2006年1月24日

前田会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)

前田会長報告

 はじめに、本日全銀協の役員人事を行ったので報告する。
 斉藤常務理事を本日付で副会長・専務理事にした。これは、全銀協の体制を強化する一環である。


斉藤専務理事報告

 引き続き、本日の理事会の決定事項のうち、一点ご報告する。
 お手元に資料を配付しているが、「カード補償情報センターの設立」を本日、決定した。
 センター設立の目的は、資料に記載のとおり、「偽造・盗難キャッシュカードにより被害にあわれたお客さまから、銀行にいただいた被害に関する情報などを登録し、金融機関間で相互に利用することにより、補償手続きの迅速化、円滑化を図ること」にある。
 なお、本センターの参加者は、銀行のほかに、信金、信組、労金、農漁協、商中、日本郵政公社など、預金者保護法の対象金融機関であり、業務は預金者保護法の施行日である2月10日(金)から開始する。
 本件について、ご不明な点があれば事務局に直接照会いただきたい。


会長記者会見の模様


(問)
 景気の状況であるが、株価はこの間、ライブドアショック等もあって多少上下しているようであるが、景気全般についてはさほど悪い指標もないかと思う。改めて景気の現状についての評価と、これに関連して昨年末に昨年11月分のコアCPIが0%以上となり、量的緩和の解除の時期というのが、冷静な判断が必要とされる局面だというように福井総裁もおっしゃっている。この辺のタイミングのあり方、あるいは解除後の金融政策のあり方についての考え方をお聞かせ願いたい。
(答)
 最近発表された経済指標は、総じて景気回復が続いていることを示す内容であったと認識している。たとえば、11月の鉱工業生産指数は4ヵ月連続で上昇し、既往ピークを更新した。因みに、前回のピークは1991年5月である。また、厳冬の効果も何がしかはあろうが、雇用・所得環境の改善を主因に個人消費も堅調に推移している。
 先行きについては、原油価格の動向など引き続き注視すべき点はあるものの、当面は穏やかな景気拡大が続くとみている。好調な企業業績を背景に設備投資が増勢を維持することに加え、労働需給逼迫をうけて、雇用・所得の改善が今後も続くと予想されるためだ。
 今回の景気回復は、2002年1月から現在まで一本調子で上昇してきたわけではない。02年後半から約1年景気は伸び悩んだし、04年から昨年春まで、やはり景気は足踏みした。しかし現在は、銀行を含めて産業界の収益力、財務体質が大きく改善し、消費者のマインドも好転して消費が上向いている。「三つの過剰」の解消、民需による自律回復、経営者や消費者の自信回復という点からみて、今回の回復は長続きする底力があると考えている。 金融政策については日銀が決めることなので、個人的意見として申しあげる。
 景気回復が続きデフレ脱却の可能性も高まってきたことから、量的緩和解除の客観条件は整いつつあると考えている。ただ、30兆円を上回る当座預金残高を法定準備近傍まで引き下げていくには、ある程度段階的な緩和措置を行っていかざるを得ないのではないか。仮にそのような場合には、それ相応の時間を要することになると思う。
 こうした緩和解除のプロセスを考えると、賃金上昇は依然として抑制的であり物価の上昇テンポは緩やかなものになるとみられること、銀行貸出は増加基調に変わりつつあるとは言え、資金需要が大きく盛り上がるとは思われないこと、などから金利水準が急激に変化する可能性は、それほど大きいとは思えない。
 量的緩和解除後の金融政策については、日銀内部ですでに様々な角度から検討されていることと思うが、市場と金利観を共有しつつ、引き続き十分な議論を重ね、適切な金融政策の運営を進めていただきたいと考えている。

(問)
 例のライブドアの問題を発端として、東京証券取引所で売買の停止が起きるというようなことがあり、ライブドアの問題はまだいろいろ解明されていないが、それに関連して制度的な穴があったのか、なかったのかという議論もあると思う。今回の事態で取引のインフラが十全であったのかということが問われていると思うが、その点に関する所見をうかがいたい。
(答)
 東証は、これまで健全で活力のある資本市場の育成を目指し、様々な取組みを行い、証券市場の拡大に貢献してきたと思う。また、株式売買量の増加に対応するために、過去数度にわたりシステム対応されてきたとも聞いている。ただ、今回は、日本経済の再生を評価する外国人の対日投資の増加に加え、個人投資家の株式投資売買高はこの1年で4倍に膨らむなど、最近の市場の変化が予想を遥かに越えたものであったということだと思う。勿論、結果として東証が売買停止措置をとらざるを得ない状況となってしまったことは、大変残念なことだったと思う。
 一方で、これまでの株価上昇、証券投資拡大をもたらしたファンダメンタルズに変化はない。国内経済は自律的な回復が持続しているし、企業では収益力や競争力の高まりがはっきりしてきていると思う。そういう点から考えると、今後適切な手当てが行われれば、わが国の証券市場に対する信頼が大きく揺らいでいくということは避けられると思う。
 引き続きシステムやインフラ面の整備を適時適切に進められることを期待している。

(問)
 2月10日に「預金者保護法」が施行されるということで、情報センター設立もその一環かもしれないが、預金者保護の取組みについて改めてどういう対応を考えているかお聞かせ願いたい。それに関連してこの間、ATMの盗撮という新しい手口の犯罪、ないしその萌芽的なものも目立っているようであるが、それらに対してどういう対策がありうるのかについてお聞かせ願いたい。
(答)
 昨年8月にいわゆる預金者保護法が成立した後の対応を中心に申しあげる。まず、全銀協カード規定試案を10月に改定し、あわせて金融機関における偽造・盗難キャッシュカード問題への取組みの強化および預金者が被害に遭われた際の「過失・重過失」に関する目線を示した申し合わせを行った。
 被害防止のための方策として、具体的には、ICキャッシュカードの発行・生体認証方式の導入、預金引出し限度額の引き下げ・異常取引のモニタリング強化、預金者へのキャッシュカードと暗証番号の管理に関する注意喚起などに全銀協および各行が取組んでいるところである。
 また、実際に被害に遭われた方への対応として、11月以降約款を改定し、偽造カードによる被害に加え、盗難カードの被害に遭われた方へも補償を行うこととした金融機関が顕著に増加し、最近行った全銀協アンケート結果によれば、現在では全銀協加盟銀行の太宗が約款を改定し、盗難カード被害の補償を実施している。また、本日の理事会にて、被害に遭われたお客さまへの補償手続きを迅速化・円滑化するために、金融機関間で情報を相互利用する仕組みである「カード補償情報センター」の立ち上げを決定したところである。
 いずれにしても、預金者保護法の主旨に則った対応を整斉と行うべく各金融機関とも努力をしているところと認識している。
 なお、過去の事案の取り扱いについて、色々と報道があるとは承知しているが、現在、各行が、被害者の方から「個別の事情」をお聞きしながら、補償を鋭意検討しているところであると認識している。
 今後は、お客さまからのお申し出があってから、実際の補償が行われるまでの期間の短縮化・スピードアップを図ることが重要だと思っている。
 先週プレスリリースをさせていただいたが、ご参考までに、みずほ銀行の状況を申しあげると、昨年11月21日の「カードセキュリティサポートセンター」設置以降、現在までに、300件を超える被害を受付けており、順次補償手続きを進めている途上にある。
 過去被害については、「事案ごとに個別の事情をよくお聞きする」ことが大前提であるが、法施行日(2月10日)の2年以上前の2004年1月頃まで遡って補償の対象としており、現在までに受付けた2004年1月以降の事案については、そのほとんどが補償の対象となる見込みである。
 1点だけ申しあげると、生年月日や電話番号など、他人に類推されやすい暗証番号にされていて被害に遭われる方が、依然として非常に多い。是非とも暗証番号を変更していただくことを重ねてお願いする。
 なお、昨年末以降、複数の金融機関の店舗外ATMにおいて、盗撮カメラが仕掛けられ、それをもとに作成されたと思われる偽造カードにより不正な払出が行われた事案が発生している。
 本件については、昨年10月にATMコーナーでの盗撮事件が発覚して以降、これまで数度にわたり会員行に注意喚起を行うとともに、警察庁など関係方面と連携強化を図っているところである。具体的には、警察庁を中心に関係省庁、全銀協ほか業界団体などをメンバーとする「金融機関防犯連絡協議会」を昨年12 月6日に立ち上げ、悪質・巧妙化する犯罪へ対応する態勢を整えている。
 いずれにしても、偽造・盗難キャッシュカードによって被害に遭われたお客さまに対しては、各銀行ともに預金者保護法の主旨に則って補償を実施していくと認識している。

(問)
 先日、ジェイコム株の誤発注問題を受けて、金融庁に改善報告をグループとして出されて、その中で前田社長も含めた減俸処分ということも内容に含まれていた。その件で、金融庁への対応が終わった段階で、原因などの究明を実際にやっておられると思うが、相手方である東証との今後のやりとりについて、実際にみずほ証券が407億円の損失を出して、東証自体はシステムの不備で取消しがきかなかったことを認めており、実際に、関係者、専門家の間では、取引を東証が止めることもできたといった意見もある。今後、みずほグループとして東証にその責任の負担などを求めていく考えはあるか。
(答)
 東証とのやりとりについて現時点では特別申しあげることはないが、今後検討していきたいと思う。
 みずほ証券の誤発注問題に関しては、先週、役員処分を含めてリリースしたところであり、また、原因も特別委員会で分析し、再発防止の手を打っている。発注する側からのシステムガードはほぼできあがったと思うが、東証との関係は先ほど申しあげた通り、今後検討をしていくということである。私どもとしては、誤発注によって市場を混乱させたという責任を痛感しており、再発防止に努めたい。

(問)
 今後検討されるというのは、責任の負担を求めていくことを検討されるということか。
(答)
 そういうことも含め、検討はしていく、ということである。

(問)
 日本郵政の発足ということで、西川社長が会見され、その中で融資業務等を積極的に拡大していきたいとの意向が示されているかと思うが、翻って考えると、丁度1年くらい前の会長会見で、当時会長であった西川さんは、大きな規模のままで参入してくることは民業圧迫につながるというような形で、規模の問題に関して非常に懸念を示されていたと思う。全銀協の見解と今の郵政会社が示している意向についてどのように受け止めているのかということについてお聞かせください。
(答)
 私は昨日の会見に関する報道については承知しているが、詳細は存じあげていない。
 私ども全銀協の主張は、国会でも申し上げたが、郵貯問題の最大の問題点は大きくなりすぎたこと、肥大化したことであるので、これをいかにして適正なサイズにするかということが1点と、もう1点は、民間ですでに行っている業務にさらに公的なところから競争的に入るというのはいかがなものかという点である。もともと「民でできることは民に任せる」という政府の大方針があるので、その部分に逆行するようなことは是非お止めいただきたい。これは国民経済的にもあまりプラスになるとは思えない。そうした考え方について変化はない。
 ただし、逆の立場から見ると、郵政民営化は、国の政策そのものであるので、良い形で民営化に移行していただきたいと思っている。私どもは、以前から、民営化には長い期間がかかるので、民営化のあり方についてチェックする機関を作って、当初の目的どおりの方向に進んでいるかをチェックしていただきたいというお願いをしてきた。今回、田中直毅さんを委員長とする民営化委員会ができたが、その委員会がどういうチェックをするかをウオッチしていただきたい。併せて、それがわが国のためになるかどうかという観点でのチェックもお願いしたいと思っている。

(問)
 分譲マンションの強度偽装の問題で、すでに全銀協としては、住宅ローンの返済の一時繰延べなどを申し合わせていると思うが、国交省の北側大臣は、さらに民間金融機関に協力を求めたいということを言っている。その点について、住宅金融公庫のように金利の減免とか、さらに踏み込んだ措置を全銀協として何かやる考えがあるのかどうかをお聞かせ願いたい。
(答)
 前から申しあげているが、基本的には融資をしているそれぞれの金融機関が個別に対応している問題であるが、全銀協としてもできる限りの取りまとめはしたいと思っている。ただ、商品条件が銀行によって違うので、一律の対応は難しいと思う。被害に遭われた方からのご要望も全銀協としては承っており、真摯に対応させていただきたいと思う。
 みずほ銀行のケースで申しあげると、本部内のローンの専門部署に部長をヘッドとした専門チームを作っており、対応をスタートしている。現在、判明している被害者の中で、当行のお客様は約50名程度であるので、銀行の方から個別にご連絡させていただいて、それぞれのご事情をよく伺い、個別にご相談する体制を敷いている。返済期間の延長等、様々なご要望があり、一律の対応はなかなか難しいが、いずれにしても、できる限りのことはしたいと考えている。当行としては元利金の返済を例えば最長3年間繰延べする方向で検討を始めているところである。

(問)
 一連のライブドアショック、それから昨晩の堀江貴文社長逮捕について、これは市場に対して、あるいは社会に対して、大きな影響を与えている事象なので、率直なご感想をお聞きしたいと思う。これに関連して、マネーゲームの行き過ぎ、企業の倫理観の低下、あるいは法の隙間を利用する取引に対する行政府のチェック機能の未熟さ、などが指摘されている。一連の騒動から汲み取るべき教訓、反省点というのものがあれば、お聞かせいただきたい。
(答)
 ライブドア個別の案件については、私は報道以上の情報を持っておらず、コメントできる状況にないが、率直に言って驚いた、ということである。
 自由主義経済であるから、市場を中心として様々な経済活動が行われており、その市場の活性化を図るため、規制緩和、自由化を図るというのが一つの大きな流れであるが、一方で、規制緩和、自由化をした以上、ルールを破った場合には厳しく罰するというのが欧米流のやり方であり、日本においても、かくあるべきだと思うし、それが市場を守るということに繋がるのだと思う。今回のケースがどのように決着するのかはわからないが、いずれにしても、市場のルールに逸脱したということであれば、適切な処理がなされるのだと思う。

(問)
 ミスオペレーションの話に関連して、バーゼルⅡではオペレーションリスクが重視されるわけであるが、この頃、銀行での派遣社員による詐欺であるとか、証券の誤発注であるとか、コンピュータシステムの安定性の問題などが出てきている。モラルが高くて仕事の正確さが誇りであったのが日本の銀行であったと思うが、バーゼルⅡも睨んで、全銀協としてどのようにオペリスクの増大を考えているのか、どのように対応しなければならないのか、邦銀にとってまだ深刻ではないのなのか、それとも憂慮すべきケースが増えてきているのか、その辺りコメントをいただきたい。
(答)
 外国金融機関のオペリスクのウェイトは承知していないので比較はできないが、少なくとも過去においては日本の金融機関のオペリスクが非常に高かったということはないと思う。オペリスクを算出するのは、過去の自己のヒストリカルデータでやるケースと、一般的な確率で何年かに1回起こる確率があるというような想定をおいてオペリスクを計算するケースがあり、ある意味で両方を睨んで計算するのだが、こうした計算の結果、オペリスクが物凄く大きくなっているということはないと思う。ただし現実に起こっていることは非常に遺憾なことであり、オペリスクを減らす努力を我々は必死に行っている。バーゼルⅡにおいて、オペリスクの問題が障害になるということはないと思っているし、日本の金融機関にとってはむしろプラスに働くのではないかと元々考えていた。また、過去の実績においてもオペリスクに相当な影響を被ったことはなかったと記憶している。

(問)
 郵貯銀行の発足に関連して、西川社長は昨日までの発言の中で、「金融機関と競争していく」という意識をはっきりおっしゃっていて、競争の分野については既存のサービスというよりは、むしろ新しいサービス、ビジネスモデルを作って競争していきたいという受け止め方をしている。実際、200兆円の郵貯が市場に出てくるときに、新しい郵貯銀行が新しいサービスをしなければ、銀行の今までの預金はそのまま残るかもしれないが、実際に新しいサービスをすればそちらに流れていく可能性がある。それに対しては、自分たちも新しい商品を提供して競争していくということになるのか。
(答)
 完全民営化され、同じ競争条件になった後は、まさにサービス合戦となるが、全く新しい金融のビジネスモデルが突然出てくるとは思えない。もしそういうものがあれば、我々が油断していたということである。ただし、内外を含めて、これだけ多くの金融機関があり、それぞれが創意工夫に努めている中で、それほど画期的なビジネスモデルがあるとは正直、あまり思えない。

(問)
 今年、経団連が個別企業の賃上げを容認する方針に転じたが、銀行業界におけるベースアップについて、公的資金との考え方を含めて現時点でどのように考えているか伺いたい。
(答)
 全銀協ということではなく、みずほ個別として申し上げるが、公的資金が入っているので、ベースアップするという状況にはないと思っている。まず公的資金をお返しするということだと思う。

(問)
 先ほど、ライブドアの関係で、市場のルールを破った場合には厳しいペナルティが課せられるという話だったが、今のルールが厳しくないのではないかという声がある。例えば、経済同友会の北城さんは、もっと厳しくするべきだ、刑罰をもっと重いものにした方がよいのではないかというような発言をされている。その点について会長はどのように考えているか。
(答)
 ルールというのは、事件が起こった場合に後から決まることも多く、あらかじめ想定されないことについてのルール化はなかなか難しい。何かが原因で市場取引がうまくいかないとすれば、それに対する手当てをする必要がある。余りにルールを厳しくしてしまうと、市場取引そのものが活性化しないという面もあるので、時に応じた適切なルールの見直しが必要だ、ということだと思う。厳罰にすれば良いという単純な議論ではなく、起こった事象を個別に見ながら、市場の円滑な運営や公正さ、という点で問題となるようであれば、適宜見直した方がよいと思う。

(問)
 例えば、虚偽、偽計や風説の流布など、明らかに違反行為があったとした場合、犯罪に対する刑罰が緩すぎるのではないかという声もある。その点についてはどう考えているか。
(答)
 ペナルティの軽重を論ずる場合には、該当する犯罪の重大性は勿論のこと、どれくらいの頻度で起こっているのか、というのも一つの視点ではないか。要は、罰則と抑制効果とのバランスだと思う。