2006年4月18日

畔柳会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 私からは、本日開催した理事会において、平成18年度の会長・副会長を選任した件についてご報告する。
 お手許の1枚目の資料、「全国銀行協会役員名簿」をご覧いただきたい。
 会長には三菱東京UFJ銀行の畔柳頭取が選任され、この1年間、畔柳会長の指揮のもとで、全銀協は動いていくということである。
 次に、畔柳会長を補佐する副会長には、住友信託銀行の森田社長、三井住友銀行の奥頭取、みずほ銀行の杉山頭取、東邦銀行の瀬谷頭取、池田銀行の服部頭取、東日本銀行の鏡味頭取ならびに私斉藤の7名が選任された。
 なお、本日はこの他に、畔柳頭取の略歴および今年度の記者会見の日程についてもお配りしている。

会長記者会見の模様

 畔柳です。
 本日の理事会で前田前会長の後を受け、全銀協の会長を務めさせていただくこととなった。これから1年間、皆様のご支援を賜りながら大役に取り組んでまいりたいと思う。どうぞよろしくお願いする。
 抱負を申しあげる前に、この場を借りて、前田前会長に一言、お礼を申しあげたいと思う。
 昨年度は、金融界においても「官から民へ」という改革が、実現に向けて大きく舵を切った年であった。昨年10月には、郵政民営化法が成立し、11月には政府が政策金融改革にかかる基本方針を取りまとめてくださるなど、わが国の金融史に残る大きな節目の年となった。同時に、偽造・盗難カードにかかわる預金者保護法の制定や、金融商品取引法案の策定に至る議論が進むなど、金融取引に対する安心・信頼を確保するための取組みも進展した。こうした多岐に亘る重要課題に対し、前田前会長は見事なリーダーシップを発揮されて真摯に対応された。そのご努力・ご苦労に、心より敬意を表したいと思う。
 さて、改めてわが国の政治・経済を巡る環境をみると、各分野で進められてきた構造改革が総仕上げの段階に入っている。デフレ克服に向けた官民一体の取組みも実を結びつつあり、わが国経済は、4年を超える景気拡大局面にある。先月には、5年にわたって続けられてきた日本銀行の量的緩和政策も解除され、いよいよデフレからの脱却が視野に入ってきたところである。
 金融界においても、「金融システムの安定」から「活力ある金融システムの構築」へと、お蔭様でフェーズが着実に転換しつつある。不良債権処理問題からの脱却に続き、公的資金返済の動きも加速している。各金融機関は、守りから攻めへと戦略を本格的に転換し、成長分野への円滑な資金供給、個人金融資産の運用手段の多様化等を通じて経済活動を金融面から支えるという、銀行が本来果たすべき役割に改めて取り組んでいるところである。
 おりしも、今年度は、金融サービス立国を目指す「金融改革プログラム」の最終年度に当たる。この1年は金融機関にとって、サービス業としての原点を再確認し、お客様に満足いただける金融商品・サービスの提供に全力を注ぐ年になるように思う。そうした中で、今年度の全銀協の課題は、これまでの構造改革の流れを受けて、「民」の力を発揮し、「利便性」と「信頼性」を両輪とした活力ある金融システムの構築に向けて、民間金融機関の業界団体として役割を果たしていくことであると考える。利用者の皆様に、使い勝手の良い金融市場で安心して金融取引を行っていただけるよう、全力を尽くしてまいる。
 具体的に取り組むべき課題を、3点申しあげる。
 第一の課題は、「金融市場の構造改革をさらに進め、活性化する」ということである。
 「日本版ビッグバン構想」の発表からちょうど10年が経過して、金融界における規制緩和や市場の改革が大きく進展した。改革の進展によって金融商品・サービスが多様化・高度化する中で、利用者保護のためのルール制定が重要な課題となっている。現在、国会でご審議いただいている金融商品取引法案は、新たな時代にふさわしい市場のインフラを整備するための重要な法案である。今後、政省令等を含めて制度の詳細が検討されるにあたり、これまでの改革の果実を利用者の皆さんに享受していただけるよう、実務的見地から意見を申しあげていく。併せて、各金融機関がしっかり対応できるよう、業界レベルでも必要な取組みを行ってまいりたい。
 次に、金融市場の構造改革という観点からは、骨格策定段階から詳細設計段階に移行する、郵政民営化、政策金融改革への対応も重要な課題である。市場原理の埒外にあった巨大な郵便貯金を、「民」の世界にいかにソフトランディングさせていくのかは、郵便貯金銀行自身のみならず、民間金融機関の経営にも広く影響を及ぼす問題である。完全民営化された後に、民間金融機関が郵便貯金銀行と同じ土俵で切磋琢磨することは当然であるが、完全民営化が実現するまでの移行期においては、民間金融機関との間で公正な競争条件が確保されるよう、また、政府の資本がリスクにさらされることのないよう提言活動を行っていく。
 また、政策金融改革においても、政策金融として何を残すのかについては、「民間でできることは民間で」という基本原則に沿った検討を期待するとともに、民営化される機関に対してはイコールフッティングの確保をお願いしたいと思う。
 第二の課題は、「利用者の皆さんに安心して金融取引を行っていただけるよう、金融機関の自主的・持続的な取組みを促進する」ということである。「官から民へ」、「民の力を発揮する」ことを目指して、構造改革により民が自由に活躍できる場をご用意いただきつつある。利用者の皆様にこうした改革のメリットを享受していただくためには、民間金融機関およびその業界団体の自主的・持続的取組みが極めて重要になる。「自由と規律」の実践が問われていると、身を引き締めている。
 まずは、各金融機関が、リスク管理や内部統制の高度化等を通じ、経営に対する信頼を向上させていくことが不可欠である。今年度末からは、新たな自己資本比率規制、いわゆるバーゼルⅡが適用される予定である。また、5月に施行される新会社法や、現在国会でご審議いただいている証券取引法改正案の中で、企業経営における内部統制の一層の強化が図られようとしている。こうした制度変更を踏まえ、各行がきちんと体制を強化していくことが求められており、全銀協としても、必要な情報の共有など、各行の取組みをサポートしていきたいと考えている。
 業界団体としての自主的な取組みも、一層充実させていく。特に、各業態の金融機関いずれもリテール分野での戦略展開に注力しているので、個人のお客様の信頼を確保するための自主的な取組みが極めて重要になると考えている。利用者の「満足度向上」の第一歩は、外部の皆様の声を従来以上に良くお聞きし、それに対応していくことだと思う。そのため、6年振りに「生活者意識調査」を行うほか、相談窓口である「銀行とりひき相談所」の体制強化に向けた検討も進めたいと考えている。そうした外部の声や、金融商品取引法の制定の動きなどを踏まえ、必要に応じ、業界としての自主的なルールの整備も検討したいと思う。 お客さまの信頼確保には、銀行取引のセキュリティ確保のための取組みも重要である。偽造・盗難カード等の金融犯罪に関してはこの2月に預金者保護法が施行されたが、引続き、関連する情報を銀行間で広く共有化するほか、利用者の方々への周知も合わせて、被害の未然防止に努めてまいりたいと思う。
 以上二つの課題は、金融市場・金融取引の改革によって利用者の皆様の満足度向上を図るものであるが、第三の課題として、「CSR活動の推進」を取りあげたいと思う。
 昨年11月、全銀協は、従来の「倫理憲章」を「行動憲章」に改定し、社会と共に歩む「良き企業市民」として、積極的にその責任を果たしていく旨を明記した。今年度は、その方針を具体的な形で積み上げていきたいと思う。まずは、金融の本業の活動領域を広げることで、金融機関の特性を活かして、社会や環境のいろいろな課題を解決するお手伝いをしていくことが重要と考える。例えば、金融機関のCSRに関連した商品として、環境関連融資やSRIファンドの提供などがある。そうした商品に関する先進的アイデアを共有すれば、多くの金融機関がCSR活動を推進しやすくなると思う。
 一方、本業以外の分野では、独自の社会貢献の取組みや支店レベルの創意工夫によって店舗周辺での地域貢献活動を進めているところもある。全銀協では、レポートやセミナーによって、具体的な活動事例などの情報を会員銀行に提供しているが、今年度は、専門家の皆さんのご意見も良くお聞きし、各金融機関のCSR関連活動に役立てたいと思う。
 このほか、金融経済教育の重要性が増す中、各種パンフレットなどの教材提供や、地域団体や学校等への出張講座への取組みも一段と強化してまいりたいと考えている。
 以上のように、わが国経済・金融の重要な転換期に重責を引き受けさせていただくこととなった。やや個人的な思いも入るが、三つの言葉で言うと、「より便利な」、「より安心な」そして「よりほがらかな」銀行界を目指す1年となるよう、関係各方面のお力をお借りしながら務めていくので、どうぞよろしくお願い申しあげる。


(問)
 日本経済の現状認識と、あと今日、長期金利が6年8ヶ月ぶりに2%を超えたようであるが、金利上昇の影響も含めて、先行きの日本経済への影響も含めて見解を伺いたい。
(答)
 日本経済の現状あるいは今年度の見通しは、既にいろいろなところで報じられているとおりだと思うが、全体として非常にバランスの良い景気拡大が続いていると認識している。今回の経済の拡大というのは、企業業績というものがベースになって、その好調さがいろいろなところに及んで、良いバランスになってきていると思う。生産、所得、支出という循環が、これは日本銀行の総裁もおっしゃっているが、良い循環となって拡大しているというようにみている。
 リスク要因として、原油価格の問題や、米国経済、中国経済など海外経済の問題もあるが、今のところ、海外経済は大崩れしないとみており、そういう意味で言うと、私どもの経済調査室の見通しでも18年度は2%台前半の実質GDP成長を見込んでいる。その中身は個人消費、民間企業設備、輸出のバランスが良い形でもたらされるのではないか。ベースとなっている企業業績は、来年3月期の予想もいろいろ出ているが、引続き、増収・増益予想が出ている。今回の景気牽引のベースは、今年度中も比較的しっかりしたものとなるのではないか。
 最初の質問の中に長期金利の話が出ていたが、金利の問題は、特にマーケットの金利は、市場のことは市場にということもあるので、一般的に今の状態がどうだというようなことは申しあげにくいところもあるが、一般的な見方として、中期的なところを中心に、先行きを少し先取りする動きがマーケットに出ているのではないか。ただ、私どもの銀行の窓口ベースの資金需要という観点からは、必ずしも今後貸出が本格的に拡大していくような需要が出ているとはみていない。一般的に、全体の貸出が回復しているというようなことは確かであるが、中身を見ると、個人向けや地方公共団体向けが前年比増加している。全体として、この 2月から貸出も前年比わずかながら増加に転じたが、いわゆる民間企業の資金需要は、縮小幅という意味ではずっと改善してきているが、増加というところまではきていない。先ほど申しあげた民間設備投資も、各企業が自らのキャッシュフローの範囲内で行っている。そういう意味で、銀行の窓口からは、長期的な資金需要が非常に出てきているとは、まだ思えない状況である。


(問)
 ゼロ金利解除にマーケットの関心が集まっているかと思うが、そのタイミング、また、ゼロ金利を解除しても再びデフレに戻らないような状況に日本経済がなっているか等について、会長の見解を伺いたい。
(答)
 こちらについても、先ほどのご質問に少し関係しているかと思うが、とにかく、3月に量的緩和が5年ぶりに解除された直後であり、そういう意味で、当面ゼロ金利が維持されるのではないかとみている。
 マーケットには、いろいろな見方があるようだが、繰り返しになるが、企業の資金需要でみると、銀行貸出が前年比で力強く伸びていくという状況にはない。そういう資金需要という面からは、ゼロ金利がもう少し維持されるのではないかとみているが、物価の上昇ピッチなども踏まえて、日本銀行の方で総合的に、適切に判断されていくのではないか。


(問)
 先週末に消費者金融のアイフルに対して金融庁から行政処分が出たが、強引な取立てなどが背景にあったと言われているが、この問題についてどうみるか。
 消費者金融とメガバンクは資本を含めて提携関係を強めてきたが、この戦略に何がしかの影響が出るのか。消費者金融に対する見方は当然厳しくなると思うが、先ほど銀行のCSRのことを強調されていたが、それとのからみで今後の戦略に何か影響が出るのかをお聞きしたい。
 また、金融庁の貸金業に関する懇談会で、いわゆるグレーゾーンについて撤廃する方向で意見の一致を見たとのことであるが、このことが消費者金融の企業の経営基盤にも何かしらの影響が出る可能性もあるので、どのように受け止めているのか。
(答)
 三つくらいのご質問かと思うが、最初のアイフルの件については、やはり貸金業法に違反していた、違反防止のための対策が講じられていなかったというルール違反があったということに関しては大変遺憾なことだと思う。金融業すべてのいろいろな問題についてルールを厳守するというのは、先ほどの自由と規律の話ではないが、ますます自由化が進んでいく中で、極めて重要な要素であると思う。したがって、ルール違反に対して対応されることは必然であるかと思う。
 メガバンクに関連するご質問が2番目にあったが、消費者金融に対するニーズというものは、正当なニーズがわが国に存在することは確かなことだと思う。したがって、消費者に安心かつ信頼いただきながら、このニーズに対応していくということは大きな意味で、私どもを含めた金融業としての一つの責任範囲とも言えると考えている。わが国においてはこの分野については歴史的な経緯があるが、その中で私どもとしては、少なくとも消費者の方に安心、信頼をいただく形での健全な消費者信用市場の発展にチャレンジしていかなければならないと考えている。
 ただし、先ほど申しあげたように歴史的な経緯があるので、今この時点で言うと、各金融機関の対応に少し差があるのは当然のことだと思うし、金融機関毎に模索、検討しながら、最終的には、やはり健全な消費者信用市場の発展というものを皆で作りあげていく。そして、正当なニーズがあり、そのニーズに対して消費者に安心、信頼していただくという形でこれに対応していくということが一つの考え方であるかと思っている。
 三つ目はグレーゾーン金利の話であったが、一本化への議論が進んでいるのは、最近の最高裁の判例等に照らしても当然の方向であろうと思う。これも消費者の安心、信頼を得られる方向での解決が最も重要なポイントであると思うが、結果として、そのように着地できるように現実的な実態も十分に踏まえて議論が深められることは重要だと思っており、そういう方向で今、議論が深められているので、われわれとしても真摯にそれを見守っている。


(問)
 追加であるが、三菱東京UFJ銀行としてはアコムと提携関係を強めてきたが、この戦略については今のところ見直すお考えはないということか。
(答)
 われわれとしては、先ほど申しあげたような大きな目的で踏み出しているので、今ここで見直すということは考えていないし、さらにそういう方向でのいろいろな話し合いを進めているところであるから、先ほど申しあげたような大きな義と言うか、そこに向かってこれからも私としては努力していきたいと考えている。


(問)
 重ねてお伺いするが、ただし、今回のアイフルの問題で消費者金融全般に対して、イメージダウンというか、強引な取立てというイメージがついているので、頭取がおっしゃるような大きな義に向かっていろいろ提携を進めていく上では障害というか大きくなってきたと思うが、一方で、りそな銀行等が提携商品のローン販売を一時中止するというような対応が出てきている。このあたり、どのように戦略として消費者金融を大きな義に向けて進めていくという考えか。
(答)
 やや繰り返しになるが、実際にいろいろな方々の消費者金融に対するニーズというものがあり、そのニーズにもいろいろな形がある。したがって、一律というようなこともないかもしれないが、いろいろな場面に応じて、消費者の方が安心して、信頼関係のある形で、納得して消費者信用を利用できる形に、金融に携わる者であれば、それにチャレンジしていくというのは必要なことだと思っている。勿論、実務的に詰めていかなければならないことはいろいろあると思うが、少なくともすでに具体的にできつつある部分があるので、それを拡大していくということで対応することは可能ではないか。


(問)
 具体的に進めてきていることが何かあればお聞きしたい。
(答)
 こういう場であまり個別の銀行のお話をするのは如何かとは思うが、例えば、私どもが今、DCキャッシュワンという会社を提携先と一緒にやっているが、そこは金利も適切なあり方で、かつ、今まで蓄積された消費者信用のノウハウを活用していくという、両者を両立できるような形でチャレンジをしている。


(問)
 特別危機管理銀行にある足利銀行のエグジットが年度内にあるかもしれないが、これは資金贈与ということになっており、預金保険法でみると銀行業界が贈与の分を一義的には担うとされており、もしもそれが金融システムに負担ないし大きな支障がある場合においては国が穴埋めしますよということになっている。エグジットに際しての資金援助は基本的に銀行界で担うという考えでいるのかどうか、現時点の考え方をお聞きしたい。もう一つ、受け皿について、三菱UFJグループとして何らか関与をするお考えはあるのか。
(答)
 やや個別の銀行の話であるが、私どもとして現在、どういう状況になっているか、必ずしも正確に把握していないので、前半部分についてのご質問へのコメントは差し控えさせていただく。 受け皿についても、私どもの銀行がどうこうということをこういう場で申しあげるのはいかがかと思うが、一般論で申しあげれば、足利銀行の実態に照らして、然るべく受け皿銀行が決まって、結果として地域経済の発展に貢献する形で着地できるということが望ましい姿だと思っている。


(問)
 冒頭、金融商品取引法の話があったが、その中で実務的な見地からという話もあったが、今後、審議中の法案が成立した場合の課題やポイントはどういったところになるのか、お考えをお聞きしたい。
(答)
 金融商品取引法は、自由化が進んで金融商品が多様化していく中、投資家保護ということを目的として、投資性のある金融商品に包括的、横断的な販売ルールを制定するという、貯蓄から投資へという大きな進展の中でいえば、極めて必要かつ重要な法整備であると認識している。したがって、その法整備をよく理解して各銀行がよく勉強して、その内容を自主的に自ら取り込んでいって規律をしていくことが非常に重要だと思っている。実務的な面になると、おそらく適合性原則とお客さまの意向を確認する書面交付という二つが重要な柱になるのではないかと理解している。すでに私どもの銀行では、リスク性商品について高齢者への能動的な勧誘を禁止するなど、一定のルールは定めているが、商品毎の適合性原則を、どういう方にどういう商品を売るときにはどういう適合性を確認して販売したら、結果としてお客さまも喜んでいただけるし、われわれの方も喜べるのか、そういう確認を一つひとつの銀行がよく理解し実践していくことが大事だと思っている。


(問)
 長期金利の上昇であるが、景気拡大を反映しているとはいえ、急ピッチな上げと言われている。各金融機関の当初の想定金利よりも上回るものだと思うが、長期金利の上昇が銀行経営にはどういう影響を与えるのか。それから借り手である産業界に対する影響をお聞きしたいと思う。
 それから、金利全般に関しては、住宅ローンの金利の引上げというのが、量的緩和解除直前から段階的に行われている。それに対して、消費者の関心とか不安の声などがある一方で、預金金利については、小幅ながら引上げはしているが、かなり低水準に対して、不満はやはりあると思うのだけれども、そのへんの顧客の意識のギャップについて、金融機関がどう対応していくのかということ、2点お願いする。
(答)
 最初のご質問の長期金利は、先ほども申したとおり、マーケットの問題は事実は事実であり、それが良いとか悪いとかは考えていない。5年間量的緩和が続いた後で、身体をほとんど動かしてないところを今動かし始めたような過程だから、あまり一喜一憂する段階ではないのではないか。先ほどゼロ金利のところのコメントでも申しあげたが、先月量的緩和が解除されたところであるから、この段階で起こっていることを中長期的に、断定的に申しあげるというような段階でもないのではないかと思う。したがって、とりあえず今すぐこれが銀行経営に影響するとかというようには考えていない。ご質問にあった産業界に対する影響というのは、資金需要自体が、銀行の窓口で非常に出てきているのなら、そういう影響もあるかと思うが、先ほども申しあげたとおり、企業の設備投資は、キャッシュフローの範囲内にとどまっている段階だから、直接的に産業界に響くというようにも思えない。
 それから、2番目のご質問で申しあげると、住宅ローン金利や預金金利は、従来から市場金利に連動して運用している。そういう中で、先月量的緩和を解除して、市場金利の動きが切り替わってきたということである。従来から市場金利に連動して運営しているので、そのようにご理解いただくようご説明しているところである。


(問)
 郵政の民営化については、これまでも全銀協としてもいろいろとご見解を出されているが、それこそ全銀協会長まで務めた西川さんが、あちら側になられた途端に、いろいろと業務の拡大について言及されているけれども、そういったことについては、どういうふうにお感じになっているかお聞かせいただきたい。
(答)
 西川さんの発言がどうこうと言うことではなく、全銀協としては郵政民営化については、一貫したお話をさせていただいていると思う。従来市場の埒外に置かれていた巨大な規模の資金によって起こる問題を是正して、効率的な資金配分を実現するというのが郵政民営化の大きな目的であると思う。それを完全民営化の実現に向けて、民の世界にソフトランディングさせていくというような中では、やはりわれわれがずっと申しあげているのは、一つは適正規模への縮小ということ、そして政府出資の早期解消ということである。この点については、全銀協のスタンスは一貫したものである。おそらくはそれに向けたマスタースケジュールというか、大きな方向に向かってどういうように全体として進められていくかということが検討され、いずれ発表されるのではないかと思う。それが発表されれば、どういうふうにソフトランディングさせるかという理解も、いろいろな意味で深まるのではないか。ただ、そういうことがまだ出ていないうちに、あまり部分的に業容の拡大の話が出てくると、元々の目的と照らしてどうだとか、いろいろな議論が出てくる。したがって、どちらかと言うと、やはりそういう大きなプランというか、マスタースケジュール的なものが出てきた中で、国全体としてもソフトランディングが必要なわけだから、それに向けた議論が深まるという形が望ましいのではないか。


(問)
 部分的に業容拡大が出てくると、元々の目的と乖離していくと思うのだけれども、しかし実際のところ、西川さんがそういう発言をされているのだが、そのことについてはどうか。
(答)
 それはいろいろ報道されているようだが、特にその一言一言について、私がコメントすることではない。先ほど申しあげたような、全銀協としての一貫した姿勢が大事である。


(問)
 今年度の課題のところで、バーゼルⅡへの対応を一つあげられたと思うのだが、一つは一般的な話として、銀行界、クレジットリスクとかオペレーショナルリスクのリスク管理手法の高度化への準備状況はどうなのか、これからの課題はどんなものがあるのかというのを伺いたいのと、もしもお話を伺えれば、統合されたばかりの銀行なので大変かもしれないが、MUFGとしては内部手法の先進的手法をやはり目指す方向でいるのか、この2点を伺えればと思う。
(答)
 バーゼルⅡの対応というのは、申すまでもなく、極めて大事な対応である。特に皆さんご存知のとおり、銀行経営におけるリスクをクレジットリスクと市場リスクとオペレーショナルリスクというふうに分析をして、現在のシステムよりもリスク感応度を高めた経営にしていく。そして、リスクに見合った必要資本をきっちりと管理していくという意味において、より正確なリスクの反映と経営管理の改善が図られる。結果として、全世界にわたって、資金の効率的な配分につながっていく。そういう大きな目的がある非常に重要なことなので、各金融機関もそれぞれ勉強して、それに対応するように努めている。アメリカは、最初に言い出したわりには、1年遅れるという問題も出ているが、ヨーロッパは予定通り進める。私ども日本の銀行としても、それぞれいろいろなシステム負担があるが、それを皆さん克服して、それに向かって進んでいるという段階だと認識している。
 個別行としては、先進的な手法を目指すというようなことでやっているが、いろいろな環境が果たして最初からそれを許すのかどうか、その辺を今よく確認しているところである。


(問)
 冒頭の話の中で、日本のほとんどの銀行で不良債権処理が終わり、公的資金返済の目処もついた。フェーズの転換があって、これから守りから攻めに行くということをおっしゃったが、会長の攻めのイメージをお聞きしたい。かつて、柳澤大臣が、日本の金融機関は将来的には世界的に活躍できる金融機関にならなければならないと毎回記者会見でおっしゃっていて、今こそそういう時期にきたのではないかと思うが、具体的な会長の攻めのイメージを教えて欲しい。
(答)
 銀行もいろいろなタイプがある。私どものようにいわゆるメガバンクと呼ばれている銀行の活動範囲の問題と、国内でのみビジネスをする銀行、規模の大小等いろいろあると思うが、共通して言えることは、最初に申しあげたリテール分野である。政府の施策も「貯蓄から投資へ」である。日本全体の資金循環をより活性化させていき、それを通じて消費者、預金者と共存共栄した形で「貯蓄から投資へ」を実現させていくという意味において、銀行界全体がリテールに取り組むということは、かなり攻めの姿勢になると思う。ただ、先ほど申しあげたとおり、一辺倒に収益を上げるのではなくて、攻めと守りのバランス、自由と規律という守りをきちんとやりながら、お客さまと共存共栄する、利便性と信頼性が両立する、そういう形で取り組むことが本当の攻めなのだ、というのが銀行界の共通した課題だと思う。
 ただ、メガバンクは国際的な存在でもあり、日本経済がこれだけ国際的に組み込まれ、企業が国際的活動で業績を上げている中で、それに即して銀行もいろいろと転換を図って貢献していかなければならない。これまで、何年間かは不良債権処理などにとらわれていたので、そういう点で言うと、アジアに積極的に関与して日本の銀行がやれることをやって、金融的にも国際的にも貢献するということも大事な攻めの姿勢だと思う。


(問)
 時価総額で日本の銀行の中で一番大きい三菱東京UFJ銀行が、アジアの中でどのように積極的に関与をしていくのか、例をいくつか挙げて欲しい。
(答)
 個別行の立場で申しあげるが、もともと私どもの銀行はそれなりに海外の歴史のある銀行が合併しているが、今度の新しい銀行になると、ほとんどのアジアの拠点で日系企業とのお取引のシェアが非常に高い銀行になっている。われわれのお取引している日系企業に関わっている輸出企業は、各国の2割ぐらいの貿易を担っているというような存在感がある。そういう規模の銀行にさせていただいたからには、そういうベースを活用して、更にやれることがいろいろあるのではないかと検討している。

別添資料:畔柳会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)