2005年5月24日

前田会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)

斉藤常務理事報告

 本日は、理事会および総会を開催し、まず、平成16年度の事業成績報告および決算を諮るとともに、理事・副会長の補充選任および平成17年度の監事の選任を行った。
 具体的に申しあげると、第二地方銀行協会の会長交替に伴い、北洋銀行の高向頭取が理事ならびに副会長を退任され、理事の後任として、京葉銀行の綿貫頭取を選任した。また、副会長の後任として東日本銀行の鏡味頭取を選任した。
 なお、平成17年度の監事については、山梨中央銀行の小野頭取、百五銀行の前田頭取および学習院大学の前田名誉教授の3名を選任した。3方とも重任である。
 次に、お手許に、本年1月から3月における「盗難通帳による払出し件数・金額」および「いわゆる偽造キャッシュカードによる預金等引出し」等に関する会員アンケートの集計結果をお配りしている。 その最終頁にあるが、偽造キャッシュカードによる預金等の引出しに関する集計結果のうち、平成17年1月から3月の間の件数は80件、金額は1億2,800万円となっており、前の四半期から約6割の減少となっている。 さらに理事会では、準会員として、イタリアのトリノに本店があるサンパオロ・イミ銀行ならびにスペインのビルバオに本店のあるビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行の6月1日からの加入を承認した。 最後に、これは全国銀行個人情報保護協議会に関する事項であるが、本日開催したこの協議会の理事会において、みちのく銀行の本年4月の個人情報漏洩事案に対し、協議会規約第4条にもとづき、個人情報保護指針の遵守のため、会長名により再発防止策の徹底等を勧告することを了承した。

会長記者会見の模様


(問)
 いわゆる盗難キャッシュカードの問題で、先般来、全銀協としても補償問題等で検討されていたかと思うし、一方で、与党において議員立法の動きが進んでいる。また、金融庁のスタディグループの動きもある。こういうこともにらみながら、現時点での検討の結果なり今後の構成についてどういう考えかをお聞かせ願いたい。
(答)
 前回も報告したが今年の2月に金融庁の監督局内に「偽造キャッシュカード問題に関するスタディグループ」が設けられ、全銀協も委員として参加し、偽造キャッシュカードに関する補償の議論が行われ、3月31日に「中間取りまとめ」が公表された。このような議論を踏まえ、偽造キャッシュカードに関する被害については、「原則、補償する」ということで、先月申しあげた。
 その後、金融担当大臣からの要請により、盗難カードの問題についても同じくスタディグループで集中的に議論が行われ、5月13日に、盗難キャッシュカード被害に関する補償を中心とした「第二次中間取りまとめ」が公表された。 金融庁のスタディグループの議論について申しあげると、偽造キャッシュカードについては、偽造されやすいキャッシュカードを金融機関が提供していることに問題があるという考え方に重きを置き、預金者に重過失が無い限り、原則、預金者の負担はないとの整理が行われている。一方、盗難キャッシュカードについては、金融機関の側にはシステム提供者として預金の安全性への信頼性を守る責務がある。一方、預金をしている預金者側にはカードが盗難されたことについて何らかの過失があると推認されるということで、損失負担を原則折半とすると整理されたと理解している。 偽造と盗難については、金融機関・預金者間の過失・損失負担の関係について、考え方に差をつけており、似た部分もあるが明らかに違う部分の方が多いわけであり、スタディグループでの議論は妥当なところで落ち着いたものと理解している。
 こうした観点から前会長行時代からメンバーの一員として議論に参加しているという経緯も踏まえ、金融庁のスタディグループ「中間取りまとめ」に則って、偽造のみならず、盗難キャッシュカードについても、現在、約款の改定手続きを行っているところである。
 一方、いわゆるなりすましなどの犯罪の防止、被害額を減少させる観点から、IC付キャッシュカードや生体認証方式の導入、また、1日あたりの預金支払限度額の引下げ、生年月日など類推されやすい暗証番号を使用しないことの徹底等、預金者の方々のご理解とご協力を得ながらそれぞれの銀行で各種の対策を検討しており、既に実施しているところもある。この面についても、対策を打っていく必要があると認識している。
 その際、盗難保険付預金商品の開発や、1日あたりの支払限度額を自由に設定することを可能とするなど、ここでは安全性と利便性について預金者の方々により多くの選択肢を提供することが重要だと考えている。
 いずれにしても、預金の安全性向上のための諸施策に金融機関として積極的に取り組む必要があると考えている。
 既に自民党で立法化の議論がされていることも、また、民主党は既に法案を提出していることも承知している。それぞれの論点は、必ずしも完全に同じではないが、全銀協としては、私どもが参加しているスタディグループの意見を尊重しながら、なおかつ立法化の動きに対しても適切な対応を取っていきたいと思っている。


(問)
 先般、05年1-3月期のGDP速報が発表され、それなりに良い数字だという評価もある。景気認識について伺いたい。それに関連して、先週末の日本銀行の政策決定会合で、いわゆる量的緩和の誘導目標の下限一時割れの容認が、なお書き対応という形で加えられたが、これをどう評価するか、この2点についてお聞かせ願いたい。
(答)
 景気の動向についてであるが、先月と大きく変わったことはない。設備投資が緩やかに拡大しているなかで、個人消費は年明け以降は持ち直している。また、IT・デジタル分野の在庫調整にも進展が伺われる等、明るい兆しが見えており、1~3 月期の実質GDP成長率は、年率で+5.3%という高成長となった。これは、個人消費や設備投資の拡大が主因であると認識している。
 ただ、米国や欧州の景気拡大テンポがやや弱まっていること、またアジア地域でIT関連製品の在庫調整が続いていることなどを背景に、輸出の回復が遅れている。このため、景気は足踏み状態を完全に脱するということではないと思う。
 企業の設備投資意欲は旺盛であり、個人の消費マインドも所得環境の改善を背景に緩やかな改善が続いていることから、今後も国内の民間需要は底堅い推移が見込まれる。一方、欧米の景気の先行きに不透明感が残るため、輸出の早期回復は見込み難い状況にある。景気がはっきりとした回復軌道に復するには、今しばらく時間を要するのではないかと思う。
 また、先般、中央銀行が量的緩和についての見解を出している。私どもは、コメントする立場にないが、あえて個人的意見を申しあげると、今回の一時的な下限割れ容認は、あくまで「技術的」なものであるとの説明であり、私もその通りだと思う。量的緩和政策の枠組みの変更ではないと認識している。
 量的緩和策については、消費者物価に基づく明確な約束に沿って続けられていることから、今後も現状の枠組みに沿った運営が図られると認識している。
 現時点でも緩やかなデフレが続いている以上、今すぐ政策変更が可能な状況にはないと認識している。しかし、景気の回復、デフレの緩和など政策環境が若干変化していることも事実であり、今後の対策については当局において十分な検討がなされているものと理解している。


(問)
 先ほど盗難カードの件で、自民党の立法化作業については適切に対応すると言われたが、具体的にどういう対応があるのか教えて欲しい。
(答)
 私どもは法案を云々する立場にはなく、国会で審議いただくことになると思うが、ただそうは言っても法案としてどういう形になるかによって、私ども金融機関として運営が困るような状況になれば、預金者の利便性に影響が出てくる。そういう意味で、いろいろなことを検討していかなければならないと思う。


(問)
 スタディグループの議論の結果が、損失負担についてはそれぞれ約款の改定で対応しましょうということに対し、党の方の動きは立法化、法案化するということで議論が動いているように思うが、その点については、全銀協として受け入れられるのかどうか。
(答)
 我々は約款の改定で対応させていただきたいと思っているが、立法化されて法律が通るとそれに沿った形で約款を変えなければいけないことになると思う。ただこれは仮定の問題であるので、もう少し情勢を見ながら対応させていただきたいと思う。先ほど申しあげたように盗難についても約款の改定を含めて全銀協としては準備作業に入っており、法案が出てきた場合には、それを見ながら対応させていただきたいということである。


(問)
 盗難カードの関係であるが、これまでの与野党の議論の中で、盗難被害に対しての預金者の過失について立証責任を金融機関が負わなければいけないとうような考え方が出てきているが、この考え方についてどのような所見をお持ちか。
(答)
 率直に申しあげて、盗難の立証を金融機関がするのは非常に難しいと思う。警察庁のデータを見るかぎり、実際に起こっている盗難の類型で一番多いのは、車上ねらいであり3割以上に及んでいる。そういう意味では銀行の外部で起こっているケースが多く、金融機関が盗難の状況を立証するのは、率直に申しあげて非常に難しいと思う。
 そういうケースを含めて、スタディグループで、いわば被害者と被害者の間で補償の割合をどうするかを研究してきたわけである。
 もちろん一番悪いのは盗んだ者であるが、残念ながら犯罪が完全に無くなることはないので、それぞれの当事者が損失割合を、納得的なところにうまく調整できるとよいと思う。現在、いろいろなケースについて検討しているが、ある程度、原則を作って、後は個別で考えるしかないということではないかと思う。


(問)
 これに関連して、今日も発表された盗難通帳と偽造カードについては、こうした統計があるが、盗難カードについては、一部SGの報告でもサンプル的なものは出ているが、全体的な被害状況はまだデータが、銀行業界として把握しているデータがないが、今後、そういったものを全銀協としてまとめていく、アンケートなりでまとめていくという考えはあるか。
(答)
 スタディグループのアンケート調査はサンプリングであり、基本的に盗難に関するデータを銀行で整備するのは、難しいと思う。もともと盗難の話であり、預金者が警察に届け出て、警察庁がデータを分析されるということではないか。銀行には捜査権があるわけではなく、調べることはできても、それ以上に統計化するといった対応はなかなか難しいと思う。


(問)
 原則を作ってやるしかないという話であるが、おそらく、引出限度額とか、モニタリングの導入、もしくは盗難保険の部分とかでガイドラインを作って、もし、ある程度共有化できることがあれば、共有化するということであると思うが、その原則を作っての部分で、今何か話をすることができることがあれば、お願いしたい。
(答)
 損失負担については、金融庁スタディグループが公表したとりまとめ案をベースに検討していくしかないと思う。約款についてもスタディグループをベースに検討することになるが、最終的には個別事例それぞれについて判定するしかなく、判定がつかなければ裁判になるということになろう。


(問)
 銀行決算が、ちょうど真っ盛りではあるが、大きく黒字転換に変わっていく銀行決算の位置付けと今期以降の銀行業界の新しい課題と展望についてお話いただきたい。
(答)
 私どもは、昨日決算発表したが、各行決算発表をしている最中であり、詳細は承知していない。全体的に申しあげると、ペイオフが解禁となり、不良債権問題は少なくとも峠は越したと思う。いままで金融再生を前提にしてやってきたが、これからは金融改革プログラムも出てきて、利用者にどのようなサービスを提供するかということに、少し方向が変わってくるのではないかと思う。かつてはほとんどの銀行が赤字になるなど、非常に厳しい状態が続いた。今回の業績修正ベースで、まだ確定値は出ていないが、おそらく銀行全体で、黒字になると思う。そういう意味では長いトンネルを通り抜けて明るさは出てきた。
 ただし、資金需要の観点から見ると、とても強いとは言えない。個別行で申しあげると、去年の上期に比べて下期の資金需要は、横這いから若干プラスというところまで来ているが、銀行によっては若干の差があり、長いトンネルを抜けて少し前が見えてきたのかな、と思う。と言っても、先進国でこれだけデフレが長く続いている国はなく、デフレの解消がないと本格的な回復というのはもう少し時間がかかるのでは無いか。ただし、景気が底割れするような方向に行くことはまずないと思う。それぞれの金融機関が特色を出しながら、お客さまへのサービス提供に、より多くのエネルギーを傾けられる状況になってきたのではないかと思っている。


(問)
 国会の方では郵政民営化特別委員会の審議が止まっているが、改めて郵政民営化法案の評価と現在の審議状況についての考えをお聞かせ願いたい。
(答)
 先月も申しあげたが、最も重要なことは、郵政民営化の原点はなんだったのかということであると思う。これは大きくなりすぎたことが問題であり、郵貯と簡保を足して300兆円以上という大きなお金が市場の外にある現状をどうやって変えるかが原点である。法案を評価する立場にはないが、そういう意味で政府が昨年打ち出した大きな方向については、全銀協として反対している訳ではない。現にこれだけ大きくなっているこの2つの巨大なお金のかたまりをどうやってソフトランディングさせるかという運営面で、10年という非常に長い移行期間において、規模の縮小がうまく行かないと、かえって民営化もできなくなる恐れがあるのではないかと思う。そういう意味で、法案がどうなるかということにも非常に関心があるけれども、むしろその後のフォローや実体がどうなるかについての方が、それ以上に関心があるところである。


(問)
 政府系金融機関の見直しの論議もこれから本格化していくが、改めて、政府系金融機関の見直しの論議に関する会長の所見を伺いたい。また、保険の窓口販売の全面解禁が延期されるという方向のようだが、これについての考え方を伺いたい。
(答)
 まず最初に、政府系金融機関の整理の方向については、適切な方向だと思っている。基本的に、政府系金融機関は政策金融をしている訳であるから、政策目的が終わった場合には止めるのが筋ではないかと思う。政策目的が依然としてあるのであればそれをやればいいと思う。組織が先にあるのではなく、政策が先にあるはずだと思う。ただ、往々にして時間が経つと当初の政策目的から変質してくるので、この過程で常に当初の目的に戻って見直すということではないか。今回、8機関を見直すということであるが、数をいくつにするということにはあまり関心がなく、むしろ政策目的に合っているかどうかということをよく見直していただきたい。
 保険の窓販の全面解禁が遅れているが、銀行界としては必要以上にガードをかけられると、結局販売すること自体が難しくなる。ルールに則って販売するのは当り前であって、それを我々は甘くして欲しいと言っているのではない。ガードは下げたうえでペナルティは厳格に課すというのが自由化の本来の方向ではないかと思う。そのうえで、できるだけ早く全面解禁していただきたいと思う。


(問)
 個社の話になるが、本日、西武鉄道の臨時株主総会が開かれており、色々議論がされているようだが、先般作られた委員会の再建案がたたき台のひとつだという発言があったと聞いている。銀行サイドとして今後の西武鉄道・コクドの再建のあり方をどのように考えているか、可能な限り伺いたい。
(答)
 申し訳ないが、基本的に個別企業のコメントを全銀協の場でお話しするのはふさわしくないと思っている。私どもが認識している限りでは、鉄道というのは公共性の高い事業であるので、ガバナンスがきちんとした形になれば良いというのが、我々の願望である。


(問)
 人民元の切り上げの話というのが大分華やかになってきているが、感想を伺いたい。
(答)
 切り上げをするか、しないかというのは、まさに当事国が決める問題であり、あまり外国からとやかく言うものではないと思う。当然、中国で自分のことは考えていると思う。切り上げにメリットもあるしデメリットもあるのは当然のことであって、経済問題だけで決められないのも当然である。国内の問題、産業の問題等に全部絡む。
 ただ、現実にこれだけの貿易大国になっていて、われわれとの交易も非常に大きなものがあり、アメリカともある。為替についてはある意味では変動の幅が非常に少ないということについての不満は常に起こりうることだと思うが、それ以上に我々が外から言うのはふさわしくないと思う。