2003年7月22日

三木会長記者会見(東京三菱銀行頭取)

鵜飼専務理事報告

 本日の理事会では、お手元に配付している資料のとおり、平成16年度税制改正要望の骨子を取りまとめた。
 本件については、この後、三木会長からお話しがある予定である。
 なお、正式な平成16年度税制改正要望については、この骨子をもとに関係方面と調整しながら更に検討を行ない、9月に取りまとめる予定としている。
 また、本日付で全銀協準会員として台湾銀行の新規加入を承認した。


会長記者会見の模様


 ご質問をお受けする前に、私から一点ご報告する。
 全銀協では例年9月に税制改正要望を取りまとめているが、本日、16年度税制改正要望の骨子が固まった。
 16 年度の税制改正要望の骨子は、「金融・産業の一体再生の推進」、「金融・資本市場の活性化と国際的取引の推進」、「経済活性化」、「適切な経営環境の確保」という4項目の実現を目指して取りまとめた。詳細は資料をご覧頂ければと思うが、いずれも大事な項目であり、こうした要望の実現により、日本経済の元気回復に繋げたいと思っている。
 要望内容の中でも、特にこの場で私から申し上げたいことが2点ある。まずは、不良債権処理関連税制の見直しである。骨子では、昨年に続いて、「欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充および不良債権の無税償却基準の見直し」を要望している。金融機関が不良債権処理を円滑に進めるうえで、必要不可欠な措置だと考えている。財政事情が厳しいこともあり、欠損金の繰越控除や繰戻還付の期間延長に対して否定的な意見があることは承知している。ただ、デフレの深刻化といった厳しい経済環境を踏まえれば、金融機関のみならず産業界全体にとって、経営の中期的な安定性を確保するという観点から、効果が大きいのではないかと思っている。
 なお、「繰戻還付期間」として具体的に何年を要望するかについては、繰延税金資産を巡る議論など諸情勢を踏まえ、9月に向けて検討を深めたいと思っている。
 2つめは、個人投資家育成の重要性である。足元、株価はひと頃に比べて持ち直してきているが、こうした流れを確固たるものにし、証券市場を活性化させていくためには、投資家層の裾野拡大、特に個人投資家の育成を図ることが不可欠である。15年度改正で証券税制の見直しが行われたわけであるが、例えば、株式譲渡益課税を一定の要件の下で非課税とするなど、株式投資促進税制の更なる拡充をお願いしたいと思っている。
 また、この他にも、「事業再生や企業再生を円滑に進めるための税制措置の拡充」や「確定拠出年金税制の見直し」、「住宅取得促進に向けた税制の拡充」等を要望していく。


(問)
 株価はひと頃よりも回復しており、一方、長期金利も上昇基調が続いているが、現在の経済情勢をどのように見ているか。とりわけ銀行業界では国債を持っている比率の高い地方銀行の中には、それが含み損になっているのではないかとの指摘もあるが、今の経済情勢とそれが銀行経営に与える影響の2点について考えをうかがいたい。
(答)
 ここのところ、足元では一服感があるが、株価が上がり長期金利も上がってきたのは、イラク戦争の終結やSARSも落ち着いたことで不安心理が取り除かれたことや、企業収益でも改善傾向が見られ、また設備投資の先行指標が持ち直してきていることから、これらが市場に良いセンチメントを与えたということだと思う。これにより、あまりに下がりすぎた株価および長期金利の水準調整が起きていると認識している。
 銀行の経営に与える影響であるが、確かに債券だけに限ると含み益が減少する、あるいは含み損となる状況になっているが、他方では株価上昇で株の方は含み損から含み益に転じているので、有価証券全体では評価損益はプラスになっているのではないかと思う。また、長期金利が上昇することは金利機能が回復するということであり、貸出等の運用収益の拡大につながり、銀行とって長期金利の上昇はマイナスばかりではない。長期金利の上げによるマイナスと株価の上げによるプラスとどちらが大きいかというと、銀行によって差はあるかと思うが、金融界全体にとっては、かなりプラスであると思っている。


(問)
 金融審議会での議論が大詰めの段階を迎えているが、改めてこの議論について会長としての意見をうかがいたい。
(答)
 金融審議会の議論は二つある。一つは新しい公的資金制度、今一つは自己資本比率規制の問題である。
 いずれも報告書が出ていないので、コメントするタイミングではないと思うが、私どもが主張してきたことを申しあげる。新しい公的資金制度については、そもそも公的資金というのは非常に重いものであって、金融システムの安定化、強化のために導入されるものであり、個別の金融機関救済のためであってはならない。そういう観点から、まず第一に公的資金の強制注入や一斉注入を強いるものであってはならないということ、第二に入口と出口の要件をきっちりとして金融システムの強化につながるようなものであって欲しいということ、第三は損失負担の問題だが、特定の金融機関が公的資金を導入して損失が生じた場合に、他の金融機関にその損失分担を求めることには反対する、仮にそういうことを行えば日本の金融機関全体が共倒れというか一緒に沈む可能性があるので困る、ということを申しあげてきた。
 もう一つの自己資本比率規制については繰延税金資産の議論が中心であり、私どもは前々から申しあげているように、不良債権処理を加速する中で税効果会計が導入されたという経緯を踏まえ、繰延税金資産に算入上限を設けることは反対であるということを主張した。


(問)
 りそな銀行について、監査法人をトーマツに改めて再査定を行うことが決まったり、再生のチームを立ち上げるなど、徐々に新しい経営陣の独自色が出ているように感じられるが、こうしたりそなの取組み、動きについてどのように見ているか。
(答)
 大変、結構なことだと思う。新経営陣が、過去のしがらみにとらわれず、再査定をされて、そこからスタートされるのは本当に大事なことではないかと思う。どのようなビジネスモデルを作られるかで、今回の公的資金注入が成功するか否か、また新経営陣の真価も問われると思っており、注目している。やはりマーケット原理に根ざした、そしてまた公的資金から早期に脱却できるようなビジネスプランができることを期待している。


(問)
 郵貯と簡保の資金運用の対象に、コール市場を加えるという改正日本郵政公社法が成立したわけであるが、早ければ8月にも実際に運用を開始するということもあり得るかと思う。コール市場は6月末に一時マイナス金利を付けたり、資金の余剰感があるというのが現状かと思うが、こうした状況を踏まえて郵政公社によるコール市場での運用が市場に与える影響についてどのように考えるか。
(答)
 日銀が潤沢な資金供給を行うなど、量的な金融緩和が非常に進んでいるので、コール市場そのものが極めて小さくなっている状況にある。こうした中で仮に郵政公社から資金が出るとしても、今の時点で資金は既に相当潤沢であるので、それほど大きな影響はないと思う。しかし、中長期的にみると、いずれはコール市場は機能を回復して、運用・調達の場としての重要性を増してくるとみられる。郵政公社は資金量が非常に大きく、強い影響を及ぼし得るので、その時は市場慣行に則った行動をとっていただきたいと思う。


(問)
 金融庁が資本注入行に対して早ければ週内にも業務改善命令を出すといわれているが、この件に対する会長としての見解と、銀行界として何か対応を考えているのか教えていただきたい。
(答)
 本件については、私がコメントする立場にはないと思うが、公的資金注入行に対して金融庁が決算状況あるいは経営状態をモニターすることは、決められたことであるし、当然のことと思う。ただし、ここにきて急に業務改善命令を出すということであれば、個人的にはちょっと唐突感がある、というのが私の感想である。これは個別銀行の問題であるので、全銀協として対応するというようなことではないと思う。


(問)
 盗難預金通帳の支払いの件についてお尋ねしたい。先般、国会で会長は訴訟件数のみについて話をされているが、今日一部の報道では郵便貯金についても同様の事件がおきていて、郵貯の方は昨年度1,400件、28億円位あったということである。先般、国会では被害の実態については答えがなかったが、今後、個別行あるいは全銀協として、被害の実態について何らかの調査をされるのか。
(答)
 申すまでもないことだが、盗難通帳や偽造印鑑による払い出しが誤払いであれば、銀行の信用に関わる問題、信用性を失わせる問題であると捉えており、これは真剣に取り組まなければならないと認識している。全銀協としても従来から防犯のビラを作成するとか、あるいは緊急連絡先一覧を配るというようなことで対応してきた。ここにきてこの問題が非常にクローズアップされ、あるいは社会問題化してきているので、更なる取り組みをする必要があると思っている。なかなか難しい問題で、今、具体的にどういうこととは申しあげられないが、この1~2か月位の間に、更なる取り組みについて目処をつけたいと思っている。


(問)
 2点伺いたい。
 1点目は、先日UFJ銀行がいわゆるヤミ金融に絡むと思われる口座を強制解約するということがあったが、これだけ社会問題化してくると、金融機関としての取り組み、全銀協としての取り組みも求められるという気がするが、その辺についてのお考えを伺いたい。
 2点目は、金融庁による業務改善命令について「コメントする立場にないが、個人的な感想としては唐突だ」と仰ったが、仮に命令が出される場合に、銀行界に与える影響の見通しについて伺いたい。
(答)
 まず、ヤミ金融については、今お話にあったようにUFJ銀行で、160件位であったかと思うが、強制解約をされた。これは、本人確認を改めてきちんとされた上で、断固たる措置をとられたということで大変良いことだと思う。当然ながら銀行としては、口座をヤミ金融に利用されることは非常に困ったことであるので、各行でそれぞれ対応をしているところである。
 私ども東京三菱銀行でも、まず水際作戦として、入口のところで、即ち口座を開設する段階でしっかりと本人確認するというのが基本である。その上で、口座の動きに非常に疑問がある、あるいはそのような情報が寄せられた場合には、本人確認を改めてしっかり行う必要があるが、その上で強制解約、あるいは任意解約、あるいは預金口座の条件設定といったことを行っている。全銀協としても、タイムリーに情報を提供して、会員銀行に注意喚起を促すことはするが、それ以上のことは個別銀行の対応になるのではないかと思う。
 2点目の業務改善命令が出たときにどのような影響が出るかということであるが、業務改善命令の内容がどのようになるか分からないので、回答は控えたい。


(問)
 金融庁の業務改善命令に関連して、従前の森金融庁長官の時代に、仮に金融機関が不良債権処理のために、結果として赤字決算になった場合には容認するという方針があったように記憶しているが、今回の方針は前金融庁長官と方針が違うように思うが、その点について、全銀協会長としてのコメントをいただきたい。
 また、竹中大臣自身は監督行政にこだわっておられるが、実際には裁量行政もしくは官僚支配といったところが色濃く出ているように思うが、最近の金融庁の行政姿勢についてどうお考えか伺いたい。(答)
 前森長官のときには不良債権処理のためであれば止むを得ないと言われたということのようであるが、私はその辺りについて詳しいことは存じ上げない。金融界が現状、不良債権の集中処理期間にあって、これに積極的に取り組んでいるということは周知のことであり、今回もこの不良債権処理のために赤字に陥ったということであれば、斟酌の余地もあるということではないか。今一つ、銀行が赤字に陥る大きな要因として株価下落の問題がある。特に昨年度の下落は非常に大きかったので、それについて赤字の責任が問われるということは、非常に厳しいものがあると思う。
 裁量行政についてであるが、裁量が非常に大きいということは良いことではないが、監督官庁として裁量の余地を全くなくすわけにはいかないのではないか。事前指導から事後チェック型の行政になったことを踏まえ、法令に沿った監督・行政をしていただきたいが、裁量行政が全くないということはあり得ないかと思う。裁量権の行使についてマニュアル化を考えると言っておられたようだが、それは結構なことだと思う。


(問)
 官僚支配が色濃く出てきているという感じはお持ちではないか。
(答)
 ご質問の趣旨が業務改善命令のことを言っておられるのであれば、それに対しては唐突であると感じている。


(問)
 業務改善命令に関して、唐突だと感じられる理由は何か。
 また、会長就任時のインタビュー等で、むしろ金融庁は公的資金注入行に対して、早く返すよう迫るべきであると言っていたが、その認識に変わりないか。
(答)
 金融庁が公的資金注入行をモニターし、指導も行うだろうとは思っていたが、業務改善命令というのは、マスコミの間でも急にそのような話が出てきたわけで、唐突ということしかないと思う。
 また、公的資金について、いつまでも注入したままにしておくということではなく、余裕ができたら返すように迫った方がよいのではないか、と以前確かに個人的な意見として申しあげたが、今もそのように思っていることに変わりはない。


(問)
 次期全銀協会長に関して、東京三菱銀行の調整がうまくいっていないのではないか、という見方もあるが、如何か。
(答)
 調整がうまくいっていないということを言う時期ではない。私も登板してまだ3ヶ月であり、そのような時期ではない。年内には決めたいと思っている。


(問)
 最近大手行による海外での起債が目についたのでお伺いしたい。大手行の経営戦略上、海外の投資家から資金を調達するということをどの程度の重さを持って見ているのか。海外の投資家の方が、日本の銀行を見る眼は厳しいと思うし、金利ももちろん海外の方が高い。その中で、海外で投資家を開拓していくということを、どのように今後見据えていくつもりか。
(答)
 銀行によって異なると思う。私どもについて言うと、内外を問わず優良な投資家からタイミングの良いときに調達したいと思っている。あらかじめ海外での起債を何パーセントに持っていきたいというようなことはないが、グローバルに業務を展開しているので、起債環境やタイミングをみながら、海外での起債を行っていきたいと考えている。


(問)
 今回の税制改正要望の骨子の中で、「株式投資促進税制の更なる拡充」が謳われており、さきほどの説明のなかでも「個人投資家の育成」ということを言われていたが、これまで全銀協では郵便局における投信販売について反対してきており、個人投資家育成という観点で矛盾するのではないか。また、日本証券業協会と銀行協会は対立しており、そうした観点からもどのように整合性を取っているのかお聞きしたい。
(答)
 私どもは個人の株式投資は是非促進したいと考えている。やはりこれからの株式投資の中心は個人であるべきであり、個人の金融資産における株式のウェイトをもっと高めるべきである。それが日本全体にとり望ましいと考えている。しかしながら、郵政公社は以前も申しあげたとおり、私ども民間企業とは異なり、数々の恩典を受けた国営企業であるので、今のままで業務範囲を拡大することについては、本件に限らず一貫して反対してきたところである。自分の領域が小さくなるからという狭い了見で反対しているという報道が一部にあるが、そのようなことではなく、郵政公社の民営化がはっきりしないまま、業務範囲を拡大することを反対している。
 また、証券業協会とは必ずしも意見は対立していない。証券業界でもいろいろな意見があり、大手の証券会社は郵政公社の投信販売について賛成のスタンスを打ち出されているが、中小の証券会社は必ずしも賛成ではないと伺っている。いずれにしても郵政公社が国営のままで業務を拡大するということについては、全銀協だけではなく、民間9団体で反対声明を出しているところであり、引続きそのような姿勢で取り組んでいきたいと考えている。


(問)
 繰延税金資産の問題で、最終報告がいつ出されるのか明確にされていない。この議論は早く決着させるべきだと考えるが、どのようにお考えか。また、さきほど、繰延税金資産の算入上限を設けることには反対と言われたが、前提条件があれば認めるというようなことはあるのか。
(答)
 今回出されるのは確かに経過報告であり、9月頃にワーキンググループが再開されると聞いている。結論がいつ出るのかは承知していないが、税制改正要望とも絡むので早めに方向感が出て欲しいと思っている。算入上限の導入反対については、条件次第で賛成ということではなく、不良債権の処理を加速するために繰延税金資産が認められ、今まさに集中処理期間に入っているのであるから、変更はしてもらいたくないということである。ただ昨年来、繰延税金資産の質の問題が取り上げられており、算入上限を設けるべきだという意見が出ているわけであるが、万一そういうことになるのであれば、他の国が講じたように、税制見直しとの一体対応、即ち不良債権処理のため欠損金の繰越期間の延長、欠損金の繰戻還付、無税償却基準の見直しの3つが揃って然るべきである。そういう前提であれば、繰延税金資産について見直すということは考えられるが、税制の見直しがないまま、あるいは一部の見直しという形であれば、賛成はしかねる。


(問)
 実体経済をみて、一部では企業のマインドが良くなっているのではないかとの声も聞かれるが、企業の資金需要に幾ばくかの変化があるのか。また、実体経済についてどのようにお考えか、お聞きしたい。
(答)
 マクロ経済についてもまだ安心できる状態にはないが、以前に比べると不安要因が去ったこと、また将来の収益見通しが良くなり企業マインドが好転したこと、さらに株価が上がってきたことにより気分的な明るさは出てきている。ただし、経済を引っ張る一番大きな要素である個人消費は、雇用不安もあり引続き弱い。この点は根が深いように思う。そうしたなかで企業の設備投資に関し若干の動意がみられることから、資金需要が出てきているのではないかとのことであるが、借入に結びつく形で出てはきておらず、盛り上がっているような状況にはない。今まで控えてきた設備投資が、償却の範囲内で少しずつ動き出したという状況であり、企業に話を聞いても設備投資の話はされるが、なかなか借入に結びついてこないというのが現状である。

別添資料:三木会長記者会見(東京三菱銀行頭取)