2007年4月24日

奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 それでは、最初に事務局の方から1点報告をする。
 本日開催した理事会において、平成19年度の会長・副会長を選任した。
 お手許資料の1枚目の「全国銀行協会役員名簿」をご覧いただきたい。会長には三井住友銀行の奥頭取が選任され、この1年間、奥会長の指揮のもとで、諸課題に対応していくことになる。
 次に、奥会長を補佐する副会長には、みずほ信託銀行の池田社長、みずほ銀行の杉山頭取、三菱東京UFJ銀行の畔柳頭取、東邦銀行の瀬谷頭取、スルガ銀行の岡野社長、東日本銀行の鏡味頭取ならびに私斉藤の7名が選出された。
 なお、本日はこのほかに、奥頭取の略歴および今年度の記者会見の日程をお配りしている。


会長記者会見の模様

 三井住友銀行の奥です。
 本日の理事会で、畔柳前会長の後を受けて、全国銀行協会の会長を務めさせていただくことになった。これから一年間、皆様のご支援、そしてご指導を受けて、この大役を務めさせていただきたい。どうぞ、よろしくお願いしたい。
 就任にあたっての抱負を申しあげる前に、この場を借りて、畔柳前会長に一言お礼の言葉を述べたい。
 昨年度は、日本銀行による夏以来の2回の利上げに象徴されるように「再生から成長」へ経済のステージが移行する中、畔柳前会長におかれては、銀行界の代表として、多岐にわたる重要課題に積極的に取り組んでこられた。特に、銀行界に大きな影響を与える金融商品取引法の成立や、信託法、貸金業法等の改正、そして郵政民営化への対応のほか、多様な規制緩和の推進にご尽力されるなど、優れた洞察力と先見性、そして卓越したリーダーシップを発揮された。この一年間のご尽力に対し、心から敬意を表する。
 さて、改めてわれわれ銀行界を取巻く環境について考えてみると、いざなぎ景気を越える景気拡大など、経済環境は自律的な回復軌道に乗り、当業界が長年苦しんできた不良債権問題に終止符を打ち、新たなステージへ移行してきたという感じを持っている。政府、日銀、民間企業等が一体となって懸命な努力をした結果が、確実にこの成果に結びついてきていると考えている。
 そうした中で、これからの一年は、まさに「回復から拡大へ」というトレンドを確かなものにしていく一年であり、内向きであったベクトルを外に向けて、広く世界を視野に入れて、わが国経済・金融資本市場の活性化、国際化に改めてチャレンジしていくための、言わば建設的な地固めの一年であると捉えている。
 私ども銀行界においては、金融商品取引法の施行、郵政民営化への移行、保険窓販の全面解禁といった大きなイベントも控えており、お客様のニーズがより多様化・高度化する中において、私としては、今まで以上に銀行が、その使命・役割を発揮して、金融界へのお客様の信頼を揺ぎ無いものとしていくよう全力を尽くしていく所存である。
 そうした観点から、今年度の重要課題を整理すると、大きく2つのテーマにまとめられると考えている。
 まず、第一は、金融サービスにおける安心と信頼の確立である。そして第二に、わが国金融・資本市場の活性化と競争力の強化、この2つである。
 まず、第一の「金融サービスにおける安心と信頼の確立」についてであるが、12月に全面解禁が予定されている保険の窓販を含め、「貯蓄から投資」へ大きな流れがある中において、お客様が金融サービスを安心・信頼して利用できる環境整備に注力したいと考えている。
 特に、本年度は、金融商品取引法の施行という大きな節目がある。銀行の実務においても、その円滑な移行が求められている。全銀協としても、会員銀行の取り組みを最大限支援してまいりたいと考えている。また、改めて申しあげるまでもないことであるが、コンプライアンスの徹底を粘り強く、そして愚直に継続していくことも不可欠であると考えている。更に、これまでも多くの努力がなされてきた金融犯罪への取組みについても、引き続き重要課題として認識している。
 また、全銀協としては、社会との対話としてのCSR活動の推進についても、新たな検討部会を設け、金融取引に関する知識普及や啓蒙活動を通しての金融経済教育の拡充、そして相談機能の強化など更なる取組みを進めてまいりたいと考えている。
 要は、銀行がサービス業であるという原点を再確認し、あらゆる課題について、お客様の目線で検討を行い、全銀協としての活動を推進していくことが重要であると考えている。
 第二のテーマ「わが国金融・資本市場の活性化と競争力の強化」であるが、これについては、近年の個人投資家の裾野の拡大、資金余剰を背景とした企業部門の投資・運用の増加、こういった潮流や、高度化・複合化する金融商品・サービスへのニーズの高まりといった状況を踏まえれば、わが国の金融・資本市場が、今後もアジアの金融センターとして持続的に発展していくためには、国際的に見ても透明度の高い、投資家保護のルールが徹底された市場を構築し、規律と健全性の確保を進めていくことが重要であると考えている。
 具体的には、いわゆるJ-SOX対応としての内部統制制度への対応や、金融商品取引法に基づく自主規制機関・自主ルールの整備、更には税制改革や会計制度のコンバージェンスといったことも重要課題として挙げられるかと思う。
 また、一方で、グローバルに展開している日系企業を中心として、多様化・複合化している金融ニーズについては、これに対応した一元的な、そしてボーダレスな金融サービスの提供への期待も大きく、利便性向上に向けた課題であると認識している。本年1月よりスタートした金融審議会の「わが国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」における議論も踏まえ、今後、銀行界として取り組むべき事項については、積極的に対応していく考えである。その中でも、お客さまの利便性を第一に考えた、業種・業態を超えた健全な競争や協業体制の構築は重要なテーマの一つである。これにあわせ、制度面でも業態間の残された課題について検討を進めていきたいと考えている。
 一方、今年は10月に、郵政民営化の実施が予定されている。そういう意味で公的金融改革の大きな節目の年となるわけである。中でもゆうちょ銀行の完全民営化は、制度改革の面のみならず、所謂、市場原理の埒外にあった約190兆円にのぼる巨額な資金の民間市場への流入という点で、大きな金融市場改革として捉えるべきものとして考えており、銀行界としても規模の縮小、経営の抜本的な効率化、経営管理態勢の整備といった民営化にあたっての原則が徹底されて、早期に公正な競争条件が確保された、市場に受入れ可能な健全な金融機関となることが最重要課題であると考えている。民営化に伴う様々な議論については、それぞれが郵政改革の本旨に合っているのかという本質的な観点から、引き続き適切に意見を申し述べてまいる所存である。また、来年2008年に予定されている政策金融改革、即ち、政府系金融機関の民営化と統廃合実施を含めて、「民間に出来ることは民間に委ねる」という大原則が貫徹されることが、健全な金融資本市場を構築していくための大前提であり、このような公的金融改革の更なる前進も今年度の課題として認識している。
 このような大変重要な年に会長の大役をお引受けするということになったが、私としては、先ほども申しあげたように「お客さまの立場に立った」活動を常に心がけ、この1年を新たなステージへの前向きな礎の年にしていきたいと考えている。
 繰り返しになるが、銀行はサービス業であり、「お客さまあっての金融業」である。お客さまのニーズが多様化・高度化する中で、それぞれの銀行がこれに応えて、お客さまの評価・信頼を勝ち得ていくことには、なによりまず、個々の銀行の経営努力が基本である。そうした積み重ねの上に立ち、私ども全銀協は、業界を代表する立場として、健全で自由な競争を促進し、また、利用者の皆さんにとって安心して取引いただける環境整備に取り組んでいきたいと考えている。
 7人の副会長をはじめとして、関係各位のご協力も仰ぎつつ、微力ながら全力で取り組んでまいる所存であるので、皆様方のご支援、ご理解、ご協力をよろしくお願いしたい。


(問)
 今、会長も指摘されたとおり、日本経済は自律的回復軌道に乗っているのだと思うが、一方で、個人消費の回復は、企業部門に比べて遅れているのではないかとも言われている。また、足元の物価はマイナスに一時逆戻りするなど不透明感もあるが、今後、日銀の金融政策に関して全銀協会長としてどう考えているか。先ほど、会長が指摘されたとおり、ゼロ金利解除、追加利上げと2回の政策変更があったが、今、市場が注目しているのは第三次利上げ、またその時期などについてだと思うが、金融政策について期待されること、もしくは注文されるようなことがあればお尋ねしたい。
(答)
 日銀の金融政策は、日銀が適宜適切にご判断されているということであるが、その金利政策の元となる日本の経済のファンダメンタルズが問題となるわけで、それについて少しコメントをさせていただきたいと思う。
 年明け以降、一部の産業、輸送機械とかIT産業の分野であるが、この在庫調整から、1~2月の平均の鉱工業生産の水準が昨年10~12月の対比で見ると、この平均を下回る状況にあり、やや景気に減速感が出てきている。また、4月に発表された日銀短観、これは3月調査時点であるが、これによると業況判断では、大企業、製造業では12月の調査対比で2ポイントマイナスになっており、また全規模、全産業においても同様に2ポイント悪化しているということから、やや足踏み感が見られるということだと思う。
 ただ、こういう状況にあるが、景気の腰自体はどうかというと回復基調は崩れていないと判断される。1月、2月の状況を申しあげたが、その後、3月、4月の予想では鉱工業生産は2ヶ月連続でプラスに転じており、それから消費の面で見ても、年明け以降、持ち直しの傾向が見られる。1~2月の家計調査ベースの全世帯の消費支出は前年比プラスであり、また、百貨店の全国売上高も2ヶ月連続で上回ってきている。したがって、総じてそういった意味での持ち直しの状況に入りつつあるかと見ている。
 要は、今の足元だけを見ると、やや減速しつつも、しかし、景気回復のメカニズムは変わっていないと見ている。問題は、これから先ということになるが、先行きについては、企業業績についても比較的強いと見えるし、それから景気を牽引している設備投資、雇用、そういったものについても比較的堅調だと見ている。特に、消費に影響してくる所得の面であるが、今年度のベースアップとか賞与とか、そういうことを見てみると、やはりわずかではあるがおそらく前年対比プラスということが出てくるであろうから、雇用、更には所得の増加を通じた消費についても先行き強いものが出てくるであろうと考えている。
 景気を見るといろいろな外的な要因もあるが、おそらくこの年度の後半以降は景気の回復が、足踏み状態から脱していくと考えている。そういう中で、日銀の金融政策ということになるが、過去2回、0.25刻みの上昇をしてきたと思うが、おそらく今の状況を見ると、この年前半というのは、そういう状況にはならないのかなと見ており、あるとすれば年後半に従来どおりの0.25刻みの上げということに入っていく可能性があると考えている。


(問)
 郵政民営化が迫ってきている。ゆうちょ銀行については先ほど会長からも市場に受入れ可能な形の金融機関になるべきだというお考えを示されたが、そういう意味で全銀協との関わりで言うと、全銀ネットとの接続問題ならびにゆうちょ銀行が全銀協に加盟を希望した場合の対応、その2点についてお聞きしたい。最近のゆうちょ銀行の報じられているところを見ると、住宅ローンへの進出とか、かなり拡大路線が目立つが、あわせてお考えをうかがいたい。
(答)
 ゆうちょの全銀ネットへの加盟問題というのは、正式には加盟申請があるわけではない。打診というものが出てきているが、それに対しては、全銀協としてはいろいろと打ち合わせに応じている段階である。ただ、ご承知のとおり、190兆円の資産を持っているわけであって、この大きなシステム、それがしかもいろいろな意味で今までの全銀協のネットとは違うシステムである。例えば、預金口座の桁数が違うといった問題があるし、そういう中で190兆円というものをいかに 安全に受け入れるためには、システムの安全性、安定性というものが必要である。そういった面で、もし安易に受け入れて何か起きてしまうと、大変利用者に迷惑をかけるわけであるし、国民経済的にも失うものがあるわけであるから、事前に相当事務的、システム的な面について、安全運行、安定運行ができるようなものにならなければいけないわけであって、事前に慎重かつ十分な検討が必要だと考えている。今まで経験してない規模の受入れということになるから、簡単なことではないように思っている。
 全銀協会員の加盟問題については、現に今、加盟の打診もあるわけではないし、当然のことながら申請まできているわけではない。したがって、そのところについて、今、何かわれわれがすることはない。現実に全銀協に加盟している金融機関は皆、民間金融機関である。これが事実である。この郵貯の民営化が10月に行われた段階では、ゆうちょ銀行というのは政府100%出資の日本郵政会社の完全子会社ということである。これから10年間かけて民営化ということが進んでいくわけであるので、その中において、そういった政府の関わりというか、政府の持ち株というものを段階的に減らしていくにしても、その間の関わりがあるということは事実である。そういったことと並行して、その時点その時点で、申請、打診があったときに状況を踏まえて考えていくということになる。そこのハードルというのは、民であるか官であるかということかと思う。 3番目のご質問は、一番大きな問題であると思う。私自身、今回新たなことを考えるわけではなく、従来の全銀協の主張を対郵貯についてはそのまま踏襲していくということに何ら変わることはない。郵貯問題というのは、長い間官業として肥大を続けてきたということ。それが民営化によって、その市場外にあった 190兆円、簡保も入れると300兆円というお金が民の世界に流れ込んでくる、この民への融合というのをいかにスムーズに問題なくやるかということである。しかし、その問題というのは、片方で政府の出資があるということであるから、その間は暗黙の政府保証というものが考えられる。民と郵貯の間での公正な競争が確保できているのかどうかということ。それだけの大きなものが民に入ってくるためには、まず縮小ありき、ということが従来から主張していることである。縮小をしなければ、公正な競争も確保できない。その縮小ということと並行して考えれば、経営の抜本的な効率化というものが必要であろうし、経営管理態勢の整備というものも必要である。こういったことを引続き主張してまいりたい。したがって、新たな業務に参入するということについては、郵政民営化委員会におかれては、ぜひ、1つ1つの個別の案件と同時に、郵貯改革の本旨というものは一体何であるのかということと常に対比して考えていただきたいと思う。


(問)
 銀行の原点は、サービス業ということだが、昨年来、メガバンク、その他の銀行もコンプライアンスに抵触する問題がかなり起きている。実際に銀行のコンプライアンス態勢が、これほど問われた時期はなかったが、改めてこの問題についてどう取り組んでいくのかお聞きしたい。一方、当局は問題が起きると、その都度処分を出しているが、その処分が公平なのか一部に指摘もある。そこで、銀行と官とのコミュニケーションがうまくいっているのかということについてお尋ねしたい。
(答)
 昨年、コンプライアンスに反する事態が生じ、個別行としての三井住友銀行も行政処分を受け、そのことについて改めて深くお詫びし、まことに残念な事態であったと深く反省しているところである。私どもとしては、こうしたことが再発しないよう、お客様第一主義とともに、コンプライアンス態勢を徹底して浸透させるべく、持続的にかつ愚直に取り組んでまいりたい。昨年指摘されたコンプライアンス違反の問題は、各々一律の問題ではないが、われわれ金融機関というのは公共的使命を負い、それだけ社会的責任が重い立場にある。お客様に安心して信頼されるサービス機能を果たしていくためにも、コンプライアンス態勢をしっかりと確立していかなければならないと考えている。
 なお、全銀協では、「行動憲章」を制定している他、コンプライアンスに関する講演会を実施し、手引書も作成し、会員各行に対して教育、情宣活動をしており、今後も引き続き取り組んでいきたい。
 また、こういう問題の背景には、それぞれの事象に特有の問題があるかと思うが、個別行として申しあげれば、三井住友銀行では、独占禁止法第19条の優越的地位の濫用ということで指摘されており、中小企業に対する金利スワップの販売の一部において、その内容に当たる事案が認められた。当時は、大変厳しい状況下の中で、一時的に業務と管理のバランスが崩れたものであり、今後、そうしたことがないように態勢の整備に引き続き努力をしているところである。こうした問題については、時代認識、規制、法令の方向をしっかり頭に入れて業務を行う必要がある。その時々で下を向いているのではなく、一歩先を見通して対応していくことが重要である。 処分の内容について、金融庁に対して申しあげる立場にはないが、当局におかれては、関係法令を適正に解釈し、しっかりと対応されていると思っている。そうした中で、従来、不良債権問題で金融庁との間でぎくしゃくしていたのは事実だが、そういう時代が去って、今後は攻めと守りを固めながら進めていく中で、今まで以上に金融庁との対話が必要であると考えている。金融庁の検査においても評定制度が導入されたが、金融庁が強調しているのは、双方向の議論、双方向のコミュニケーションということである。私どもも、こういう時代においては、双方向の議論、双方向のコミュニケーションが重要であると思っており、われわれとしても引続き努力してまいりたいと思っている。


(問)
 生保業界の不払い問題についてお聞きしたい。先ほど、会長がおっしゃった金融サービスにおける安心と信頼が持ちにくいような状況が続いているが、これについて近しい関係にある銀行業界のリーダーとして、不払い問題をどう捉えているかということと、業界の正常化に向けてどういった取り組みが必要とお考えか。
(答)
 生保業界のことについて、私は詳細を存じあげているわけではないが、結果として見れば、先ほど私が言ったような時代の流れというものと、変化というものと、実際の業務というものの間にギャップが生まれていたということ。お聞きしていると、いろいろな特約のところで問題が起きているということであり、やはり、われわれも学ぶべきところがたくさんある。物は売るだけではなくて、最後までフォローアップして、そしてアフターケアをして、初めてお客様に満足していただけるものだということになるかと思う。その部分が物を売るということの中でどこか見落としているか、または少しバランスが崩れていたということだと思う。そういった意味から、特にこれから金融商品取引法が施行されていく中で、私ども金融業界に身を置くものとしては、商品というものについての説明責任、そしてその信頼と安心を得るためのフォローアップとかいったものについて、きちんとやっていかなければいけないと捉えている。


(問)
 夕張の財政破綻の件でうかがいたい。今日の国会でも、銀行の貸手責任が出たが、これについて会長はどうお考えか。
(答)
 夕張市あての貸金というのは、私ども個別行としてないものであるから、そういったことについて、どういうところが問題で、これからどうすべきかということについて答えるものを残念ながら持ち合わせていない。この立場でのコメントは差し控えさせていただきたい。


(問)
 それでは一般論としてうかがいたいが、今回の問題で浮き彫りになったのは、実際の財政が破綻した場合に銀行は融資を回収できるが、住民については公共サービスの低下等の非常に大きなデメリットがでる。結局、銀行が一般企業の倒産や債権放棄とか、そういった形にならないことが、銀行の審査におけるモラルハザードになるのではないかとの声があると思うが、それについてはどうか。
(答)
 貸金をする場合には、十分な事前の審査をし、貸金の安全性、回収性について議論したうえでやっている。そういった中で、今回の事案というのが、事前の審査の段階でどう見ていたのか、または公共団体の中における何か特別な枠組みがあるのかどうか、そのへんについて私は詳しく存じないので、繰り返すようだが、今ここでお答えすることができないということである。


(問)
 過去5年、6年で見ると、企業向けの融資残高というのはだいぶ減ってきているが、逆に自治体向けというのは5割ぐらい大幅に増えている。これについては何か思い当たる理由はあるか。
(答)
 交付税特会あての融資というのは各行やっていると思う。それが増えれば、公的な残高が増えるということであるが、私自身中身を持っていないので、中身をしっかり分析したうえでないとお答えできない。ただ、思い当たるふしがないかということについては、金額が一単位大きいので交付税特会の与信かもしれない。


(問)
 政府の経済財政諮問会議や金融審議会が東京市場の国際化や活性化について議論しているが、奥会長の立場から、東京市場の活性化、国際化についてご所見をおうかがいしたいと思う。特に、銀行と証券の垣根の問題だとか、いくつか論点があるかと思うけれども、よろしくお願いする。
(答)
 東京マーケットの国際化、それから活力の強化という問題は、従来から何回も議論されてきている。やはり一番大きかったのが1996年のビックバンだったと思う。それ以降、金融・資本市場における自由と規律化というのがずっとなされてきているわけで、一方で、かなり規制緩和がなされてきていることも事実だと思う。やはり東京マーケットが、日本自体の位置づけから考えれば、グローバル化の波に当然巻き込まれ、むしろプロアクティブにそれをより国際的に動かしていくというのは、日本の経済上も非常に重要なことだというふうに考えている。特にアジアが成長し、活性化する中において、それと並行して東京マーケットというのも成長していく必要があるかと思う。そういった意味で、証券と銀行の間にあるファイアーウォールの問題というのは、ある意味で、ある面で、やや世界のスタンダードとは違う部分がある。先程の冒頭の挨拶の中でも申しあげたように、われわれのお客さまは、よりグローバル化し、そして商品ニーズ、サービスに対してのシームレスな対応というのを求めてきていると思う。だからそれに対して、われわれはどういう形が良いのか、グローバル化する中で、東京の金融・資本市場マーケットがそういったシームレスな形で対応をできるのか、ということも一つの論点だと思う。もちろん銀証、というかエクイティとデットの間に、一部、コンフリクト・オブ・インタレストというのが生じるケースもあるが、そういうものは抑えなくてはいけないが、やはりお客さまから見て使いやすい、そして動きやすいようなサービスを提供できるようなものに、欧米並みにしていくということは、ある意味で最低の条件だというふうに考えているので、経済財政諮問会議、そして金融審議会でのスタディーグループの議論の行方、進展をわれわれは非常に興味深く思っているし、申しあげることがあれば、しっかりと申しあげていきたいというふうに思っている。


(問)
 もうそろそろ決算の時期でもあると思うが、おそらく高収益な、良い決算が銀行の業界の中でも予想されているが、今のところ法人税を払わない、もしくは払えない状態が銀行は続いていると思うが、いわゆる儲け過ぎ批判に関して会長はいかがお考えか。
(答)
 いろいろなご意見があるということは承知しているが、私、個別行としては、儲け過ぎているというふうには決して思っていない。ただ、いろいろと誤解があるようだが、銀行のいわゆる本業の利益を表わす業務純益というのはそんなに増えているわけではない。または、減っているケースもあるわけである。それが銀行の本業を示すバロメーターなわけである。そこから下のところでいくと、いま増えているのは、クレジットコストが経済の回復に伴って、非常に大幅に減ってきているということであって、それが一つのノーマルな状態に戻ってきているということである。それに加えて、過去に引き当てた貸倒引当金というものが、ある意味これも経済の回復とともに、戻りになってきている。だからこれはワンタイムの収益であるわけである。だから経常利益は、クレジットコストの減少により増えてきている。しかし、これが儲け過ぎかどうかということは、常に業務純益との関係で見ていただきたいと思う。また、銀行も過去、いろいろなリストラをし、合併をしたことによって、収益の規模が増えてきた。それから、リストラもして、いろいろやって業務純益を増やしてきた。そういった意味の経常利益と、それから、下で戻りになる特別利益が結果としてボトムラインを引き上げているなどいろいろ変化がある。これは各行によって様々であるから、一概に銀行が儲け過ぎということにはならないと思う。したがって、銀行の収益というのは、かつて引き当てを取っていたときには大幅に会計上は減っているわけである。または赤字決算をしてきている。これが今になって戻ってきているわけで、一定の期間を取ってみれば、そういう批判には私はならないのではないかと思う。
 それからもう一つ、法人税の問題であるが、これはあくまでも税務上のルールに基づいて整斉とやってきている。過去に赤字決算の時ですら法人税を払っており、そういった繰越欠損金の制度というのが銀行だけでなく全産業に適用されるルールのもとでやってきているわけであるので、それとの関係で、ものごとをいろいろと考えられ言われることも、理解はできるけれども、あくまでルールの下でやっているということをご理解いただきたいと思う。


(問)
 生体認証のICキャッシュカードの方式というのは、今、2方式が並存しているが、今度それぞれの方式の中での相互接続が始まるようであるが、手のひら認証と指認証の間の接続という問題について、会長としてのご意見をうかがいたい。
(答)
 これはいろいろと経緯があって、手のひら静脈の認証と指静脈の認証の2つに集約されてきたと理解している。全銀協の立場からいけば、これを統合した方が良いとか、そういうことを申し上げる立場にはない。全銀協としては、それぞれが相互に互換できるようなことが起きてきたときにはどういう形でやったら良いのかということについて、それぞれが取り込めるような形での、カード、そしてATMの標準仕様というものを、すでに作っている。したがって、そういうことを前提として、互換性の確保ができるような形へ持っていくインフラは全銀協ですでに整えている。そこまでがわれわれの役目だというふうに考えている。


(問)
 オーバーバンキングに対する認識をうかがいたい。一般に、オーバーバンキングというと銀行の数の問題という見方と預金の量の問題という見方と二つあると思うが、量の問題、数の問題、それから郵貯の190兆円が入ってくるというのも踏まえて、なかなか融資業務ということでいうと、これから先、日本国内では難しいと思うが、銀行はどう変わるのか、業界再編はどうありえるのかということを踏まえて、会長の今後の見通し、お考えをうかがいたい。
(答)
 なかなか見通しというのは難しいが、ご指摘のとおり、どういうものをもってしてオーバーバンキングというのか、数の問題なのか、量の問題なのか、その両方を見てオーバーバンキングということもありえる。融資量というのは大体GDPになんらかの形でリンクしており、日本が非常に成熟社会に入っていく中では、大きな伸びは期待できず、オーバーバンキングを解消するために統合した方が良いとの議論があることは理解しており、量・数の両方を考えた上で判断していくということになると思う。郵貯の190兆円が融資に振り替わることになれば、これはまさしくオーバーバンキングの一つの事例になるであろうし、それだけのものを吸収できるだけの融資のチャンスがあるかといえば、そうでないわけであり、したがって、われわれが郵貯については、規模の縮小ということを言ってきているというわけである。また、当然のことながら、数の問題で言えば、いろいろな金融機関がたくさんあるのであるから、そういう中で、実際に今後の成熟経済の中で金融機関が生き残っていくためには、どういう動きがあるのかというのは、今の段階では私はなかなか見通せない。ただ、そういう問題がそこにあるという認識は持っている。

別添資料:奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)