2004年10月19日

西川会長記者会見(三井住友銀行頭取)

斉藤常務理事報告

 本日は、理事会に先立って「自粛勧告等委員会」を開催し、先般金融庁から刑事告発がなされたUFJ銀行および同じく金融庁から行政処分を受けたシティバンクに対する措置について審議した。
 その結果、UFJ銀行については、同行からの申し出を受理することとした。申し出の内容は「全銀協活動を当面自粛することとし、沖原頭取は全銀協の理事および副会長を辞任することとしたい」とするものである。
 また、シティバンクについても、同行からの「全銀協活動を当面自粛したい」との申し出を受理することとした。 理事会については、特に報告することはない。


会長記者会見の模様


(問)
 竹中大臣の後任として金融担当大臣に伊藤氏が就任された。伊藤大臣への期待、もしくは注文についてお聞きしたい。
(答)
 伊藤新大臣は、竹中前金融担当大臣とともに、金融再生プログラムをはじめとした様々な施策を進めてこられた。
 今後とも、集中処理期間の期限である来年3月に向け、これまでの取組みを踏まえた継続性のある金融行政が行われることを希望している。
 また、金融再生プログラム終了後の施策として「金融重点強化プログラム」が予定されているわけであるが、既に「骨太方針2004」の中で5つの柱が示され、それによって、国際的にも最高水準の金融機能が利用者のニーズに応じて提供されるということが目指されている。その実現のため、金融機関の自由で健全な競争促進、そして、それぞれの経営努力や創意工夫が十分に活かされるような対応をお願いしたいと考えている。


(問)
 UFJが検査忌避事件で刑事告発されるなど銀行界で不祥事が絶えないが、全銀協会長としてUFJの問題を含め銀行界で不祥事が相次いでいることをどのように捉えているかをお聞きしたい。
(答)
 先ほど、発表したとおり、UFJ銀行、シティバンク両行から今回の事態を重く受け止めて全銀協の活動を自粛したいとの申し出があり、それを協会として受理をしたわけであるが、今回の事態については、何れも大変残念なことであると思っている。
 特にUFJ銀行におかれては、経営刷新により不退転の決意で経営改革に取り組んでおられるところと認識している。一日も早く信頼の回復を果たされることを期待したい。
 全銀協では、「倫理憲章」を制定し、コンプライアンス推進検討部会における活動、会員銀行を対象とした講演会、勉強会なども実施しており、コンプライアンスの強化に取り組んできたが、引続きこうした活動を通じて会員銀行の意識を更に高めてまいりたいと考えている。
 申しあげるまでもないことであるが、銀行はその公共的使命、あるいは、社会的使命といったことから、一段と高い企業倫理が求められているわけである。銀行界の信頼を回復していくためには、各行が銀行の社会的責任の重要性を受け止め、経営体制や管理体制の向上に、不断の努力をもって取り組むことが、まずもって重要なことであると考えている。


(問)
 先日、ダイエーの産業再生機構を活用した再建が決まったが、ダイエーの再建問題について、一連の経緯などを踏まえて総括して、所見を伺いたい。
(答)
 個別銀行としてお答え申しあげる。
 今から2年半あまり前の平成14年2月に策定した3ヵ年計画があり、これを達成すべく会社側においても懸命の努力をしてこられたと思う。しかしながら、その後の情勢変化を考えると、再生の大幅なスピードアップが必要であるという認識になったということである。その理由は、まず第1に、個人消費回復の足取りの重さ、その中でもダイエーの主力事業であるGMS業態に対する消費者意識の変化等から、売上がどうしても計画比未達ということが続いてきたこと。第2 に、新しい会計基準、これは減損会計であるが、その導入ということ。3番目には、色々な要因からダイエーの信用問題というものが目に付いてきたこと。こういったことから、今申したようにスピードアップが必要になってきたということである。
 そこで、我々は会社側と、新たな中期計画の策定について議論を進めてきた。その際には、まずは、問題解決を先送りしない、言い換えれば問題処理のスピードアップを図ろうということ、2番目には、再生が確実に成し遂げられる再建プランにしようということ、それから、計画策定等のプロセスについて透明性を確保していこうということ。こういったことについて、色々と議論を進めてきた。この過程において、もし金融支援を必要とするのであれば、今回は3回目でもあるので、計画の立案ならびに金融支援額の算定等全てについて、これまで以上に高い透明性と確実性が必要となってくるので、銀行側は産業再生機構の活用が最善と判断し、会社側に申し入れたということである。その後の経緯については、いろいろと報道されているとおりであり繰り返さないが、ようやくにして、今般合意に至り、今、ようやく再生プラン策定のスタート台についたというところである。
 今後、スケジュールに従って進められていくが、再生計画の策定に向けて主力行の一角として、十分な助言・サポートを行っていきたいと考えている。
 一般論としても、ダイエーなど大口債務者の再生ということと、金融システムの信頼回復ということはコインの裏表の関係にあるので、引続き、全力をあげていきたいと考えている。


(問)
 下期の日本経済の展望と、このところの原油高の経済への影響について伺いたい。
(答)
 今年度下半期についても国内景気の回復傾向は持続するであろうと見ている。ただし、昨年の後半以来のような高い成長率はまず期待できず、いわゆる巡航速度に向けて減速していくことは避けられないと思っている。原油の高騰ということについては、ご承知のように、足許では、WTIの先物ベースで50ドル台半ばと歴史的な高水準にある。そしてまた、ここ1年ほどで倍近くになるという上昇のペースも大変速い。この影響については、いろいろな見方があるが、わが国は米国や中国に比べると相対的には影響が小さいのではないかという見方が多い。確かに、そのような面があると思うが、決して楽観はできないと考えている。原油高は、ガソリン価格、あるいはこれから需要期に入る灯油価格の値上げを通じて家計を圧迫するほか、企業収益を悪化させる要因になる。企業収益については、コストアップ分を売上増加あるいは輸出増加によって吸収できるのではないかというやや楽観的な見方もあるが、ここのところはそう楽観できるものでもないとみている。このように原油高が続くことは、一方においては拡大モメンタムがやや弱ってきている米国経済を失速させるおそれがあるほか、中国についても、エネルギー効率が日本に比べるとよくないということであるので、経済を下押しするリスクもある。その場合は、輸出の減少を通じて、わが国の景気を予想以上に悪化させる可能性もないわけではないので、十分な注意が必要であろうと考えている。


(問)
 ダイエーが産業再生機構の支援要請を決めた日、我々のなかで空白の6時間などと一部報道されているが、そのなかで経済産業省が最後までダイエーの方に自主再建という圧力をかけていたという話もあるが、それについてどう考えるか。事実を把握されていないなら、仮にそういったことがあったのならどう考えるか。また、ダイエーが保有のホークス球団について、新たにソフトバンクが買収の名乗りをあげている。これについて会長の所見を伺いたい。
(答)
 経済産業省が、ダイエーの再建問題について、非常に深い関心をお持ちであったということは承知をしているが、私どもは経済産業省と直接コンタクトがあるわけではないので、ダイエーとの間でどういうことが行われたのかということは、正直申しあげてわからない。したがって、これについてコメントをするということは私自身できないが、私と高木社長との話し合いのなかで、高木社長がダイエーにとって重要なステークホルダーの一つに経済産業省をあげられたということが、非常に印象強く残っている。
 ダイエーホークスについては、産業再生機構、そして銀行、ダイエーの間で再生プランを策定し、新たなスポンサーが固まってきたという段階において、球団をどうするのかが決められるということになると思うが、これはまだこれから数ヶ月先のことになるであろうと思う。時期について、何時とはっきりと申しあげるわけにはいかないが、私はそんなタイミングではなかろうかと思っている。ソフトバンクが、早々と手を挙げられて、福岡県知事等にもお会いになったということを新聞報道で承知しているが、今は、どなたも何とも言えないのではなかろうかという段階であると思う。


(問)
 今のホークスの関連で確認であるが、数ヵ月先のことになるであろうということは、来シーズンに間に合う形でダイエーが球団を手放すことは難しいという認識か。
(答)
 これはプロ野球機構が決定されることであるので、私があまり確たることを申しあげられないが、今までの新規参入等のご議論を聞いていると、ちょっと来シーズンには間に合わないのではなかろうかな、というように感じられる。また、スポンサー次第では、ダイエーがそのまま保有を続けるということも十分あり得ることであり、売却と決まったわけではないと思う。


(問)
 ダイエーの問題が一応決着をみたところで、いわゆる不良債権という大きな山についてはだいたい終結の方向で進んでいると思うが、銀行側の貸し手責任というものについて改めて総括をお願いしたい。
(答)
 貸し手責任問題というのは、過剰債務企業になれば貸し手の責任だという論理は、成り立たないのではないかと思う。本来、貸し手責任ということは、例えば、企業が新しい工場を作り、その工場の建設資金を銀行が融資する場合、その工場が公害を発生させる事業・設備であったとして、その点について十分な検討が行われないままに融資をし、工場が完成して稼働を始めた結果、公害が発生した、こういったケースについて問題が発生することと理解している。きちんとした企業が、色々と事業拡大を検討し、その計画を銀行も十分に吟味をしたうえで融資を続けた結果、企業の思惑が外れて売上が十分に伸びず、企業の規模に対比して債務が過剰になってしまった、というようなケースについては、貸し手責任という問題は生じてこないのではないか。十分な検討をせずに融資を続けるということについては論外であるが、きちんとした検討が行われているという限りにおいては、その結果については、事業に失敗して不幸な結果を招くということもあるわけである。それは貸し手責任ということではないと思う。


(問)
 シティバンクのプライベートバンキング業務についてであるが、日本の国内の銀行が引き受けることがありうるのかどうか。顧客や業務を引き継いだり、そういった話し合いが進んでいるのか。もしくはシティバンクからこういったことをやってほしいという依頼があるのか。
(答)
 シティバンクのプライベートバンキング部門をどうされるのかということについては、私には残念ながら情報はない。どこかの銀行、証券会社とそのような話をされているのかということについてもわからない。


(問)
 先ほど、ダイエー問題の関係で、再建計画策定をスピードアップさせなければいけない理由として3点あげられたが、その中で、ダイエーの信用問題についていろいろな面で目についてきたという言葉があったが、ダイエーの信用問題とは具体的にどういったことか。ひとつには、銀行との対立で、再建計画策定自体が長引いてしまったことが最大の信用問題ではないかという気もするが。
(答)
 それは終盤における話であって、信用問題にかかわるので具体的に申しあげるわけにはいかないが、いくつかのことが感じられたということである。


(問)
 ダイエー問題に関しては銀行の貸し手責任はなかったというのか。
(答)
 貸し手としての責任という類のものではない。ただし、結果として、融資の失敗という責めは免れないと思う。


(問)
 今後金融支援ということになると思うが、それはある程度貸し手責任を認識しているので金融支援に応じるというロジックではないのか。
(答)
 必ずしもそうではなく、銀行側として経済合理性を判断したうえでのことである。まだ、具体的にどういう金融支援が必要なのかということはわからない。今後、産業再生機構のデューディリジェンスが進められ、それが終了した段階において再生プランを策定し、その中でどれほどの金融支援が必要かということが決まってくるという流れである。今は何とも申せないが、我々として、金融支援を行う、例えば債権放棄に応じるというのは、我々の債権放棄の経済合理性の観点からの判断である。


(問)
 貸し手責任はなく、融資が失敗だったという話であるが、なぜ2度も金融支援を行った後、さらに3度目が必要になったのか。その過程において、銀行は合理的に判断した、いろいろ検討したというが、結果的には2度もやって、3度目の正直を今やろうとしているわけである。一体どこに問題があったのか。一生懸命やったことはわかるが、結果的にこのような事態になったことについては、銀行として、どこに問題があったのか。その辺をもう少し具体的に説明していただきたい。
(答)
 先ほども申しあげたが、前回の金融支援においては、3ヵ年計画を策定し、それに基づいて経営が行われてきたが、その3ヵ年で再建が終了するというものではなかったわけである。しかしながら、先ほども申したとおり、例えばダイエーの主力事業であるGMS業態、これはダイエーのみならず、各大手スーパーさんがこの業態について非常に苦労されているが、ダイエーにおいても、やはり、顧客のGMS離れに大変悩んできていることが、変わったという点である。それから、減損会計を導入しなければならないとの問題が出てきた。こういった客観情勢の大きな変化の中で、再建期間を大幅に縮めていかなければならない。スピードアップをしていかなければならない。産業再生機構ができた時も、3年で出口を見つけましょう、つまり3年で再建期間を終了しましょうということとされた。そういった点からすると、ダイエーのこれまでの再建計画では、再建期間が長すぎる、もっと短縮しなければならない、スピードアップしなければならない、こうしたことが新たな再建計画を策定しなければならない大きな原因である。


(問)
 思ったより世の中のペースが速かったというように聞こえるが、むしろ、どの程度悪かったかを銀行がきちんと認識していなかったからではないか。あるいは、債権放棄の額が少なくて足らなかったからではないか。その点をどのように考えるのか。世の中の速度が速くなったから追いつけなくて、事態が変わったからこうなったというのは、冷静な銀行では考え難いことではないのか。
(答)
 再建計画の策定に際しては、十分な検討がなされていると思う。すべて完璧かといわれると、それは足らざるところはあったろうと思う。完璧なものなどというのはあり得ないわけであり、それは認めざるを得ないが、その時点において最大限の努力がなされたということは間違いないと思う。


(問)
 ダイエーの話を産業再生機構との連携という面で見ると、最初は少し温度差があると言われていた銀行側と機構が非常によく連携を取ったケースではないかと思っている。債権の買取は今年度末までであるが、この時点で終わりにしてこれからは民間主導になっていくべきか、それとも一部に出ているように、もう少し買取期間を延長して欲しいという意向をお持ちか。
(答)
 我々から、買取期限の延長をお願いする考えは無い。再生機構の方も、たぶんそうであろうと思う。


(問)
 ダイエーの高木社長が辞任するということになり、後任の人選をされていると思うが、高木社長を巡って、簡単に経営者としてどんな人であったか、振り返っての感想と、次にダイエーの経営を担当される方はどのような方がいいのか、その辺の期待も込めてお聞きしたい。
(答)
 高木社長は、ダイエーからリクルートを経て、鳥羽社長の後に戻られたという経歴であるが、大変数字に強く、内部管理面では非常にしっかりとした経営をしてこられたと思う。ただ、肝心のエンジンである営業面について、決して高木さんが努力されなかったということではなく、いろいろな方策を講じて営業面の回復に努力はしてこられたにもかかわらず、その成果が十分にこれまで実ってこなかったという点は、大変残念なことであったと思う。今後、新しく選ばれる経営者は、すぐ決定されることになると思うが、再生機構を中心とした再生プランの策定、これに際して、確実にそしてスピーディに再生できる、また、それが市場でも評価されるプランを、しっかりと策定していただきたい。それが、まずは新しいトップに対する期待である。