会長記者会見
2002年2月19日
山本会長記者会見(富士銀行頭取)
菅野専務理事報告
本日の理事会では、きたる3月4日の月曜日、午前9時から、第6回公的金融問題フォーラムを開催することを報告した。
形式は参加者によるパネルディスカッション形式としており、今回初めての試みとして、全銀協会長にパネリストとして参加していただくこととしている。また、他の参加者としては、JR東海の葛西社長、生保協会の金子会長、慶応義塾大学の吉野教授を予定しており、21世紀政策研究所理事長の田中直毅氏にコーディネーターをお願いすることとしている。
皆様にも、後日、ご案内をさせていただくので、多数の方に出席していただきたいと考えている。
次に、正会員として、大和銀信託銀行の3月1日からの加入を承認した。この結果、3月1日現在の全銀協会員数は、正会員141行、準会員47行となり、72の特別会員とあわせて、合計260会員となる。 私からは以上である。
会長記者会見の模様
(問)
金融市場は非常に不安定な状態が続いている。今日の日経平均も一万円割れであった。しかし、一方で、電機関係の在庫調整が進んでいるとか、米国経済が持ち直しているとか、明るい兆しもあるやに聞いている。金融の現場から見た景気の現状について伺いたい。
(答)
経済指標の上では、輸出下げ止まりの兆しや今話しがあったような在庫調整の進展が見られるということだが、全体として見れば、国内景気は依然として厳しいと言わざるを得ないと考える。企業収益は大きく落ち込んだままであり、過剰な設備・債務・雇用の調整も終わっていない。その結果、設備投資の低迷が続き、失業率も上昇している。また、産業の空洞化やデフレも顕著になっており、銀行の窓口から見ると、いくつかの指標に見られるような不況が和らいでいるという印象は率直に言って今のところ見えていない。
米国経済に底入れの兆しが見えるのは、良いニュースである。しかし、わが国と同様、過剰設備削減や企業のバランスシート調整の影響、さらにはエンロンの破綻の余波を考慮すると、必ずしも一本調子の回復とはなっていかないのでは、と若干の不安が残る。日本経済への影響についても、日本産業の空洞化現象などを踏まえると、米国経済の回復が以前のように日本の景気回復にストレートに結びつくのかどうか、この点も慎重に見ていく必要があると考える。
現状を踏まえると、2001年度の経済成長は、98年度は実質でマイナス0.8%であったが、これを下回る見通しを持たざるを得ない。実質成長率は、マイナス1%台半ばになるだろう。また、2002年度も若干の回復が見られるとしても、年度としてはマイナス成長が続くと見ている。
(問)
ブッシュ大統領の来日で、一番要求が強いのは不良債権処理を早期に進めることであると思う。日本政府もこういった外からの声や内からの市場の声などに応えるために、特別検査の厳格化を行う、またその結果を公表するということを考えているようだが、これについてどう考えるか。
また、特別検査の結果、不良債権処理が当初予定より増えるという可能性もあるかと思うが、その場合、銀行の自己資本の問題に波及し、公的資金が必要になるのではないかという見方もあるが、どう考えるか。
(答)
具体的な金融庁のアクションとして、特別検査を厳格化するとされているが、銀行界としては検査を受ける側の立場であり、これについてコメントする立場にはないと考えている。
特別検査については、「金融検査マニュアル」に基づいた検査の一つであると理解しているし、銀行としては、引き続き金融検査マニュアルに則った厳格な自己査定や引当を行っていくことが重要であると認識している。
特別検査の結果、引当が増えるかどうかについても、検査結果を待たないと何とも申しあげられないというのが実情である。ただし、多くの銀行については、債務者の業況が急激に悪化するような昨今の経済情勢の下で、政府の「改革先行プログラム」の趣旨を踏まえた格付けや自己査定を主体的に実施し、その結果、必要とされる引当金を前提に、今期の決算見込みを算出して大方は下方修正している。したがって、特別検査の結果、各銀行の決算見込みをさらに大幅に修正するような多額の追加負担が生じるか何とも申し上げられないところではあるが、今の各銀行が発表している決算見込みなどから見ると、自己資本比率が特別検査後も十分維持でき、公的資金の注入には至らないのではないかと見ている。
(問)
不良債権処理のスピードがまだ遅いとの見方強い。特に大口の過剰債務企業の処理がなかなか見えてこないとの声も出てきている。先週、フジタが三井建設・住友建設の統合に合流するという話題もあったが、依然株価が50円割れをしているようなゼネコンも多い。このような見方について、全銀協会長としてどのように考えているのか。
(答)
個別の業界については回答を控えさせていただき、全体的なお話しをさせていただく。
昨年4月の緊急経済対策において、金融機関の不良債権問題と企業の過剰債務問題の一体的解決を目指す観点から、主要行に対し、破綻懸念先以下の債権を既存のものは2年、新規の債権は3年でオフバランス化していく、所謂「2年・3年ルール」が明示された。
その中で、銀行としても最大限の努力を重ねており、金融庁の公表によれば、主要行において、12年9月末時点での破綻懸念先のうち金額ベースで48%を13年9月末までの1年間でオフバランス化してきている。
また、12年下期に新規に発生した破綻懸念先についても、その24%を13年9月末までの6ヶ月間でオフバランス化している。
すなわち、破綻懸念先以下の既存分や新規発生分について、約2年でオフバランス化を完了するペースで進めている訳であり、現状は、「2年・3年ルール」で定められたとおりのペースで処理を行っている。
一部で、特定の大手企業の法的整理・私的整理のみをクローズアップし、あたかも不良債権処理が進んでいないかのような議論が行われているが、以上のような不良債権処理の実態もご理解いただきたい。
現在、景気の減速が続き、不良債権の新規発生が高水準で発生しており、不良債権の残高がなかなか減少しない厳しい状況ではあるが、我々金融機関としては、主体的に資産の健全性の向上に努め、不良債権問題の早期正常化に向けて、引き続き最大限の努力を重ねていく所存である。
(問)
銀行等保有株式取得機構の特別勘定が先週の15日から開かれた。使い勝手が悪いという見方もあるようだが、銀行界としてどのように使っていきたいと考えるか。また、本日現在、実績はあるのか。
(答)
先週14日に、株式取得機構の運営委員会が開催され、2月15日から大型連休前の4月26日までのおおよそ2ヶ月半の期間、特別株式買取りが行われることとなった。委員会においては、2月初旬にバブル崩壊後の最安値をつけた現下の厳しい株式市場の状況等を踏まえ、満場一致で議決されたものである。私自身も取得機構の理事長として運営委員会に参加したが、低迷する株式市場の動向に対しては有識者の中立委員の方々も強い懸念を持たれていると感じた。
今回の特別株式買取りの開始に当っては、柳澤金融担当大臣や塩川財務大臣も積極的なご発言をされており、我々銀行界としても、株式市場に対するセーフティーネットが開けられたことを踏まえ、可能な限り活用していきたいと考えている。
もちろん、我々の所謂政策保有株式は、重要なお取引先との関係で保有してきたものであり、取得機構に売却するに当っても、個別にご了解をいただく必要がある。また、取得機構への売却にしろ市場への売却にしろ、時価での売却となることから各銀行の決算に与える影響もある。さらに、買取資金の大半は、政府保証による借入となることから、機構の買取り対象株式には投資適格等一定の制限があることも事実である。
このような事情もあり、各銀行が現実に取得機構に売却する株式の金額がどの程度となるのかは現段階では予測することは難しい。しかしながら、(株式取得機構の)会員各行へのヒアリングでは、取得機構を株式処分の方法として積極的に活用していきたいとの意向が強いことが確認されている。銀行が売却処分する株式の受皿としての役割を機構が果たすことによって、市場へのインパクトを緩和する効果は確実にあるものと考えている。 また、実績については、申し上げることは不適切であろうと思う。
(問)
先ほど時価での買取りは決算にも影響があると言われたが、それに対する改善策はあるか。
(答)
含み損があるものを売却していく場合には、その売却損が損益に影響を与えるので、個別銀行毎のそれぞれの損益の方針の中で処理されるということを申しあげた訳で、具体的な全体としての改善策というものはない。個別銀行の判断である。
(問)
特別検査の結果の公表について、銀行界としてはどのような公表の仕方が望ましいと考えるか。
(答)
特別検査がどの様な形で公表されるか具体的に存じていないが、特別検査は、個別企業に関することが具体的に報道されたり、論じられるというリスクを有しており、検査の内容のうち個別企業に関わる部分については、外部に出ないということが大前提でなければならない。それ以外の部分については、金融庁の施策の一つとして、その効果をどういう形で国民に説明するのかという問題であり、私がコメントをするのは適当ではない。
(問)
特別検査について、先週末小泉首相が柳澤大臣へ検査の強化を指示したということであるが、指示前と指示後とでどのような変化があり、また指示が出たことにより、結果が厳しく出てくると思われるか。
(答)
具体的に指示の前と後でどのように違うか、受検者の側からは何とも言えない。また、引当が増えるかどうかについては、先ほど申しあげたように、今年度決算見込みの修正の中で相当額の引当増を見込んでおり、こういうものの中に特別検査の対象になっているものも含まれると考えられるが、最終的にいったいどれくらい増えるのか、あるいは増えないのか、現時点では何とも申し上げられない。
(問)
政府が特別検査を厳格にして、その結果、それを反映して資本が欠損した場合には、公的資金注入もあり得べし、という議論が出ていると思う。銀行は決算で相当に引当を積んでいる。特別検査でよっぽど大きな引当増がない限り、例えば自己資本が8%を大きく下回るような事態は想定できないが、そういう議論がされているということを銀行界としてどのように受け止めているか。
(答)
特別検査は、金融検査マニュアルに基づき、銀行が実施した検査対象企業の自己査定を検証するというのが今の仕組みであるので、特別検査といえども金融検査マニュアルを逸脱して特別な基準を新たに作ってやるということはあり得ないと考える。したがって、その中で、将来のリスク、例えば半年後、1年後のリスクをどう見るかということを保守的に見るということが、厳格にするという意味ではないかと考える。例えば、ある企業の株価が下がった場合でも、株価は投機的な動きでも変化するので、株価が下落したことのみをもってその格付けを下げていくということではない。プロとしての金融検査官が明確な基準に基づいて内容を検査し、その結果、金融庁としての見解が出てくるものと考える。
(問)
あえて伺うが、公的資金注入ありきという議論がずっとあり、その中に色々な意見、色々な形の公的資金注入論があったかと思う。特別検査を使った形で公的資金を注入するというのは、今おっしゃった話でいくと、相当行政の裁量権が働くのではないかというふうに考えられるが、会長はどうお考えか。
(答)
行政の裁量権というのがどういうことかよく分からないが、検査というのは、先ほど申しあげたように、現状と将来のリスクを見ながら、銀行が実施した自己査定を検証していくわけである。したがって、自己査定や検査というものが、恣意的なものであるとか、特別な意図を持って特別な債務者格付がなされるものであるということではない。それは、逆に検査の信頼性というものを損なうことになるから、そういうふうな政策意図を持って検査が行われるということはないと考えている。
ただ、言えることは、先ほども申しあげたが、現在のような非常に不安定なデフレの状況に解消の目途がついていないような経済の中では、企業の持つリスクというものが高まっているであろうから、そういうものを具体的に個別の企業について検査を通じて評価をしていく、それを特別検査であれば、会計監査人、検査官、それと検査を受ける我々の側で充分に議論をつくして結論を出していくということであるので、裁量的あるいは恣意的になるということはない。それは、検査の権威を損なうことになるし、そういうことはあり得ないことであると私は考えている。
(問)
2点お伺いしたい。
1点目は、自民党の山崎幹事長が、RCCによる不良債権の簿価買いについて、今日も、ある意味問題提起として、不良債権処理が進まないのではないかということの観点から話をされているが、それについてどうお考えか。
2点目は、取得機構に関してオフバランスが認められないということについてどうお考えか。
(答)
RCCによる不良債権の買取りを簿価で行ってはどうかというご趣旨の発言に関する報道があることは承知しているが、具体的にどういったことをおっしゃっているのか、私は直接伺っていないのでコメントするのは適当でないと思う。ただ、RCCの時価買取りという新しい仕組みの中で、我々も、具体的に、例えば入札に参加していただくとか、あるいは直接の持ち込みをするということで、この所ずっと実際にアクションをとっており、現時点ではそういった方向でやっていくということかと思う
山崎幹事長のお話というのは、新聞等でほんの一寸だけ見ているだけであり、コメントは差し控えたい。
それから、取得機構のオフバランス化という点については、恐らくご質問の趣旨はBISの自己資本比率のことをおっしゃっているのかと思う。これは、会計上はオフバランス化はするのであるが、我々が引き受ける8%相当額の取得機構への劣後債権のリスクウェイトをどう計算するかという問題であろうと思う。 100の株式を売る場合、8を取得機構への劣後債権という形で我々が引き受ける。差引きで92はキャッシュで我々の手元に入ることになる。資産として計上される劣後債権のリスクアセットは、この劣後債権の金額に12.5倍をかけて計算されることになっている。つまり結果として、BISの計算上は、もともとの100の株を持っていたのと同じ金額になるということである。
ただ、バランスシートからは外れることになるので、そこから先の価格変動リスクは売却した銀行にはないわけである。
(問)
資産の圧縮などを進めていかなければならない状況で、リスクアセットが残るということが取得機構の活用に関して相当制約になってしまうのではないかという議論があるが、それについてどうお考えか。
(答)
株式を持っていることのリスク、すなわち、価格変動リスクであるが、これが銀行経営を不安定化するので自己資本の100%までに制限を加えるという法律がまずあるわけである。これは価格変動リスクに対する話である。オフバランス化するということは、価格変動リスクが銀行から切り離される、つまり、取得機構に売ってしまえばその銀行のその株式についての価格変動リスクはその瞬間に無くなるわけであるから、バランスシート上もそれを計上する必要はないということである。
もう1つの問題はBISの自己資本比率の問題であるが、これは価格変動リスクの問題とは別で、先ほどの例で言うと100のものを持っていると同じような自己資本比率の計算となる。つまり、自己資本比率計算上は改善されないけれども価格変動リスクからは解放されるというのが今の買取りの仕組みである。
それが売却について支障にならないかとのご指摘であれば、マーケットで売ればそういう問題が無いわけであるから、その点についてはマーケットで売る場合に比べれば、相対的には取得機構の魅力が小さいということは否定しないが。
(問)
RCCの不良債権の簿価買いの話であるが、山崎幹事長の問題提起は、不良債権のオフバランス化が今のスピードだと、とてもマーケットから要求されているスピードに合わないのではないか、経済的なインセンティブを簿価買いのような形で与えない限り進まないのではないかという問題提起だと思うのだが、その点についてどうお考えか。
(答)
簿価で買うということは、簿価と時価の差額は何だという議論になるわけであり、その問題について議論した結果、今の時価買取りという結論になったものと認識している。したがって、もし簿価買いというさらに強いインセンティブを与えようというのであれば、さらに、議論を深めなければならないと思う。
(問)
政府・日銀でデフレ対策の議論が進んでいるわけであるが、銀行界として実効性のあるデフレ対策として何をやるべきであるとお考えか。
(答)
ここへきてようやく、不良債権問題を根っこから解決するためにはデフレ対策が必要であるということがはっきりしてきた。
この場でも予てから「不良債権があるから不況が起こっているのではなく、不況が続くから不良債権が増えるのだ」と申しあげてきた。デフレ対策が言葉として明確に掲げられ、具体的な議論がなされはじめたということは大変に良いことであり、銀行界としては歓迎すべきことであると考えている。
ただ、具体的な方策が出たわけではなく、論点の主要な項目が出たというだけである。これから我々もいろいろ議論をしてまいりたいと思っている。
まず、デフレの根本要因であるが、過剰債務・過剰雇用の問題などが企業部門にあるし、先が見えないという不確実性の高まりから個人消費の萎縮もある。中国に代表される外国への生産移転に伴う産業の空洞化が加速されているということ、技術革新への対応の遅れ等いろいろないわゆる構造的な問題もある。こうした本質的な問題に真っ正面から取り組まない限りはデフレの解消、その結果としての不良債権の発生の抑制ということも実現できないのではないかと考える。
では、具体的なデフレ対策は何かということになるが、企業や銀行が事業の再構築、コスト削減によって、競争力を取り戻すことが重要である、というご指摘はそのとおりである。しかし、政府・日銀も適切な政策によって問題解決に全力を注いでもらいたい。先ほどもお話したように、ようやくといっていいかもしれないが、その問題について具体的な議論が始まったということである。日本経済が、景気低迷あるいはデフレを脱却して不良債権問題を解決するためには、短期的あるいは中期的な視点を踏まえて、様々な分野の政策を次々と打ち出していくということが、まず基本の姿勢でなければならないと思っている。アメリカも実際に不況突入後、そうしたことを非常にスピーディに実施してきたことで、経済を活性化させてきた。
例えば、景気が腰折れすると、新規の不良債権の発生や税収減による財政状況の悪化などが起き、一段と構造改革が進まなくなるので、景気の過度の落ち込みには、財政・金融政策に柔軟に対応することがまず基本ではないかと考える。また、税制によって、消費や投資拡大のインセンティブを高めることも重要だと考えている。さらに、最近、議論になっている医療制度・年金制度改革、情報化・高齢化社会に適応した都市インフラの構築、規制緩和や技術開発による成長産業の育成、教育の充実による人的資源の強化など、短期的・中長期的な両方の視点から取り組んでいく課題はたくさんあると考えている。そうしたものを着々と次から次に手を打っていくということで、国民や企業経営者のマインドも変わる。そういうことで経済の回復、デフレの克服というものが期待できるのではないかと思っている。
(問)
不良債権の本年度の損失額は7兆円を超えるのではないかという報道もなされているが、やはり増えざるを得ない状況にあるのか。2兆円の引当を積まれたみずほグループの状況をお聞きしたい。
(答)
我々個別銀行も掴んでいないような数字が推計されて、1兆円増えるというような報道がなされている根拠は良く分からないが、そういう報道があることは承知している。増えるかということになると、個別銀行のことはよく分からないが、相当、それぞれの銀行が思い切った不良債権の引当処理の予定を発表している。
みずほグループについて言うと、2兆円を見込んで今年度の決算見込みを発表しているわけであるが、2兆円の中には、明確に1対1で対応していないものを含めて、相当に積極的な引当を積むという前提で、2兆円という額を見込んで発表したわけである。先ほどの特別検査、あるいはその後の変化などを見込んでも2兆円程度であって、さらに大幅に増えるというような数字の変化は想定していない。
(問)
2点お伺いしたい。
預金保険料率についてであるが、今でも厳しい状況の中で、流動性預金についてはさらに料率を上げるという議論もある。今後、格付けの高い銀行に預金が集まることが予想される中で、信用リスクに応じた保険料の徴収等、預金保険の料率の見直しについてどのようにお考えか。
また、長期金利が上昇傾向を見せている中で、銀行が国債を保有していることのリスクについてどのようにお考えか。
(答)
預金保険の料率について報道がなされていることは承知している。ただ、私自身が預金保険機構の運営委員の一人でもあるので、場外でこの問題について何事かを申しあげるというのは、この時点では差し控えたい。預金保険機構の財政が大変であるということは十分承知しているが、そういったことを含めてこれから議論をしていきたいと考えている。
国債を保有することによる金利上昇リスクについては、この場でも申しあげている通り、国債を多く保有している銀行は、それぞれ非常に神経を使って、先物等のリスクヘッジ手段の導入、国債の残存期間の短いものへの入れ替え等いろいろな手法を駆使してリスクマネージメントを行っている。そういった状況であるので、一般的に申しあげて、国債の大暴落というようなことが起これば別だが、何がしかの金利上昇リスクというのは折り込み済みであるので、銀行経営が耐えられなくなるような大きい衝撃を受けることはないのではないかと思う。なお、長期金利がやや上がるかもしれないということがマーケットのコンセンサスであることは認識している。
(問)
総合デフレ対策では不良債権の処理を急ぐことが柱の一つとなっているが、不良債権処理がデフレ対策というのは逆ではないかとの感じがする。不良債権処理の促進がデフレ対策の名に値すると考えるか。
(答)
不良債権が少なくなれば、あるいは不良債権の処理が進めばデフレが消えるというロジックは、銀行の実務家としてどうもわかりにくい。例えば、デフレが、資金需要があるにもかかわらず金融が円滑に行われていないことに起因するとの議論がある。これについて言えば、今我々は貸出先を探すのに大変な苦労をしており、その結果、銀行は金利が十分にとれていない、諸外国に比べてスプレッドが小さい、だから儲からないのだというご批判をいただいている状況である。つまり、取引先に対する貸出競争が行われ、なかなか思ったように信用リスクに見合った利鞘も確保出来ていないような状況であり、そういった現実の状況からみて、健全な、あるいは成長力のある企業に資金が回っていかない、だからデフレになるのだという議論は、もうひとつ説得力に欠けるのではないかと思う。仮に不良債権があることによって金融の円滑化が阻害されるという状況になれば、不良債権をはずせば、デフレの解決あるいは景気の上昇が期待できることになるだろう。しかし今は、むしろデフレが不良債権を増やしているという状況であろう。そういう意味で、総合デフレ対策のトップに不良債権の処理の加速というものがあって、それをすればデフレが無くなるという議論に対しては、私のような実務家としてはちょっと違和感がある。しかし、経済の今の状況を脱却するために不良債権の処理が重要であるということはそのとおりであるので、不良債権の処理に対しては、銀行界としても経営の最重要課題として取り組んでいくということには変わりはない。
(問)
デフレが続くから不良債権が増加するということは、非常にわかる気がする。また、柔軟な財政金融政策等マクロ経済対策の必要性もわかる。しかし一方で、銀行に対する信認が非常に低下していて、株価が少し下がると剰余金が取り崩されたりして資本はどうなってしまうのかという議論になり、また、公的資金注入の話が盛り上がると株価が上がり、話が消えると株価が下がるという状況が発生している。こういうことを考えると、仮にマクロ経済対策等とパッケージでいろいろな方策の一つとして公的資金注入の話がでてきた場合、それでも銀行への公的資金の注入は必要ないということか。
(答)
銀行の信頼が揺らいでいるということに関しては、銀行の実態について正確な認識がなされているかどうか私は非常に疑問に思っている。株式保有についてのリスク、含み損というのは、外から見える状態になっている。また、期末には発表しているので問題ないと思う。しかし、不良債権については、銀行の自己査定についての信認が揺らいでおり、それを検査してきた金融庁の検査についての信頼度というものが揺らいでいるのではないかと思っている。そういう意味で、金融庁は信頼回復のために検査を、静態的な検査だけではなく、もう少しスピーディに現状が反映できるような検査もとりいれようということで、特別検査をやるということであるし、我々も、そういった考え方あるいは我々の経験を超えるような急変というものを自己査定のなかに取り込んでいる。少なくとも、何か起こってもそのなかである程度吸収できるような部分を持とうということで引当をたくさん積むことを予定したリスク管理上の努力や財務内容の改善をあわせてやっていく。それから当局は検査について信頼の回復のためにキチンとした、むしろこの時期は実態をより厳しく評価をというのが金融庁の方向感かと思う。そういったものがあいまって信頼の回復をしていくということが本筋ではなかろうかと考えている。信頼の回復のために公的資金を注入するというのは手段としては違うのではないかと思っている。
(問)
ペイオフ解禁を控えて、預金の移動を防ぐ意味合いから普通預金の金利に上限を設けるという検討が進んでいるようだが、規制の世界に戻ることについてどう考えるか。
(答)
規制改革あるいは規制緩和という方向は、基本的にその方向で行かなければならないと思う。しかし、この4月から1年間というのは、ペイオフ解禁に伴う経過措置として、流動性預金については全額保護が残るということである。この部分で資金の取りあさりというようなものがあり、それに規制をすることについてまで、原理的に規制が駄目だからこれも駄目だというようなことを言うつもりはない。経過措置ということであれば、その種のことが行われることはありえるだろうと思っている。しかし、いずれにしてもこの問題については日銀政策委員会が金融審議会に諮ったうえで議論をされ決定されることである。