2001年12月18日

山本会長記者会見(富士銀行頭取)

 菅野専務理事報告

 本日の理事会では、次期副会長および次期正副会長の担当委員会を、お配りした資料のとおり内定した。
 次期副会長の正式な選任は、次期会長と同様、来年4月の定例総会後の理事会において行われ、また、担当委員会の正式な指名は、次期正副会長が正式に選任された後の正副会長会議において行われる。
 なお、私事になるが、お配りした資料にあるとおり、私は、来年4月の定例総会をもって副会長・専務理事を退任し、後任には、鵜飼常務理事が就任することになっている。
 私からは以上である。


会長記者会見の模様


(問)
 株価低迷についてどう考えるか。特に、先の中間決算で当初計画を大幅に上回る不良債権処理を断行したにもかかわらず、銀行株の下落に歯止めがかからない。この現状をどう見ているか。
(答)
 足元の企業収益の悪化に加え、日本経済に対する先行き不透明感から投資家が株式投資に一般的に慎重になっていることが原因だと考えている。
 今後、株価がさらに大きく下落するとは考えられないが、世界経済の動向や不良債権処理に伴う信用リスクの高まりなど、先行き不透明感が払拭されていないことから、上昇余地もかぎられるのではないか。
 このところの銀行株の下落については、景気低迷・株価下落による体力低下に対する懸念や、金融庁特別検査の結果に対する憶測、不良債権処理の行方についての不透明感があると考えている。
 これに対して、大手銀行各行は先日の中間決算発表で、債務者区分の厳格化や、要注意・要管理先債権に対する引当金の大幅積み増しなど、当初見込みを大幅に上回る不良債権処理損を計上した。
 それにもかかわらず、銀行株が下げ続けていることに対しては、意外感をもって受け止めている。景気低迷に伴う信用リスクの高まりなどから、さらなる不良債権が発生するのではないかという過度の不安心理がはたらいているようだ。また、景気低迷による投資家心理の冷え込みも少なからず影響していると考えられる。
 今後、銀行株が反転するために、マクロ経済の再生が不可欠なことは言うまでもないが、銀行としても不良債権処理を加速し、強靭な財務体質を構築すること、また、事業再構築やコスト削減を一層進めて収益力を高めることが必要であると認識している。


(問)
 7-9月期の実質GDP成長率が2四半期連続のマイナス成長になったほか、先の日銀短観でも4期連続で業況悪化が確認されるなど、景気低迷が深刻化しているが、銀行界としてどうみているか。
(答)
 国内の景気は、非常に厳しい。米国経済の急減速に端を発した輸出減少が今もなお続いており、生産や設備投資に深刻な影響を及ぼしている。雇用・所得環境の悪化も顕著で、個人消費も減少に転じた。景気悪化が経済全般に波及しており、深刻な景気後退局面にあるとみている。
 日銀短観については、業況判断の悪化とともに、経常利益の見込みが大幅に下方修正されたことを重くみている。経常利益の大幅な減少は、企業の設備投資意欲を抑制し、雇用調整圧力を増大させる。年度末にかけて、日本経済には、もう一段の調整圧力が加わる可能性が高い。
 唯一の好材料は、米国で、在庫調整の進展や、企業業績底打ちの兆しが見え始めたことだが、これをもって米国経済が早期に回復すると判断するのは時期尚早だろう。しかし、こうしたものがあることは念頭におきたい。
 このままでは、2001年度は98年度の成長率マイナス0.8%を越える戦後最悪の不況となることが確実であり、2002年度もマイナス成長が続く可能性が高い。


(問)
 先般、青木建設が破綻したが、マーケットでは「銀行界がいよいよ不良債権処理に乗り出した結果」という見方もある。今後の不良債権処理の見通し、およびその結果としての過剰債務企業の淘汰・再編について、銀行界としてどのようなスタンスで臨んでいくのか。
(答)
 不良債権問題については、予てから申し上げているとおり、各行が経営の最重要課題として取組んできている。しかしながら、景気の減速が続く中で、取引先の業績・財務内容が想定以上に悪化してきており、不良債権の新規発生が高水準で推移していることから、不良債権残高が減少していないのが実態である。
 ちなみに、金融庁によれば、主要行の破綻懸念先以下の債権の状況は、12年9月~13年9月までの一年間で6.9兆円の処理を進めてきている一方で、新規発生が処理額とほぼ同額の6.4兆円あり、差引き0.5兆円の減少に止まっている。
 ご高尚のとおり、「私的整理に関するガイドライン」、「RCCの機能拡充」など、不良債権処理に向けた環境整備が整いつつあり、我々金融機関としては、再建可能な企業については極力再建の方向で取組み、最終処理によりオフバランス化すべきはこれを加速させていくことで、不良債権問題の早期正常化を図っていきたいと考えている。
 ただ、不良債権問題を正常化していくためには、不良債権の新規発生を押さえていくことが不可欠である。こうした点からは、経済全体が持続的に浮揚していくとともに、借り手である産業側の過剰債務や非効率性といった構造問題を一体的に解決していくことが必要ではないかと考えており、その過程で、問題解決の1つの手法として、各業界において再編が進んでいくこともあるのではないかと考えている。


(問)
 巨額の不良債権処理を行うことにより、大手行でも資本準備金を取り崩すところが出るなど、自己資本に余裕が無くなってきているが、公的資金再注入は必要ないのか、改めて伺いたい。
(答)
 株価の低迷や「改革先行プログラム」を踏まえた各行の不良債権の積極的な処理などにより、この年度末において赤字決算を見込む銀行もあり、当然自己資本への何らかの影響はある。しかしながら、大手行においては、その中で一定の自己資本水準を維持していくものと考えており、公的資金が必要な状況とは考えていない。
 みずほフィナンシャルグループの場合で申しあげると、今年度の赤字計上により、一時的に自己資本は減少するが、資本増強を実施しない場合でもBIS自己資本比率は10%程度の十分な水準を維持する見込みである。
 一方、来年4月の「分割・合併」を盤石な体制で迎えるため、財務体力を一層強化し、十分な自己資本比率を維持することを狙いに、今年度中に3,000億円のTier1資本増強を行う予定である。
 また、財務の健全性を高めるという観点では、各行がこれまで以上に徹底した収益力増強・リストラ推進に注力することが必要であると認識している。


(問)
 来年4月に予定されているペイオフ凍結解除については、政府では予定どおり解禁の方向であるが、様々ところで様々な議論がなされている。予定どおり解除することで混乱が生じることはないのか。
(答)
 各金融機関においては、ペイオフ凍結解除に備え、法令にしたがって名寄せデータ提供のためのシステム整備などの準備を平成14年3月末迄に完了すべく整斉と進めている。
 また、全銀協としても、種々の媒体を通じて預金者に対する周知徹底を図るとともに、各行が行っている「名寄せ」のための預金者データ整備が円滑に進められるよう、預金者の理解を求めることを目的として、今月、全国41紙に新聞広告を掲載しているところである。
 さらに申し上げれば、本年4月に施行された改正預金保険法には、円滑な破綻処理等に必要な様々な措置や金融システム危機に対するセーフティーネットの仕組みも盛り込まれている。
 こうしたことから、金融システム全体に大きな混乱が生じる事態にはならないのではないかと思う。


(問)
 本日、政府で特殊法人の整理合理化計画が一応まとまったものの、政府系金融機関の見直しが先送りにされたようであるが、どのようにお考えか。
(答)
 政府系金融機関については、財政構造改革の観点や金融システムの効率化・活性化の観点から抜本的な見直し・改革が必要と考えており、全銀協としても、先般、提言を発表し、各方面に配布したところである。
 具体的には、金融庁による検査・監督の導入などによるガバナンスの強化や政策のコスト・ベネフィットの計量・分析の強化などをもとに、政策目的の抜本的、不断の見直しが図られるべきであると考えている。
 政府系金融機関に関する改革の方向について、今般のタイミングにおいてコンセンサスが得られなかったことはやや残念ではあるが、(1)民業補完、(2)政策コストの最小化、(3)機関・業務の統合・合理化の原則のもと、引続き活発な議論が行われ、早急に抜本的な改革の方向性が示されることを強く期待したい。


(問)
 ペイオフ解禁に向けて各行とも準備している状況は理解したが、ペイオフ解禁の是非について、会長としてどうお考えか。
(答)
 ペイオフ凍結解除について、活発な議論がなされていることは承知している。実際に来年の4月から新しい体制に入ることを念頭に、先ほど申しあげたとおり、我々もそれに向けて整備を行っているし、政府もそれに向けた準備をしておられると思う。新しく作り上げる仕組みが混乱を引き起こすような状況には、現状のところはないと考えており、現時点では、方針の変更を決定するタイミングにはないのではないかと考えている。


(問)
 先週末に自民党の野中前幹事長が金融システムの問題について言及していたが、会長は今の金融システムが置かれている現状についてどう考えているか。そのうえで公的資金の投入の是非についての考えを伺いたい。
(答)
 一般論として、景気の低迷下では、金融システムが非常に不確実な状況におかれるということはあると思う。しかし、それぞれの金融機関がそれぞれに努力をしているし、ご当局も計画どおり本年は地域金融機関に対し、検査を通じて健全化を急ぐというようなアクションも活発に行われているところと承知している。そうした中で不安感から株価が低落する等いろいろな状況があるわけであるが、私どもも最大限実状を説明申し上げて、市場の理解をいただくように努力したいと思う。風評等をベースにした危機感が大きくならないように最大限努力をしたいと思うし、ご当局もそういった努力をされていると理解している。ここは、冷静に現実を判断する時期ではないかと考えている。


(問)
 スワップを含むデリバティブ取引へのマクロヘッジ会計の適用の延長ということが議論されていると思うが、まだ議論は続いているのか。
(答)
 マクロヘッジ会計の本格対応の問題であるが、実務的にフィージブルなマクロヘッジ会計の仕組みを構築するためにいろいろ解決すべき点があると認識している。ヘッジ会計の本格的対応の内容については、現在、諸外国における具体的な適用状況、実務面での課題等を踏まえながら、公認会計士協会と協同で慎重に内容の検討を行っているところである。


(問)
 結論のメドはいつ頃になるのか。
(答)
 今のところ申しあげられる段階にはない。


(問)
 適用が延長されなければ、銀行において少なくとも数ヶ月位を要するシステム変更が必要になると聞いたが本当か。
(答)
 公認会計士協会との検討を行っている段階であるので、具体的なことを申しあげるタイミングではない。


(問)
 みずほグループの場合は幹部が辞任する予定になっているが、後任を辞任する人が選ぶのはおかしいという意見もあり、また、後任も先輩に選ばれたため新しい発想で経営ができないという意見もあるが、このような意見についてどう考えるか。さらに、辞任した幹部は顧問やアドバイザーという形で残るのか。
(答)
 ジャック・ウエルチも言っているように、後継者を選ぶことは経営者の重要な責任である。私どもが選んだのがおかしいという考え方は今まであまり聞いたことのない意見である。次に、我々がどうするかという問題であるが、最初に発表したときに申し上げたように、大きな変化を伴った場合に、お客様その他関係先に継続性という点でご迷惑を掛ける部分がどうしても出てくる。そういったことについて、悪い影響をできるだけミニマイズするような、そういった対応をしていきたいと考えている。


(問)
 辞任した幹部は顧問として残る予定なのか。
(答)
 細かいことは未だ決めていない。


(問)
 ジャック・ウエルチは成功した例だと思うが、3月に辞めることは失敗した例になるのではないか。
(答)
 全銀協会長の会見の場でもあり、これ以上の回答は差し控えたい。


(問)
 銀行界として新しい人材を受け入れる必要性があると考えるか。
(答) ご意見として承っておく。


(問)
 重複するが、株価に関連してもう一度お伺いしたい。
 マーケットの声は、当初、銀行に対して不良債権の処理を促していたが、銀行が不良債権の処理に本格的に取組んだ途端に、今度は信用不安で売りこむという状況にあり、「銀行は何をしても売りこまれるんだ」というような同情論までも出てきている。実際、マーケットは銀行に対し様々な影響を与えていると考えるが、会長自身、マーケットのそうした動きについてどのようにお考えか。
(答)
 感想めいたお答えになるが、銀行は「信用」というものが基本にあるので、財務体質・収益力の強化を行い、それを投資家あるいは利用者に十分理解してもらう活動を続けていかなければならないと考えている。
 すなわち経営努力とこうした努力とその結果について十分な理解を得る活動の両者が重要である。前者については、みずほフィナンシャルグループの例で申しあげれば、財務体質を強化するために特に不況下において何をすべきかということを検討し、2兆円の与信コストを計上することを発表したところである。現在のような不況下でも、充分に当面の信用コストに耐えられるものを引当てたものである。また、一方でリストラ策として人員の削減、グループで重複する営業店の整理等を進めているところである。このように収益力の増強、経費の削減による財務体質の強化を図っているところであり、併せて、先ほど申し上げたように 3,000億円のTier1資本増強を行うことも予定している。
 他方、こうした経営努力を正確にご理解いただくために、先日も日銀記者クラブに私自身が出向いて皆様とディスカッションをさせていただいたところであり、加えて先々週2日間にわたりニューヨークに赴き各方面にご理解いただくようディスカッションさせていただいているところである。
 銀行の不良債権について、結果的に処理額が増えることもあり、不信感を持たれた向きもあることは承知しているが、銀行としては、今まで隠していたものではないし、当然そのようなことをするつもりもない。また、風評等により変動することもある株価をマーケットの声として絶対的なものとしてとらえるべきではなく、是非、私どもの説明も聞いていただく耳を持っていただきたい。


(問)
 先ほど、景気はかなり下振れしていて、もう一段の下振れがあり得るとの話があった。そのような状況の中で、銀行は不良債権処理を思いきって進めている。これは構造改革を進めることが、次の景気回復に向けたシナリオだという認識で行っているものと思う。ただ、マーケットが行き過ぎの面もあるのかもしれないが、株価もつい3年前の水準で言えば、銀行株は相当危険な状況にあるというのは否めないと思う。今の政策、例えばペイオフの問題や小泉内閣の来年度の30兆円問題、景気対策の問題などが、今の条件のままで行ったとして、不良債権問題は工程表どおりに処理できるのか、あるいは、銀行の経営は果たして力強く回復しているというシナリオが描けるのかどうか、いささか非常に厳しい局面であろうかと思う。どこをブレークスルーすれば、この状況から脱却できると考えるか。
(答)
 不良債権はどのようにして発生するのか。これは改めて言うまでもないが、借り手である企業の業績悪化により借入の返済が出来なくなることがあり、これによって不良債権が新たに発生することになる。したがって、景気の持続的な回復がなければ、新規の不良債権の発生が劇的に減少するというようなことは期待できない。そういう意味で、景気をこれ以上落ち込ませないことが1つ大きな要件であると思う。
 銀行サイドにとって、景気の問題があるが、これとは別の次元で、政府系金融機関の問題がある。政府系金融機関が肥大化し、非効率な点が相当あるということである。民間金融機関の営業活動を阻害する政府系の金融機関について見直しをすることは、我々の経営環境を改善していく上で大きな課題である。
 さらに、そのような経営環境の中で、銀行の自助努力をどのようにして行っていくかということである。唯、大恐慌の時のような状況にそなえた銀行の経営を行えということであれば、それは非常に難しい。みずほの例で申しあげれば、今期2兆円の与信コストを予定しているのは、今年度および来年度の景気の状況を踏まえて、その中で発生する不良債権についての負担を見込んでいこうということであり、こうした数字を計量しているものである。勿論、一層のリストラ、収益力の向上等、引続き更なる経営努力を強力に進めなければならないと考えている。
 経済構造全体のブレークスルーの問題で言えば、短期的な景気対策に加え、中国経済の台頭などを前提とした日本の経済構造は今後どうあるべきかというプランを早期に作り上げることが必要であると考える。これにはかつての国民所得倍増論のような大きな指針のようなものが不可欠ではないかと思う。今のような経済の空洞化現象に代表される大きな構造問題は、かつてのアメリカだけが経験したものであり、それが参考になるかどうかもはっきりしないが、今の状況を乗り越えるためには、どうしても大きな指針が必要であると考える。


(問)
 先ほど会長は、預金保険法改正で様々なセーフティーネットができているということを指摘されたが、究極のセーフティーネットは危機対応勘定であると考える。今後の経済、景気の見通しを考えたときに、最悪の場合は、システミックリスクとなり得るのではないか。また、危機対応勘定を使う事態も起り得るのではないか。この件に関して会長の認識を伺いたい。
(答)
 システミックリスクというのは、様々な要因から発生するものである。しばしば、それは、実態を離れた風評であったり、あるいは、ある特定の金融機関の破綻であったり、いろいろなことで起るものであろう。現状、確かに不安感が満ちていることはわかるが、それでは預金保険法に想定されているような国全体やある特定の地域の経済に深刻な影響を与えるような金融システム不安が現に今存在しているかということになると、そうではなかろうと考えている。
 将来、どのような問題からどのようにしてシステミックリスクが起るのかはわからないが、その点に関連して政府にお願いしたいのは、問題の兆候を捕まえたら迅速に決定し、対応して欲しいということに尽きる。タイミングを誤ると、大変なリスクになることもある。特に日本のように経済の面で、あるいは金融の面で世界的に影響の大きい国で問題が起ると、世界恐慌の引き金になるということも十分有りうるわけであり、迅速かつ的確な対応をするということが求められる。金融危機対応会議には、総理を議長として、主要な経済関係の閣僚が出席すると定められている。政府の持つ情報網を駆使して、万一の場合には、タイミングよく、スピーディーに決定をし、行動をするということが必要ではないかと考えている。


(問)
 不良債権問題であるが、構造不況業種の不良債権処理というものと、循環的な景気の低迷で新たに発生する不良債権処理というものが、必ずしも同じ処理の仕方であっていいとは思わないのだが、そういう意味で政府に対して循環的な景気の浮き沈みにあわせた不良債権の処理と構造不況に伴うものは別々のものだという前提で、新たにマクロ的な政策をして欲しいといった要望はあるか。
(答)
 個人的な意見として申しあげる。
 不良債権については、構造的な問題と景気循環的な問題で、対応が違うであろうという主旨のご質問だと思う。
 景気のサイクルで起こってくる循環的な問題は、マクロ的な経済政策で対応されるべきものである。金融政策・財政政策といった対応であろうと思う。
 構造的な問題について、全てのことを市場に任せ、市場に淘汰をさせれば新しいものも出てくるし、新しい構造に適合しない企業は無くなっていく、あるいは産業そのものが無くなっていくということで新たにバランスがとれるという考え方もあるが、仮にそうだとしても、先ほど申しあげたように、日本の経済構造というものをどのようにしていくのかという中長期のビジョンに基いた産業政策というものがあってもよいと考えている。
 例えば、ある分野の産業を、今後日本で大いに成長させるべきであるとすれば、育成策を講ずるべきだと思うし、他方で構造的な不況業種と言われるものについては、そうした業種における淘汰・再編を促すような政府のインセンティブというようなものがあってもおかしくないというように私は考えている。
 全てを市場に任せるという考え方で国の経済構造の変革ができるとは私は思っていない。今のような時期、政府が新しいビジョンを示して、それに向かって企業あるいは個人が努力するということでないと、この国の経済の構造はなかなか変わっていかないのではないかと考えている。


(問)
 構造不況業種の不良債権処理が終わった後に、景気のサイクルに伴う新規の不良債権発生が増えてきた場合にも、耐えられるという見通しなのか。
(答)
 金融機関の財務体質のことであれば、ずっと先のことは率直なところ誰も解からないわけであり、1930年代のように、20%も30%もGDPが下がるような世界的不況の事態になった場合に、銀行が耐えられるかと言われれば、我々は精一杯努力をしていくということ以上は申しあげられない状況である。みずほの会長として申し上げれば、今のような景気後退局面でも耐えられるような財務的な手当てを実施する予定であるということで、来年以降、何が起こっても絶対大丈夫かと言われるとそれは分からない。ただ、来年の成長率が若干のマイナスという厳しい状況でも耐えられるような手当てはしたということは申しあげられる。


(問)
 先ほど金融危機への対応に関連して、政府が兆候を早くつかんだら、タイミングよくスピーディーに対応していくことが大事だというような趣旨の発言をされたかと思うが、金融危機の兆候として会長はどういう現象というものを想定しているか。
(答)
 色々なケースがあるので、予めこういうものがあったらということを申しあげるのは適当ではないと思う。唯、株価が下がるというようなことそれ自体が危機だとは私は思わない。ある地域の金融機関の預金がある種の原因で、その原因は色々なものがあるであろうが、一気に預金の流出が起きるとか、資金の移動が起きるというようなことが1つの典型的な例とは言い得るのではないかとは思うが、そうしたものは、金融庁の検査・モニタリング体制のなかで、的確に判断されるであろうと考えている。