拡充についても要請があれば、全銀協としても引き続き協力していきたい。また、今回の改正案により、債権買取価格決定方式の弾力化が図られれば、民間金融機関にとっては、従来よりも使い易いスキームとなることから、破綻懸念先以下の債権を処理する方法の一つとして、RCCをより積極的に活用できるようになるのではないかと期待している。


(問)
 公的資金注入行の役員退職金が国会で問題となったが、公的資金注入行としてこの問題をどのように考えるか。
(答)
 公的資金で資本注入を受けていることについては、大変重いことと認識している。
 役員の処遇については、公的資金注入行として、厳格なリストラ計画に基づき、合理化を推進していく中で位置付けられる問題と考えている。
 今後とも、収益力を増強し財務体質を強化していく中で、早期健全化法の精神である、「我が国金融システムの再構築と我が国経済の活性化に資することを目的」とし、金融機関としての信認の維持向上と円滑な資金供給を果たしていくことが、最大の使命であると考えている。


(問)
 特別検査に伴って風評リスクを心配する声が聞かれる。29社リストなるものも出回ったということもあるが、風評リスクについてどのようにお考えか。
(答)
 先ほども申しあげたように、検査の対象先およびその結果については細心の注意を払って情報管理を行なってもらう必要があると考えている。仮にも特別検査に関係した情報により企業の業況が悪化したり倒産したりすることがあったりしてはならない。この点については、金融庁に要望しているところでもある。


(問)
 RCCが買い取った債権の処理期間について、3年以内あるいは5年以内という議論がなされていると思うが、一方で先般、全銀協が取り纏めた「私的整理に関するガイドライン」においては3年以内の再建を前提にすると整理されている。この「期間」に関する議論についてどのようにお考えか。RCCの利用者として、3年と5年のどちらが望ましいのか。
(答)
 どの様なご議論がなされているのか詳細を承知していないので、何とも申し上げにくいが、買取りをした企業の業況あるいはマーケットの状況などから、3年で処理できるのか、それとももう少し時間が必要なのか、という判断が変わってくるものと思われる。一律にどちらがいいということは利用者である売り手の立場からは判断しかねる。


(問)
 債権を売却後は当該企業との関係が切れるというが、売却するまでの再建期間との関係や関連グループ企業への取引の広がり等、企業との関わり方によっては売却後も処理期間について関心のあるケースもあるのではないか。
(答)
 処理の仕方は、当該企業の業況や業種等、個別のケースによって異なってくる。したがって、3年でいいのか、もう少し時間が必要なのかという点について一律に整理するのは難しい。であるからこそ具体的ケースを念頭に置きながら、国会においてつめた議論が行われているものと理解している。ただ、最終処理について1年とか2年とかいう話になれば無理と言わざるを得ないが、3年から5年という期間については議論の幅としては現実的なものであると考えている。


(問)
 市場の信認を得るためにも、特別検査において、債務者格付が厳しい銀行格付に統一するという、いわゆる横串論が言われているが、それについてどのようにお考えか。
(答)
 銀行によって企業の格付けが異なるのはおかしいというご指摘であると思うが、外部機関による格付けについても異なっているのが実情であり、取引の地位、過去の経緯や業界全体の見方等さまざまな要素により銀行によって微妙な差が出てくるのはやむを得ないところである。
 それであるからこそ貸出を回収する銀行がある一方で貸出を肩代わりする銀行が現れるという現象が起こるともいえ、第三者機関が一律にすべての企業について一致した格付けをすることが必ずしもいいこととは考えられないし、現実的にそうしたことをしようとしても手続を考えると難しい。ある銀行がAの格付けとしていた企業を別の銀行がBとしていた場合に誰が調整するのか。社債の格付けのように一律の格付けがなされれば楽だという気持ちは理解できるが、現実的には難しい。


(問)
 不良債権の処理損失であるが、これまで、各行とも終わったといいつつ、5月の決算発表、7月の経営健全化計画の見直し、さらには中間決算の修正が行われているが、短期間で何故それほど損失が増加するのか、また、今回の特別検査でそういったことを出し切るということかとも思うが、特別検査の意味はどの程度あるとお考えか。
(答)
 不良債権処理については、ご指摘のとおり、終わっていない。
 不良債権の開示ルールあるいは自己査定ルールについて制度的に整備がなされたのは、金融検査マニュアルが示された時であり、その後、ルールをより精緻化したことで、カバレッジが拡大し開示額が大きくなったという制度的な理由もある。
 もうひとつは、不良債権というのは、最近の米国でも増えていることからもわかるとおり、どんな経済でも停滞すれば、増える性質のものであるということがある。
 そういう意味で、日本経済について言えば、不良債権が毎年増えている大きな要因として次の点が考えられる。
 第一に、グローバルな競争が進展するなか、安価な外国製品がどんどん国内に入ってきており、また、企業の設備投資が海外へ流出しているということがある。例えば、IT関連の設備投資は、主要企業では半分以上が海外で新たな設備投資が行われており、したがってGDPは当然マイナスになるという構造的な要因を日本は今抱えている。国内で1つの工場が閉鎖されれば、当然、当該工場に部品等を供給していた周辺の中小企業が会社を閉めざるをえないという事態が頻発している。もうひとつは長期にわたる経済全体の停滞である。
 さらに日本特有の事情として中小企業向け貸出については、債権保全という観点から不動産を担保とした融資が多く、その担保価額が減少しているということも挙げられる。
 こういった要素を考慮すると、不良債権が増加することもやむを得ない状況にあり、銀行が処理を重ねても不良債権が減らないという状況に繋がっている。
 今回の特別検査で問題を全て出しきるのかという点であるが、金融庁は金融検査マニュアルをベースに徐々に運用基準・細目を精緻化してきており、こうした中で資産査定を行っている訳であり、その限りにおいては従来の検査においても銀行の資産内容を全部洗っているといえる。また、検査の段階で示したものは公認会計士と監督当局が見ていることから、その時点では銀行としては全て出しきっていると考えている。
 今回の特別検査の狙いは、現状、検査のタイミングが実際に企業がおかれた状況とタイムラグがありすぎる、例えば、3月決算の企業を9月に自己査定をし、その結果を例えば11月に出すといった長い時間の後での再確認ということになるため、その期間の変化が掴みきれないという問題があり、これを解消するのが狙いのひとつである。即ち、債務者の外部格付けの変更や株価の急落、債券価格の急落等のシグナルに大きな変化があった場合、そのシグナルを迅速に銀行の格付けに反映させて必要な措置を講ずるように対応を求めようとするものである。
 その時点時点で認識されたシグナルを基に格付けを見直し、自己査定の結果を見直すことで、問題は解決されるわけである。銀行としては、適切な格付けに基づく充分な引当をスピーディーに行っていくという方向を目指しており、特別検査はそういう方向を目指している銀行を後押しするものであると理解している。


(問)
 現実、市場に不信感がある中でそれを払拭できるものになるのか。
(答)
 私どもは様々な努力を今までもしており、払拭できるか否かは皆さんや市場の評価に拠るわけであり、私どもとしては出来るだけディスクロージャーをし、説明をキチンとしていく。また、今度の新しいタイプの検査を通して、マーケットの信認を回復すべく最大限の努力をしていきたい。


(問)
 冒頭の事務局報告のなかで、四半期情報開示検討部会の設置の話があったが、その方向性について伺いたい。不良債権も開示の方向か。そうなると自己査定のスケジューリングも短縮しなければならなくなると思うが、その点についてはどういった方向で議論されているのか。
(答) 四半期の報告というものが、今の半期あるいは年1回の財務諸表の報告に比べて、速報的なものである、あるいは開示項目が限定的なものであるというのはアメリカの金融機関においても同様である。仮に、半年のサイクルを3ヶ月に短縮し、同じ項目で同じ精度をやろうとすると、抜本的に事務フローまで変えなければできないので、そういうものを直ちに期待するというのは現実的ではない。
 したがって、できるだけ可能なものを速報性ということを重んじて出していくことになると思う。いずれにせよ、これから検討を始めるところであるので、アメリカ、ヨーロッパ、その他の国の、そうした情報開示についての先進性をもったところを参考にしながら、検討を進め、できるだけ早い時期に実現できればと思っている。


(問)
 先ほど、「よりスピーディーに」ということをおっしゃっていたので、全銀協としては、例えば来年度から、四半期毎で不良債権を、速報値ではあるが、開示する方向で議論に入るということでよいか。
(答)
 マーケットのニーズがどこにあるかというのは、不良債権の開示情報としては非常に大きな課題であるので、充分な議論をしていくつもりだが、先ほど申しあげたように、自己査定の基本のサイクルは6カ月であるので、これを3カ月でフルに全部見直すということは現実的に無理である。そうした前提で、開示できる情報はどういったものかということを検討していくわけである。
 ただし、債務者の急速な業績の下降というようなことが仮にあれば、そういった明らかに見えるものについては四半期報告の中に取り込んでいくということは可能であり意味があると思う。


(問)
 精度の点では制約があるが、来年度から開示する方向ということでよいか。
(答)
 これから協会としてまとめようとしているのであって、来年度からやれるかどうかという判断は今はつかない。仮にまとめても個別行のシステム対応、その他色々なことがある。勿論、できるだけ早く開示可能項目を検討して、開示を始めようという意欲は持っている。繰り返しとなるが、どういった項目について、いつからということについては今日現在では申しあげることができないので、検討部会の進捗状況など、報告すべき状況になってくれば、この場でご報告する。


(問)
 目処としてはいつ結論を出すのか。
(答)
 検討部会を立ちあげたばかりという段階であるので、もう少し時間をいただきたい。また、1カ月なり2ヵ月なりが経ったところで進展があれば報告するということにさせていただきたい。


(問)
 RCCの機能拡充についてであるが、先ほどの会長の回答の中で、信託業務の人材派遣を決定されたとのことであるが、その人数であるとか規模であるとかについて教えていただきたい。
 また、この先、企業再生の機能充実についても要請があれば協力をしていくとのことであるが、どのくらいの規模を予想されて、どれぐらい協力するつもりなのか教えていただきたい。
(答)
 信託業務については、早ければ今月中にも信託銀行のプロを3名派遣することが確定している。
 また、企業再生については、先ほども少し申しあげたが、具体的にまだRCC側の検討が進んでいないので、例えば、こういう点で知恵を貸して欲しい、力を貸して欲しいという具体的なところまできていない。RCCにご努力いただくとともに、私どもとしてもこうした点で協力をしたいと考えている。


(問)
 大手各行には、幾ばくかの人数を出して欲しいという話はもうされたのか。
(答)
 そこもまだRCC側で充分検討が終わっていないので、これからだと考えている。


(問)
 不良債権問題についてお伺いしたい。市場の評価は市場に任せるしかないということであるが、先ほど会長の話にもあったようにグローバル化や景気低迷により不良債権は増えているということを考えると、適時適切に不良債権を把握していったとしても、そもそも含み益はなく強制評価減せざるを得ないという非常に厳しい状況にさらされながら、原資はもう業務純益しかないという中にあって、なかなか市場の評価を得るというのは難しいと思う。
 会長の目からご覧になって、実際にどこから手を付れば良いというような処方箋であるとか、手順であるとか、どのような絵図をもっていらっしゃるのか伺いたい。
(答)
 
個別銀行の頭取として考えていることを申しあげる。
 手順を踏んでどこから手をつけるという話ではないと思う。不良債権については、当たり前のことを当たり前にやっていくことが重要なのではないかと考えている。つまり、不良債権の発生をできるだけ食い止めるということだ。企業と銀行というのは直接金融化の流れの中で少し距離を置いてきたというのが、この 10年ぐらいの傾向だったわけだが、債権者として、業況に注意を要するような企業については、もう少し踏み込んだアドバイス、コンサルティングというものをやるべきであるという考えから、1年以上前から、企業を選別して踏み込んだアドバイスをし、個社別の管理を強化するということで新規の不良債権の発生を食い止めるということをやっている。
 どうしても解決の道がないというような場合には、破綻懸念先以下ということになるが、会社の事業の分割をしていくとか、M&Aの活用とか、色々な手法を使って事業を生かしていくということで処理をすすめていく。それでもどうにもならないところは、できるだけ早めに法的処理にもっていくことを企業との間で相談を始めるというような動きとなる。とにかく時間が大事であるので、そうした予防的なものと発生してしまった後の迅速な処理というものの両面の対応をやっている。そのための特別な体制をしいている訳である。
 一方で、そうした不良債権を処理していく利益ということが課題となる。ご指摘のとおり含み益のない経営というものを殆どの銀行が経験しているのが今の状況である。金融市場は大きく変化しており、従来の単純な預金・貸出というものから、預金代替として、投資信託であるとか、外貨建ての預金が出てくる、また、貸出についても、単純な貸出だけではなく、クレジットラインであるとか、プロジェクトファイナンスであるとか、非常に多様なものが出てきており、収益機会はむしろ拡大している。 私どもみずほフィナンシャルグループはホールディングカンパニーのもとに、間接金融から直接金融、アセットマネジメントまでを包含するグループを作り、金融資本市場あるいは金融ビジネスの変化を、我々グループの中でトータルに捉えていくビジネスモデルとなっている。資本と人材という経営資源を、一番成長率の高いところに弾力的にシフトしていこうということでホールディングカンパニーを作ったわけであるが、このところ、例えば、インベストメントバンキング業務、証券業務の分野で、みずほ証券は着々と稼げるようになってきている。そうした新しいビジネスエリア、あるいは新しいビジネスモデルというものを作っていくことで、収益力をトータルで高めていくということを、模索していきたい。一方で、伝統的な銀行業務の中での我々の最大の課題は、リスクに見合った金利が取れていないということである。理屈の上ではリスクに見合った金利が取れていれば、不良債権のコストは金利の中で賄えるはずであるが、現実の商売の中では、長い歴史もあって、リスクの高いところでも、十分な金利が取れないケースが多い。これらについては、リスクに見合った金利を頂戴するという新たな商慣行を地道に作り上げるという努力をしていかなければならないと考えている。
 煎じ詰めて言えば、新しいビジネスモデルの構築など収益力をつけるということと、不良債権のコストを下げるために、新規に発生するものの迅速な対応、それから、予防的措置を徹底するということが、この事態を乗り切るための柱であると考えている。


(問)
 特別検査についてであるが、引当金の積み増しは現段階で必要と考えていないということか。
(答)
 みずほフィナンシャルグループについて言えば、包括検査が終わって、フォローアップ検査が終わったばかりであり、特別検査で新たなものが大きな金額で出てくるということはないのではないかと考える。しかし、まだこれから来年3月までの今年度ということで考えると、まだ時間もあり、特に、アメリカでの事件発生以降、急速に問題が各所で起っているので、急激な変化が起らないということは保証できない。この間に変化があれば、当然、3月に反映するということであるが、急速な変化があったものは9月の査定のところで既に入っているので、まだ現時点では明確に見えていない。これはみずほフィナンシャルグループの検査のタイミングとの関係である。個別の銀行ではいろいろ事情が違うことはあろうかと思う。


(問)
 仮に不良債権がなくなったとしても、銀行のビジネスモデルを変えていかないとビジネスが成り立たないという意見も多いが、その関連で、銀行・証券、あるいは銀行・保険との垣根の問題など、規制によって収益機会を奪われている制度の見直しなどについて銀行界としての見方を伺いたい。
(答)
 伝統的な預金・貸出業務というものの意味がなくなったとは考えていない。例えば中小企業、個人の取引を考えると、非常に多くのものがこの伝統的な銀行業務に支えられている。預金と貸出、決済をベースとしたビジネスそのものはいらなくなったということではなく、そういったものの成長率や収益性が従来より劣ってきた、したがって、資本の論理からすると資本をそこに多くは割かないで、もっと別のところに大きな収益機会を求めるべきだというのがビジネスモデルの考え方だと思う。例えば、投資信託の販売は急速な成長はしていないが、後退せずに着実に伸びているので、私はこれは一つの収益源に育ってきつつあると思う。
 また、ようやく損害保険を中心に保険商品の窓販が開始されたが、これは損保業界の方からみるとかなりの影響があるようである。また生命保険についても、銀行の窓口に適した生保商品が開発されれば、銀行で販売されるようになっていくと考える。垣根の問題は、その多くが既に解決しつつある。 総合金融サービスというものが、それぞれの銀行の戦略に応じて進んでいくというのが今後の展望であろう。証券関係については、投資信託が実現したし、みずほフィナンシャルグループにおいては、フルレンジの証券会社を100%子会社として持つようになり、今度はホールディングカンパニーの下に持てるようになった。銀行が直接、証券業務を行なうかということは、規制の問題とは別に、カルチャーの問題やお客さまの対応におけるリスクマネジメントなどの観点から、別会社でやるほうがよいという考えもかなりある。保険のアンダーライティングは銀行が直接行なうにはリスクが大きすぎる。これもやはり販売提携をするとか、引受業務は、ホールディングカンパニーの下の別会社でやるという展望だと思う。それらの点で、規制は実質的に外れてきており、みずほフィナンシャルグループを例にとると、ホールディングカンパニーの下で、総合的かつ国際的な金融サービスグループを作るということで、大きな支障はなくなったと考えている。単独の銀行の場合、どんなビジネスモデルを作るかというと、投資信託を中心とした証券関係の商品の販売と保険関係の商品販売などが大きな収益源としてこれから出てくるだろうと考えられる。


(問)
 制度の見直しは不要ということか。
(答)
 不要ということではない。引き続き、例えば生命保険の窓販などは議論している。ただ、現時点で、来年にでも実現しなくてはならないというほどに、生命保険業界との話し合いが進んできていないということである。


(問)
 「私的整理に関するガイドライン」は非常に厳格なものとなったと思うが、当該ガイドラインを使わない形の私的整理はありえるか。また、仮にほとんど使われない場合、ガイドラインの見直しはあるのか。
(答)
 「私的整理に関するガイドライン」は、中にも書いてあったように、少数の関係者が私的に行うものはこれに縛られることはないのであり、そういうものも存在するであろう。金額が大きく、かつ多数の債権者が関わる場合には、このガイドラインの下でスムーズな処理が行われるということが期待されるということである。
 まだできたばかりであり、これから使われていくものである。弁護士、公認会計士、マーケット関係者、大学の先生など実務家の知恵のかなり入ったものであり、これから具体的に使っていく過程で、仮に問題が出てくれば、また見直すということになるだろうが、今具体的にここを見直した方がいいという議論は、当然のことながら、できたばかりであり、現時点ではない。


(問)
 金額が大きく、かつ多数の関係者がいる企業の場合は、あのガイドラインを使わないということはありえないということか。
(答)
 関係者が合意できれば、あの基準を全て守るという必要はないと思う。ただ、関係者が多い場合にはみんなのコンセンサスというものがないと話が前に進まないことがほとんどであり、こうした点からガイドラインを作ったということである。


(問)
 公的資金の再々注入は不必要とのことであったが、今の銀行に対するマーケットの信認が低いのは不良債権の処理に耐える体力がないのではないかとの懸念がマーケットにあるからだと思う。その意味で、公的資金を注入した方がより信認が高まるのではないかと思うが、どう考えるか。
(答)
 マーケットで資本調達をするのと同じような形で、我々が必要とすれば公的資金が入ってくるといったものではないと認識している。また、我々としてはその前に、できるだけ自力解決をしていくということである。資本が必要だということになれば、国の資金によらず、まずは自分でマーケットから自力調達をするという選択肢だろうと考える。公的資金を入れた方が信認が高まるという議論はよくわからないが、やはり個別にそういった状況になっている銀行があれば、今ある国のルールに従って注入がされるということであって、我々が単にマーケットに出て行くのと同じような感覚で国の資本の導入をお願いするというようなことではなかろうと考えている。


(問)
 公的資金再々注入の必要はないという根拠は何か。
(答)
 必要があるとすれば、例えば自己資本比率の面からということになろうかと思う。これから想定される、あるいは想定外の不良債権の処理コストというものと、株価が例えば5,000円というような状況になった時にどうするのだということがあろうかと思う。要はそういった極端に状況が悪いときにも企業が自分を支えられる最後の拠り所として資本が十分かあるいは足りないかという議論だろうと思う。その資本があればあるほど良い、だから国から資本を注入してもらうんだという議論ではない。例えば、みずほの保有株式は、今現在、自己資本の 120%弱の残高があるが、この株式のマーケットリスクに対して資本が十分かということになると、不良債権処理見込その他からみて、来年3月の自己資本比率は十分国際基準を達成できる、したがって新たな資本を必要としていない。それに対して、国から資本を入れてさらに充実した方が良いではないかという議論はあるが、我々はやはり株式会社として国に依存する程度は最小限にしておきたいと考えている。


(問)
 99年3月に公的資金を注入したときも自己資本比率が8%を割ったからではなく、銀行の体力についてより安心感を与え信認を回復するために注入したはずである。それ故、今回、自己資本比率が基準を割っていないから公的資金の注入は不要というのは理由にはならないのではないか。
(答)
 あの時の議論は、クレジット・クランチの問題があって、金融の円滑化のために銀行の自己資本比率を前提にすると貸出額を確保できないという政策的な要請というか、ニーズがあって、銀行の自己資本比率は8%を割るわけではないけれども、そうしたニーズとかみ合わせたところで決断がなされたというように理解している。今は、例えば銀行が資本が足りないために貸出が出来なくて困るという状況よりは、むしろ貸出先がなくて困っているという状況である。そういう意味ではこの前の状況とは別の局面にあるというように考えていることから、新たな公的資金の注入については必要ないと申しあげているわけである。


(問)
 銀行が相次いで中間配当を見送っているが、中間配当についてはどのように考えているのか。
(答)
 みずほホールディングスの株式についてどう考えるかということでお答えしたいと思うが、配当の問題は、配当政策と配当原資の有無という二つの問題があろうかと思うが、配当原資についていうと、みずほホールディングスは配当を十分に出来る水準にある。ただ、配当について、原資があるから配当するということになるのか、あるいは業績というものをどのように配当に反映させるのかというようなことについては、現在まだ上期の決算を固めているところであり、したがって、通期の決算見通しについても現時点で確定していないので、中間配当もどうするかということを申しあげられないのが今の状況である。


(問)
 みずほフィナンシャルグループのトップ人事は、現時点でどのような状況か。
(答)
 現時点で決まっていない。ただ、お約束しているように、ホールディングカンパニーは一人のCEOになる。いずれにしろそう遠くない時期に発表させていただきたいと思っている。