2003年4月15日

寺西会長記者会見(UFJ銀行頭取)

鵜飼専務理事報告

(なし)

会長記者会見の模様


(問)
 昨日、経済三団体が株価対策として証券税制に関する緊急提言を発表したが、市場では株価対策を求める声が高まっている。株価対策について、金融界として何が必要であると考えているか。
(答)
 先月のこの場でも申しあげたとおり、株価の反転には、デフレなどの構造問題を解決し、日本経済に対する不安感・不信感を払拭することが不可欠である。政府・日銀におかれては、一体となって、まずは、デフレ克服に向けた実効性のある政策対応を、早急に実施されることを強く期待したい。
 その上で、足元の株価の状況に鑑みれば、株式市場の需給改善等に資する株価対策も併せて期待したい。個人的に言えば、昨日、経済三団体連名で公表された提言にもあるように、株式譲渡益の非課税化や、譲渡損の他の所得との相殺などの思い切った投資優遇措置も、検討の余地があるのではないか。また、広い意味での株価対策として、日銀によるETFの購入の可能性も指摘されている。副作用を懸念する声も認識しているが、こうした対策も含め、まずは、聖域を設けることなくあらゆる可能性を検討していくことが必要と考える。


(問)
 金融政策に限定するが、日銀が福井総裁就任後、株買取り枠を2兆円から3兆円に拡大し、先日の定例会合では、資産担保証券を民間金融機関から購入するための準備に入るなど、矢継ぎ早に対策を打ってきている。今後望まれる金融政策、これまでの日銀の金融政策の評価について伺いたい。
(答)
 日銀の金融政策については、喫緊の課題であるデフレ克服に向け、考えうるあらゆる手段について、聖域なく検討されるよう、これまでも折に触れ、訴えてきたところである。
 こうしたなか、福井新総裁のもと、先般の銀行保有株式の買取上限の引き上げ決定や、今回の資産担保証券購入といった新方針が矢継ぎ早に打ち出されてきており、そのスピード感を高く評価したい。引き続き聖域なく政策を検討し、速やかに実行に移していただくことを期待する。
 さりながら、デフレの克服は、本来、経済活動の活発化に伴って価格下落が止まることが望ましく、マネーの面だけを捉えた対策は、持続可能とは思えない。その意味で、デフレの克服は、金融政策だけでは達成困難であり、あらゆる政策を総動員することが必要と認識している。
 先般、政府・日銀による初の定期協議が開催されたが、こうした場で積極的な意見交換を行なうこと等を通じ、政府・日銀が一段と連携を深め、デフレ克服に向け、金融政策のみならず、税・財政政策や規制改革などを複合的に実施されることを強く期待したい。


(問)
 大手行が業績修正を行い、全行が2年連続赤字、一部は3年連続赤字となり、このところの株価急落が続いているが、金融システムの現状に対しどのように見ているのか。
 福井日銀総裁はじめ、与党内にも公的資金の予防的注入の枠組みの必要性に関する議論が高まっているが、どのように考えるか。
(答)
 UFJグループの2002年度決算は、金融再生プログラムへの対応に伴う貸倒引当金の積み増し、株式市況の長期低迷による株式関連損失の計上により、誠に遺憾ながら赤字決算となった。他のグループも同様の理由から、赤字決算を余儀なくされたと認識している。
 ただし、各グループとも3月末の自己資本比率は十分な水準を維持しており、ただちに金融システムの危機を懸念する状況ではないものと考えている。
 各方面で「予防的注入」に関する意見があることは承知しているが、現行の預金保険制度(102条)においても、危機のおそれがあれば、それを未然に防ぐために当局として迅速な対応をされるものと認識している。まずは現行制度に関する認識を深めた上で、制度を見直す必要があるのかどうか、金融審議会その他の場で議論を尽くしていく必要があるのではないかと考える。


(問)
 先日、金融庁から優先株の普通株への転換権行使に関するガイドラインが発表されたが、銀行界としてどう評価しているのか。
(答)
 転換権付優先株の転換権行使については、99年の金融再生委員会において、早期健全化法に規定する普通株式の引受の承認要件、すなわち、銀行が著しい過少資本に陥った場合や、それに準ずるような場合に、転換権行使を検討するとされている。
 今般のガイドラインは、従来の運用方針を維持しつつ、資本増強行に対するガバナンスを強化する観点から、転換権行使の条件の明確化を行なったものと認識している。
 資本増強行としては、一層身を引き締め経営にあたらねばならないと考えている。


(問)
 資金の予防的注入の件であるが、会長としてはそうした仕組みが今の状況下であった方がいいとお考えなのか、それとも102条があるから十分だとお考えなのか。
(答)
 さきほどお答えしたとおり、現行の預金保険法102条に基づく危機対応制度が存在するということを大前提として、公的資金制度の枠組みについてどう考えていくかが問題になるということかと思う。現状の枠組みの中でも幅広い対応が可能とも考えられるが、現在の制度そのものについて不備があるのか、あるとすればどう是正するのかといった幅広い議論を行っていく必要があろうということである。現行102条を議論の出発点とすべきというのが私の考えである。


(問)
 現実的に金融危機対応会議を開くこと自体が金融不安を呼び起こすのではないかという議論があるが、そのあたりについてはどのようにお考えか。
(答)
 その点についても、現在の102条が持っている不備と考えられるのであれば、そうした見解をベースに議論をすれば良いのではないか。


(問)
 与党が株価対策としてあげている時価会計の一部凍結と減損会計の延期について、財務会計基準機構でも検討を始めるということである。一度決めたルールではあるが、導入を決めたときと経済情勢がかなり異なっている、他国も状況に合わせて導入している等、前向きに考えるべきであるという意見や、一部凍結によって国際的信認が失墜し、投資家の市場離れが起こり、逆効果なのではないかという意見など様々である。会長のご意見を伺いたい。
(答)
 一般論として申しあげる。時価会計の下、株式相場によって銀行の収益、あるいは資本勘定が影響を受けるということは事実である。株式の持合というものが日本独特の商習慣であったなかで、米国の会計基準を導入したところ、経済に様々な影響を与えているということもあり、見直しの議論が行われているのではないかと考える。しかし、会計基準は金融資本市場における非常に重要なインフラであり、仮に現在の金融会計基準を変更するということになれば、幅広い観点から慎重に議論する必要があろうと思っている。現在、様々なところで議論が行われているが、各方面の議論を注視したいと考えているところである。


(問)
 自民党の中に、株価対策として郵貯・簡保資金を活用するという案が浮上しているが、会長はどのように考えるか。
(答)
 先ほど申しあげたように、株価対策としてはデフレ等の構造問題の解決に向けて努力を行っていくことが基本と考える。
 もっとも、足もとの株価状況を見ると市場の需給バランスを改善させるような対応も必要であろう。郵貯・簡保による買入がどの程度の効果を上げるか承知していないが、個人的に申しあげれば、まず税制の見直し、あるいは日銀によるETF購入といった施策を議論していくことが先決ではないかと考える。


(問)
 中小企業への貸出についてであるが、一部の報道で、都銀が融資の必要のない中小企業に対し半ば押し付けるかのように融資をしたという報道がなされているが、それについてどのようなお考えか伺いたい。
(答)
 中小企業向けの貸出ということについては、この場でも色々なことを申しあげたと思うが、経営健全化計画の達成という面も確かにあるが、もう一方で、リテール・法人ミドルをコアマーケットにすると標榜している私どもにとって、その増強は重要な経営課題であり、経営資源を投入してきているところである。
 融資にあたって、お客さまの資金ニーズの有無を確認する、あるいは資金ニーズの妥当性を確認するということは、融資の基本中の基本であり、そうしたことをきっちり現場で遵守できる体制も整っている。ご質問のようなケースが発生しているとは考えていない。


(問)
 与党内で検討されている銀行等保有株式取得機構の8%出資の取扱いについて、与党内で意見が少し割れているかと思うが、改めて会長の8%出資に対する考え方、それからこれが仮に全廃された場合の株式市場に対する影響の見通しについて伺いたい。
(答)
 まず、8%の拠出金が設けられた経緯を振り返ってみると、機構が買い取った株式が値下がりした場合に国民負担が発生するリスクを抑えるバッファーとして位置付けられている。
 こういう主旨は十分に理解しているわけであるが、現状、株式市場が低迷している中、売却に際し8%の拠出金が必要となることは心理的にも相当な負担に感じられるということはあるのではないか。
 ただ、拠出金が設けられた経緯があるということを我々は認識しなければいけないし、かたや、日銀による買取の仕組みもあるわけであり、銀行サイドで使い分けていくということではないかと考える。
 仮に8%の拠出金が無くなったとしたらどうなるかということであるが、直接、需給バランスに大きく影響するものではなかろうが、マーケットの参加者に対してポジティブなセンチメントを与えることはあるかと思う。


(問)
 改めて産業再生機構に対する期待と注文を伺いたい。また、なかなか第1号案件がはっきりしないが、この見通しについて見解を伺いたい。
(答)
 産業再生機構に対する具体的な要望については、法律案の説明会等の場を通じて、申し述べさせていただいているが、改めて申しあげれば、企業の再生に関しては個々の事情によって様々な考慮、考察が必要な場合が多いと思われるため、できるだけ柔軟な運用を行なって欲しいということが一つである。二つ目の要望は、少し角度が変わるが、組織あるいは資金面で機構自体がどんどん大きくなって肥大化していくようなことは避けていただきたいということである。第1号案件に関しては、いろいろお話が出ているようであるが、新しい制度のスタートにあたり、前例になる等の観点からも重要であろうとは思うが、そもそもの機構設立の趣旨を考えると、過剰債務、過剰供給問題を解決するような案件であれば、企業規模、業種にこだわる必要はないのではないかと思う。そもそもの設立趣旨に沿った運用が必要であろうと考える。


(問)
 経営再建中のダイエーであるが、今週末にも決算の発表ということであるが、初年度の業績は下方修正を余儀なくされたということで、新3か年計画の3年目の計画も見直さなくてはいけない段階に来ているということになっているが、そういう状態になってもメインバンクのUFJ銀行としてはダイエーの再建が可能であるというようにお考えなのか。それとも更なる努力をするべきだというように、また、どういった点で努力をしていくべきだとお考えなのか。
(答)
 先般ダイエーから、経済環境をはじめとし、諸情勢の変化に対応できるように、特に営業施策を中心とした計画の見直しについて発表があったが、さらに 2003年2月の決算を踏まえたうえで、今後の収益計画についても今検討しているとのお話を聞いている。ただ、現時点で具体的な内容を申しあげられるものではない。主要行として、ダイエー自身の再生に向けたトレンドに変化があると見ているのかというご質問かと思うが、当行としてはそうではないと考えている。ダイエー再生の大きな方向感について変化はないと思っており、先般発表した営業施策の見直しも、本業の回復に向けた積極的な取組みであると高く評価をしているところであり、引き続きメイン行として必要な協力を行なってまいりたいと考えている。


(問)
 1年を振り返ってお感じになったこと等お聞かせください。
(答)
 就任記者会見において、取り組むべき課題として、金融システムに対する信頼の回復、活力ある金融市場の確立、利用者利便の更なる向上の3点を掲げた。申しあげるまでもなく、最大の課題は、金融システムの信頼回復であった。
 昨年4月には、初めての特別検査の結果が発表されるとともに、2年・3年ルールの厳格化、RCCの積極活用等、金融システム安定化に向けた追加策が打ち出されたことを受け、各金融機関とも、不良債権問題の早期解決に向け、対応を一段と強化することとなった。
 さらに、夏場の決済機能の保護をめぐる議論、秋以降の金融再生プログラムの策定・実施等、次々と新たな対応が求められることとなったわけであるが、私どももこうした議論を正面から受け止め、業界としての意見をきっちりと申しあげるとともに、新たな制度に対して積極的に対応してまいったところである。
 特に不良債権問題への取組みという観点では、特別検査、金融再生プログラムへの対応等を通じ、各金融機関の引当・償却の一段の厳格化が図られるとともに、いわゆる大口過剰債務者に対しても、踏み込んだ内容の再建計画・金融支援が策定されることとなった。結果として2002年度には引き続き高水準の不良債権処理コストが発生することとなったが、財務上の対応、債務者サイドの処方箋の策定に一応の区切りをつけたものと認識している。
 この間、個別金融機関の経営努力をサポートすべく、全銀協としての業界活動という面でも、幅広い税制改革の提言、貸出債権市場の整備に向けた報告書のとりまとめ、公的金融機関の改革に向けた取組み等、デフレの克服、経済・金融の活性化に向け、力を尽くしてまいったところである。 しかしながら、今あらためて振り返ると、私どものこうした努力は、残念ながらまだ途半ばと言わざるを得ず、当事者として、正直、忸怩たる思いである。
 新年度には、銀行自身の経営改革、大口債務者を中心とする再建計画の着実な遂行等を通じ、金融システムに対する信頼を回復できるかどうか、真価が問われることとなる。折しも、産業再生機構の設立が目の前に迫っており、産業・金融の同時再生の実現に向けた、まさに正念場であると認識している。
 厳しい環境が続く中、来週には東京三菱銀行の三木頭取が会長に就任されることとなる。引き続きご苦労をおかけすることになるが、皆さんご存知のとおり、三木頭取は卓越したご見識をお持ちであり、難局打開に向け、力強いリーダーシップを発揮して銀行界を引っ張っていただけるものと確信している。
 早いもので本日が最後の会見となる。様々な出来事が印象深く思い出されるが、この会見の場で皆さんから厳しい質問を頂戴したこともその一つである。1年間、皆さんには大変お世話になった。あらためてお礼を申しあげる。また会長職を務めるにあたり、副会長をはじめとして大変多くの方々に支えていただいた。この場を借りて感謝申しあげたい。
 1年間、本当にありがとうございました。