2005年10月18日

前田会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)

斉藤常務理事報告

 (なし)

会長記者会見の模様


(問)
 先日、郵政民営化関連法案が成立し、当日もコメントを出されたが、改めて評価と大きな流れで言うと資金の流れにどういう影響を与えるか、期待も込めて語っていただきたい。
(答)
 郵政民営化法案の成立に関しては、コメントを出しているが、改めてこの郵政民営化の意義について申しあげる。郵貯銀行については、他の金融機関との公正な競争条件を確保する観点から、2007年10月の民営化の当初から、政府保証の廃止と預金保険料の支払い、納税義務を負う、適切なリスク遮断を行う観点から、新旧勘定の分離、持株会社による郵便貯金銀行株式の完全処分等が規定されており、問題解決のための前進であると考える。
 ただ、前から申しあげているが非常に長い10年という移行期間を経て完全民営化されるわけであり、この間に公正な競争条件が確保されないままで、経営の自由度だけが先行して拡大される懸念がある。それが起きると、実質的な官業の一段の肥大化を招き、民営化が逆に困難になることとなる。そういう意味で移行期間中の業務拡大にあたっては、民営化委員会のチェック機能が極めて重要と考える。また、民営化委員会の運営にあたっては、やはり中立的な第三者の意見に加えて、民間企業との共存に向けて民間金融機関の意見を十分に尊重されることが必要だと思う。民間にできることは民間にというのがベースであるので、ここで変な形とならないようにしていただきたいと思う。
 また、この会見の場を通じ、また衆議院の特別委員会で参考人として、何度も申しあげているが、私どもは、郵便貯金の本質的な問題は、基本的にはこの規模が極めて大きいということが最大の問題であり、この大きいものを放置したままで何かするということは何の問題の解決にもならないということである。その資金が市場原理の埒外に置かれていることにより、わが国金融市場の公正な価格形成を歪め、効率的な資金配分を阻害しているということである。この一番大きな問題を解決することが、民営化本来の目的であるので、ただいまのご質問で資金がどうなるかについては、本当に民間の方に流れるような形で動かないとこの民営化は失敗だということだと思う。
 2017年の完全民営化までの間に、官から民へという経済合理性に基づいた資金の流れが出るような形に是非なってほしいと思う。
 もう一つは、やはり郵便貯金銀行がどういう銀行になるかということについてもわれわれとすれば非常に関心があるところである。規模として、われわれが聞いているのは数十兆円程度という数字であるが、これは都市銀行1行分くらいあるので、運用をどういう形でするのかを解決しなければならないと思う。そういう意味で、実態的にどういう形で民営化されて、かつ完全な形で民営化されて普通の銀行になれるのかが、重要だと思う。


(問)
 市場では、量的緩和策の解除が来春にもあるのではないかということで、金利が少し動き出したが、会長の現状の景気認識も踏まえて、量的緩和の解除、あるいは金融の正常化という問題についての評価、あるいは考え方についてお答えいただきたい。
(答)
 この件に関しては常に申しあげているが、これは日本銀行が行う金融政策であり、コメントする立場にないが、私どもと認識に大きな差はないと思っている。
 基本的には量的緩和策については、消費者物価がプラスになるというのが一つの目安ということだが、そういう方向に向かっていると思う。また、景気の回復が更に進んでくると政策変更の可能性はいずれ高まると思う。時期については、私どもが申し上げるのは相応しくないと思う。
 一方で景気に関して言えば、国内の民間需要が拡大基調を維持するなかで、懸案となっていたIT・デジタル分野の在庫調整もほぼ終わったようであり、総じて堅調に推移していると思われる。エコノミストのコンセンサスも景気回復が持続するというもののようである。
 ただ、9月の日銀短観業況判断DIは、全体では小幅改善にとどまっており、先行きについても、慎重な見方が続いているようである。また、原油価格については引き続き高いところに止まっており、これがアメリカ経済にどういう影響が出るか、また中国などにどういう影響が出るかという点も注意深く見る必要があると思う。そういう意味では一方向に良くなるという感じではないと思う。
 ただ、貸出金の全体の数字が8月、9月と前年対比でプラスになっているので、従来と比べて状況は良い方向に向かっている。ただし、景気回復に伴い、資金需要がどんどん増加するかというと、私は少し慎重に見たほうが良いのではないかという感じがする。


(問)
 今日、UFJ銀行でATMに盗撮カメラがしかけられていたという発表があったが、こういった盗撮についての今後の対応、あるいは見解を伺いたい。UFJでは9月上旬に発覚したという話があり、その後、警察の方から何か各行に注意喚起を呼びかけるものがあったのかどうかを含め、お聞きしたい。
(答)
 本件について、そのような報道があったことは存じあげている。ATMに関しては様々な事件が起きており、ATMを暴力的に壊して持って行くものから、今回のように覗き見するためのカメラを中に置いておく手法まで様々である。金融機関としては、ATMコーナーにモニターTVを設置するなど預金者を守るべく様々な観点から各種の対策を行っている。今回の事例については先月警察から注意するようにとの警告はいただいており、銀行協会から各行に注意通達を発出した。勿論みずほ銀行についても同じようなことをやられていないか見回ったが、そのような事態はなかった。このように犯罪は、多様化していくので、サービスを提供する金融機関として、常にセキュリティ確保のための努力を行い、犯罪を抑止するようウォッチしていく。


(問)
 2点質問する。
 1点は、郵政民営化に関連して、民営化会社の経営陣をにらんだリストに関連し、奥田経団連会長は民間金融機関の人は利害対立があるので望ましくないといった趣旨の発言をされ、一方で、生田郵政公社総裁はやはり経験が必要であると議論されていると報道されている。この点について前田会長さんとしてはどのようにお考えか。
 もう1点は、趣が違う質問で恐縮だが、昨日、小泉首相が靖国神社に参拝し、私的参拝というか、形式は今までとだいぶ変えたとのことであるが、これへの評価をお聞きしたい。
(答)
 まず、民営化会社の経営陣の問題だが、報道で存じ上げているが、率直に申しあげて、民間人でなければならないとか公務員出身ではいけないとかいう切り口はあまり相応しくないのではないか。民営化して新しい形でビジネスモデルを立ち上げるわけであるから、それに相応しい能力のある方がそれに就くのが一番相応しい。郵貯銀行というのは銀行だから、銀行の経験があればよいし、経験がなくともそうした能力があればよい。トップがすべて1人でやるわけではないので、経営のリスクの所在等がわかっている方であれば、適材適所で行えばよいのではないかと思っている。経営そのものは大変難しいと思っているが、あまり制限を設けることは、必ずしも民営化のためにはプラスにならない。実際にきちんと経営ができるかどうかは、銀行経営では必ず決算、配当をするわけだから、それを見て皆さんがご判断すればよいのではないか。
 2番目の質問は全銀協のテーマと少し違うし、コメントする立場にない。個人的な見解としては、近隣諸国とは千年、二千年近くの長いつきあいであり、成熟した関係であればよいというのが願望である。


(問)
 先ほどのATMに盗撮カメラが仕掛けられた件とも絡んでくる問題であるが、盗難・偽造カードの補償の枠組みを全銀協でもとりまとめたが、それへの評価なり考え方をお聞きしたい。
(答)
 議員立法により法律も成立・公布され、個別金融機関で対応するためそれぞれ準備を進めており、約款についても各金融機関が手当てしていくことと思う。個々の被害の補償については、基本的には法律および各行の対応マニュアルなどに沿って、個別に解決していくことになろう。申し合せで示した過失などの事例は、あくまでも例示であり、実際には預金者からよくお話をお聞きして1つ1つの事案を解決していくしかないと思う。
 ただし、偽造カードによる犯罪については、犯罪そのものが多少なりとも減少してきている。
 金融機関も、預金者に多少ご不便をおかけしているかもしれないが、リスクを抑制する観点から、払出限度額の引下げや、ICカードの発行など犯罪抑止のための対策をそれぞれ実施している。しかし、いずれにしても、犯罪はいつどのように行われるか予測ができず、被害発生の防止のために不断の努力をすることが、金融機関の務めだと思っている。


(問)
 2点あって、1点は今の自主ルールの関係なのだけれども、自主ルールの中で過去に遡って適用するという過去の適用の部分というのが触れられていないのだけれども、そのあたりの考え方についてどう考えたらいいのかというのが一点。もう一つは、銀行法が改正され、一般事業法人が銀行の代理店となることも認められるようになるかと思うのだけれども、この代理店制度が導入されることに対して、金融業界に与える影響とかインパクト、また評価についてお願いしたい。
(答)
 はじめの点については、先般改定した全銀協カード規定試案には、過去の被害について遡及する際のルールは含まれていない。
 ただし、過去の被害については、一定のルールを決めて形式的、杓子定規にやるということではなく、良くお話をお聞きして個別に解決していくしかないのではないかと考えている。すでに訴訟になっているケースもあるように聞いているが、1つ1つ解決していくしかないだろう。今後の問題は、新しいルールである程度対応できるが、過去の問題については、どこまで遡るかを含めて、個別に対応していくしかないと思う。
 それから、2番目の点は銀行法の改正で代理店制度が規制緩和されるということであるが、本件については、基本的には利用者の利便性が上がることとなり、良い方向ではないかと思っている。サービスの拠点が増えるということは、利用者にとって良いことであるし、銀行としては店舗が足りない部分や、ネットワークが足りない部分を補完するという意味がある。但し、代理店には基本的には銀行法の規制がかからないとおかしくなる。銀行と同じレベルのサービスの質を確保することが許可の条件になっているので、代理店がこの条件を満たすことができるのかどうかを見ながら検討していくということになる。


(問)
 自主ルールの部分で、過去に遡及した部分をまったく除外するわけではないとの理解でよろしいか。
(答)
 今回改正した全銀協カード規定試案や申し合わせたルールは、今後起きる事象にはそのまま適用するが、過去の被害に関する補償については、立法の趣旨・ルールの精神に則って個別に真摯に対応するということである。
 いずれにしても、預金者と金融機関がお互いに良く話し合うしかないと考えている。双方で決着がつかずに裁判に持ち込まれるというのは望ましいことではない。そういう意味でも、附帯決議も含めて法律の趣旨に則って、預金者と金融機関がお互いに真摯に話し合っていくことが必須であると考えている。


(問)
 冒頭、景気認識のところで、景気回復が資金需要の増大に必ずしも結びつかない、ちょっと慎重に見た方がよいとおっしゃられたけれども、もう少し詳しく教えていただければと思う。
(答)
 個別行の事情はあるかもしれないが、かつての景気循環の局面だと、景気がよくなってくると、資金需要も直ちに旺盛になってきて、金利もあがるということだったが、現在の状況はゼロ金利もそのままであるし、ゼロ金利がそのままということは資金需要がそれほど盛り上がっていないということである。そういう意味では、それぞれの企業が手元資金を十分に持っていて、その中で繰り回してきたのだと思う。ただ、明らかに前年対比でプラスになっている部分がある。一つは不良債権処理がほぼ峠を越えて、減る部分が大幅に減ったということである。それから、企業は、手元流動性の中で繰り回してきたが、少し外部調達に切り替えた部分もあるのだろう。ただ、全体でみると、これらもそれほど爆発的に、ということではないという感じである。


(問)
 2点お教えいただきたい。1点目は、政府系金融機関の見直し論議が始まっているが、どういう形になるかはわからないが、会長としてはどういう方向に進んでいくのが望ましいとお考えか。例えば、一部では、政府系金融機関の一部を民営化してはどうかという案もあるようであるが、現在預金を受け入れていないような政府系金融機関が預金を受け入れるようになると民間になって脅威になると思うが、そのあたりのお考えをおききしたい。2点目は、楽天がTBSの株を買い進めているという話がでて、株を買い進める資金を銀行が融資しているという話がある。会長も資金需要があるところにはあるが全般的にはまだ盛り上がりを欠いているという認識を示されたが、それだから銀行が貸し込んでいるのかもしれないが、銀行がこういうマネーゲームを助長しているのではないか、加熱させているのではないかという見方もできると思うが、これについてはどうか。
(答)
 政府系金融機関の見直しについては、平成13年から14年にかけていくつかの閣議決定等があり見直しの検討が行われたが、その後景気が悪くなったり、不良債権問題等があり、そのままの状態になったものと承知している。ここにきて様々な課題が解消したので、改めて見直しの検討を行うということであり、これは望ましいことだと思う。私どもは民営化すれば良いということを全銀協として申しあげてきたことは全くなく、むしろ政策金融機関は当初の設立目的、何のためにやるのかということが決まっているし、その政策目的が達成されたのか達成されていないのか、ということを常に見直す必要があると思う。例えば住宅金融公庫がすでに見直されたが、これは非常に良かったと思っている。かつて私が銀行に入った頃は住宅ローンというのはポピュラーではなく、住宅金融公庫が果たした役割は非常に大きかったわけであるが、民間の金融機関が住宅ローンを十分提供できる状況になっても並存して、住宅金融公庫がプライスリーダーとなり長期の住宅ローンマーケットをリードしてきたというのは異常な事態であり、それを見直したというのは、評価に値すると思う。新しい形で住宅金融公庫が生まれ変わろうとしているが、民間と共存共栄の形になっているので一つのいい形ではないかと思う。他に8つの政府系金融機関があるが、どの機関がいいとか悪いとかいう議論をすべきではないと思う。政策目的がどうなっているのかということを不断に見直す必要があり、見直した結果、もう目的がなくなったということであれば、その部分をやめるのがスジであり、目的がなくなったから他のことをやろうというのは、違うのではないかと思う。そういう意味で、機能をよく見直していただきたいと思っている。本来の政策金融の機能、すなわち、民間が出来ないことをやる、もしくは補完する、もしくは協働してやるという部分の議論をよくすべきであり、単純に数の議論はあまり生産的ではないように思う。本来の政策目的があるもの、民間ができないことを止めてくださいと言ったことは一度も無いし、それはやっていただいた方がいいと思う。
 楽天がTBSの株を買ったということは報道で承知しているが、個別のことに関してはコメントを差し控えたい。個人的にも、これをマネーゲームというかどうかは様々であろうし、良いとか悪いとかいう評価も、人それぞれなのではないかと思う。


(問)
 ATMに盗撮カメラが仕掛けられた事件について補足的に伺いたい。全銀協として加盟各行に通達を出されたということであるが、内容を教えていただきたい。また今の銀行のセキュリティの都合を見た場合、仮に暗証番号を盗み取られたとして、カードの偽造とか、そちらの方に被害が広がっていくおそれがあるのかないのか、その辺りの見解も伺いたい。
(答)
 警視庁から東京銀行協会にATM機器及び周辺の点検依頼等がきたのは9月の終わり頃であり、今回発表されたようなことが事件として起こっているので、それぞれ加盟の金融機関に対し、点検すること、また不審物発見の際に警察にぜひ通報して欲しいという要請であった。これをベースに銀行協会は注意通達を出したということである。
 2点目について、私の知識レベルでお答えすれば、暗証番号のみで偽造カードを作るということは普通の人にはなかなかできないと思う。またICカードは既に相当普及しているが、ICカードを偽造するというのは相当困難である。
 今回の発表によれば、今のところ被害はないようであるが、犯罪の手口が益々多様化しており、どのような犯罪が行われるか想定できないので、それを前提にセキュリティの向上に不断の努力をしなければならないと考えている。今回のケースは原始的な手口のようで、これで直ちに大量の偽造カードが出回るということではなさそうであるが、根の深さはわからない。常にウォッチし続けるしかない。


(問)
 楽天によるTBSの株取得の問題で、角度を変えて質問する。M&Aに対する支援あるいはM&Aの防衛策というのは、金融機関にはこれから大きなビジネスチャンスだと思うが、M&Aを仕掛ける側と受ける側両方が銀行の取引先である場合、銀行としてどういう立場、あるいは役割を担うのかということ、純粋に株主の利益を考えて資金需要に答えていくのか、あるいは双方の取引先の立場を見ながら中立な立場を取っていくのか、金融機関の立場を聞かせて欲しい。
(答)
 あくまでも、個別に判断していくしかないと思う。どちらの立場に立つかということは、依頼された方と銀行との関係で決まるので、ご依頼にお応えする場合もあるだろうし、お応えしない場合もあると思う。一般の融資と変わらないと思う。


(問)
 今、大手銀行の間で公的資金を返済する動きが加速しているが、経営の自由度を高めるためにも早く返済したいということだが、収益の基盤も不良債権を処理した後、かなり利益が出てくるような体質になってきたと思うが、その全体の動きの評価と、公的資金を返し終わった後どういう経営をしていきたいと考えているか、この2点を伺いたい。
(答)
 公的資金は、個別行で申しあげるとみずほグループも残り社債型の優先株式6千億になったが、不良債権処理と非常に厳しい経営環境を乗り越えて、ようやく剰余金が貯まるような形まで進んできたということである。金融機関とすれば、経営の最優先課題はやはり公的資金を早くお返しすることである。公的資金を返済できる状況になったことは、日本経済全体が回復するとともに、金融機関が正常化したという意味で良いことだと思う。
 また、格付機関との関係で申しあげると、格付機関は従来は公的資金のサポートが入っているので今の格付けであり、公的資金が入っていないと更に格付けを下げるというメッセージをずっと出し続けてきた。しかし、今の状況になると、公的資金を剰余金できちんと返せば格付けは上方に見直す余地があるというメッセージを出している。日本の金融機関の格付けが下がり、競争力を無くした状態から見ると、良い方向になっている。ただし、なかなか難しいのは、これから先のことを考えると、色々な環境変化を読み込んだうえで対応していくことは、経営としても結構難しい判断が必要になる。つまり、景気が良くなりつつあるので、貸出が伸びてくると資本金も必要になってくる。その中でそれぞれの銀行が適切に判断し、かつ、当局、預金保険機構が受け入れを承認して、公的資金が少なくなっていくことは、日本経済全体にとっても、また金融機関の正常化という観点からも間違いなく良い方向だと思っている。
 それから、公的資金返済後のことについては、今後日本経済はデフレを脱却しておそらくもう少し良い方向に行くと思うので、大きな再編統合をやっているメガバンクが、再編統合した効果をお客さまに還元する状況になれば、本来の目的を達すると思う。おそらく、各行ともその方向でビジネスモデルを見直していると思うし、サービスの提供の仕方を検討していると思う。全体として、私は明らかに良い方向に行っていると思うし、制約要因がだいぶ減ってきたのではないかと思う。