2006年7月18日

畔柳会長記者会見(三菱東京UFJ銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 本日の理事会において、お手元に配付している資料のとおり、平成19年度税制改正要望の骨子を取りまとめた。
 要望の内容は「金融・資本市場の活性化と国際的な取引の推進」、「適切な経営環境の確保」ならびに「経済活性化と課税の適正化」という3つの柱で構成している。
 正式な平成19年度税制改正要望については、今後、この骨子をもとに、さらに検討を進め、9月に取りまとめて、また、ご報告する予定としている。

会長記者会見の模様

 質問をお受けする前に、私から2点、申しあげたい。
 まず第一は、先週の日本銀行によるゼロ金利政策の解除についてである。
 日本経済は、月初に公表された日銀短観でも企業の景況感の底堅さや先行きの設備投資の増加基調が確認されたとおり、着実に回復を続けている。そうしたなかで消費者物価のプラス基調も定着してきた。
 今回のゼロ金利解除は、日銀がこのような状況を総合的に踏まえて判断されたものと認識している。ゼロ金利解除は、量的金融緩和の解除に続く金利機能の正常化に向けたプロセスであり、今後も、日銀に対しては、持続的な経済成長の実現と物価の安定に向け、適切な金融政策運営をお願いしたいと思う。
 ゼロ金利解除が金融市場や銀行経営に与える影響であるが、金融市場はすでに事前に解除を織り込んでおり、総じて落ち着いているように思われる。一方、銀行経営に与える影響としては、各銀行によって財務ポートフォリオは異なり、金利上昇が貸出量や預金量に与える影響もあるので一概には申しあげられないが、一般的に、各業態とも、金利上昇局面では、預貸金収益の拡大や債券運用益の増加を通じて、資金収益が拡大することになる。
 ただ、既に各銀行とも金利上昇を織り込んで収益計画を立てていると思われ、今回のゼロ金利解除によって、5月の決算発表時に各行が公表した今期の業績予想が上方修正されるということはないのではないかとみている。今後、景気回復が企業の資金需要拡大に結びつけば、銀行決算にプラスとなる可能性はあるが、現在のところ未だそうした状況には至っていないように思う。
 以上、ゼロ金利政策の解除について申しあげた。
 第二に、全銀協会長に就任してから3ヶ月が経過したので、これまでの取り組み状況を簡単に報告したいと思う。4月の就任会見での重要課題として掲げた、「利用者の皆さんに安心して金融取引を行っていただくための、金融機関の自主的・持続的な取り組み」を中心に報告する。
 まず、業界の自主ルールに関連する対応として、独占禁止法に関する取り組みについて申しあげる。先月のこの場で報告したとおり、会員銀行が独禁法への対応を図る際のガイドラインである「銀行の公正取引に関する手引」を改訂し、各行に周知した。しかし、その後、6月21日に公正取引委員会が発表した調査によると、全銀協に加盟している金融機関でも、前回13年度の調査や16年12月に公正取引委員会が公表したガイドラインなどを認知していないところもあること等が明らかになった。
 私どもとしても、この調査結果を重く受け止め、先週7月11日に、会員銀行全体を対象とした独禁法に関する勉強会を開催し、今回の全銀協の手引の改訂内容、公正取引委員会の調査結果等につき、全銀協の顧問弁護士に解説をしていただく機会を作った。加えて、本日、公正取引委員会の伊東事務総長をお招きし、理事・監事を対象として、独禁法に関するトップセミナーを開催した。伊東事務総長のお話を伺い、経営トップの責任において、コンプライアンス態勢の強化を図っていく必要性を再認識したところである。
 なお、会員銀行の独禁法遵守に関する取り組みについては、年内を目処にアンケート調査を行い、この対応状況をフォローする予定である。
 第二に、外部の声をよくお聞きするという観点から、利用者の皆様の相談窓口である「銀行とりひき相談所」の体制強化に向けた検討に着手している。全国 51カ所にある「銀行とりひき相談所」に対して、各地の相談所が抱える課題、全銀協に対する要望等について、アンケート調査を実施中である。その結果も踏まえて、全国レベルで相談機能の強化を図っていく。
 第三に、金融犯罪の防止のために、全銀協で改めて広報活動を行うこととした。犯罪の未然防止のため、その具体的手口や対応策を広く認知・理解していただくことを目的として、ビデオ、パンフレット作成、インターネットやラジオによる広告、イベント等を通じたキャンペーンを行う。実際の展開は10月を予定している。 私からは以上であるが、今後も、四半期に一度程度、このように全銀協の活動状況をご報告させていただきたいと考えている。


(問)
 先ほど、会長からもゼロ金利政策の解除について言及があったが、14日の金融政策決定会合でゼロ金利を日銀が解除したが、一般的に金利上昇は銀行の収益拡大を後押しするといわれているが、今回のゼロ金利解除では同様の現象が起こるのか、あるいは具体的にどういった分野でどういった収益拡大の効果が起きるのかを改めて聞きたい。銀行全体と三菱東京UFJ銀行それぞれへの影響をお願いする。
(答)
 冒頭で少しコメントしたとおり、一般論でいうと、金利上昇局面では預貸金収益の拡大や債券運用益の増加を通じて、資金収益が拡大する。
 ただ、足元、企業の資金需要は下げ止まりの傾向がはっきりしてきたが、依然として多くの企業がキャッシュフローの範囲内で設備投資を行なっているなど、この先、資金需要や貸出全体の伸びが力強く高まってくるというような状況にはないように思う。したがって、資金収益がどの程度拡大するかということは不透明である。
 加えて、金利上昇の影響は各銀行の財務ポートフォリオによって、それぞれ異なり、金利上昇によって保有債券に評価損が発生するような場合もある。資金調達コストも、各銀行のポートフォリオによって違ってくる。したがって、銀行界全体として、ゼロ金利解除がどの程度収益に影響するかについては、何とも申しあげられない。私どもの銀行では、既に普通預金などの預金金利の引上げを決定した。一方で短期プライムレートの引上げについては、短期市場金利がどのように落ち着くかを見極めて検討させていただきたいと考えている。いずれにしても5月に発表した私どもの業績予想には、ある程度の金利上昇を織り込んでいた。今回、想定した金利の上昇の範囲内であったので、これによって収益がさらに拡大するということではなさそうである。もう少し精緻に検討する必要はあるが、どちらかといえば、預金金利の問題もあるので、想定を上回るような収益増加になるというよりは、当初の計画が達成できるか、という状況かなと思っている。


(問)
 全銀協によると、 05年度の全国銀行の決算は、過去最高益となった。改めて、05年度の総括と今期の見通し、間近に迫っている四半期情報開示の見通しをお願いしたい。
(答)
 全国銀行の前年度の当期利益は、4兆円を超える過去最高の決算になった。その背景としては、何といっても一つは、経済状況の改善から貸倒引当金等の戻り益がかなりあって、かつての不良債権コストがむしろ戻り益に転じたというような面が大きかった。銀行によって多少差があるとは思うが、例えば私どものグループの場合、1兆2千億円の最終利益のうち、貸倒引当金の戻り益で約5千億円の収益貢献があった。もう一つは、銀行界もこの間に営業店の統廃合とかを通じて、いろいろなリストラ努力をしている面があるが、その効果が出てきたのかなと思う。全国銀行ベースでは、営業店の店舗数や人員をピーク比2~3割は削減し、結果として経費全体でピーク比2割弱、1兆5千億円くらいの削減努力を行った。したがって、そういった効果も出てきている。事業会社も最高益を計上しているところはリストラ努力がベースになっていると思うが、銀行界においても、同様のことがいえる。これに、過去の不良債権処理コストが利益に転じたというものが兼ね合わさって、最高益がもたらされたのだと思う。したがって、「今年度はどうか」と質問されたと思うが、これについては、私どものグループでは1兆2千億円から5千億円を引いた約7千億円くらいの利益水準が昨年度の実勢であったのに対して、7千500億円と発表している。今年度の決算は、勿論、経費削減効果は残るが、臨時損益がなくなったときにどういう利益水準になるかということで、昨年度決算とは少し変わった状況になってくる。いわゆる通常状態における利益を、各銀行がいかに経営努力であげていくかということが課題になってくると思う。


(問)
 ゼロ金利政策についてまずお伺いしたい。全銀協会長という立場でこのゼロ金利政策というものをどのように総括されるのかという、その評価。および、今後の金利政策の運営に当たって追加利上げのペースについて関心が集まっているが、今後の政策運営にどのような注文があるのか、お聞かせいただきたい。また、福井総裁の問題で、日銀が服務規程の見直しとか資産公開のあり方について発表されたが、これが日銀の信頼回復にどの程度のプラスになるのか、そのあたりの評価をお伺いしたい。
(答)
 ゼロ金利政策は、5、6年に亘って続いたので、その解除の評価は一言ではなかなか難しいところがあるが、日本経済が三つの過剰を解消する非常に厳しい状況のなかで、一定の役割を果たしたのではないか。三つの過剰が解消して景気の回復がもたらされているなかで、異常というべきゼロ金利が解除されて正常化への一歩が踏み出されたということは、非常に喜ばしいことではないかと受け止めている。
 次の利上げというご質問だが、これは最終的には日本銀行が判断されることで、ゼロ金利の解除の時と同じように、私どもからあれこれ申しあげることではないと思うが、市場では既にもう一度の利上げ観測も出て、ある程度それを織り込んでいるという見方もある。しかし、現状、景気が過熱するような状況ではない。先ほど申しあげたとおり、銀行の貸出需要も今ひとつ力強く回復してきているという地合いではない。今回のゼロ金利解除の影響をまず見極めることが、重要ではないかと考える。
 最後の質問の日銀の新しいルールについては、金融商品の取引規制の強化や保有規制の導入、これらを担保する仕組みとしての第三者機関の活用、あるいは資産の公開等が織り込まれるなど、ルールの厳格化、明確化がなされたように受け取っている。これは日銀の透明性を高めるものであり、それが結局一番大事な日銀の独立性について国民の支持を得るのに必要な対応ではなかったかと思う。


(問)
 今日から大手行で、一斉にというか、普通預金金利が引き上げられて、およそ6年ぶりということで、非常に懐かしさを感じるのだけれども、実際いろいろと巷で聞いていても、歓迎する声も多い反面、まだまだわずかな金利だというような声もある。まず、率直に、普通預金金利を引き上げ、定期預金はすでに上がってるけれども、預金金利がこうやって上がったということに関して、今回、銀行経営側からどういうふうにお感じになっているのか。また、一部では0.2%のところもあるし、三菱東京UFJ銀行では0.1%と若干差があるが、今後の金利競争というか、それはどういう感じで展開していくのか。預金者への還元という意味も込めてどうなっていくのかを教えていただきたい。
(答)
 基本的にゼロ金利というものは、ある意味で異常な状況であったと思う。それが長く続いていたということは、やむを得ない面もあったわけだが、日本経済全体が回復して、ゼロ金利から脱却できて、正常化へ一歩踏み出したということは非常に喜ばしいことである。
 私どもの銀行で申しあげると、調達サイド、運用サイド、バランスシートの両側とも、常に市場金利をベースにものを考えるという運営になってきている。そういう面から申しあげて、今回経済の回復に伴って市場金利自体が上昇してきて、それに伴ってこういう形で預金金利の方も引き上げることができる状況になったということは、正常化への一歩を踏み出したということで、これも金利機能の発揮という点で大変望ましい方向ではないかと思う。
 今後は、経済が順調にこのまま回復していって、さらに預金者の方が期待されるような市場金利の動向になっていけば、それに応じて私どもも対応していくということになる。そういう意味で、市場金利をベースに、調達サイドと運用サイドの両者を見ながら、バランスをとってしっかりした経営をやっていくということが重要なことだと思う。


(問)
 これもゼロ金利の解除に関してであるが、銀行サイドからしてみると、過剰流動性が縮小していくなかで、銀行によっては、特に体力の低い地銀などにとっては、今までのようにリスクテイクをしにくくなっていくのではないかという心配もある。特に今回、中小企業向けの金利なども上がることも予想されて、先ほどおっしゃったように資金需要がなかなか伸びていないなか、このゼロ金利解除というのはむしろ実体経済に悪影響を与える可能性があるのではないかという見方もあるが、その辺りについての見解を伺いたい。
(答)
 今までのゼロ金利という異常な世界から脱却できて、第一歩として今回、翌日物無担保コールで0.25%に引き上げが可能となった。これは、実質金利の議論にもあるように、消費者物価の上昇率などを睨みながら日本銀行が踏み切られたものだと思う。経済というのは全て連関しているので、消費者物価の上昇が企業にとっては売上増という形で収益拡大につながり、それに耐えられる金利コストというところでバランスを取りながら、正常化の方向に向かっていくのではないか。われわれ金融サイドにはそのバランスをよく見ながらやっていくという責任があるし、もちろん金融当局にもあるのだと思う。
 全体として、経済が順調に拡大して、個々の企業が収益を順調に伸ばしながら、税収も自然増収という形で順調に上がって、いろいろな問題が解決していくような運営が一番望ましい。そういう点をよく考え合わせながら、かつ、われわれ自身の銀行経営のバランスシートのバランスを取り、しっかりとした経営をやりながら、対応していくということだと思う。


(問)
 先ほど質問もあった日銀の福井総裁の件だが、先ほど会長は、内規の見直しを日銀における透明性を高めるもので日銀の独立性について必要だったのではないかということだったが、これまでは明確な厳密な規定がなく、結果的に福井総裁はあのような取引が許されてしまっていたということについて、どうお考えになるか。あれを機に見直しが進んだわけで、実際、福井総裁の村上ファンドへの投資というのは新しい規定には反することになるわけで、それについてもどう思うか感想を聞かせていただきたい。
(答)
 前回の会見でも申しあげたとおり、日銀の独立性というものは極めて重いものであると思う。金融政策を独立して担当しているわけで、その独立的な位置づけの中でルールも決まり、新しい環境に対する対応をなさったと理解している。