2003年5月20日

三木会長記者会見(東京三菱銀行頭取)

鵜飼専務理事報告

 本日は、理事会および総会を開催し、平成14年度の業務成績報告および決算を諮るとともに、第二地方銀行協会の会長交替に伴う理事、副会長の選任および平成15年度の監事の選任を行なった。
 また、りそな銀行の勝田頭取から、本日付けでの頭取辞任に伴い、理事・副会長を辞任したいとの申し出があったので、これを受理した。なお、後任理事の選任等については、今後検討することとしている。 


会長記者会見の模様


 ご質問をお受けする前に、私から三点申しあげたい。
 まず、第一は、りそな銀行に対する公的資金注入に関してである。
 今回の措置は預金の流出等、危機的状況に至っているわけではないが、そうした事態に繋がりかねない可能性を事前に絶ち、金融危機を未然に防ぐための、機動的かつ果断な対応であったと受け止めている。週明け以降のマーケットも総じて落ち着いており、預金流出や口座付替の動きは起きていない。102条が危機回避のための予防措置として機能し、金融システムの安定に資するひとつの証左になったと思う。
 但し、公的資金の注入はいわば緊急避難であり、より本質的には、「特別支援」の枠組みの下で、経営革新を大胆かつ徹底的に図り、公的資金依存から早期に脱却できるよう経営体質の改善を進められ、マーケットの信頼を勝ち得ていくことが重要であると思う。
 第二は、産業再生機構に関してである。
 既にご承知のことと思うが、5月15日の正副会長会議に、産業再生機構の斉藤社長、高木産業再生委員長、冨山業務執行最高責任者をお招きし、意見交換を行った。
 「金融と産業の一体再生」に向け、産業再生機構の果たすべき役割は大きく、私どもとしても、機構を積極的に活用し、迅速な再生に向けての取組みを一段と強化していきたいと考えている。そのためには、機構としっかりと連携していくことが肝要である。今回の会合も業務開始のタイミングを捉えて、機構より具体的な運営方針をご説明頂く一方、私どもよりは、質問・要望等を出させて頂き、いわば本音での意思疎通を図り、機構活用に向けた下地作りを行うという趣旨で開催したものである。実際、機構トップの皆様と、忌憚のない意見交換ができ、とても有意義であったと思う。
 具体的な案件については、個別行マターとなるが、全国銀行協会としても、今回のような機会も含めて、引続き機構とのコミュニケーションを密に連携を図り、再生の実を上げていきたいと思う。
 第三は、郵便局における投資信託販売の問題である。
 ご承知の通り、5月14日、「証券市場の構造改革と活性化に関する対応について」が関係閣僚による会合において取り纏められた。株価低迷が続いており、証券市場活性化策が取り纏められたことは時宜を得たものとして評価すべきだと思う。
 しかし、その中に盛り込まれた郵便局ネットワークを活用した民間投資信託の窓口販売については、民間とは競争条件の異なる国営公社のままで実施することには反対であり、同日、その旨の全銀協会長のコメントを発表致した。やはり、日本郵政公社を民営化した後、郵便局ネットワークを活用して民間の金融商品を提供するというのが、本来あるべき姿ではないか。経済を活性化させるためには、「官」の領域の拡大ではなく、民間の活力を引き出すことが重要だと認識している。


(問)
 りそな銀行に関して、公的資金注入が決まったことで巨大な国営銀行が誕生するわけであるが、これが今後の金融業界、金融システムに与える影響をどのように考えるか。
(答)
 冒頭でも申しあげたとおり、今回の措置は、金融システムの危機を未然に防ぐ果断な措置であると思っている。また、預金保険法102条が金融危機回避の予防措置としての機能を発揮できたということであり、預金者、取引先、市場の不安を払拭し、平穏であったことは非常に良かったと思う。但し、これも先程申しあげたとおり公的資金の導入は緊急避難だと思う。これまでの業務のあり方を抜本的に見直し、是非とも新しいビジネスモデルを組み立てて頂きたい。今までと変わらずに、注入された公的資金をベースに、言うなれば市場原理とかけ離れた業務運営がなされることは適当ではないと思う。過当競争がひどくなると、長期的に見て金融機関にとって良いことではない。平たく言えば自力で頑張っている銀行の足を引っ張ってもらっては困るという感じはある。


(問)
 りそな銀行が過少資本となったのは、監査法人が繰延税金資産を銀行が当初考えていた課税所得の見積額の5分の3に減らされたのが決定的要因だったといわれているが、これについてどう考えるか。また、他行への影響はどう考えるか。
(答)
 公認会計士協会は今年の2月に「会長通牒」を出した。「通牒」では各銀行の状況をよく踏まえて、合理的に見積可能な利益を認定するということになっている。したがって、監査法人では、これを受け、会計原則に則って、各銀行の状況に応じた合理的な見積可能な利益を計算していると思う。りそな銀行の場合もそういう見地から判断されたのではなかろうか。また、各銀行それぞれ監査法人の監査を受けているので、それと同様な厳格な監査がなされたのではないかと思っている。ちなみに私どもMTFGでは、長期計画を策定し、5年間の収益計画を保守的に見積もり、監査法人にはそういう計画をベースに5年分の見積可能収益を認めていただいている。公認会計士の実務指針も「おおむね5年内の課税所得の見積額」となっている。


(問)
 各行への影響はどうなるのか。
(答)
 公認会計士が、今申しあげた「通牒」に則ってきちんと監査されている。来週各社が決算発表を行うが、「通牒」に則った監査が行われているということで心配はないのではないかと思う。


(問)
 りそな問題が起きて、株価が下落している。またSARSの問題等も起きて景気の不安材料がいろいろあるが、景気の現状認識についてお考えを教えていただきたい。
(答)
 景気は非常に停滞しており、先行きもなかなか楽観は許されず、厳しいと思っている。イラクこそ早く片付いたが、アメリカの方もよいという状況ではないし、SARSの問題も出てきている。ただ、今年の後半には、米国の方がファンダメンタルズもそう悪くないので少し持ち直すのではないか。IT産業などが比較的良いと聞いている。また、SARSもそれほど広がっていない。これでそこそこ落ち着いてくれれば大きな影響はないのではないか。後半には輸出を中心に立ち上がっているのではないかとみている。が、その立ち上がり方は弱いだろう。
 今、私どもは集中調整期間にあり、この2年間程度はやはり非常な低成長が続くのではないかと思っている。参考であるが、私どもの調査室では、15年度の実質GDPは+0.1%とほぼゼロ成長、名目は▲1.7%と見ている。


(問)
 りそな銀行への公的資金注入に関して、自己資本比率が4%でもなく8%でもなく10%以上になるように公的資金を注入するとの方針が出されているが、これに関しての見解を聞きたい。また、そうなると配当が大変になってくるのではないかという懸念の声もあがっているが、それを含めてお願いしたい。
 次に、税効果会計についてであるが、不良債権処理関連の税制に関し、繰戻還付とか無税償却といった面が手付かずのまま、繰延税金資産の部分だけ厳しくなっているが、この点についても、見解を聞きたい。
(答)
 自己資本比率が10%以上というのは多いのではないか、ということだが、私からはなんとも申し上げようがない。確かに、個人的には多いような感じもするが、だからといってそれが問題ということでもないようにも思う。配当は確かに大変だろう。
 税効果の問題については、繰り戻し等がないまま税効果会計の監査が厳しくなったとのご質問のように受け止めたが、それは少し認識が違うように思う。ご承知のように金融再生プログラムが昨年の秋に公表され、その時に厳格な査定・引当に並んで、税効果会計についても現状のものを認めるが、収益が見積もられる範囲できちんと見なければならないということになり、それが先程申しあげた2月の公認会計士協会会長の「通牒」に繋がっている。それを受けて、各行において厳格な繰延税金資産の監査が行われているのであり、繰り戻しとか欠損金の繰り延べ期間延長とは別の問題である。


(問)
 公的資金に関してであるが、与党とか金融庁の金融審議会において、公的資金の予防的注入に関する議論が進んでいるが、この点に関する認識を聞きたい。
(答)
 そのような意見がある、あるいはそういう案が出てきそうであるという話は聞いている。預金保険法102条の弾力的な運用、機動的な運用で対応できないか、ということを私は以前に申し上げた。予防的注入というのは、健全行に対して健全なうちに資金を入れることであろうが、これは危機になってからでは遅いということで考えられているのだと思う。予防的注入が本当に必要なのかどうか、もし行うとすればどのような基準で行うのか、またこれが恣意に流れないか、という問題があろうかと思う。これについては、金融審議会のWGで検討が行われているところであるので、その検討を見守りたい。


(問)
 先程、繰延税金資産の話のなかで、他行は大丈夫との見解を示したが、2003年3月期の数字はそういう状況と思うが、これが今後9月期、来年3月期と決算を迎えるたびごとに他行にも同じような問題が出てきて、資本不足の議論が繰り返されるのではないかとの見方もある。こうした見方に対する考えを聞きたい。
(答)
 これについては、やはり金融界が収益を上げ、自己資本をそれによって増加させていくことが求められていると考えている。
 「不良債権を多額に処理するため、有税償却で対応する。その代わり繰延税金資産を認める」というのが現在のやり方である。不良債権処理が段々と終わり、バランスシートからオフされ、収益が上がってくれば、繰延税金資産は減ってくる。銀行によって少し早い遅いはあるかもしれないが、そういう状況に差し掛かりつつあるのではないか。
 したがって、繰延税金資産が認められている以上、厳格に見られるということは、ある意味で当然のことであり、他方、それが認められずに自己資本が不足する危惧があるとするならば、そうならないように収益を上げる、あるいは自己資本を充実する必要が出てくると思う。しかしながら、昨年は加えて株価が大幅に下がった。株価の下落がなければ、それほどひどいことにはならないと思う。


(問)
 先ほど、「公的資金を注入した銀行が自力で頑張る銀行の足を引っ張らないように」という発言があった。確かに、他の業界では、債権放棄を受けた企業がそのまま生き残って市場を乱しているということがある。会長はどのような具体的イメージを持って、公的資金注入行が今後、業務展開すればよいと考えているか。
(答)
 現状、これだという具体的なイメージは持っていない。ただ、何とかして欲しいという気持ちは持ってるということである。公的資金が入ったので楽になり、従来通りのビジネスモデルで従来通りの業務のやり方を踏襲されるのであれば、自力でやっている銀行にとって、とても厳しい。新経営陣と大株主となる国には、これからそういうことも踏まえた上で、新しいビジネスモデルを作って頂きたいと考えている。


(問)
 「今回の措置は金融危機を未然に防ぐ果断な対応と受け止めている」と発言されたが、これは個別行としての意見か、全銀協会長としての意見か。
 また、今回の措置を国民の視点から受け止めると、表向き預金の移動は起こっていないとはいえ、これまである程度あると思われていた金融機関の自己資本がいきなり下がってしまう、ということでは、金融機関は本当に信頼できるのかという不安を国民の中に一段と高めたことは否定できない事実であろう。りそな銀行は全銀協のメンバーであるが、このような事態が起きてしまったことを会長としてどのように受け止めているか。
(答)
 果断な措置という発言が、会長としてなのか、個人としてなのかというと、両方である。やはり、りそな銀行は、4メガに続く大きな銀行であるので、預金者の不安等を考えると、自己資本比率という、銀行にとっても、また、皆さんから見ても、非常に意味の大きな指標が4%を大きく割ったことは、危機に繋がりかねないということで、機動的に未然防止措置を講じたことはよかったと思う。
 それから、全銀協の会員の中でそのような事態になったことについては、残念に思う。しかしながら、厳格な査定と監査の結果であって、やむを得なかったのではないか、という面はある。


(問)
 先ほど日銀の福井総裁の会見で、りそな銀行に関連して、「他の大手銀行にも共通の問題があると認識している」との発言があった。共通の問題というのは、不良債権処理の難しさや、必要な資本をどうやって補っていくのか、あるいは、これから収益をどうやって伸ばしていくのか、という主旨であった。会長として、今回の事態の底流には共通の問題があると考えるのか、あくまでもりそなの特別な事情であると考えるのか。
(答)
 福井総裁のご発言については存じあげないが、これは金融界の共通の問題でもあり、また、りそなの個別の問題でもあると考える。りそなの固有の問題ではなく、大手行にも心配があるのではないか、という指摘であれば、私は、会計監査人が厳格な監査をしていることから、今の時点ではそういうことはないと思う。来週、決算が発表されるので、そうした点ははっきりしてくるのではないかと思う。
 一方、共通の問題としては、我々は不良債権を適切に処理し、将来の収益をきっちり上げる計画を立て、そういう中で、自己資本比率を考えていかなければならないということがある。課題が不良債権の処理と収益の向上の2点である、ということは全く共通である。今回のように急に自己資本比率が規制のラインを割るというようなことが相次いで起きるということではないと思うが、心していかなければならない。


(問)
 102条の発動に関連して2点聞きたい。
 今回、良し悪しは別として、銀行の生き死にを判断をする、資本注入の決断をするトリガーを民間の監査法人が引くということが、102条発動の実質的な引き金になったと思う。金融行政当局ではなく、民間の監査法人が引くという運用のあり方が良いのかどうか。
 また、今回、政府は、りそなの株主責任は問わない、株数の減少を伴う減資はしないという方針を出しているが、結果的に99年3月に政府が投入した優先株についても減資はされないということであり、これに関連して99年3月の公的資本の注入は、ある意味で今回のりそなの件を見ると失敗だったのではないかと考えているが、その総括を銀行サイドからどう見ているか。金融行政への注文も含めて見解を聞きたい。
(答)
 まず、1点目はトリガーを引いたのが監査法人というのは良いのかというご質問だが、今回りそな銀行がこういった事態に陥ったのは、直接的には、そのようなこともあるが、やはり株安と不良債権処理を非常に多くせざるをえなかったこと、それに今回の繰延税金資産が認められなかったことが重なったためと見ている。そして、その中で、その最後のところが監査法人にきたので、ご質問のようなことが出たのだと思うが、そこがトリガーを引く、引かないということではない。銀行に対しても、企業に対しても、会計検査というものは会計原則や実務指針に従ってきちんとやらなければならないものであり、監査法人に認められなかったことが直接の原因になったとしても、これは仕方がないことではないか。その背景には株安・不良債権の処理というものがあってこうなったとみている。
 それから、株主責任についてのご質問だが、減資をしなくてよいかというと、確かに減資をすべきという意見もあるし、それは私も良く分かる。ただ、株主の責任の取り方には、減資という形もあるが、希薄化、それも相当の希薄化ということ、あるいは配当が非常に厳しく、減配から無配になりかねないというようなことも一つの株主の責任というか、負担ということではないかと思う。しかし、減資すべきだという考えは個人的には非常によく分かる。
 もう一つは99年3月の注入は失敗だったのではないかというご質問だが、あの当時はやや貸し渋り等の問題もあり、クレジット・クランチということがあったのだと思う。そういう形で、公的資金の投入があったわけで、あの時点ではあれはよかったのではないかと思う。今回は、それとは別に、自己資本比率の急落という経営体力の問題から起きたということで、前回とは形が違うように思う。


(問)
 先ほど、りそなは新たなビジネスモデルをというお話があったが、今回、国が非常に大きな大株主になるということで、中小企業への貸し出しをしっかりやってくれと迫るようなことが起きた場合、新たなビジネスモデルなどとは決して言えない状況であり、銀行が生まれ変わるというより、悪い状況になりかねない。そういった意味で、今回、国の関与のあり方というものが非常に問われているのではないかと思うが、これについて考えを聞きたい。
(答)
 「中小企業への貸し出しをしっかりやってくれ」、「やります」というのは一般的であり、我々もそう思っている。
 どういうビジネスモデルにすればよいかというのは、先ほども申しあげたが具体的なイメージがあるわけではない。従って、ご質問とは少し違って恐縮だが、国の役割というのは大株主としてビジネスモデルを含めた計画を立てることに参画する、そしてそれをモニタリングする、ウォッチするということだと思う。経営自体を国がやるということは、無理ではないかと思う。
 やはり、国は大株主としての責任を果たす。大株主の責任は何かというと、その企業がどういう企業であるべきか、どういう計画を立てるか、そしてそれをきちんとやっているかを監視するということかと思う。
 中小企業への貸し出しについては、あまりに無理な注文が出れば、それはおかしいかと思う。


(問)
 繰延税金資産に関して、今年度も昨年度と同じように課税所得の見積額が5年分認められると思われるか、また、来年度はどうか。非経常的な要因がなければ、今年度、来年度は、1年という可能性もあるかと思うがどうか。
 また、MTFGとしてりそな傘下の銀行に興味があるのかどうか、全くないのか、条件次第なのか教えてほしい。
(答)
 繰延税金資産の5年というのが減らされるのではないかということであるが、先ほど申しあげたように公認会計士は何年といっているのではなく、将来収益が合理的に見積可能なものかどうかで判断している。したがって、それを認めてもらえれば従来どおり5年ということになると思う。MTFGでは、引き続き5年を十分みてもらえると思っている。他がどうかは承知していないが、それぞれきちっとやっておられると思う。
 りそな傘下の銀行に興味があるかについては、いまは全く何も考えていない。


(問)
 繰延税金資産については、いまは非経常的な要因があるからということで課税所得の5年の見積額が認められているわけであるが、今年度、来年度については、非経常的要因が認められない可能性があるのではないか。
(答)
 どういうものを非経常的と見るかは、会計監査人との認定の話になると思う。


(問)
 日本経団連が政治献金の斡旋の実施を宣言されたが、銀行業界はどうするのか。
(答)
 日本経団連は1月に新ビジョンを出されたが、それによれば企業あるいは団体の自主的な判断で献金をするということになっている。今回のものもそれに則ったものと理解している。したがって、全銀協としてどうのということはなく、個別の銀行が個別の企業としてどう判断するかということになる。ただ、私どもはいま平成16年度まで不良債権の集中処理期間にあり、国民の信頼を回復すべく一生懸命やっているところであるので、その間はそういう余裕はないと思っている。


(問)
 生保の予定利率に関して、今日自民党の部会で認められ、今週金曜日にも閣議決定かと言われているが、生保の予定利率の引き下げについて意見があれば聞きたい。
(答)
 これだけ低金利が続くと生保業界も大変だと思う。一方、契約者とのことを考えると勿論簡単ではないが、やはり中長期的にみてどちらがいいか、また、そういう選択肢がある方がいいかどうかということで判断すると、個人的にはそういう選択肢があった方がいいと思っている。