2007年5月22日

奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 (なし)

会長記者会見の模様

(問)
 最近の経済指標を見ると生産の一部に弱さが見られていて、消費は底堅く推移しているが、物価は足許下落基調にある。米国経済の先行きも依然不透明感が漂っているが、国内経済の先行きの見通しについてのお考えをうかがいたい。
(答)
 まず、足許であるが1-3月の実質GDPが2.4%で、その前のクォーターが5%だったので、それから見るとやや減速感が出ているということだと思うが、景気の基調というもの自体はそう変わっていないと思っている。
 今、おっしゃったように消費は思ったよりも堅調であること、輸出も比較的順調に来ており、一部、設備投資がここにきて少し一服感があるのかなということではあるが、1-3月はそのような感じできている。繰り返すようであるが、景気の基調に何か変調があったということでは決してなく、やや減速感が出てきたということだと思う。
 先行きについて見てもしばらくこういう状況が続くかと思うが、雇用も順調であり企業業績も順調、それからおそらく設備投資についても、一時的な要素は別にして基本的部分は引続き強いということであるので、若干の調整はあるが、非常に緩やかな景気回復基調が今後も続くと見ている。


(問)
 大手銀行の決算発表が続いているが、親密な関係にある消費者金融の赤字の影響で減益を余儀なくされる銀行も目立っているし、一方で貸出は力強さに欠けているようで、非金利収入も大きくは伸びていないようであるが、以前、銀行経営は半人前と言われた状況があったが、そういう状況は脱したというように考えているか。
(答)
 まだ、決算の全体が出揃っているわけではないので、総括して言うのは今の時点では難しいが、まず消費者金融についてであるが、前期においては、消費者金融は貸金業法の影響を受けていろいろな対応を行った。それにより、出資をしている金融機関においてはその影響が出てきたということは事実である。私ども、三井住友フィナンシャルグループにおいても、プロミスの影響が連結ベースで出てきているということも事実である。また、個別行でいうと昨年度金融庁の金利スワップによる行政処分の関係も、幾らとは言わないが、前期比で見れば大きく減っており、やはりその影響があったこともある。そういった事象により、各行、いろいろな形での影響が出てきていると思う。
 非金利収入というのは各行、非常に力を入れているところである。個人のコンサルティングビジネスは各行ともに注力しているところであるので、そこでの非金利収入が積みあがっているという部分は、当然あると思うし、今後ともそういった部分はコアな収益として強化されていくのではないかと思う。
 半人前ということであるが、どこが一人前なのかというのは難しいところであるが、次第に、ノーマルな形には戻ってきているという認識ではある。ただ、貸金業務という面においては、景気がゆっくりとした回復を続けているわけであり、運転資金にしても設備投資にしても出てきているわけであるが、そういうなかにおいて資金需要というものが、トータルとしては、企業業績が非常に順調であるので、そこから生じるキャッシュフローが潤沢であり、かなりの部分をそこで賄っており、銀行へ借入れとして出てくる部分は、まだまだ力強さに欠けているということである。
 3月末で見ると、確か私の記憶では貸金の伸びは前年比では1%プラスではあったが、ただ個人の住宅ローンの伸びが大きかった。企業の需要よりも個人の伸びのほうが高かったということであり、それから見るように企業の貸金はまだ力強さを欠いていると思う。
 その状況において、各行が非常に貸出競争をしているので、貸金のスプレッドという意味では、これは引き続き縮小しているのではないかというふうに見ている。預貸金業務での利ざやというものについては、引き続き縮小傾向にあるのではないかと見ており、収益については引続き厳しい状況が続くのではないかと思う。


(問)
 資金需要の話に今なったところで少しうかがいたい。これだけ景気が、ある意味で言えば、非常に長く拡大していながら、それでもスプレッドが縮小している。一体いつ、どういう状況になったら、スプレッドが拡大するのか。そういう見通しみたいなものはあるのか。
(答)
 なかなか先について見通せる状況ではまだないと思う。景気の回復のなかでの設備投資について見ても、設備投資される方自身も、非常にコストパフォーマンスをいろいろ考えてやってきているから、大きなものをドンと作られるわけではない。それから当然キャッシュフローというものの範囲内で、バランスを取りながらやっているので、引き続き何か大きな要素で貸金需要が伸びていくということは少し考えられない。ただ、重厚長大産業のなかでは一部、今が非常に重要な時期なので、借入をしてまでという動きが局所的には見られるが、それが大きな流れになっているとはまだ見ていない。


(問)
 今回非常に久しぶりの利上げ局面であるが、融資競争が厳しく、なかなかスプレッドが広がらない。その背景に、銀行員の若手、支店長まで含めて、金利の引上げ交渉をやったことがないという人が多いのだろうと思う。この辺のテクニック、経験がないということも影響しているのか。
(答)
 非常に局部的だと思う。各銀行のいわゆるプライム建ての貸金と、市場連動型、いわゆるスプレッド型の貸金の構成比がどうなっているか、またプライム建ての貸金のなかで、自動連動型と個別交渉を要する非連動型の構成がどうなっているかということによって、各銀行、随分違うと思う。個別行で言うと、記憶で申し上げるが、市場連動型、いわゆるスプレッド貸金と言われるのが、約7割程度ではないかと思う。そしてプライム建ての貸金というのが3割程度。そのプライム建て貸金のなかのいわゆる自動連動型の貸金というのは、約8割くらいある。そうすると、交渉を要する部分というのは、昔に比べると、非常に比率的には小さくなっている。個別の交渉を要する部分が弱くなっていないかと言われると、十数年やっていなかったわけであるから、それは昔に比べると、そういった部分は否定はできない。ただ非常に大きなインパクトがあるかというと、構成比から見る限りにおいてはないのではないかと思う。それから実際にいま交渉を行っている、プライム建ての貸金でも、かなりの部分、ご理解をいただいていると判断している。


(問)
 いま決算の発表最中であるが、メガバンクは前期中に公的資金も完済したし、不良債権問題、その他、過去10年以上続いてきた問題にひとつ区切りがついたということだと思うが、今期以降、特に大手銀行、メガバンクなどにとって、これまで重要なテーマであった、不良債権であったり、公的資金の返済というものに変わる新たなテーマというのは、どういうものになってくるのか。それをひとつ教えていただきたい。
(答)
 銀行だけではなくて、一般の法人のところも守りから次第に攻めに変わってきている。それから個人においては、いわゆる貯蓄から投資への流れが顕在化してきている。この両面から見ると、まずは法人部門においては、これから攻めに向かう、または競争力強化という立場から、いろいろな事業構造変化をしていかれる、海外への展開をされるといった動きが出てくる。そういった経営課題に銀行がしっかりと噛み込んで、経営課題解決型のソリューション営業、さらには投資銀行業務部門の活用という形、この部分がひとつの大きな事業領域になってくるのではないかと思う。海外においても、工場建設、さらにはその点と点を結ぶ運輸の問題、さらには、引き続き資源・エネルギーの価格の高止まりから開発案件が出てくるであろうし、大から中・小まで含めて海外への動きというものは活発化してくると思う。
 個人については、そういった貯蓄から投資への流れのなかで、お客様自身が自分自身の資産というものをどのように運用していかれるか考える、そこに銀行がいろいろ絡んでくるので、そういった部分が成長領域になってくるのではないかと思う。


(問)
 2点うかがいたい。去年は、銀行業界全体が病みあがり、半人前という表現をされたかと思うが、昨年度内に公的資金を返済し、信託銀行ではあるが法人税を納付するところも出てきている。今年はまだメガの決算は出揃っていないが、見る限りでは、病みあがりあるいは半人前からどういう状況になったのかお聞かせいただきたい。もうひとつは、企業の総会シーズンを前に、敵対的買収やヘッジファンドの活動が非常に活発になり顕在化している。広く金融業界全体を見たときに、銀行業界側はそういう活動に対してどういう視点で見ているのか、教えていただきたい。
(答)
 銀行の体力を見る場合に、フローで見るベースとストックで見るベースがある。いろいろな見方があるが、不良債権処理をするかしないか、それが慣性速度になるのかどうかというのがひとつの要件である。それから、自己資本がどうなのか。自己資本に公的資金が入っているかどうか、公的資金を返した後でしっかりとBIS比率が保てるかどうか。もうひとつ強いていえば、法人税を払っているかどうかということになる。残念ながら、法人税を払っているかどうか、支払いを開始したかどうかということについては、まだしていないので、それをもってすれば、まだ半人前といえば半人前かもしれない。いくつかの条件が全部整って一人前ということであれば、法人税も払い始めて一人前という言い方もできるかもしれないが、自己資本比率も公的資金抜きで達成している、不良債権処理も終わった、ということでみれば、ストックのベースでは一応一人前。ただフローのベースで見ると、法人税の部分は欠けていると仕分けができるのではないかと思う。ずばり半人前であるか、一人前であるかは、なかなか定義が難しいと思う。
 敵対的買収の問題は、これは銀行自体が当事者ではないが、敵対的買収そのものをまったく否定するということではないと思う。ただ、何をもって敵対的かという問題は当然ある。やはり買収者だけのメリットになるのではなくて、企業価値の向上につながっていくということ、そういう意味では既存の株主が保護される、またはメリットがあるのであれば、一概に敵対的な買収をノーということはできないと思う。株主、従業員、社会、取引先とステークホルダーの納得が得られるような形であれば、それは容認できると思われる。


(問)
 さきほど、決算を見てノーマルな形に戻ってきたということだったが、外国の大手の銀行に比べると配当性向が低かったり、ROAなども悪いと思うが、このあたりはどのようにして今後キャッチアップしていけば良いとお考えか。特に資産規模に比べると日本の銀行の利益率が低いと思うが、このあたりはどのように今後改善していくべきとお考えか。
(答)
 欧米の高い収益率または高いROAの経営と、日本を基盤にしている邦銀のケースをそのまま比較はできないので、なかなかわれわれとしても歯がゆいところがあることは事実である。そういった収益率の問題が配当率の差にもなってきていると思う。さきほど確かにいくつか申しあげたが、半人前であるとか一人前の問題のなかには、そういった株主への還元としての配当率の問題もひょっとしたら入るかもしれない。それは、パラレルの問題であるので、片方で銀行は国際競争力が保てるような形で自己資本を高めていかなければならない。自己資本をしっかり保ちつつ配当についても対応しながら、一挙に高めていくことはできないけれども、次第に高めていく。個別行であるが、私どもが発表した中期計画では、平成 21年度には、配当性向を20%超に持っていきたいという、ひとつの通過点としては20%というものがあるが、まださらにそれが続くのであればさらに伸ばしていくということを考えている。


(問)
 各行の決算の話で、消費者金融の業績が影響しているという話があったが、今後の事業性の見通し、消費者金融との連携のあり方というものについて、会長はどのように考えているのか。
(答)
 消費者金融市場というのは引き続き存在していくわけなので、われわれが個別行としてプロミスとの提携を見直すということは考えていない。ただ、一時的に事業そのものとしては影響を受けるであろうし、収益力も低下すると思う。おそらく消費者金融市場のなかでは今後いろいろな動きが出てくるであろうと見ているので、その市場のなかで、勝ち組というようなものがどう再編されていくのか、そういうものをよく見ながら、今後対応していくことになると思う。事業性の一時的な低下は、やむをえないことで、そこを凌いでいけば、収益力は昔ほどではないにしても回復していくと見ている。


(問)
 各大手行は、今回減益決算が見込まれると思うが、減益となると、ここ最近、例えばATMの手数料無料化とか利用者のサービス還元というものは、サービス向上策が進んできたかと思うが、減益という事象を受けてその流れが滞るという懸念はあるか。
(答)
 前も申しあげたが、利用者への還元という言葉をおっしゃっているが、それはいわゆる利益が出たから云々、利益が減ったから止める、というものではなく、銀行として、お客さまをまっすぐ見つめて、お客様に質の高いサービス、安全安心で利便性の高い商品・サービスを提供していく、元々のところで常にそう考えている。したがって私は、各行ともそれぞれの色々なポリシー、そして価格政策をもってそういったものに臨んでいくと思うので、いわゆる当期利益がいろいろな要素で減ったから、その流れが変わるというものでは決してないと思う。
 手数料をすぐ下げろというような話ではなく、お客様の利便性を高めるという方向でわれわれは常に考えている。現象面では、価格と手数料を下げるということになるかもしれないが、基本的なところは、質の高い、便利で安全で安心なサービスを提供していくというところが根本にあるということでご理解いただきたい。


(問)
 12月にも、保険の銀行窓販が解禁される予定であるが、生保業界、損保業界、さまざまな検討されていると思うが、銀行側の受け入れ体制について、何かお考えになっていることがあればお話しいただきたい。
(答)
 基本的には、12月に予定されている保険商品の全面解禁について、われわれはそれを前提に動いている。当然、保険商品という新しいものであるから、研修も、その間に施行される金融商品取引法に対する対応もしっかりとやって万全を期していく。
 一方で、保険業界の方で、今、いろいろと対応に追われている部分もあるので、そこで銀行窓販向けの商品が間に合うかどうか、私は詳細は知らないが、恐らくしっかりと対応していると思っている。したがって、基本的には、変更はないということである。


(問)
 一部の格付会社が、今月初めにAA格に三井住友銀行などの格付けを約10年ぶりに引き上げた。他の会社にも、今後、そういった動きが出てくるようだが、このAA格への復帰について、会長の率直な感想と、海外展開や資金調達など銀行経営や事業展開への影響について、ブレイクダウンをしていただきたい。
(答)
 AA格がムーディーズ社から与えられたということは、大きな変化というか、1つの通過点を過ぎたという感じがして、大変感慨深いものがある。とはいえ、二社から取れるかどうかがポイントになると思う。今までも海外展開については、ここ 1~2年くらいでそう支障があったわけではないが、これで名実共に色々な銀行が国際競争をしていく上でのステップがひとつ進んだかなと思っている。資金調達の面では、支障なくできているが、こういった部分でもひとつの進歩だと思っている。


(問)
 足利銀行については、9月頃を目処に支援先が出てくると思われるが、その足利銀行を含めた地銀の再編について、特に九州地区の動きが盛んであるが、メガバンクとして地銀へのコミットの仕方は。
 自民党の部会が、議員立法により、振込め詐欺被害にかかる滞留資金の被害者への分配を、預金保険機構を中心としたスキームで行う動きがあるが、全銀協としての見解は。
(答)

 地銀の再編については、各銀行の政策判断であると思う。各地銀においては、地域における金融機能の強化ということを通じて、地元の利用者に対してしっかりとしたサービスを行うことが第一の目的である。二つめは、金融機能強化と同時に企業価値を高めることによって、その地域において強固な営業基盤を作っていくことである。地銀の再編が今後も続いていくかどうかは正直なところ予測はつかない。また、メガとの関係は、それぞれのメガの地銀戦略にかかわることであり、一般論では言えない。
 振込め詐欺にかかる被害者の救済は、預金保険機構を使うということで、与党で議論されているようだが、詳細は存じあげない。ただし、資金を複数の請求者に対し、どう分けるかは非常に複雑で、単純なケースでは銀行のリスクで支払いを行ってきたが、今後、どのように分配ルールをつくっていくかということについては、公的、法的な関与が必要であると思われる。今後の議論の状況を見守っていきたい。また、これまで預金者保護、被害者保護の観点から、預金者保護法のもとで、すでに偽造キャッシャカード等については手当てがなされ、同法の施行から2年後を目処に見直しをするということになっていることから、全銀協として引続き預金者保護の観点で、盗難通帳の問題等についても議論しているところである。


(問)
 今回の銀行決算は、新しいBIS基準でのはじめての開示になっているが、なかには自己資本比率が下がってしまった金融機関もあるようで、改めて新基準が銀行経営に与える影響についてお尋ねしたい。
(答)
 新BIS基準であるバーゼルⅡは、銀行におけるリスク管理が高度化していく状況のなかで、銀行として選択肢が増えるのは前進であると思う。そうした意味で、銀行業におけるリスク管理が高度化していくなかで、引続き精度を高めて銀行経営に反映させていくということかと思う。各行においては、自己資本比率が旧BISに比べて高まるケース、低まるケース両方あると思われるが、三井住友フィナンシャルグループでは、若干高まっていると思われる。