2005年12月19日

前田会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)

斉藤常務理事報告

 本日の理事会で、お手許の資料のとおり、来年度の次期副会長および次期正副会長の担当委員会を内定した。
 なお、次期副会長の正式な選任は、先般の席上で内定をご報告した次期会長と同じく、来年4月の理事会において行われ、また、担当委員会についても正式な決定は、次期正副会長が正式に選任された後の正副会長会議において行われる。

会長記者会見の模様

 本日は、会長記者会見の場であるが、この場をお借りして、みずほフィナンシャルグループの社長として、12月8日に発生した、子会社・みずほ証券によるジェイコム株式の誤発注の問題について、一言お詫びを申しあげたい。
 今回の件については、みずほ証券の誤発注により、ジェイコム株式会社、投資家の皆様、市場関係者の皆様をはじめ関係各方面に多大なご迷惑をおかけした。大変申し訳なく、深くお詫び申しあげる。
 みずほ証券では、今回の問題発生後、直ちに事実関係の分析、原因究明を行い、再発防止策についても、既に緊急の対策を実施済である。また、園部元最高裁判所判事を委員長とする特別委員会において、外部の有識者によるチェックをしていただいている。
 グループの持株会社であるみずほフィナンシャルグループとしても、今後、グループ経営管理を一層強化し、再発防止を徹底することにより、二度とこのような問題が発生することがないように努力してまいる所存であり、何卒ご理解を賜りたい。


(問)
 今、会長からお話があったが、みずほ証券の誤発注を巡る問題が社会的にも大きなインパクトを与えているので、まず、最初にそのことについて、5点ほどお聞きしたい。みずほフィナンシャルグループの前田社長としてお答えいただきたい。
 一点目はみずほグループとして今回のグループ証券子会社の誤発注問題について、どのように考えているのか。経営管理体制をどのように強化していくのか。具体的にお話を伺いたい。
 二点目として、誤発注があったときの実際のみずほ証券の対応について、公表するのが遅かったのではないかとの指摘もある。社内の管理体制がどうなっていたのか、事後対応について、説明いただきたい。
 三点目に、こうした日本の経済社会、マーケットに大きな影響を及ぼす問題の再発防止に向けて、今後どのように取り組んでいくのか。
 四点目として、みずほ証券自体がかなりダメージを受けたのではないかと思うが、これはレピュテーションとしても、財務面でも今後、同証券に対してフィナンシャルグループが、何らかの形で支援を講じていくのかを聞きたい。
 五点目に、今回の問題の責任の所在についていろいろな指摘がある。東証の方もトップが引責辞任をする方向となっているが、東証とみずほ証券もしくはみずほフィナンシャルグループとの責任分担などをどう考えているのか。また、みずほの方では福田みずほ証券社長の経営責任あるいは前田社長自身の責任について考えていることがあれば教えてほしい。
(答)
 5つのご質問に順番にお応えする。最初の誤発注問題についてどのように考えているかについては、冒頭お話申しあげたとおり、極めてお粗末なミスであり、非常に深刻な事態であると認識している。
 二点目の、みずほ証券の報告等対応の遅れについては、私はたまたま海外IRの途上にあり、ジュネーブにおいて朝早く直接報告を受け、その時点で直ちに適切な対応と開示を行うよう関係方面とよく相談することを指示した。翌金曜日には帰国し、以降、事後対応について協議を行ってきた。
 事故の事実関係については、まずお客さまから注文を受けた担当者が機械に入力ミス、即ち、1株61万円の売りを、1円で61万株と誤入力をしたこと、2番目は、システム上アラームが出るようになっており、アラームが出たにもかかわらず、注文を実行してしまったということ、3番目は誤発注に気がついて取消オペを行ったものの、結局取消ができなかったということ、この3つであると認識している。みずほ証券は、当日の午後公表するとともに、深夜、記者会見にていろいろな経緯をご説明した。その他の事実関係については、みずほ証券が記者会見にてご説明したとおりであり、特に訂正すべき点はないものと認識している。
 三点目の、再発防止策については、金融庁にも報告しているが、直ちに緊急対策を実施した。今回の事案は、新規の上場銘柄で値がつかないという特殊な状況下において、アラームメッセージが出たものを無視して取引を成立させたというものである。新規の上場銘柄については、注文の入力に際し再鑑する、更にアラームが鳴った時には、別の担当者が確認した後で発注をするという仕組みを緊急に導入した。これによれば、仮にミスは起こっても修正がきくと考えている。
 四点目のみずほ証券のダメージについては、レピュテーションの面でダメージを受けたのは勿論であるが、財務面、自己資本比率等の関係で言うと、現時点では特別に何か対策が必要な状況とはなっていない。勿論、必要であれば、親会社として支援をしていく。現時点では、その他の取引を含めて通常のオペレーションに戻っているので、失われた信頼をいかに早く回復するかに、注力して行きたいと考えている。
 五点目の、責任の所在に関しては、みずほ証券が自ら起こした誤発注事故であることから、まず自らの責任を明確にし、かつ二度と同じようなことが起こらないようにすることが必要で、そのためには先ほど申しあげた緊急対応のみでは不十分であり、教育を含めていろいろなことを手当てして、再発防止に努めることが経営者の責務であると認識している。子会社の証券会社を含めて、責任については、まず原因究明と再発防止を徹底した後に考える、という順番になるのではないかと思う。


(問)
 景気の動向についてであるが、先日発表された日銀短観で、企業の景況感が引続き改善しているということが改めて確認され、日銀は量的緩和解除に向けた環境整備がさらに進んだと判断しているようだ。また、産業界の方も、春闘に向けて、賃上げに前向きな経営者の声が出てくるなど、内需中心の景気回復持続を見込む予測機関が多い。今後の景気、金融政策について、会長ご自身はどのように見ておられるか。
(答)
 日銀短観は、景気回復の広がりと持続力を改めて示すものだったと認識している。業況判断はさらに改善し、中小企業を含め多くの業種で水面上となった。販売価格の下落、仕入れ価格の上昇は一段落し、収益・設備投資計画は上方修正された。他の経済指標も、その多くが景気の持続回復を示している。
 量的緩和解除の条件が整いつつあるとの日銀の判断は、経済指標から見ればまさにそのとおりだと思う。個人的意見として従来から申しあげているように、あとは政策変更の環境が成熟したことを確認するなど、万全を期すことが重要だと思う。具体的には、物価が全体として下げ止まること、企業の資金需要が着実に増加傾向となること等が確認されることが、一つのサインではないかと思う。
 一方で、来年度の税制改正では、かつて景気浮揚に向けて導入された緊急対策的な特例減税措置の見直しが予定されており、また円高が進む可能性もある。原油価格や海外経済の動向とも相まって、市場が景気に対して神経質になることも予想される。その点も十分に考慮していただきたいと考える。
 後段の、企業の賃上げの動きが景気に与える影響をどう見るか、というご質問についてだが、報道によれば、昨今賃金を見直す動きがでているようだが、これが個人消費を刺激して景気回復の持続力を高める方向に行けばいいと思う。
 日本企業は、90年代後半以降、いわゆる3つの過剰の内、雇用面でのリストラクチャリングとして、雇用・賃金の再構築を粘り強く行ってきたわけだが、それが達成され、いよいよ事業拡大に向けて、優秀な労働力を確保すべき局面に入ってきていると思う。団塊世代の退職が眼前に迫る中で、人材の確保が課題との側面もあろう。最近のフルタイム雇用の増加や賃金上昇をそのような文脈でとらえると、改めて日本経済や企業戦略が新たな局面に入ったことを感じる。


(問)
 ジェイコムの問題について伺いたい。前田社長が報告を受けたのは、市場で公表される前であったのか、後であったのか、との事実関係について伺いたい。また、結果的に公表が遅れて市場の混乱を招いた責任、また、公表前に株主であるみずほコーポレート銀行、農中には報告するという発表のあり方の問題点についてどうとらえているかもお聞かせ願いたい。
(答)
 私が報告を受けたのは、ジュネーブ時間の朝5~6時頃、日本時間の午後1~2時頃であったと思う。先ほど申しあげたとおり、その時点で指示をしたが、既に市場が混乱をしていた。その後飛行機の中で情報が遮断された状態で帰国した。いずれにしても、対応についてご批判があったことを謙虚に受け止め、今後このようなことのないよう努めてまいりたい。


(問)
 明後日、金融審議会で投資サービス法の最終報告がまとまるが、いま議論されている方向について、全銀協会長としてどのように考えているか聞かせて欲しい。
(答)
 12月に入り集中的に議論が行われているが、本件については各業態ともそれぞれ要望をしているようである。 私としては、投資サービス法の制定により、利用者保護を強化し、我が国の金融市場を活性化することについては賛成である。
 銀行に関係するところで申しあげると、投資性が強い商品という意味で、外貨預金、デリバティブ取引、円建てデリバティブ預金などは、規制の対象という議論になっていると思うが、これは今までやっているから良いというのではなくて、利用者保護という観点から、という意味ではそのような方向になると思う。
 ただし、一方では、従来からずっと問題のない商品について、あまりに過剰な規制を入れてしまうと取引そのものが進まなくなるということもあるので、規制と同時にその反面の作用についてもよくご検討いただいて、あまりに過剰な規制を課さないようにしていただきたいと思う。


(問)
 トレーディングの誤発注は、トレーダーの話では日々見受けられるとのことであるが、今回、東証が自分達のシステムがキャンセルを受け入れられなかったということで当初の見解を変え、謝罪をして社長の辞任というところまで発展したが、東証に対してはどのような感情を持っているか。賠償責任を今後求めていくという選択肢はありえるのか。また、先ほど、緊急対策だけでは再発防止はできないだろうとのことであったが、例えばシステムの中にアラームが鳴った場合は厳重にロックして注文がとおらないようなソフトを入れるなど、システムにお金を投資する、人を増やしていく等の抜本策は考えているのか。以上、3つについてお聞きしたい。
(答)
 東京証券取引所に関しては、みずほ証券が会員会社であり、東証は市場を監督する立場である。私どもが市場を混乱させる原因を自分で作った、自分で誤発注をして市場を混乱させた、という意味で申し訳ないことをしたと思っている。東証のシステムがどのようになっているのかということについて、私どもはコメントする立場にはない。市場を利用する人が、共通の端末を使ったり、それぞれ独自の端末で接続できるようにしたりしているが、いずれにしても市場を混乱させないという意味で様々な手当てが必要だと思っている。
 責任分担の割合については、冒頭に申しあげたとおり、私どもの責任の部分がまだ固まっていないし、完全に原因究明ができていないので、そちらが先ではないかと思っている。
 緊急対策はしたが、全体のシステムの中でどうすればこういうミスがうまく制御できるのかということについては、秒単位でオペレートしているような業務でもあるので、今のオペレートの状況を踏まえつつ、改めてリスクの所在を見直しているところである。ただし、市場を通してやっている業務がたくさんあるが、私の感覚ではすべての業務がこういう状態になっているとは思わない。本件が開示されたとおりだとすれば、われわれはガードを作ったものの自分でガードを破ったということであり、手当てはできていても守られなかったという面があったとも思っている。


(問)
 金融システム全体について伺いたいのだが、2005年は不良債権問題等も終了して、銀行の決算もかなり良かったと思うのだが、そういう意味で2005年をどのように捉えているのかというのが1点と、それを踏まえて2006年のキーワードみたいなものがあれば、説明を含めて、お教えください。
(答)
 今年1年間は、早く過ぎ去ったような感じがしている。2005年という観点から、まず日本全体について申しあげると、いろいろなことが少し良い方向に動き出したのではないかと思っている。先ほど申しあげたとおり、3つの過剰、雇用・債務・設備という構造的な問題が長くあったのだが、徐々に良くなってきたと思う。政府の見通しも来年度は若干プラスであり、デフレータもプラスに転じており、そういう意味でも、デフレ脱却が少し展望できるような状況になったのかなと思う。ここ3、4年は非常に厳しい状況だったのだが、問題を一つずつ解決して今の姿になったのではないかということだと思う。
 不良債権処理もほぼ終わったが、そうは言っても、メガバンクは終わったけれども、地銀・第二地銀はまだ少し残っているところもある。大きな塊が少し終わり、先が少し見えてきたということだと思う。
 ペイオフの解禁にしても、大きな混乱もなく、また、解禁するとかしないとかいう議論もなく、終わったような気がする。また、公的資金についても、2、3年前であれば、私どものグループのことを考えても、公的資金をいつまでにどれくらいお返しできるかということについて、確たることを申しあげることができず、またいつになったら完済できるのかということもお話できる状態になかったのだが、来年度中には残りの6,000億円をお返しできるところまできたということである。
 それから内外の格付機関の格付も、ほぼ一致して上方修正の方向に動いており、日本の金融システムが正常化しつつあるということではないかと思っている。それから郵政民営化、政策金融改革等の構造改革について大きな方向感が確立したという意味では、画期的な年ではなかったかと思う。
 来年については、われわれは自由化や規制緩和等をこれまで求めてきており、こうしたことをとおして、利用者の利便性を高めるというのが私どもの願望であるが、その一方で、自由化の裏返しの部分、即ちリスクマネジメントの部分は、さらにそれぞれの金融機関が必死でやらないと、何が起こるかわからないということだと思う。非常に恥ずかしい話であるが、我々も誤発注という想定外のミスを起こしてしまった。人がやることなので、ミスをしないことを前提にシステムを作るのはどうかと思うが、アラームを作ったけれども、そのアラームも外れてしまうこともあるという点も含めて、リスクマネジメントをさらに強化することでバランスのよい金融機関経営ができるのではないかと考えている。
 官から民へ、貯蓄から投資へと、資金の流れが少し変わる方向が見えてきたことに関しても、日本にとっては良い方向ではないかと思う。かつて民から官にシフトが起こった原因は、民間がだらしなかったからだと思っているが、今度こそ民間は肝に銘じて、そういうことが起こらないような経営を必死でやらないと、またいつか来た道になる惧れがあると思う。


(問)
 三井住友銀行が、公正取引委員会から排除勧告を受けた件だが、会員行の中でそういった事案が起きたということについて、どう受け止めているかということと、銀行の優越的な地位を濫用して、顧客にとって望まない商品を売るということは、個社レベルの話なのか、あるいは銀行界全体でそういうことを招きかねない行動のようなものがあるのか、考えを伺いたい。
(答)
 三井住友銀行の話については報道以上の内容は存じあげていないが、いずれにしても銀行が優越的地位を濫用するというようなことは、あってはならないことと認識している。
 私どもが3行統合したときにも、公正取引委員会からくれぐれも優越的地位を濫用して業務を行うことがないように指導をいただいており、そうしたことがないように肝に銘じてやってきたところである。
 また、私どもは1兆円増資を行ったが、その時にも、間違ってもお客さまに無理強いをすることや融資の条件とすることが絶対ないような対応を行ったし、それが優越的地位の濫用にあたるかあたらないかということについても、6ヶ月間、金融庁の特別検査を受けている。
 そういう意味で、金融機関は優越的地位の濫用があってはならないという意識はどこも強く持っていると思う。そうしたことがないように、それぞれの金融機関経営者は頭の中に強く刻み込んで日々の営業活動をしていると信じている。
 今回の件を受けて、全銀協としても、公共委員会傘下のコンプライアンス推進検討部会および業務委員会傘下の融資業務態勢検討部会を緊急開催して、注意を促すとともに、コンプライアンス体制に関する意見交換を開始したところである。この結果については、さらなる体制強化の参考とすべく、会員銀行に還元する予定である。


(問)
 株の誤発注の問題で、巨額の利益をあげた証券会社等がみずほ証券に返すとか、基金を作ろうといった、超ビジネスルール的な異例の対応の動きが出ているが、もし仮に、みずほが儲かった側だった場合、返金するか、それともホールドしておくか。
(答)
 仮定の質問にはなかなかお答えしづらい。そういう動きがあることは新聞報道で存じているが、私どもはそちらの問題よりも、まず、自分のところで誤発注したことについて、再発をしないという方に頭が行っており、儲かった話や仮に儲けた話というのは頭の中にまったくない。