2007年6月19日

奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)

斉藤専務理事報告

 (なし)

会長記者会見の模様


(問)
 長期金利が上昇する一方、円安が進行している。先週末の日銀の政策決定会合では現状維持という形になった。協会として現在の景気の認識と先行きについてお話いただきたい。
(答)
 現在の足元の景気動向であるが、5月に申しあげたのと基本的には変わっていないという認識をしている。一言で言うとやや減速感は見られるものの非常に底堅い強さで景気は回復をしている、ということではないかと思う。
 もう少し敷衍して言うと、生産指数とか機械受注といったところで、やや弱さが出てきているが、総じて見れば、このところ出てきている景気関連の指標というものは、改めて景気の底堅さを示すものであると認識している。
 1-3月の法人企業統計をみると、企業は増収増益傾向にあり、設備投資も堅調に推移している。そういうことから、1-3月のGDP、実質ベースであるが、年率ベースで2.4%から3.3%にリバイスされた。
 一方、家計部門をみても、4月の全世帯消費支出が、4ヶ月連続で前年比プラスということであり、ここも底堅い動きをしていると思う。
 こういったところで、内外需ともに最終需要が底堅く推移していく中で、冒頭に申しあげたようにやや減速しつつもしっかりとした景気回復基調に変わりはないということだと思う。


(問)
 先週、金融審議会「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」の中間報告が公表された。
 この中に、銀行と証券を分離するファイアーウォール規制の緩和が盛り込まれたが、協会としてこの規制緩和についてどのように考えているか。
(答)
 規制緩和については、10年前の日本版ビッグバン以降、継続して実施されてきているわけであるが、私ども銀行界から見ると、銀証間のファイアーウォール規制については、まだ課題が残っていると見ている。
 ファイアーウォール規制の定義は必ずしも明確ではないが、情報共有の問題や、業務範囲規制の問題、更には役職員の兼務に係る問題を含めて、現在の世界的な競争の中で、このファイアーウォール規制がどうあるべきかという観点から考えていただきたいと思っている。特に、世界の中での競争力の強化や、日本の企業が国際化していく中で、そうした企業にシームレスに対応していく必要があるという観点から見た場合、銀証に係る規制を見直して良いのではないかと思う。アメリカにおいても、ファイアーウォール規制は、当初比較的厳格な規制から始まったが、次第にその現実を踏まえながら緩和されてきている。それに比べると、日本のファイアーウォール規制はまだウォールとしては非常に高く感じているし、また、一方のヨーロッパにおいては、ユニバーサル・バンキングということで、銀証の垣根はないということである。そういう意味で、所謂利益相反の問題、それから優越的地位の問題をしっかりと踏まえて、ファイアーウォール規制の見直しの論議がなされていくことを、われわれとしては期待している。


(問)
 先の話であるが、9月に金融商品取引法が施行される。コンプライアンスの対策の強化が銀行業界として不可欠になると思われるが、業界としての対応をどうしていくのか。
 あと、これに関連して、コンプライアンスの問題について、三菱東京UFJ銀行が金融庁の処分を受けたということがある。三菱東京UFJに対して協会として処分は考えているのか。
(答)
 今日的な意味で言えば、コンプライアンスの強化をしっかりやっていくということが、われわれ金融機関の経営において重要な側面であると考えている。したがって、個別行においても、片方で業務の自由化または規制の緩和という中、一方でコンプライアンスを強化して、バランスの取れた経営に励んでいくということで努力しておられるものと思う。また、本年9月から金融商品取引法が施行されるというタイミングもあり、当然のことながら、それに備えたコンプライアンスの整備・強化を図っているのも事実である。 全銀協においては、そういった金融商品取引法の施行を前にして、その課題にどう対応していくか、また、各銀行が体制をどう整備していくかについてのセミナー開催を含め、環境の充実に努力をしているところである。
 もう一つ質問があった、三菱東京UFJ銀行の金融庁の処分については、そういった意味では、はなはだ残念なことではある。とはいえ、三菱東京UFJ銀行はその対応にしっかりと取り組んでおられるし、今後もしっかりとした対応されていかれると確信している。したがって全銀協での対応・処分については、処分しないとの結論を出している。


(問)
 前回の会見の時に会長は、07年度3月期決算について、これから守りから攻めにという話をされたが、会見が終わって全部出揃ったが、改めて今回の決算を振り返って評価というか、感想、総括をお願いしたい。
(答)
 全国銀行ベースの計数については、今月末近くの28日に全銀協において取りまとめた計数を公表させていただく予定である。
 当然のことながら個別行ごとにいろいろなばらつきがあり、中々、全体の決算について一言で言うのは難しいが、総評してみると、損益面では、前年度対比で減益となったものの、着実に財務内容の改善が進んだ決算であったと総括している。
 収益面で申しあげると、なんといっても景気回復が続いており、日銀もゼロ金利の解除をし、金利の引き上げが実施された中、企業の資金ニーズはあるものの、依然として借入の需要は弱く、且つ、銀行間の貸出競争も激しいことから、利ざやが低迷した。このため銀行の収益の主要な部分を占める資金運用収益が低迷し、業務純益は前年度対比5%減益の約5兆4,500億円になった。
 また、大手行を中心にして、昨年度に引き続き引当金の戻入、償却債権取立益があったことから、所謂クレジット・コストが低位で推移したが、一方で、提携先の消費者金融会社に関連した負担もあり、当期純利益も3兆4,000億円程度と20%程度の前年比減益となった。
 一方で、財務内容については、新たに導入されたバーゼルⅡに基づく自己資本比率は、総じて見れば前年度末比で上昇傾向にあり、またリスク管理債権も、前年度末対比で見て約10%減少しており、着実に財務内容の改善が進んできていると言える。
 こういった事象を総合して、冒頭申しあげたように、全体としてみれば収益面では前年比減益となったが、財務内容面では一段と改善を見たということである。


(問)
 長期金利の現在の上昇ペースについてどう見ているか。それが銀行の業績に与える影響、企業、家計に与える影響、特に住宅ローンの引上げに繋がると思うが、それらの影響をどう見ているか。
(答)
 長期金利の推移について、ここのところ上がってきているが、いろいろ理由があると思う。確か13日には1.985%、昨日は1.8%ぐらいまで下がってきている。金利のことなので、いろいろ理由はつくかと思うが、米国の景気の減速という悲観的シナリオが薄れ、むしろ長期金利が上昇する傾向が強かったと思っている。それからまた落ち着いて下がってきており、景気の動向は減速しつつも底固い動きをしているところから見ると、そう大きな上昇があるとは思っていない。今年の後半になれば様相が変わるかもしれないが、当面は1%後半で推移し2%超えはないと思う。銀行収益に与える影響は少ないと見ている。また企業収益についても、一部長期金利が上がろうとするときは、調達を借入れからボンドに移し替えているという動きが事実見られたが、それほど大きな動きにもならないと思うし、収益的な影響も今の状況ではそれほどないと思う。住宅金利については、長期金利の動向を見ながら変えていくことになると思う。


(問)
 社会保険庁の年金記録漏れ問題について、全銀協会長としてどう考えるか。
 三井住友銀行は、国民年金の加入者に対して過去の口座引落としの記録を無料で発行する等の対応を始めたと思うが、銀行界としてどのような対応が必要と考えるか。
(答)

 年金のデータが約5,000万件喪失しているというのは、非常に大きな問題であり、金融界としてもお手伝いできることがあれば、しっかりと協力していきたい。年金問題については政府挙げて真摯に取り組まれておられ、それを見守っていきたいが、われわれが協力できるところは協力していきたいと思っている。個別行としての対応については、年金の問題と絡めて、国民年金を払ったか、払っていないか、そのデータについての証拠、プルーフを必要としているということだが、当行でいえば、10年しかデータを持っていない。10年以上さかのぼった異動明細については持っていない。10年超で持っているのは、ある時点で口座閉鎖した残高情報であり異動情報は持っていない。したがって実際には、10年超前のものについては、三井住友銀行としてはお答えできない。10年以内は対応できる。今後、問い合わせがあった場合には、窓口においてもお客様に丁寧に事態を十分説明していきたい。10年の間については、国民年金の口座振替のケースについては、問い合わせがあった場合には、倉庫から出してお答えすることになるが、その場合、これまで1か月分500円に消費税を加えて525円いただいているが、国民年金の自動引き落としをしている方の依頼については、手数料を取らないということで銀行内部に対して指示をしているところである。それ以外の例えば、給与振込みの場合は、その中で振り替えているものについては、通帳を見ても全くわからない。それ以外のケースでも協力できるところは、最大限協力していきたい。
 まだ照会の件数としては少ないが、データがなくなった中心が1965~75年であり、その頃のデータについては保有していないという状況である。
 全般的な話として大きくなったときに全銀協としてどう対応するかということについては、数が増えてきた場合には、そのときは全銀協としても今後、協議していきたい。今は、個別行の対応として考えている。


(問)
 邦銀の海外におけるプレゼンスについてお聞きしたい。日本の大手銀行の海外における貸出が徐々に増えていると思うが、日本のメガバンクの国際的な競争力はどのくらいまで回復していると考えるか。
(答)
 貸金は、かなり増えてきていると思う。失われた10年ないし15年の間に、日本の銀行は調達基盤が非常に弱く、外貨調達に困難をきたしたので、どうしても海外の貸出を縮小、または売却せざるを得なかった。幸いマーケットもあるから、売却ができたのだが、それがここ3~4年については、まさに反転攻勢をかけているということ。日本の場合、いろいろなお取引の総合的な収益があるから、トータルで見ると、日本の方が当然採算が良いが、所謂利ざやという面では、海外でのホールセールと、国内のホールセール等々と表面だけではそれほど変わらない。海外店を開くといった意味でのネットワークの増加と人員の増強、それに伴う法人向け貸出の増加、これは外資系、日系を含めてだが、更にプロジェクト・ファイナンスにも取り組んでおり、海外業務については、かなりのスピードでキャッチアップをしてきていると思っている。
 ただ、私自身の目標からいけば、まだまだだと思う。個別行でいけば、今、三井住友銀行の海外業務からの粗利益が全体に占める比率は9%弱だと思うが、これを3年内に15%くらいにはもっていきたいというのが一つのターゲットである。そういったあたりが国際部門の今の水準ということである。


(問)
 コンプライアンスの話が先ほどもあったが、三菱東京UFJ銀行はこの1年だけで当局から相当処分を下されているし、他の銀行も同じ。また、保険業界でも不払いの問題が続いており、公的部門を見れば、社会保険庁においても、考えられないような記入漏れの問題が起きている。日本社会全体で、巨大組織をコントロールできないのではないか、「Too Big To Control」なのではないかとの指摘もある。メガバンクなどでは、今までのコンプライアンスのやり方では、制御できないのではないかという声の方が、説得力があるように感じられるが、もしそうではないとすれば、会長の意見をうかがいたい。やり方を変えないといつまでたってもこういうモードが切り替わらないような気がするが、いかがか。
(答)
 私は、一挙に何かを浸透させるというやり方はないと思っている。これは意識の問題であるし、大きな組織であっても、その意識をどのようにして浸透させていくかというのは、トップから現場まで含めた意識の徹底を粘り強くやるしかないということ。慌てて動揺してやるのではなく、しっかりとプランを立てて、それを地道に、愚直にやっていくことしかないと思う。


(問)
 そうすると、やり方次第ではこうした問題が根絶できるということなのか。サイズとしてコントロールできるサイズを超えたということではなくて、大きなサイズのメガバンクでも、やり方次第では、こういったコンプライアンスの問題が発生することのないようにできるという理解でよいか。
(答)
 こうした大きな組織であるから、常に、何かが起きるということはあるであろうが、大きな道筋としては、Plan、Do、Check、ActionというPDCAサイクルをしっかりやっていく、それをいかに徹底していくかということだと思う。銀行に限らず、メガサイズの企業というのは世の中にたくさんあるわけで、メーカーにしても何十万という従業員を抱える企業は世界にざらにあり、そうしたことを頭において対応すれば、従業員数が2万や3万、または4万や5万の人数の組織が、「Too Big To Control」ということでは決してないと思う。


(問)
 個別の話で恐縮だが2点うかがいたい。1つは、JALの再建問題だが、最近の国会でも銀行支援はどうなのかという点が議論されており、春先以降報道ベースでもDESを検討しているとか、割り当て増資をやるとかそういう話が盛りあがっていて、当面なくなったようではあるが、国民の関心が高いJALの資本増強策に対して主要行の一角である三井住友銀行頭取として、どのようなスタンスで臨もうとしているのか、考えをうかがいたい。
 もう1点別の話だが、6月下旬に株主総会が続くが、TBSと楽天の問題で、プロキシファイトが展開されている。今年の株主総会では大株主の経営に対する意向に企業がどう対応していくのかというところが関心を呼んでいるが、楽天とTBSの問題について、頭取もいろいろ調整にのりだされているような動きも見受けられるが、改めて見解を伺いたい。
(答)
 ご期待に沿えなくて申し訳ないが、こういう場であるので、個別会社の問題についてはコメントを差し控えさせていただく。
 日本航空の問題については、中期再建計画を発表されて、それを今進めていらっしゃるので、私どもとしては、しっかりと、再建計画を上回るような形でやっていただきたいと思っている。
 TBS・楽天の件については、私どもは銀行としての立場と株主としての立場があるが、この問題については、適宜・適切にしっかりと対応していこうと思っている。


(問)
 日本郵政公社の西川総裁の社外役員兼務問題について、三井住友銀行時代から6社、取締役ないし監査役を兼ねているという状態が続いているということだが、これについて、三井住友銀行の方からそのポストに留まるようにというように依頼されているとご本人が一部で釈明されているようだが、そういう事実はあるのか。
(答) どういう発言があったか私は存じあげない。状況としては、三井住友銀行ご在籍時代に就任をされている。今回は、日本郵政公社の総裁ということで、その兼務問題については監督省庁からの了承をとったということであるので、あくまでも個人の問題として私は受け止めている。


(問)
 銀行サイドからそのポストに留まるように要請しているわけではないということか。
(答)
 要求もしていないし、それから、退任してくださいとも、何も言っていない。西川さん個人と、今は会社との関係で決まっているものと思う。