平成18年4月13日

前田会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)

斉藤専務理事報告

 (なし)

会長記者会見の模様

(問)
 全体的な景況感からお聞きしたい。量的緩和が3月9日に解除されて以降、株価もかなり堅調で、先般発表された日銀短観も概ね景気回復の動きを裏付けるような形になっている。今後の景気の先行きの見通しについて会長の見解をまずお聞きしたい。
(答)
 マクロで見てみると、足下の経済指標はいずれも好調であり、デフレ脱却の動きも鮮明となってきたと思う。景気回復についてはすでに企業から家計に波及しており、地方や中小企業にも広がりつつある。ミクロで見ると、企業収益は増収増益基調が続いており、大企業の売上高経常利益率は、バブル期のピークをすでに大きく超えている。現下の株価の上昇は、このようなマクロ・ミクロ両面の動きに支えられたものと考えている。1年前、2年前の3月の株価水準が1万 1,000円程度であったが、この2月は1万7,000円まで上昇しており、かなり違ったステージに入っているものと思う。
 このような日本経済の体質強化を見て、内外の認識もかなり変わってきたように思う。日本経済に持続的成長を支える経済・金融の強固な基盤が形成されはじめ、企業経営者にはグローバル競争を再び闘えるという自信が少し戻っており、また、金融政策も量的緩和が解除されるなど、正常化に向かいつつある。このような変化が持続的なものとして強く認識されたので、投資家が株式投資を増やしているのだと思う。
 ただ、潜在成長率がなお1%台にとどまると見られているように、日本経済の回復力はまだ見劣りすると思う。人口減少のインパクトや財政赤字、低い生産性といった問題を乗り越えてはじめて、日本経済が本当に復活したといえるのだと思う。
 今の景気の現状は、昨年のジャイアンツほど酷くはないものの、今年のジャイアンツというのはやや言い過ぎかもしれない。久しぶりの好スタートではあるが、これから先何があるかわからない。日本経済の抱える諸問題、先ほど申しあげたような構造問題もあるので、これを不断の努力で克服しない限り、力強い成長を持続できないと思う。


(問)
 金融界全般のことをお聞きしたい。不良債権の処理も大手行はほぼ終結して、今年度は、おそらく公的資金の完済という動きも見えてくると思う。この1年間で銀行経営のフェーズというものは大きく変わったと思うが、地域金融機関も含めてどのように変わったと考えているか。
(答)
 昨年1年間は、比較的安定的な年であったと思う。振り返ってみると、昨年の初め頃から、偽造・盗難キャッシュカードやネット犯罪の問題が社会的にも大きく注目を集め、この対応に相当な時間を費やした。いわゆる預金者保護法が昨年8月に成立し、今年の2月に施行されたが、その間、全銀協では金融庁の「偽造キャッシュカード問題に関するスタディグループ」における議論に参加するとともに、「カード規定試案」を一部改正したうえで、新たに偽造・盗難キャッシュカードによる被害の補償ルールを制定した。あわせてインターネットバンキングに係る犯罪への一連の対策についての申し合わせも行った。今後も、引続き暗証番号の管理、キャッシュカードの管理について注意喚起、啓蒙を図っていくとともに、異常取引の検知、1日あたりの利用限度額の引き下げ、キャッシュカードのICカード化の推進・生体認証方式の導入など、セキュリティの一層の強化に努める必要があると考えている。
 さらに、利用者の安心を脅かす事象としては、昨年11月に耐震強度偽装マンション問題が発生した。全銀協としては直後に、借入れをされている方の返済の一時繰り延べを含む真摯な対応を行う旨の申し合わせを行った。その後、被害を受けた住民の方の状況や、国土交通省、自民党耐震偽装問題対策検討ワーキングチームからの要請を踏まえて、全銀協としても出来る限り国の対策に協力していきたいと考え、「返済据置期間中の金利の可能な範囲での引き下げ」を含む新たな申し合わせを、他の金融機関団体も含めた形でこの2月に取りまとめた。
 金融犯罪という観点で申しあげると、昨今の犯罪はかなり高度であり、かつ手口が多様化している。こうした社会状況に対して、迅速・適切に対応していくことが、今後、金融サービスを提供していくうえでは、極めて重要なポイントになってくると思う。また、今国会に、金融商品取引法が上程されている。これは、ここ数年かけて、金融審議会において、リスクの高い金融商品について投資家保護をどのようにすべきか、議論されてきた結果だと認識しているが、銀行が販売する商品についても、利便性のみを追求するのではなく、お客さまの安全・安心というニーズに対しても充分工夫をこらしていくことが、金融機関の社会的使命であると考えており、また、金融機関にとっての差別化戦略の一部になりつつあると考えている。
 一方で、「金融市場の活性化」という観点では、昨年12月の銀行における保険窓販の追加解禁や、この4月から新しい銀行代理店制度が始まっているが、昨年度という1年間を考えると、最も大きなテーマは、郵政民営化と政策金融改革であったと思う。
 公的金融の問題について、全銀協では長期間にわたり、継続的に問題提起を行ってきた。公的金融は、戦後の高度成長を支えた一つの公的な枠組みであるが、枠組み全体として成り立っている仕組みであるので、これを新たに作り変えるときにはかなりの困難を伴うと思う。「入口」の郵便貯金・簡易保険で資金を集め、財投制度を通じて「出口」の政策金融機関から貸出を行う枠組みであり、これを利用し、政策目的に応じて資金供給を行ってきた。その規模が小さければ、金融市場にそれほどの悪影響を与えるものではなかったと思うが、その使命が終わった後も、郵便貯金の預入限度額の1,000万円への引上げ等もあり、更に肥大化したことが、問題を更に複雑にしたのだと思う。その意味で、郵便貯金・簡易保険を通常の銀行・保険の形にどうやって作り変えるかは、非常に難しい問題である。市場の埒外にあって、これだけ肥大化した郵便貯金・簡易保険をどのように適正な規模にしていくか、その資金の多くを国債で運用しているという構造的な矛盾を、どの程度の時間をかけて民営化していくか、極めて重要な課題である。一方で、「出口」部分である政策金融に関しては、政策目的を見直すこと、手法としては直接融資ではなく保証機能を活用することが、肥大化を防ぐ重要なポイントではないかと思う。国家が関与する世界に例を見ない巨大な仕組みを分解し、それぞれが国民のためになるように改革を進めるという基本的な方向は固まった訳であるが、今後は具体的な制度設計が行われていくことになる。今申しあげた根本的な問題を良く理解して進めなければ、問題が更に複雑になると考える。
 郵政民営化を巡っては、私も国会に参考人として出席したが、結局法案が否決され、衆議院の解散・総選挙という予想も出来ないプロセスを経て、法案が成立した。また、2002年から具体的な検討が先送りされていた政策金融8機関の改革についても、政府において「基本方針」が決定され、この3月には「行政改革推進法案」が閣議決定され、現在衆議院で審議が行われているところである。先ほども申しあげたが、公的金融の「入口」である郵便貯金・簡易保険、「出口」である政策金融のそれぞれに関して、改革の方向性が確立されたが、新たなビジネスモデルを明確にしていくのはこれからである。私どもに影響の大きい問題であるので、政府の検討を十分フォローし、必要に応じて意見を申しあげていきたい。この点、郵政民営化については、この4月から郵政民営化委員会がスタートし、2007年10月の民営化に向け、今後、具体的な検討が加速されていくものと思われる。また、政策金融改革については、2008年度の新体制移行に向け、今後、関連法案の作成や新組織への移行準備が行われるものと思われる。いずれにおいても、「民間にできることは民間に委ねる」というこの構造改革の原則に則った形で検討が行われるとともに、民間金融機関との競争条件においてイコールフッティングが実現されることが極めて重要であると考えている。


(問)
 長期金利が上昇しているが、これが金融機関の経営に与える影響について、お伺いしたい。また、昨年度の銀行の収益はかなりの高水準になるという見通しだが、公的資金をまだ返していない銀行にとっては、儲け過ぎ批判も出ることが予想されるが、こうした声に全銀協会長としてどのようにお答えになるか。
(答)
 本日の長期金利の水準は1.9%をやや上回る水準であり、3月の初めに比べると、確かに随分上がっている。ただ、これは量的緩和の時代から、普通の状態に戻る段階における調整だと思う。一方的に上がるとは思わない。2年、5年の中期の金利が少し上がっているが、それほど大きな上昇ではないと思う。3月に、量的緩和が解除されたが、これからしばらくの間揉み合いながら、量的緩和解除前の水準に徐々に戻るのではないかと思う。この程度の長期金利の上昇であれば、保有債券の価格が下がるという面はあるものの、金融機関経営を直撃するということはないと思う。
 それから2番目のご質問についてであるが、外国の金融機関の方から儲け過ぎという話をされたことはない。むしろ「なぜこんなに儲からないのか」ということを一貫して質問されている。「少し業績が回復すると、日本ではなぜ儲け過ぎ批判が出るのか」という質問をいただくこともある。資産規模で言えば、メガバンクは、かなり大きなサイズだが、収益力という観点から見ると、外国の銀行の3分の1かそれ以下であり、儲け過ぎと言われる実感はあまりない。
 ただ、前から申しあげているとおり、日本の金融機関にとってのこれからの課題は、統合効果をお客さまにいかに返すかということだと思う。つまり、利益を確保し、公的資金をまず返済したうえで、お客さまに対し様々なサービス強化の形で、統合効果をお返しするのが経営者の責任だと思う。


(問)
 銀行は、国債などの債券中心の運用をやってきたのだが、昨年ぐらいから、国債の保有を減らしてきている銀行もあるようだ。金利上昇は、銀行経営にどのような影響を与えるのか、お伺いしたいと思う。
(答)
 資金需要が低迷し、かつ資金が潤沢に集まる状況であったことから、結果的に各金融機関の資金が、安全性の高い国債に回ったのだと思う。ただ、積極的に国債に投資したのではなく、結果としてそうなったということだ。勿論、それぞれの金融機関が、平均残存期間を短くする等様々なヘッジ手法を活用し金利上昇に備えてきた。これからは、景気の回復を受け、資金需要も少し盛り上がってきたので、成長する企業に貸出をするという、本来の姿に徐々に戻るのだと思う。そういう意味で、これも正常化の一つの流れではないかと思う。


(問)
 市場の一部には、夏にも日銀が利上げに踏み切るのではないかという観測もあるが、日本経済は利上げに耐えうるまで体力を回復しているとお考えか。つまり、夏というのはタイミングとして早いのかどうか、伺いたい。
 また、従前のメガバンクのビジネスモデルでは、金利が上がると、国債の含み損などはあるものの、総じて収益は拡大すると言われていた。現在、定期預金の金利は上がっているが、流動性預金から定期預金にシフトしたり、今までの定期預金が解約されて新たな定期預金にシフトしたりすると、案外、収益拡大に向かわないのではないかという声も出ているがどうか。
(答)
 利上げの時期については、日銀がお決めになることであり、いつ頃ということを申しあげる立場にない。おそらく、量的緩和を正常な状態に徐々に戻す過程で、色々な指標を見ながら判断されるのではないかと思う。私の個人的な意見で申しあげれば、きちんと材料を見たうえで判断されるのであって、予め何時頃に上げると決めておくということではないと思う。周辺の環境を十分見てからご判断されるのではないかと思う。
 2番目のご質問については、金利が上がることが金融機関にとってプラスになるかマイナスになるかという主旨の質問だとすれば、大きくマイナスになることはないと思う。ただし、金利の上がり方によって、収益の状況は変わる。一番困るのは、長期金利だけが上がるという事態で、この場合は、収益にとっておそらくマイナスが生じることになるが、短期、長期金利がバランスよく上がるのであれば、少しはプラス方向に効くのではないかと思う。一方、4、5年前と比べて一番変化したのは、投資信託をはじめいろいろなフィービジネスが、相当活発に行われるようになったことであり、預貸金収益の変動部分を補完してきていることである。この部分は、金利の変動に左右されることはないので、金融機関の収益構造は恐らく相当強くなっているのではないかと思う。もう一点は、経費率がそれぞれの金融機関で大幅に下がっており、足腰が強くなってきているとも思う。こうした点を反映して、格付けも少し戻ってきているのだと思う。


(問)
 かなり先の話だが、通常のローテーションで言うと、2年後にまた、みずほフィナンシャルグループに会長行の順番が回ってくるかと思うが、現時点での考えを伺いたい。
(答)
 会長は、ローテーションで決めている訳ではない。結果としてそうなることはあるかもしれないが、何か前提となるものがあって決めているわけではない。


(問)
 消費者金融でクレーゾーン金利の問題が出ており、見直しが検討されていると思うが、これについてどう思われるか。また、総量規制という話もあり、銀行も消費者ローンをやっている所がたくさんあるが、総量規制というものに関してどう思われるか、という2点を伺いたい。
(答)
 グレーゾーン金利については裁判で争って、それが違法だというような金利は、社会的にはあまり良いことではないと思っている。借りる必要がある方は、相対的には弱い立場であることも多いと思われるが、払いすぎたものを裁判しないと取り戻せないないというのは、あまり良くないのではないか、と個人的には思っている。
 総量規制というのは、どういう形で規制をかけるのか承知していないが、直感的には色々な面でなかなか難しいのではないかと思う。貸し手に対する規制だけでうまくいくかどうか、初めて聞いたお話なのでよく解らないが、そう簡単ではないようにも思う。


(問)
 会長の任期が終わりになるが、この1年を振り返って、冒頭にもいろいろとおっしゃっていたが、ご苦労された点、どういったところに思いがあったか、簡単な感想をいただきたい。
 また、全体的に株価が上がっているが、その中でみずほも100万円に乗せており、それについて市場の当然な評価という見方をされているのか。
 一方で、行内の人と話しをしていると、採用も増えてきたし、そろそろ賃金に反映して欲しいという声を耳にするが、公的資金をまだ完済できていない中でお尋ねするのもどうかと思うが、そういった点についてもそろそろ見直す予定はあるか。
(答)
 最初のご質問についてであるが、私が会長に就任した当時は、偽造カード問題が大きな社会問題となっており、その後の盗難カード問題への対応とともに、率直に申しあげて非常に悩ましい問題であった。以前の会見でも申しあげたが、犯罪者については警察にお任せするしかなく、被害に遭われた方と金融機関といういわば被害者同士の負担割合をどうするかという点がポイントであった。金融機関はATM・キャッシュカードといった社会インフラの提供者として、例えば払出限度額を引き下げたり、ICカード化に取り組むなど、セキュリティの向上に取り組んできたが、全金融機関のセキュリティが一律に向上することは現実的には困難であり、犯罪者はガードの低い金融機関を狙うという状況が続いた。また一方では、金融機関が通常のお取引を維持することにコストをかけることとなってしまい非常に難しい問題だと感じている。
 全銀協において、各種の啓蒙活動や広報活動などを行っているが、残念ながらいろいろな金融犯罪がまだまだ起きており、引き続き未然防止に努めていくことが肝要であると思う。例えば、ATMの払出限度額の引き下げは、利便性が低下しお客さまにご迷惑をおかけすることを心配したが、とくに大きな混乱も無く比較的スムーズに利用者の方々に受入れていただき、効果をあげることができた。
 第2点目については、2、3年前には倒産件数が2万件という状況が続くなど産業界にとって非常に厳しい状況であったが、これは金融機関にとっても同様であった。2003年に日経平均が7,000円になった頃が本当のボトムであったと思うが、その頃と比較すると少し回復していると思う。現在みずほの株価は 100万円位だが、過去のピークと比べるとまだ低いものの、相応の評価をいただいているということではないかと思っている。産業界全体が良くならないと銀行は良くならない。そういう意味では銀行の株価は先行指標ではなく、遅行指標ではないかと思う。
 第3点目については、かなりの人数を採用しているが、各行とも長い期間リストラを行い、やっと店舗統廃合などが終わって、通常のレベルに戻ろうとする途上のプロセスだと思う。
 給料に関しては、従業員に苦労をかけて申し訳ないと思うが、みずほはまだ公的資金が残っている。徐々に何とかしたいとは思うが、今はそれが第一だとは考えていない。


(問)
 最後に会長から一言挨拶をいただきたい。
(答)
 約1年間、初めて持株会社の社長として全銀協会長をやらせていただいた。昨年の4月にスタートした時に、「力強い一歩を踏み出す1年」ということを目標として掲げた。評価は皆さまにしていただければ良いと思う。1年をざっと振り返ると、長年の懸案であった不良債権処理がほぼ終息し、ペイオフ解禁後も大きな混乱がなく、また、公的資金についても、メガバンクでむしろ返済競争になるという、少し前には想像できない状況となっている。そういう意味では、全体のムードは良くなったと思う。また、わが国経済そのものも、3つの過剰がほぼ解消され、長いトンネルから抜け、安定に向かった1年であったと思う。私はこの 4、5年、年賀状に「デフレ脱却」と書いてきたが、今年はなんとか本当に脱却できそうだと感じている。3月に量的緩和が解除されたのも1つの通過点であったと思う。
 最終的にメガバンクは3つのグループになったが、それぞれの銀行のビジネスモデルが違うことは、私は良かったと思っている。それぞれの銀行が、お客さまに向かって自分の一番強いところを強化していくというモデルになってきたのではないかと思う。すべからく横並びの時代に戻るということは「ない」と思っている。
 この1年間は、非常に長く、かつ、途中で想定外の総選挙があったりしたが、振り返ってみると、比較的着実に前に進んだのではないかと思う。
 来週からは三菱東京UFJ銀行の畔柳頭取が会長に就任される。皆さんご存知のとおり、畔柳頭取は卓越したご見識と力強いリーダーシップをお持ちの方である。銀行界を必ずや適切に導いていただけるものと確信している。畔柳新会長への一層のご支援をお願い申しあげる。
 1年間本当にありがとうございました。