2006年3月22日

前田会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)

斉藤専務理事報告

 はじめに、資料に基づき事務局から4点ご説明する。
 1点目は、本日、理事会に引き続いて総会を開催し、平成18年度の事業計画と予算を決定したが、その他、お手許の資料のとおり、18年度の理事を選任した。任期は4月18日からである。なお、会長、副会長については、4月18日に開催する理事会で選任することとする。
 次に、本日の理事会で資料のとおり「全銀協ICキャッシュカード標準仕様」の改訂を決定した。この標準仕様は平成13年3月に制定したものであるが、5年毎に定期的に見直すこととしていた。
 今回は、主として生体認証に関してその標準化を検討したが、生体認証に関する技術は未だ揺籃期にあるということで、複数の生体認証方式が並存することを前提に、カードとATM間の取引手順の標準化を定めることとした。
 この内容についてはかなり技術的なものであり、説明にも時間を要するため、ご質問がある場合には、会見終了後に、この場で事務局からご説明させていただく。
 3点目は、お手許にあるとおり「銀行におけるバリアフリーハンドブック」を作成したことである。
 これは、「あらゆるお客さまにとって来店しやすく、利用しやすい銀行」になるということを目指し、体のご不自由な方やお年寄りの方などが銀行窓口にいらした際に、銀行員が具体的にどのように応対することが適切なのかについて取りまとめたものである。こうしたバリアフリーハンドブックの作成・配布を業界として行うことは初めての試みであると認識している。
 最後に、お手許にリーフレットをお配りしているが、来る4月1日から、全国に51ある「銀行よろず相談所」が名称を「銀行とりひき相談所」に変更することとした。
 これは、「よろず」という言葉が古くなり、また、銀行で取り扱う金融商品が増え、従来にも増して相談所の位置付けが重要となってきていることがあるので、よりわかりやすく、どなたでも気軽にご利用いただけるという印象をもっていただくということから名称を変更するものである。


会長記者会見の模様

(問)
 今月9日に日銀が量的緩和策を解除した。この時点での解除のタイミング等についての評価と、既に定期預金の金利も引き上げの方向になっているが、その銀行業界に与える影響、もしくは取組み等についてお話を伺いたい。
(答)
 昨年10-12月の成長率は、年率換算で5.4%増であったが、年明け後も生産増が続くなど、足下の景気は順調だと思う。量的緩和解除後も、少なくとも当面はゼロ金利政策を続けるという日銀総裁の話もあり、そういうことを考えると、今回の量的緩和の解除が景気に大きな影響を及ぼすことはないと思う。
 中長期的に見ると、景気は、民需、わが国の場合とりわけ設備投資と個人消費、もう一つは輸出、この両輪に牽引されて、安定的に回復を続けると予想している。みずほ総研の予測によれば、実質経済成長率は06年度も潜在成長力、大体1%台半ばと言われているが、これを上回る2.7%と予想している。
 景気が順調に回復していけば、需給ギャップの縮小や賃金・物価の上昇から、いずれ金利は上がるのが自然だと思う。今の段階は、金利機能を正常化するための第一ステップに入った段階だと思う。長短の金利体系は、時間をかけながら徐々に通常状態に戻っていくものと考えられる。
 自動車に例えれば、今まではギアを外した状態であり、長い間量的緩和を継続した訳であるが、量的緩和の解除というのは外していたギアを元に戻したというだけである。金融政策の運営は、車で言うとオートマチックの車を運転しているのではなく、マニュアル車の運転だと思う。何か一定のことが起こると自動的にスピードを上げるということではないと思う。そういう意味では、金融政策の運営については、色々な外部要因を見ながら判断をするということではないかと思う。日本銀行におかれては、周辺の環境等を見ながら適切な運営をされると思う。
 一方で、量的緩和と金利ゼロの状態が長く続いていたことから、金利機能が徐々に正常化の方向に向かうに従って、何かしら影響は出ると思う。ただ、少なくとも当面は急激かつ高水準に金利が上昇するということは予想されておらず、現時点では影響は限られたものになるのではないかと思う。
 個別に見てみると、金利上昇の影響は区々である。企業から見ると、財務リストラにより金利上昇に対する耐性が高まっており、もともと資金余剰なので、すぐに悪い影響が出るとは思わない。家計サイドで見ると、住宅ローンを借りる方にとっては、金利が若干上がるかも知れないが、一方で預貯金金利も少しは上がると思われ、プラスとマイナスの影響が出る。銀行にとっては、金利が上がると儲かるというような予測もあるが、必ずしも儲けがさらに大きくなるかどうかは、一概には言えないと思う。銀行が保有している債券の問題もある。為替相場については、金利上昇そのものは円高要因であるが、アメリカの金融政策などにも左右されるので、一概に言えないと思う。繰り返しになるが、現在は量的緩和政策を解除しただけの段階なので、色々なところに大きな影響が出るということはないと思う。


(問)
 郵政民営化の件であるが、まだまだ具体的な業務には辿り着いていないが、新しいトップの発言などを見ていると、経営の自由度をより高めて欲しいということで、さらに事業を含め拡大路線かなという感じがする。そうした今の状況について、全銀協会長としてどのような考えを持っているか。
(答)
 私どもはこれまでも継続して、郵貯事業の本質的な問題は、その規模が大きすぎる点、これがまず一番の大きな問題、二点目はその資金が市場原理の埒外に置かれていることで、わが国金融市場の公正な価格形成を歪め、効率的な資金配分を阻害している点にあり、こうした問題点を解決することこそが、民営化本来の目的であると主張してきた。
 また、政府出資に伴う「暗黙の政府保証」が残る期間中に、経営の自由度が先行して拡大されることになると、実質的な官業の一段の肥大化を招き、問題を一層深刻化させかねないとの懸念を持っており、特に、貸出業務への参入については、あくまで「民間にできることは民間に委ねる」との政府の方針に則り、これに逆行してはいけないとの考えも申しあげてきた。
 先週、3月15日の地方銀行協会の会長会見においても同じような質問があったと承知しているが、その際、瀬谷会長が「民営化委員会発足前の今、業務拡大の既成事実を積み上げていくことは容認できない」、また、「われわれは日本丸という一つのボートに乗っている。その中で、規模の段階的縮小は暗黙の合意であり、ソフトランディングを模索すべきである」といった旨のご発言をされたと伺っている。私ども全銀協のこれまでの主張からすれば、瀬谷会長がおっしゃったことは十分理解できる。また、瀬谷会長は「業界のエゴで言っているのではない」とのご発言もされているが、私もそのとおりだと思う。
 郵政民営化については、国会で長時間に亘る審議を経て、かつ昨年夏の衆議院の解散を経たうえで決定された、いわばナショナルプロジェクトであると思う。私も解散前の7月に衆議院の郵政民営化特別委員会の場で参考人として意見陳述をさせていただいたが、瀬谷会長や郵政民営化委員会の委員長に内定している田中直毅理事長など、数多くの有識者・関係者の意見陳述もあった。こうした多くの議論を経た結果として、民営化の大きな方向が決められたのだと思っている。
 先程も申しあげたとおり、本質的な問題は、公的に運営している郵貯事業が、世界的に見ても異例なほど大きな規模になったことに加えて、その資金が市場原理の外にあるという点にあり、このことが先進国であるわが国の非常に大きな問題点であるということである。この問題を解決するために、民営化の法案が成立したということだと思う。そういう意味で、今後田中直毅氏を委員長として設置される郵政民営化委員会のチェック機能が極めて重要であると思う。
 郵政民営化の本質論から外れた民営化は将来に大きな禍根を残すことになると思う。新しいビジネスモデルがどうなるのかは良く存じあげないが、本質論から外れたことになると何のためにあれだけ苦労して長時間の議論をしたのか分からなくなると思う。


(問)
 今の郵政民営化の件に絡んで、前の全銀協会長の西川社長が事業拡大に積極的ともとれる発言を繰り返していることについて、前田会長のご見解をお聞かせいただきたい。
(答)
 直接お話したわけではなく、新聞報道の限りでしか存じあげないが、将来民営化した後に様々なことをやられるという点について異論はないが、民営化する前に様々なことをやらないと民営化できないというのであれば、話が少し違うのではないかと思う。国会の審議の過程においても、業務を拡大すべきといった意見はなく、民営化のためにどうしたら良いのかという議論が大半であったと思う。


(問)
 前の全銀協会長の西川社長が、郵政民営化について、攻守逆転というか、積極的な意見を言っておられることについて、感想は何かあるか。
(答)
 ご質問の点について私はコメントする立場になく、皆さんがお書きになった記事を拝見しているだけであるが、西川社長は良くお分かりになって発言されているのだと信じている。


(問)
 今の話にも関連するが、銀行業界としては、今おっしゃったように完全民営化までの過程というのが重要だと思うのだが、例えば人材の派遣であるとか、今後銀行業界としてどのように協力していくのかという点について伺いたい。
(答)
 具体的な話として、協力要請をいただいている訳ではないので、何とも申しあげようがないが、私の個人的な見解で申しあげると、郵政民営化はいわばナショナルプロジェクトであるので、国のため、民営化のために良いことであれば、例えば人材について、様々な形で公募されたりするのは良いことではないかと思う。ただ、先程申しあげたとおり、民営化の大きな方向は決められており、そうした方向に逆行するのであれば、さすがにちょっと話が違ってくるように思う。今後どのような事業形態になるのかという点については予測できないが、いずれにしても、もう少し時間がかかるのではないかと思っている。


(問)
 日本郵政の西川社長は、貸出のみならず、カード事業や住宅ローン、さらには証券業務も外部から人材を採用すればゆくゆくはできるという発言をしており、毎回、会見のたびに、地銀協もそうだが、銀行界は非常に懸念を示されている。今後、具体的にどういったアクションをとられようとしているのか、あるいはとることができると考えているのか。
(答)
 私どもは、郵貯事業が今後どのような形で行われるべきかという点について、このようにすべきだ、というようなことを申しあげる立場にないが、民営化そのものには賛成しており、整斉と進めていただきたいと考えている。ただ、繰り返しになるが、そのプロセスにおいて、「民間にできることは民間に委ねる」という基本方針に逆行してはいけない、と思う。
 いずれにしても、もう少し時間が経たないと、郵貯銀行がどういう業務をされるのか分からないので、現時点ではこれ以上のコメントは難しい。


(問)
 就職のシーズンであるが、金融機関、特に銀行の新卒採用が非常に増えている。全体に2割以上増えているということで、この動きは来年度のみならず再来年度も続くと思うが、なぜこういった採用の増加というものがあるのか。これは銀行側が人数を増やすだけではなく、第一志望にしてくる学生も増えているのであるが、その背景にはどんな環境の変化があるのか。また、この傾向は今後も続くのか。
(答)
 私ども金融界について申しあげるが、平成4、5年以降10年以上にわたり、いわば金融危機の時代であった。この時期はもっぱらリストラをしながら効率化を図るということを一途にやってきた。みずほグループの例で申しあげれば、店舗統廃合を行い、約6年間で約1万人規模の人員削減を行った。店舗の統廃合も終了したので、むしろこれからは逆に店舗を新設し、行員によるサービスを充実させたいと思っている。つい最近も、六本木ヒルズに店舗を出したが、行員がいなければできないようなサービスを比較的小型の店舗で提供したいと考えている。
 金融界全体で見ても、リストラも一段落し、機械等のインフラ、提携等でサービスは拡充したが、やはり人でなければできないところについて、少し人員を補充するという方向になっていると思う。
 他方、新卒採用計画については、年間に退職される行員は相当数いるので、例えばみずほグループの場合、2千人程度採用すると言っても、2千人が純増するというものではない。若い方を規則的に採用しないと年齢構成がいびつになるので、基幹職、一般職ともそれぞれ安定的な採用をする必要もあるということである。他の金融機関でも同じような状況ではないかと思う。


(問)
 学生の方からするとどうなのか。この傾向はしばらく続くのか。
(答)
 一時期はどの業種もあまり採用しないという非常に深刻な状態があったが、最近は一般企業の求人も相当増加し、卒業する学生にすれば就職が可能となる業種が増加しており、良いことではないかと思う。
 新卒者の就職希望ランキングについて申しあげれば、金融機関の人気は、今までがむしろ悪すぎたのではないかと思う。新卒者に人気が無いというのは少々淋しいものがある。


(問)
 大手の銀行と消費者金融の連携が進んでおり、それに関連して上限金利の水準の一本化について議論されている。この問題に関して、水準設定の仕方や一本化についてどのようにお考えか。
 また、大手銀行が消費者金融と一緒に広告を出すことについて金融担当大臣が不快感を示しているが、こういったことを銀行業界としてどう受け止めているか。
(答)
 金融庁におかれては、グレーゾーン金利についての最高裁判決を尊重しつつ、懇談会の場で様々な意見を聞いたうえで対応される方向であると聞いている。
 個人的な意見として申しあげると、貸出の金利をめぐって多くの借り手から裁判を起こされるというのは、明らかに正常ではないし、裁判を起こさなければ、金利はいくらでもよい、ということでもないと思う。本来、グレーゾーン金利があること自体、余り好ましい状況とは言えないのではないかと思う。
 大臣が、テレビの広告についてコメントされたことは、報道では存じあげているが、広告の善し悪しについては、全銀協会長の立場で申しあげることではない。個人的には、ちょっと目に付くところはあるな、と感じる部分もある。


(問)
 先ほどの質問とやや重複するが、広告に限らず、大手銀行と消費者金融業界の関係というのは資本関係の有無を含め、いろいろな提携関係や取引関係があると思うし、むしろこの間拡大してきていると思う。クレーゾーン金利で営業している、そしてまさに返還を迫られている業界と、付き合いを深めてきたということについて、あり方としてどうだったのか、見解を伺いたい。
 もう1点は、冒頭の量的緩和解除に関連して、当面ゼロ金利ということであるが、逆に言えば、どのような経済状況になれば利上げということが視野に入ってくるのか、妥当なのかということの考えがあれば伺いたい。
(答)
 消費者金融会社と金融機関との付き合いについては、長い歴史的な経緯がそれぞれの銀行にあると思う。他のグループについてコメントする立場にないので、全銀協会長の立場を離れて、みずほグループの社長として申しあげる。
 私はここ4年間、ずっと国内外でIRをやっているが、「なぜみずほは、消費者金融業界と提携しないのか」、ということをしばしば質問された。その際には、みずほとしては、2,600万口座にのぼる、既存のお客さまがいらっしゃるので、そのお客さまにさらに良いサービスを提供することを最優先にさせていただきたいとお答えしてきた。これまでお取引のないお客さまから収益がいくら出るとしても、お取引をいただいているお客さまに、まず、より良いサービスを提供するのが私どもの最優先課題であると考えている。また、消費者金融業の収益環境も、低金利の状況に負う部分も大きく、今後どのように変化していくか不透明であるともお答えしてきた。クレディセゾンやオリエントコーポレーションとは提携したがいわゆる消費者金融部門との提携ではない。
 どこと組むかというのは、それぞれの銀行の戦略そのものである。みずほに関して言えば、提携しないことがマイナスだと3年間に亘って言われてきたが、今後は、必ずしもマイナスではないと私は確信している。皆さんから見たら生ぬるい経営かもしれないが、単に利益を上げればいいということではなく、利益は後からついて来る結果である、というのが私の考え方である。
 2つ目の質問については、先ほど自動車の例えで申しあげたが、外していたギアを取り付けて、少なくとも前に動き出したとは思う。オートマチックの車ではないので、今後、適切なギアチェンジの操作をする必要があろう。こうした点では、日本銀行におかれては、乱暴な運転は絶対にされないと思う。適切にやられると思う。今のところまだ1ヶ月経っていないので、市場の方向性に関しては何とも申しあげられないが、大きな影響が出るという状況ではないと思う。

別添資料:前田会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)