2008年1月22日

奥会長記者会見(三井住友銀行頭取)

 

斉藤専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 全国銀行協会では、これまでお客さまの安心、信頼の確立を目指し、さまざまな活動に取組んでいるところである。その一環として、銀行界におけるバリアフリーを推進する観点から、お手元の資料のとおり「全国銀行協会コミュニケーション支援用絵記号デザイン」を取りまとめた。
 この「全銀協絵記号デザイン」は、耳の不自由な方や外国の方などコミュニケーションに不安をお持ちのお客さまが、銀行の店頭において、より安心してお取引いただくことを目的として作成したものであり、業界として共通の絵記号デザインを作成するというのは、わが国で初めての試みである。
 当協会は、あらゆるお客さまにとって、銀行が来店しやすく利用しやすい場となるよう、会員各行に対して、これら絵記号を使用することを推奨することとしている。

 

会長記者会見の模様

(問)
 景気についてであるが、年初から株式市場は不安定な状況が続いており、世界的な株安が連鎖するような状態に陥っている。会長の足元の景気認識をお聞かせ願いたい。
(答)
 景気の状況であるが、まとめて言うと大変ゆったりとした、緩やかながらも底堅い景気拡大が持続していると思うが、当面はこれから申しあげるような理由で減速感が強まる懸念があると思う。
 日本の景気の現況を企業部門で見ると、新興国向けの輸出が引き続き堅調であることと、企業財務で見ると、非常に堅固な状況にあること、引き続き前向きな設備投資が回復していることで、堅調なスタンスが続いていると思う。家計部門では、所得の回復にはやや遅れが見られるが、消費活動は前年をやや上回ることから、特に悪いということではなく、両方の部門で見て経済のファンダメンタルズは確りしていると思われる。
 しかしながら、足元で見ると、昨年の6月に建築基準法が厳格適用となったことで建築着工が大変減退しているという状況がある。それによって、住宅投資に遅れが出て、これはかなり大きな経済の減速のインパクトになっているのではないかと思う。
 それから、原油価格が大きく上がっているということは企業業績の圧迫、更には所得分配への圧迫要因になるということで、消費への影響も出てくる。片方では円高ということも企業業績に対する圧迫要因になってきている。特に、アメリカのサブプライムを契機とする市場の乱れは、これを回復させるために連邦公開市場委員会が金利を大幅に引き下げるだろうという予測もあり、そうしたなかで日米の金利差が縮まることから円高ということになってきている。
 加えて、サブプライム自体の問題に端を発する、市場への大きなインパクトという状況が続いており、それが、先ほど質問のなかにあったように、アメリカのみならず、日本、更には欧州、アジア、新興国への影響としてこのところ出てきている。これが企業マインド、更には消費マインドを大幅に悪化させる要因になっていると考えている。したがって、一時的かどうかなかなか判断は難しいが、当面、景気の減速感が強まるであろうと見ている。
 そのなかで、株価であるが、終値でいくと752円安と、今日も大幅安である。日米の株価のみならず、欧州そしてアジア、新興国の株価も下がっているということで、なかなかその理由を探し出すことは難しいが、1月に発表された米国の雇用統計が弱いといった各種米国の統計と、これから出てくる統計も弱いのではないかという見方、更には米国のモノラインの保険会社の格付けが下がったこと、また、これは報道で、確認されているわけではないが、中国銀行がかなり大きなサブプライムのエクスポージャーを持っているのではないかといったことでの巨額の評価損計上の懸念、こうしたことがマーケットの不信感を煽って今日の大幅な下げになっているのではないかと解釈をしている。
 景気の動向と併せて、市場では当面、非常に神経質な動きが続くのではないかと見ている。そういう神経質ななかでマネーの動きはフライト・トゥ・クオリティというような形で、安全なところへ動いていくことがあるので、日本においては長期債の10年物の金利が今日は1.32%くらいまで下がってきている。それから前回も申しあげたように、金融商品から比較的わかりやすい原油などコモディティといった方へお金が回ってしまっており、当面、金融商品のマーケットへお金が戻ってくることに、時間がかかるのではないか。おそらくこうした状況が続きそうであり、私個人としては嫌な動きだなと見ている。
 ただ、各国の関係当局がいろいろな意味で対策を考えているようである。アメリカでも、この前発表された1,500億ドルの緊急対策、この17兆円近い金額はワンタイムとしては非常に大きく、これをやはり素早く実行していくということが非常に肝要ではないか。それによって米国の景気のリセッション入りをなんとか引きとめて、安心感を市場に与えることを、われわれとしては大変期待している。


(問)
 今月、米国の銀行や証券など金融機関が相次いで決算を発表したが、非常に苦しい状況になっており、巨額の資本増強を迫られている。米国の金融機関の現状をどう認識しているか見解を聞かせてほしい。
(答)
 米国の金融機関の決算であるが、市場での証券化商品の流動性というものが非常に落ちており、なかなか値段が付かないという状況が続いているなかで、われわれが予想していたよりも大きな評価損を計上しているということは事実かと思う。それぞれのポートフォリオによって違うわけであるが、米銀各行の、または欧州銀行および証券会社の決算影響というのは、当初見込んでいたよりも大きくなるであろうという予想も当然あったわけであり、ある意味では織り込まれた金額であったかもしれないと見ている。
 ただ、片方で非常に素早く各国のソブリン・ファンドなどから大きな金額の資本調達を行っており、各行の資本という意味での懸念は、私はあまりないというように考えている。


(問)
 世界同時株安についてうかがいたい。日本政府、日本の中央銀行に対して、具体的な要望があれば教えてほしい。
(答)
 株式市場に何か介入して欲しいといったことについての希望はないし、マーケットはフリーで、透明感を高めていくほうが良い。あえて言えば、政治のねじれからくる構造改革の遅れとか、予算の審議の遅れ、税金についてもいろいろ議論されているが、そうしたなかで予算案が通るのが遅れ、執行が遅れるとの懸念が、若干でも株式市場に対するマイナスの影響があるとすれば、そういうことを頭に入れていただきたい。また、そうしたことがないようにしていただきたい。
 銀行界としては、租特法の期限切れが一番心配である。金融関連では3月末に期限が切れるものが5つある。そういうものが切れてしまうと、わが国の金融市場への信認の問題につながり、内外の金融機関としても余計な負担を負うことになる。そういうことが無いように、是非、期限内に予算を通過させていただきたいと考えている。そうしたことも、あえていえば株式市場へのマイナス・インパクトになりうるので、できるだけ早く取り除いておく必要があるのではないかと考えている。


(問)
 先週、みずほコーポレート銀行がメリルリンチに対して1,300億円の出資を決定したが、いま弱っている欧米金融機関に対して日本の金融機関ができることについて、個別行としておうかがいしたい。何らかの形での支援はあるのか。また、このような状況下で、海外展開の足がかりとして日本の銀行が果たす役割は何か。
(答)
 支援というものは、要請があっての支援が殆どのケースである。要請のないなかで、個別行として考えているわけではない。みずほCBがメリルリンチに出資するのは、あくまでも個別行としての投資判断であり、現在、私どもの銀行として、具体的なものをもっているわけではない。私どもとしては、銀行の支援というよりは、その先にある取引先や市場に、正常にスムーズにお金が廻るような形について、最大の努力を続けていきたいと思っている。


(問)
 経団連では賃上げ容認の流れになっているが、銀行界としては、今回の春闘に対してどのように臨むのか。
 あと、三井住友銀行として、2008年度のボーナスやベースアップについてどのようにお考えなのか、教えてほしい。
(答)
 ボーナスはまだ早いのだが、ベースアップの基本的な考え方というのは、企業の業績動向と、物価動向ということだと思う。日本経団連が賃上げ容認ということで動いておられるのは、やはり、今の経済状況で見ると企業業績は比較的順調だけれども、なかなか消費が強くならない。それで、労働分配率がなかなか上がらない、逆に頭を下げているというような部分から、消費のことを考えれば、賃上げということも視野に入れていかなければならないという考え方に基づいたのではないかというふうに考えている。
 銀行界で横並び云々ということはないので、個別行としては、今の物価動向というのはほぼゼロ近傍であるし、業績についても先行き不確定ということであるので、ベースアップについてまだ確定的なことは言えないが、そういう環境にないというふうに考えている。ただ、私どもは別の形でいろいろと実質的な所得の引き上げをしてきている。例えば、新卒初任給の引き上げを昨年行っているし、賃金カーブの見直しということも職種別には行ってきている。したがって、現在の銀行界、個別行としても、非常に厳冬の日をずっと続けてきたわけであるが、現在のマーケットに合わすべく、実質的な賃上げは、初任給の引き上げ、正社員化、さらにはそれぞれの職種による賃金カーブの見直し等によって行ってきているので、ベースアップ云々ということとは別に、トータルとしての賃金を考え、引き上げを行っているとご理解いただきたいと思う。


(問)
 欧米の金融機関のサブプライムの関係であるが、12月、1月の決算発表で、巨額の損失を計上したわけであるが、モノラインの格下げ等で今後証券化商品の格下げもまだあり得るかもしれないという状況で、ここで打ち止めと考えてよいのか、それとも今後、次の決算に向けてさらなる損失が出てくるのか、見通しをお聞きしたい。
 また株価であるが、これほど日経平均が下がると、銀行の持っている株の含み益も縮小して、自己資本比率であるとか、減損によるPLへの影響であるとか、銀行の経営にも影響が考えられるのか、その辺りの見解をお聞きしたい。
(答)
 欧米のサブプライムの問題で底打ち感が出たのかという点については、現在のところは底であろうというふうに見たい。ただし、サブプライムだけの問題から、時の流れ、動きとともに、今度は例えばプライム、それからオルトAというような今まで良いと思われていたところも、住宅不況が浸透すると、悪化するかもしれない。また、お金の目詰まりから、お金が回ることを前提としていた格付けが悪くなれば、当然引き当てが増えるということになる。そのようないろいろな要素があるので、この問題の広がりと深さが、まだ私個人的には、十分見えていない。ただ、今の段階においては、それぞれが最大の保守的な対応をしてきており、それに対して資本も増強してきているため、健全性は維持されているというふうに思う。
 モノラインの話についても、アメリカで商売をしていくときに、モノラインの保証なしに商売をするということはまずない。大きいか小さいかは別として、何らかの形でモノラインとの関わりはある。例えば地方債を持つ場合には、地方債にはモノラインの保証がついている。それから、クレジットデリバティブをやるときに、相手が保証をつけてくれといったときには、カウンターパーティー・リスクの保証をモノラインがつけるなどといった例がある。そういったものが、日本の銀行といえども少々あるが、取り立てて今問題というほどの金額ではないと私は思う。私どもで見ても大した金額ではない。その格付けが下がることによる影響がどれぐらいあるかといった問題を一つ一つ精査していく必要があると思う。また、そういった影響が欧米の銀行でどれぐらいのものになるかは、これからのいろいろな動きと併せて、よく精査していかなければならないと思う。ただ、大きなところで言えば大体済んでいるわけであるから、後は、マージナルなものに止まるのであろうと個人的には思っている。
 また、株価の下落だけを見れば、当然、自己資本比率に影響をしてくるが、片方で日本の銀行は大きな債券ポートフォリオを持っているため、債券の含み益により打ち消される面もあり、そういった意味でも、有価証券の含み損益の影響はさほど心配するほどではないと私は見ている。


(問)
 日銀の総裁人事の関連で、最近いろいろな議論が出ている。財務・財政のトップを勤めた人間は必ずしも好ましくないという意見が民主党から出ているが、このような見解について会長はどのようにお考えか。
(答)
 私はそういった人事について申しあげる立場になく、基本的にはコメントを差し控えさせていただきたい。
 ただ申しあげたいのは、日本は不良債権問題を脱して正常な軌道に乗っているが、金融マーケットを見てみると、今非常に大事な時期にあるのではないかと思う。そうしたときに空白期間を置くような、勉強をしている時間はない、と私は思っている。そういう意味で、金融政策、インフレ、デフレ、そういった経済動向への深い洞察力のある方、そして実務的な判断力のある方が大変望ましい。日本は一刻の猶予もない状況にあることから、あえて言えばそういうことだと思う。


(問)
 冒頭に事務局からご説明いただいたコミュニケーション支援用絵記号デザインについて、SMBCでも取りあげる予定はあるか。
(答)
 当然そうする。推奨されているし、大変良いことだと思う。耳の不自由な方や外国人の方といった利用者にとってわかりやすく、フレンドリーというわれわれが普段から言っていることの一助になるのではないか。準備期間がいるが、遅くとも2月中には導入したいと思っている。
 こういったものは積極的に導入していきたいと思っている。