2002年3月19日

山本会長記者会見(富士銀行頭取)

菅野専務理事報告

 (特になし)


(問)

 株価が一時より上昇したことで、全体的にやや安堵感が漂っている。また、政府の月例経済報告でも景気回復の兆しが見えてきているとのことであったが、景気の現状をどうみているか。
(答)
 昨今の株価急回復の背景に、空売り規制の強化や株式取得機構による株式の早期買い取りなど政府のデフレ対策の効果があることは間違いない。また、米国経済の底入れとともに、アジア各国の株価が上昇に転じた一方で、日本株だけがその流れに少し乗り遅れており、売られすぎていた日本株の買い戻しという要因も強く影響したとみている。 昨年10-12月期の実質経済成長率が3四半期連続のマイナスの、前期比▲1.2%になるなど、国内景気は引き続き厳しい。企業収益は大きく落ち込んだままだし、過剰な設備・債務・雇用の調整も進行中である。空洞化やデフレ、消費低迷も続いている。銀行窓口からみても、景気は底ばいで推移しているというのが実感だ。実態経済面で不安要因も抱えているため、株価がこのまま一本調子で上昇を続けるとは考えにくい。 その中で、米国経済が急速に持ち直してきたことは良いニュースだ。IT分野を中心に、在庫調整や設備の調整が進んでおり、個人消費も底固い。米国景気の回復が顕著になれば、輸出の増加を通じて日本経済にも好影響をもたらすだろう。国内の在庫調整も進展していることから、年央には景気が底を打ち、穏やかながら回復に向かう可能性もあると考えている。そこに企業部門のリストラ効果が加われば、経済や株価が持続的に回復する展望もひらけてくるのではないか。

(問)
 デフレ対策として、銀行に対し、現在の改正預保法の範囲を超えて公的資本注入を行うことが必要だとの主張が、未だに根強い。銀行に強制あるいは一斉に公的資本注入をすることがデフレ対策という議論があるが、全銀協会長としての見解を伺いたい。
(答)
 「デフレ対策」として、「現状の預金保険法の範囲を超えて銀行に対し公的資本注入を行うべきである」という議論があることは承知しているが、いくつかの誤解があるのではないかと考えている。 1つは「一斉資本注入を行えば、市場に安心感が広がり株価が回復する」といった主張があるが、この点については投資家にも異論が多いようである。例えば、銀行への「一斉資本注入」を実施しても、企業サイドの抱える構造問題が解決される施策がない限り、日本経済が抱える抜本的な問題解決にはならないことから、株価回復には繋がらないといった意見や、株式の希薄化つまりダイリューションによる株価下落がおきるという意見などである。 つまり「一斉資本注入を行えば、株価は回復する」という主張は、「一斉注入」を株価回復のための一つのインパクトとして使ってみるべきといった様な、やや乱暴な議論ではないかと思う。 2つ目は、「一斉資本注入により、不良債権処理の原資の制約がなくなり、不良債権処理が進み、景気が回復する」という主張がある。現状大手行は、破綻懸念先以下について、「2年・3年ルール」で定められたペースを上回り、ほぼ2年で処理を終えるようなスピードでオフバランス化を行っている状況との金融庁の発表もあり、少なくとも、処理が遅れているという事実はない。また、かねてから「不良債権がデフレの要因であるとういう意見には実務家として違和感がある。不良債権問題の正常化のためには、景気の浮揚が必要である」と申し上げてきている。 また、不良債権に対する引当について申し上げれば、多くの銀行については、債務者の業況が急激に悪化するような昨今の経済情勢の中で、「改革先行プログラム」の趣旨を踏まえた、格付けや自己査定を主体的に実施し、その結果、必要とされる引当金を織り込んだ、今期の決算見込みを公表している。 最後に「一斉注入を行えば、貸し渋りがなくなる」といった主張であるが、現状、銀行の自己資本不足による貸し渋りは起きていない。デフレにより継続的な業績悪化を余儀なくされている企業が多くなっており、その結果貸し出しの申し出に添えないケースも少しずつ増えてきているのは事実であるが、これはいわゆる「貸し渋り」とは違う。銀行の自己資本を増加させても何も変わらない。 3つの誤解について申し上げたが、デフレ対策として、銀行セクターに公的資本の一斉注入を行うべきとの議論には、明らかに誤解があり、むしろ様々な弊害が生じてくると考えている。 かねてから、預保法102条による公的資本注入については、「万が一の場合にはタイムリーに決定し、スピーディーに行動することが必要である」と申し上げてきているが、総理もまた「金融危機を起こさないためにあらゆる手段を講じる」とおっしゃっている。こうした現行法における議論とそれを超えたいわゆる「一斉注入」や「予備的注入」の議論を混同し、あたかも同じ話であるかのような議論を行っているケースや、「公的資本再注入」の見出しが一人歩きしているというケースも散見される。銀行界としては、理解を得ていただくために、根気よく丁寧に説明していきたいと思っている。

(問)
 いよいよペイオフ凍結解除が目前に迫ってきたが、4月のペイオフ解禁によって金融機関や預金者に混乱が生じることはないのか、改めてご見解をお伺いしたい。
(答)
 銀行界としては、法律で定められた本年4月のペイオフ凍結解除に備え、各金融機関ごとにシステムやデータの整備、一層の財務体質の強化など準備を進めてきた。 また、預金者の方々に制度を正しくご理解いただき、無用の混乱を避けるという観点から、我々全銀協としても、新聞広告やチラシ等の媒体を用い周知を図ってきている。 一方、行政の側でも、ペイオフ凍結解除を睨み、柳澤担当大臣のご発言にもあるように、「4月1日に店を開ける金融機関は国民に信頼されるような健全な金融機関だけにする」との強い意思の下、金融監督行政を進めてこられたものと認識しており、先日の大臣の会見においても「銀行についてはペイオフ前の体制整備は出来上がった」とおっしゃっている。 このように、いわば官民をあげて、目前に迫ったペイオフ凍結解除に向けて済々と準備を行ってきたということであり、制度の変更に伴って大きな混乱が生じる事態にはならないのではないかと思う。 更に申し上げれば、預金保険法の中には、万一、特定の金融機関の信認が著しく低下した場合でも、それが国や地域の金融システム全体に波及することを防ぐためのセーフティーネットの仕組みが用意されている。したがって必要な場合には、政府がタイミングよく決定し、スピーディーに行動するよう対応されるであろうと期待している。

(問)
 本日、金融審議会の第二部会で保険商品の窓口販売の解禁についての答申が出される予定であるが、保険商品の窓口販売に関する会長の見解を伺いたい。
(答)
 個別行としてお答え申しあげる。 本日の審議を踏まえ、銀行窓販の対象となる保険商品について具体的な内容が定められることになると思うが、みずほとしては、顧客利便性の向上を基本として、ワンストップショッピング実現のため、取扱商品や販売チャネル・行員の販売資格取得など、段階に応じて準備を進めて参りたい。 銀行の窓口で単純な預金商品から投資信託など多様な商品の販売を通じて、ワンストップショッピングを実現するという観点から、規制緩和は望ましいことであると考えている。

(問)
 実感として、銀行の不良債権処理はこの1年間で抜本的に進んだと考えるか、それとも道半ばなのか、現時点でどのように判断しているか伺いたい。
(答)
 不良債権処理というのは、従来から不良債権として区分されているものの処理と景気の低迷や産業構造の変化の中で新たに発生したものの処理の2つがある。既に金融庁が発表している数字にあるように、破綻懸念先以下の最終処理を要するものについては、今のペースでは、約2年間で最終処理が完了するペースで進んでいる。したがって、当初の想定を上回る相当のスピードで処理が進んでいると評価して良いのではないか。 新規に発生したものについても3年のペースを十分上回るスピードで処理されている。そういったことからも、最終処理については進んでいると考えて良い。 ただ、景気の低迷と産業構造の変化の中で、特にここ1、2年、新たな不良債権発生が非常にハイペースであり、不良債権全体の残高がなかなか減らないことをどう考えるかという問題がある。先程申しあげたように、不良債権問題を正常化させていくためには、景気の回復が必要条件である。例えて言うと、雪は降っても小雪ぐらいにしないと、とても通常の処理では処理しきれないということである。新たな不良債権が高水準で発生し、残高がなかなか減らない状況を解消するためには、抜本的なデフレ対策・景気対策が必要であると考えている。 また、不良債権に対する引当が不十分ではないかという点も、処理が遅れているのではないか、と言われる時の一つの要素として議論に上がることがある。これについて主要行は、既に11月の中間決算の発表時に年度の引当・最終処理を含めた不良債権処理計画について発表している。この中で、引当をより実態に即した形となる様にいろいろ検討し、公認会計士とも相談して、適正な引当のロジックで予防的な面も含めきちんと引当を行うというのが各行の方針であったと思う。 その後、半年近くが経過しており、いろいろな動きの中で業況が悪化する企業も増えてきているので、どのような数字になっているのかは3月末を締めてみないとわからないが、大方発表されている数字程度で引当金あるいは最終処理の必要額というものを満たしているのではないかと考える。

(問)
 借り手企業の再建について2点お伺いしたい。 「私的整理に関するガイドライン」が、なかなか使われていないようだが、これはどうしてなのか。 また2月中旬に柳澤大臣が大手行の頭取を個別に呼んで、企業の再建あるいは整理の前倒しについて要請をされたかのような報道があったが、これについて事実関係と、実際どのような話がされたのかについて伺いたい。
(答)
 「私的整理に関するガイドライン」が使われていないのではないかということであるが、使われているものもある。また、ガイドラインはそもそも全ての私的整理に使われるという前提で作られたとは認識していない。こうしたものを作ることによって、透明性・公平性を確保するとか、債権者間の合意を容易にする、ということが狙いであった訳である。こうした観点から、手続き上、今申しあげたようなことが担保されるのであれば、ガイドラインの手続きを使う必要がないと債権者間で考えることもあるわけである。ただ、最近の私的整理を見ていると、透明性・公平性の確保、債権者間の合意の考え方などにおいて、「私的整理に関するガイドライン」の趣旨あるいは手続きの根底にある考え方が遵守されていると思う。ガイドラインの手続きが実態に合わないから使われないのではないかという指摘であるが、何分、動き出したばかりであり、仮に具体的に改善すべき点などがあれば、再度、研究会を開き、各委員の方々のご意見を聞いた上で直すべきところは直すということになろうかと思う。 報道された柳澤大臣との会談についてであるが、一部報道では個別の企業名を出して指導がなされたかのようにいわれていたが、大臣や当局から具体的な指示はなかった。大臣からは、デフレ対策の中での不良債権問題の位置づけに関しご説明があり、政府の意のあるところを踏まえて経営を進めてほしい、特に年度末を控えてそうした政府の考えているところを主要銀行の頭取として理解をして経営をしてほしいという話があった。具体的な取引先についての指導があったというわけではない。

(問)
 メインバンクだけで債権放棄をする場合、透明性の確保という点ではどうかと思うのだが、最近相次いでいる債権放棄についてコメントを伺いたい。 また、デット・エクイティ・スワップを利用している例もあるが、一部の見方ではデット・エクイティ・スワップは問題の先送りではないか、貸金を出資というかたちで変えて株式を持つと債権者にとっていいこともあるけれども、逆に市場のリスクも更に抱え込むという問題もあるのではないか、という指摘もあるがどう考えるか。
(答)
 主要な銀行あるいは主要な債権者が負担をして処理をするというケースは、そうした債権者の債権額が非常に大きい場合にあり得るわけであるが、実態としてはそうした債権放棄と並んで、例えば、約定弁済を当分凍結するなどの貸出条件変更の協力といった、色々な再建のための仕掛けが入っており、少なくとも債権放棄をする銀行だけではなく、幅広い債権者に協力を求めるというケースが一般的である。債権放棄だけをとらえて主要銀行だけが密室でやっているという指摘は、最近のケースでは当たらないであろうと認識している。 それから、デット・エクイティ・スワップに関する指摘ついて、私は非常に奇異な感じを持っている。デット・エクイティ・スワップというような手段を使って、早く企業の再建あるいは整理を進めるべきであるということは、むしろマスコミの皆さんがこういった手法もあるではないか、とおっしゃったことである。また、アナリストや経済界もそういうことをおっしゃっていた。 しかし、こういうものが使われる段階になると、今度はその問題となる部分だけ、つまりエクイティのキャピタルリスクという点だけを捉えて、今度はリスクのあるものをどうしてやるのだという議論になっていくことについて、若干の違和感を感じている。 デット・エクイティ・スワップの良さについて1年ぐらい前に議論されていた時は、企業の債務を株式に交換することによって資本構成が強化される、そのことで、企業の再建のスピードがより速くなる、債権者としても債権放棄をするよりはこうした形で将来のキャピタルゲインを得る期待を持てるというように、デット・エクイティ・スワップは優れた手法であるというのが大方の意見であった。現在でも、デット・エクイティ・スワップについての考え方は変わっていないように思う。 金融機関としては、企業側のこうした再建を容認する、それがひいては債権者として回収額を極大化できる、場合によってはエクイティの価格が上がることによってキャピタルゲインが得られるというように、債権者である金融機関側あるいは債務者である企業側の双方のメリットを取っていこうという経済合理性に基づいて判断している。当然、それについては充分な検討をしたうえで、こうした選択肢をとっているわけであって、何か新しいことをやるとすぐに問題の先送りだという一方的な評価は良くないのではないかと考える。今、行われ始めているデット・エクイティ・スワップを使った企業の再建というものについては、もう暫くこの成果を見る必要があるのではないか、一律に問題点だけを指摘するというのは当たらないのではないかと考えている。

(問)
 この2~3ヵ月の企業の金融支援を見ると、バタバタと支援を行ったという印象が強い。先程おっしゃったエクイティの部分については、プラス面は結構あると思うのだが、やはり再建計画の実現性がかなり高いということが前提だと思う。この再建計画を本当に十分銀行側と企業側で真剣に検討したのか。むしろ、決算であるとか銀行の経営の問題があって、再建計画の検討が不十分なまま金融支援をバタバタと決めたのではないかという印象が拭えないのであるが、どうお考えか。
(答)
 さまざまな案件で具体的な再建計画が発表されて、銀行団がそれに対してどう対応するかという具体的な案が次々と出てくることについて、バタバタと出てきたという印象を持たれるのだと想像している。 しかし、銀行あるいは主要な債権者と企業の間で様々な議論をしてきて、この半年ぐらいの間に様々なものが具体的な形になって出てきているということであって、バタバタと出てきた、再建計画の検討が不十分なままとりあえず出したということではないと私は理解している。少なくとも私どもが手がけてきた案件については、半年から長いものについては1年程度の期間をかけて、提携その他のことも検討しながら取り組んできている。ただ、昨年に比べてこの1年間で、特別検査の導入や政府によるデフレ対策の取り纏めといった様々な環境から、企業側にも急いで処理しないと傷が深くなるというような危機感が高まってきている。その背景には、勿論なかなか景気が回復しない、デフレ対策と言っても実効があがるようなものが見えてこないというように、経営環境が一段と厳しくなっているという認識があろうかと考えている。 そうした意味で、結果としてここに来てバタバタと出てきたという印象になってしまっているのではないかと思うが、1週間や2週間で再建計画の検討が不十分なまま対応しているわけではないというふうに私は思っている。

(問)
 先程、不良債権について新たな発生がハイペースであるためトータルの残高が減らないというお話があったが、結局、ここ数年業務純益に代表される収益力をクレジットコストが上回っている状況が続いている。そうなるとやはり何らかの公的資金が必要になってくるのではないかという気がするが、会長の見解を伺いたい。
(答)
 公的資金が要るかどうかという議論の前に、業務純益でクレジットコストをカバーできるのかどうかというフローの問題と、自己資本比率が適正な水準を下回って耐えられないようなことになるのかどうかという問題がある。また、デフレと借りる側の企業のバランスシート調整という2つの要因から、ここ何年かに渡って全国銀行の貸出残高は減少している状況にあり、そうしたアセットの減少という問題も関係してくると考えている。いずれにしても先程申しあげたように、業務純益でクレジットコストをカバーできないような場合には資本をヒットする訳であるが、一方で、みずほでこの前やったような増資、優先出資証券で資本の増強をやるというようなこともある。そうした諸々の手段を講じて、我々は何とか自分達の責任で公的資金の追加受け入れというようなことをしないで自立をしてまいりたいと、一日も早く公的資金をお返ししたいという経営のスタンスでやっているわけである。 したがって、今のご質問のような単純に「こうであればこうである」というようなことにはならずに、中間項はたくさんあるということである。

(問)
 国債の引受けシンジケート団についてであるが、昨日、財務省の国債市場懇が開かれ、その後の記者会見で財務省の事務方から、シ団の中で固定シェアで引き受けている比率を徐々に下げていくという方針が発表され、実際に4月債で38%で、場合によっては5月債からは25%程度に下げる可能性もあり得るという示唆があったのだが、シ団の見直し作業についてどうお考えか。 また、シ団そのものを止めてしまった方がよいのではないかという議論も出ているが、これについてはどうお考えか。
(答)
 私がシ団の幹事銀行の事務方をやった20年近く前からシ団の固定引受けシェアと市中のオークションのシェアについては色々な議論があったが、その度に「一定の部分をシ団が引受けることは国債の安定消化のために意義があることである」という考え方が示されてきた。そうした安定消化のためのシ団の役割というものについては、将来要らないという結論が現時点で出ているというふうには承知していない。少なくともこの制度を維持していく、その中で固定シェアあるいは固定金額でシ団を活用していくと理解している。14年度については競争入札部分を増やしてシ団の引受け分は、6,800億円の固定金額で運営したいという考え方のようである。14年度はそういうことであり、今後高い国債発行の金額のレベルが依然続いていくし、また多様な国債が発行されていくという中でシ団の役割がどのようになっていくのか、現時点は評価を出来る段階ではないと考えている。

(問)
 現時点での整理回収機構の使い勝手についてどう思われるか。また、今後どの程度活用されていきたいとお考えか伺いたい。
(答)
 個別行としてお答えする。 第一点は、RCCの時価買取りについては、最近は非常にシャープなプライシングが出てくるようになったと聞いており、そうした意味で入札に参加してもらう、あるいはサービサー機能を使った買取りに参加してもらう、あるいは相対で売却をするという点については使い勝手が良くなったと思っている。 第二点は、新しい機能の企業再生機能、これを使った企業の再建が方針として出ている。これについては、一債権者の債権を複数の金融機関から買い取ることによって、RCCが主要な債権者として企業再生をやっていくことが容易になるわけである。具体的な再建を行うためには、色々な専門家を集めてチームを作って対応していくことになると思う。富士銀行としても、この期末に向けてオフバランス化を進めており、積極的に使っていきたいと考えている。

(問)
 日本銀行の量的緩和策が導入されて1年が経つわけであるが、全銀協会長としての評価を伺いたい。
(答)
 本日で丁度一年経ったということで、いくつかの新聞紙上等で取り上げられていたが、この間、いろいろな新しい手法で量的緩和を進めてきたという点で、敬意を表したい。 他方で、量的緩和による銀行の貸出やマネーサプライの増加が当初期待されていたほど現れていない。その理由としては、不良債権があるために銀行の金融仲介機能が毀損しているというのが日銀の主張であるが、現実には、企業のバランスシート調整や、景気が停滞しているなかで健全な資金需要が低迷していることも事実である。マネーサプライがなかなか増えてこない、銀行貸出が増えてこない、という背景にはそうした実体経済の問題や企業のビヘイビアの問題があったと思う。例えば、中小企業を含め企業に対する貸出のスプレッドが信用コストを十分カバーできるだけのものにならない、特に良質な企業に対してはむしろスプレッドが縮まっていくという傾向にある。もし銀行に資金・資本が不足していて貸出ができないという状況であれば、需給関係からスプレッドは上がるはずである。現実はそうなっていないわけであり、日銀の緩和政策が貸出やマネーサプライの増加に期待ほど結びついていないということの要因は、こうした現実を踏まえ、十分解明されなければならない。 他方、デフレを解消するために金融政策が果たす役割が大きいという意見が昨今強まっているが、そうした観点からすると、市場や市場関係者の信頼を取り戻すためには、いろいろな議論をされている新しい金融政策について率直に幅広い議論がなされる必要があろうと思っている。

(問)
 新しい金融政策といった場合、具体的にどのような金融政策を指しているのか。
(答)
 全銀協会長としてではなく、個人的に申しあげる。例えば外債の購入をしてはどうかという意見があるが、これは為替政策も絡むのでいろいろな議論がある。それからインフレターゲット論も出ているが、これも議論の決着を見ていない。いろいろな人がいろいろな意見を言っているわけで、頭から問題があるとする姿勢ではなく、こうしたものについて、きちんと議論を進めることが重要であろう。そうした意味では、日銀は過去1年間、1年前では考えられなかったような新しい手段を次から次に講じてきたわけであり、その点は評価しているが、我々はデフレ問題というのは金融政策の問題と切り離せないと考えるので、もっと議論を進めていただきたいと考える。

(問)
 外債購入やインフレターゲット論のほか、日銀が企業の発行するCPや社債等を購入するべきだとの議論も有るが、これについはどうお考えか。
(答)
 個人的な意見であるが、日銀の資産が劣化する、あるいはリスクが大きくなることについて問題意識を持つことは中央銀行として当然のことと思う。一方、現実に金融政策を実施していく過程のなかで、いろいろな工夫がなされるべきであるとも考える。株式というようなものについても、個別銘柄の株を購入することは難しいのかもしれないが、例えばETFのような、投資信託の形にしたものは本当に購入できないのか、という議論も有り得よう。そうした間接的なものについて金融緩和の手段として使うような工夫の余地はないのか、ということを、もう少し議論してみるべきではないかと思っている。

(問)
 貸出が減っている一方で、ペイオフ解禁を控えて一部の大手行では預金が増えてきている。預金に税金を課すことによって実質マイナス金利としてはどうかという議論もあるようであるが、これについてはどのようにお考えか。
(答)
 実質金利はマイナスの状況であるから、預金金利もマイナスの金利で良いのではないかというご質問であれば、そうした話はよくあるが、現実には難しい話であろう。そうした場合に何が起こるかというと、タンス預金が増えることになるのかもしれないが、いずれにせよ、取りうる施策であるとは思えない。

(問)
 株式取得機構について、自民党や政府の一部から、銀行保有株式以外に事業会社や生命保険の保有株式等幅広くいろんな株式を買い取ることができるようにすれば良いのではないかとの議論があるが、これについてどう考えるか。
(答)
 私は全銀協会長として株式取得機構の設立に携わり、また、現在取得機構の理事長も務めている。当初、取得機構の議論が行われた際に、私は記者会見の場で持ち合い解消という視点について申し上げた。持ち合い構造というのは歴史的なものであって、これを解消していくことは、日本の金融資本市場の構造改革の大きな柱だというふうに考えている。その観点から、金融機関と事業会社が持ち合いをしている部分について、これを正常化するための施策としては、買取機構は有効であろうということを申しあげた記憶がある。機会をとらえ、政府や自民党にもそうした意見を申しあげ、ご理解を求めるような活動もしたが、最終的には現在の形が出来上がったわけである。ただ、こうした持ち合い構造を変えていくためには、企業の持っている銀行株をどうするのだという問題が片方で残っている。そういう観点から、今いろいろ報道されているように、企業の持っている銀行株を買取機構でも買えるようにするというような自民党の動きが出ているのかなと思っている。 他方、生保についても、生保会社を取得機構の会員にしてはどうか、保有株式を買取り対象に加えてはどうかという議論がある。保険会社も広い意味での金融機関として金融システムの一部を構成しているわけであり、また、生保会社におけるいわゆるソルベンシーマージン比率規制があることから、持ち合いの解消という話とは別の問題として、全く理解ができないわけではないと思っている。ただ、やや先走った言い方になるが、機構は銀行界がその設立・運営に相当のコストを投入しているので、保険業界が取得機構の会員に加わる場合には相応のご負担をお願いすることも考えないといけないと思う。

(問)
 株式取得機構が幅広い対象から保有株式を買い取ることとした場合、損失が生じたらどうするか、公的資金枠を広げるかというようなことが問題になるが、それについてはどう考えるか。
(答)
 その辺を含めて自民党のなかでご議論をされているというふうに理解をしているが、それについて今意見を外から申しあげるという段階では、まだなかろうと思っている。

(問)
 昨日、金融庁の森長官が、また、今朝、柳澤大臣が、特別検査の結果公表にあわせて、銀行においても自己資本比率を公表するよう要請していると聞いたが、これへの対応についてはどうか。
(答)
 金融庁との間で具体的な公表内容や時期について意見交換を始めたところである。我々は投資家に対する適時開示の義務を負っているが、適時開示との関係とか実務面での事務対応とかがあり、出来るだけ早い段階で我々の健全性に係る指標が公表できれば良いということで努力をしているところである。具体的な中味は、今例示として言われているのは自己資本比率ということであるが、3月決算が実際に事務的につまるのは4月の下旬になるので、暫定値として何が出せるのか、タイムリーディスクロージャーとの関係でどういう指標であれば適正なものであろうか、というような点を今実務の面から詰めている、ということである。

(問)
 自己資本比率の年度内公表もありうるということか。
(答)
 3月決算の数字をそれより以前に出すというのはとても無理である。あるいは予想値というようなことをおっしゃっているのかもしれないが、余りにも暫定すぎて、逆に投資家に誤解を与える数字になるので、それは出来ない。