2003年3月18日

寺西会長記者会見(UFJ銀行頭取)

鵜飼専務理事報告

 本日は、理事会に続いて総会を開催し、平成15年度の事業計画案および予算案を諮ったほか、平成15年度の理事を、お手元にお配りしている資料のとおり選任した。任期は4月22日からである。なお、会長、副会長は、4月22日に開催する理事会において選任することとしている。 


会長記者会見の模様


(問)
 株価、イラク情勢も踏まえ、足元の景気動向と、イラク開戦後の国内経済に与える影響について伺いたい。
(答)
 この会見の場で何度か申しあげてきたとおり、景気は、強弱入り混じりながらも、基本的にはなお拡大基調を逸脱してはいないと認識している。
 とはいえ、海外要因を背景に、景気の先行きに対する懸念が高まっているのも事実である。特に、イラク情勢の緊迫化は、ドル・株価の下落を引き起こし、大きな懸念材料となっている。
 イラク情勢については、既に原油価格の上昇、ドル安、株価の下落という形で影響が出ている。原油価格については、開戦の影響を既に織り込み済みとも言われているが、実際に開戦となれば、市場の混乱は避けられないと考える。戦争が短期で終息すれば経済への影響は限定的だろうが、長期化してくると、米国を中心に個人消費や設備投資を控える動きが広がり、我が国経済にも悪影響をもたらさざるを得ない。
 こうしたことから、政府においては、日銀と一体となり、先行きに対する懸念を取り除くような、実効性のある政策対応を早急に講じるよう、強く期待したい。様々な制約があることは承知しているが、景気後退の回避とデフレ克服に向け、税・財政政策や金融政策など、政策を総動員していくことが必要であろう。


(問)
 株価低迷を受けて、政府は緊急対策を検討しているが、政府・日銀に対する具体的な要望について伺いたい。
(答)
 足下の株価下落については、イラク情勢の緊迫等の外的要因が大きく影響しているとみられるが、長期にわたる株価下落傾向のベースには、日本経済がデフレなどの構造問題を克服できずにいることへの不安感・不信感があるものと認識している。
 株式市場の安定化には、短期・中期両面からの総合的対策が不可欠であり、政府と日銀が一体となり、税・財政政策や金融政策を組み合わせつつ、デフレ克服に向けた実効性のある政策対応が、早急に実施されることを強く期待する。
 当面の株価対策として議論されているものには、銀行の株式保有制限の延期や、減損会計の義務化の先送りなど、株式の売りサイドに焦点を当てたものが多いように思う。しかしながら、株価の反転には、需要サイドの立ち上がりが不可欠である。
 15年度税制改正においては、そうした観点から、証券税制の見直し措置がとられているところであるが、個人的に言えば、もう一歩踏み込んで、譲渡益を非課税化するとともに、譲渡損は他の所得と相殺できるといった思い切った投資優遇措置も、この際、一考に値するのではないかと考える。
 また、日銀によるETFの購入についても、副作用を懸念する声があるが、株価自体の下支えが強く求められる足下の状況においては、聖域を設けることなく検討していくことが必要と考える。


(問)
 売りサイドの議論として、日銀による銀行保有株買取額の増額や株式取得機構の買い取り期間延長の議論があるが、どう考えるか。
(答)
 日銀による銀行保有株式の買い取りについては、銀行が株式を大量に放出することによる市場の激変を緩和するのに資する措置と認識しており、UFJグループとしても、相応に活用させていただいている。
 現在の2兆円という買い取り枠は、大手行の保有株式の自己資本超過額約4兆円の半分にあたり、かなりの金額であると認識しているが、仮に買い取り枠が増額されるのであれば、マーケットへの心理的な好影響は期待できよう。
 株式取得機構は、昨年11月までに各行より合わせて約1,500億円の株式を買い取っており、現在も、各行、保有相手先の意向やマーケット動向等も踏まえながら、その活用を図っているところである。
 こういった中で、私どもの保有している株の売却先として日銀あるいは株式取得機構をベースとして売却を行っているところである。


(問)
 時価会計凍結、減損会計2年延期といった会計制度についても議論されているが会長としての見解を伺いたい。
(答)
 まず、現在、既に導入されている時価会計を一時停止するという意見が出ていることについて一般論として申しあげると、時価会計の下では、株式相場によって、銀行の資本勘定が影響を受けることは事実である。
 ただ会計基準は、金融・資本市場における重要なインフラであり、仮に現在の会計基準を変更するとなれば、関係者間での慎重な議論を経る必要があろう。また、時価会計の凍結は国際的な潮流から見ればこれに反する動きとなり、日本の会計基準や金融行政に対する国際的信用に問題が生ずる懸念もある。
 銀行界としては、現在の時価会計を前提に、株式残高の圧縮等、株価変動リスクの極小化を図っているところである。
 固定資産の減損会計については、企業会計審議会での議論を経て、2005年度からの導入が正式決定されたという経緯がある。これを踏まえて、現在、企業会計基準委員会で実務上の適用指針が検討されており、私どもとしては、粛々と準備を進めているところである。
 減損会計等の先送りといったことについて、どのような検討がなされているか詳細には承知していないが、足元の経済状況等を踏まえて、様々な観点から、慎重な議論がなされているとみており、私どもとしても、そういった議論は注視して行きたいと考えている。


(問)
 本日のブッシュ大統領演説でイラク攻撃開始まで48時間の猶予を与えるとの発言があり、武力行使は避けられない状況となったが、行員の安全確保など安全対策はどのような手をうたれたのか。
(答)
 各行とも、それぞれコンティンジェンシー・プランなど危機対応体制のもとで整斉と対策をとられているものと思うが、具体的な対応策について、UFJ銀行のケースをお話したい。
 今回のイラク危機を受け、海外全地域を対象に、開戦を想定したコンティンジェンシー・プランの一部のプログラムを発動したところである。
 UFJ銀行の中東地域の拠点は、イランのテヘラン駐在員事務所のみだが、行員の安全確保のため、3月16日付けで同事務所の派遣行員を欧州に退避させた。
  行員の中東地域への渡航については、既に3月12日より停止、更に航空機利用もすべて東京本部の管理下に置いた。
 今後は事態の推移を見守りつつ、開戦後、危険が高まると推測されるテロ行為への対策にも万全を期すなど行員、およびその家族の安全を第一に対応してまいる所存である。
 なお、海外店のシステム面では、ニューヨーク、ロンドンの2大拠点に、コンピューター・センターとバック・アップ・センターを保有している。各サイトに端末を設置し、勘定処理が可能な体制にある。これらのセンターも被災した場合は東京にて勘定処理を行うなど二重、三重の体制を確保している。


(問)
 日銀の福井新総裁が間もなく就任される。本日、早速国会において参考人として様々な考えを表明されていたが、福井新総裁への期待を伺いたい。また、本日、改めて公的資金の注入についてはかなり前向きな発言をされていたが、この点についての見解を伺いたい。
(答)
 福井新総裁への期待ということであるが、皆さんご存知のように以前副総裁を務めておられた等のキャリアの面に加えて金融政策運営に精通されている、あるいは経済同友会の副代表幹事として産業界の動きも深く理解されているということで、私どもとしても日銀総裁として本当に適任の方であると認識している。同時に武藤前財務次官あるいは岩田内閣府政策統括官が副総裁に内定されたわけであり、政府と日銀が一体となってデフレ対策に取り組む姿勢が内外に示されているということである。今後一段の連携強化が図られることを強く期待している。
 後段の公的資金の考え方については、新総裁のお考えを詳しく存じあげていないが、私の認識は変わっていない。株価下落による3月決算への影響について具体的に申しあげるような段階ではないが、各行とも自己資本増強の努力を行っており、直ちに金融危機が起こるというような状況ではないと思っている。以前より申しあげているとおり、マーケットから直接、資本調達を行いながら、財務改善努力を果たしてまいりたいと考えており、公的資金は不要であるという考え方に変更はない。


(問)
 福井新総裁は、公的資金注入の必要性について、銀行の経営者の責任は問う一方で、公的資金注入により財務体質を早急に改善したうえで、銀行側がリスクをとれるような体質にしていくべきだとおしゃっているが、この点についてどう考えるか。
(答)
 これもかねてから申しあげているが、資本不足により金融仲介機能が不全に陥っているという認識はない。銀行にとって貸出は本業中の本業である。現在の銀行経営においては、不良債権の処理を進めることが片方の車輪であれば、それを支えるための収益力の強化がもう片方の車輪である。その収益を支える最大の柱が貸出であり、その増強のために私どもは様々な工夫をしてきており、これからも全力投球をしてまいる所存である。


(問)
 銀行界でイラク向けの貸出債権はあるのか。
(答)
 UFJ銀行のことについて申しあげると、イラク向けについては80年代に取り組んだ債権があるが、すでに全額償却済である。それ以降、新たな与信はない。


(問)
 いくら位あるのか。
(答)
 数字は持ち合わせていない。


(問)
 日銀への株式の売却額と株式取得機構への売却額にかなり差があるが、本日一部報道で株式取得機構への公的資金注入や銀行からの売却時拠出金撤廃というような報道があった。もしそういうような株式取得機構の枠組みに変化があれば、積極的に利用するような体制になるのかということについて伺いたい。
(答)
 日銀の発表によると3月前半で9,000億円強の買い取り実績ということである。また、株式取得機構は、昨年11月までで約1,500億円の買い取り実績をあげている。
 2つの組織が存在することで様々な議論があるが、私どもとしては、それぞれの機能を使い分けていくことが大事なことと考えている。具体的に申しあげると、株式取得機構の買い取り対象銘柄は日銀の買い取りよりも対象銘柄の範囲が広い。株式取得機構には8%の売却時拠出金がかかり、これについては様々な議論があるが、一方で株式取得機構に売却した株式の売却益が発生すればアップサイトがとれるというプラス面もあり、それぞれの良さを生かしながら活用していくということである。


(問)
 福井次期総裁の国会答弁のなかで、量的緩和を行っているがなかなか資金が現場の方へ回っていかないという質問に対し、福井氏も同様な認識を示し、金融サービスという面ではこれからだという話があったが、こういった次期総裁の考え方について、会長としての見解を伺いたい。
(答)
 何度も申しあげているように、本業である貸出の増強のために様々な努力を続けている。UFJグループで申しあげると、今年度の融資の大きな方針として「リスクをとっていこう」というのが合い言葉となっており、これまで以上に積極的にリスクテイクし、とったリスクをマネージしていくことで貸出を伸ばしていきたいと考えている。ただ、残念ながら、デフレ傾向が続いているなかで、お客さまの資金需要が、運転資金・設備資金の両面で細っており、私どもも努力をするものの、なかなか貸出が増えないというのが現状である。繰り返しになるが、さらに様々な工夫をしながらこの問題に真正面から取り組んでいく所存である。


(問)
 今のお話からすると、次期総裁にはまずはデフレの脱却ということをもっと明確に打ち出してもらいたいということか。
(答)
 金融政策について、もう少し踏み込んだ対応が必要かと考えている。現行の量的緩和策に手詰り感がみられることは否めず、デフレ克服に向けて一段の金融緩和というのは不可欠だと考えている。何か、さらにできることはないか、考え得るあらゆる手段について、聖域を設けることなく、徹底的に議論をしていくということが必要と考えている。


(問)
 先ほど、ETFの購入は金融政策として効果があるのではないか、ということであったが、土地についてはどう思われるか。
(答)
 ETF、土地を証券化したREITの購入は、マーケットへのアナウンスメント効果を含め、効果が期待できるのではないか。
 ただし、一方で日銀が価格変動を伴う資産を購入することについての様々な議論があることは承知している。


(問)
 今、与党で、株式保有制限の2年延期というような案が出ており、議員立法する動きもあるようだが、仮に、そういうことになった場合、例えば、UFJ銀行の場合、来年度上半期までにTier1以内に保有株式を収まるとおっしゃっているが、銀行の株式売却方針に何らかの影響を及ぼすと考えているか。
(答)
 私どもの株式の売却に対する基本的な考え方は、株式を持っていることに伴って生ずる下落リスクをミニマイズしていくということである。
 これは経営にとっての大きな命題であり、大きな流れとして、保有株式を売却せざるを得ない。
 ただ、これは是非ご理解いただきたいが、我々は無神経に株をマーケットで売却しているわけではなく、マーケットへの影響を極力回避するために、発行者への売り戻し、日銀への売却あるいは株式取得機構への売却を中心に行っており、極めて慎重かつ細心の注意を払ってきているということである。特にUFJグループでは、今年度下期、市場へ売却しているものは全体の1割にも満たない。
 ただ、株価が低迷している厳しいマーケットの中で、銀行が保有している株を売却するポジションにあるということは、マーケット関係者の懸念を惹起するというのは否めないことであり、これがマーケットに少なからず影響を与えているということは否定できないことであろう。
 今回の株式保有制限の延期についての議論というものは、こうした懸念をどこかで払拭したいという考えであろうと我々は認識している。


(問)
 確認したいが、日銀のETF購入についても聖域を設けずに議論するという意味合いであるが、ETFを組成しているものには当然銀行株も含まれていると思うが、そうした銀行株全体を支えて欲しいということなのか。
(答)
 私が申しあげているのは、今、株価全体が日本経済における大きな懸念材料になっており、その懸念を取り払う総合的な経済対策が必要であるという意味合いで申しあげている。それは自らお分かりいただけるかと思う。


(問)
 先ほど、各行は資本増強策を打ち出していて、ここまで株価が下落しても金融危機が起こる状況ではないということをおっしゃっていたが、各行が資本増強策を打ち出してから、かなり各行の株価が下落しているが、それでもなお各行の資本増強策は充分であったという認識か。
(答)
 各行ともかなりの金額の資本増強を行い、かつ市場の評価を高めるべく、新しい時代に向けて経営改革に取り組んでいる。各行の株価下落による決算への影響について私が詳細を把握しているわけではなく、UFJグループの決算についてもまだ固まっていないが、今回の不良債権分離子会社による自己調達分 1,200億円を加えて、3月末は充分な自己資本を有している。今後、仮に、株価が7,000円を割るといった状況になったとしても、自己資本比率が8%を切るような状況にはなく、金融危機の状態ではないと認識している。


(問)
 ETFの購入やデフレ脱却のための施策といった金融面の対応に焦点が当たっている。今、予算審議中ということであまり声が出ていないが、与党内の一部には既に補正予算案、財政拡大と言う声が高まりつつある。財政面の対応についての見解を伺いたい。
(答)
 一番大切なのはデフレからの脱却である。デフレの脱却のためには、経済活動が活発化して、価格下落が止まるということが本来的な姿であろうと考える。マネーだけを捉えた対策というのは、持続可能とは思えない。金融政策だけではデフレ脱却への対応は不十分であり、政策の総動員が必要と考える。政府と日銀が一体感を深めて、税・財政政策、金融政策を複合的に組み合わせた様々な施策を早期に実施していくことが一番大切である。


(問)
 本日、福井新総裁は、市場との対話も重視し、先手先手で手を打っていかなければならないとおっしゃっていた。翻って、速水総裁のこれまでの5年間の政策を振り返って、どのように評価するか伺いたい。
(答)
 速水総裁の5年間の任期は、景気の長期低迷、強まるデフレ圧力の中で金融システム不安が増すといったことで、金融政策運営にとって、非常に難しい状況が続いた5年間ではなかったかと考える。一方で、独立性強化を謳った新日銀法の下で新たな日銀像が求められたということもあり、その役割に重みが増す中で、様々な面でご苦労があったのではないかと拝察するところである。この5年間を振り返ってみると、99年2月のゼロ金利政策の導入、あるいは2001年3月の量的緩和策の導入、去年9月の銀行保有株式の買取等々、このような環境にあって、適時思い切った措置を講じられ、デフレ圧力の緩和、金融システムの安定化に向けて優れたリーダーシップを発揮してこられたと認識している。この場を借りて、速水総裁のご尽力に心からの謝意を表したい。


(問)
 金融政策について、もう一段の金融緩和が不可欠と思っているとおっしゃったが、今の量的緩和策が非常に手詰まりしているという指摘もあった。一方で、ETFについて検討の余地があるのではないかという言及もあったが、むしろ、ETFについての言及は日銀による株価対策もありうべし、というように聞こえる。それと、一段の金融緩和策との関係についてお聞かせ願いたい。
(答)
 私は株価対策としてETFを購入をすべきという考えで申しあげているわけではない。デフレスパイラルに入って苦しんでいる状況から脱却するためには、金融政策、財政政策、税制等様々な施策が考えられるので、聖域を設けないで議論をしていくべきである、ということを申しあげたいわけである。是非、議論を進めて、総合対策を実施していただきたい。

別添資料:寺西会長記者会見(UFJ銀行頭取)